「東京サラダボウル」がスポット当てる“多文化共生”に興味津々、バカリズム新作は「ブラッシュアップライフ」に気後れした人を救う…かも
「べらぼう」「日本一の最低男」「まどか26歳、研修医やってます!」…明日菜子×綿貫大介が語る2025年冬ドラマ前半戦
2025年1月30日 11:30 3
放送・配信中のドラマについて取り上げる連載「ナタリードラマ倶楽部」。Vol. 15は、本連載でおなじみのドラマウォッチャー・明日菜子と綿貫大介が2025年冬クールのドラマについて語り合う座談会の前編をお届けする。取材は1月22日に行い、今回は1月14日までにスタートした作品が対象だ。
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取材・
「東京サラダボウル」は“多文化共生”を前提とした作品
──2025年が始まって、ドラマも続々と放送がスタートしています。ズバリ、今期の注目作品からお聞きしたいです!
明日菜子 「東京サラダボウル」ですね!
綿貫大介 わかります。ちゃんとリアタイして観たい作品。
明日菜子 まず感じるのは、この数年間での国内ドラマの進歩。2、3年前までは日本人のキャストが片言で外国人役を演じることが多かったじゃないですか。今もすべての作品ではできていませんが、すごく裾野が広がったなと思います。
──かなり多様な国の俳優たちが参加していますよね。
綿貫 NHKのドラマは外国人労働者や移民の方々にスポットを当てた作品がたくさんありますが、“多文化共生”を前提とした作品はあまりなかったなと思っていて。そのうえで警察官のバディものとして仕上げているのはめちゃめちゃ面白い作りをしているし、新宿から新大久保あたりの扱い方がとてもうまい。「ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く」の作者である室橋裕和さんが、ドラマで描く在日外国人関連の監修や、撮影場所のアテンドもされているんです。ちゃんと実際にある場所で撮っていて、第1話の上海料理屋さんなんかよく行きます。
明日菜子 私も第1話からすごく面白く観ているし、国際捜査の警察官・鴻田麻里(
綿貫 主に中国が多いですが、ほかの国の文化の話もうまく取り入れている。主人公が「中国行けばモテます」と言われるくだりとか、当時の一人っ子政策の影響や根強い男尊女卑の考えによって男女比が全然違うという情報などが読み取れる。3話でも人身売買の話を掘り下げていて、男の子だと働き手にされ、女の子だと結婚相手にあてがわれるといったことをさらっと伝えているところもすごいなと思いました。
──元警察官の有木野が中国語通訳人になった経緯や過去も気になりますよね。
明日菜子 松田さんは、Netflixシリーズ「阿修羅のごとく」もすごくよかったんですけど、改めて唯一無二の存在感だなと思います。ポーカーフェイスなイメージですが、同時に、彼の中には確実に喜怒哀楽があることも感じさせる。こちらが「どういう気持ちなんだろう」と前のめりで探りたくなっちゃう俳優さんだなと。
綿貫 今後、有木野のセクシュアリティが物語に関わってくるんだろうなというのは2話の段階で感じたので、どこまで深掘りしていくのか気になりますね。ただ、彼がゲイだった場合、鴻田がネオングリーンの髪型にして変わり者扱いされるのは、恋愛に接続されない男女バディあるあるだなと思いました。「SPEC」の当麻(戸田恵梨香)みたいに、いわゆるわかりやすく“恋愛対象じゃない女性”の記号を身に付けている。
明日菜子 原作者の
──キャスト発表の際、三上さん演じるベテラン刑事・阿川博也は、有木野の過去の事件に関係していることが明かされています。
綿貫 なるほど。
明日菜子 あの男性、ドラマ「Eye Love You」では新入社員の相原虎太郎を演じていた
「べらぼう」は初心者も入り込める少年マンガのような大河
──同じNHK作品ということで、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」についてもお聞きしたいです。江戸のメディア王として時代の寵児となった“蔦重”こと蔦屋重三郎を、主演の
明日菜子 私、実はすごく歴史が好きなんですけど、日本史を専攻していた学生時代からずっと思っていたのは、歴史の中でも文化史って、学ぶのも人に教えるのもめちゃくちゃ難しいということ。例えば政治とか戦だと、Wikipediaの文章だけでも面白いですよね。だけど、文化史は「この絵はこの人が描いた」といったことを資料集で暗記するしかなくて、学校の授業ではあまり触れられてこなかったと思うんです。エンタメ作品で取り扱おうにも、映画ぐらい予算が大きい枠じゃないとできなかったと思うし、大河ドラマクラスタ的には熱望していたジャンルなんじゃないかな。前回の「
綿貫 最近のNHK、朝ドラ「らんまん」で石版印刷を出したり、「光る君へ」が「源氏物語」を執筆した紫式部の生涯だったりして、比較的文化史に触れるのが続いていますよね。ただ今回、江戸の中期から後期って普段NHKがやっている連続時代劇で描いている時代と被っているから、なぜわざわざこの枠で?とは思いました。そして、町人文化のチャキチャキした人でぱっとイメージしやすいのは阿部サダヲさんみたいな俳優だし、横浜さんってどちらかというと武士とかのほうがご本人のイメージに近いので、すごく意外なキャスティングだな、と。個人的な見解ですが、「べらぼう」の世界観やキャスティングは、本来「いだてん~東京オリムピック噺~」と近かったんじゃないかと思うんです。阿部さんもですし、「いだてん」のタイトルバックを手がけた現代美術家の山口晃さんの作品も、町人文化を扱う「べらぼう」にぴったり。でも、その既定路線で作らずに「べらぼう」ならではの新たな蔦重像や江戸文化を見せようとしているのかなと思いました。
明日菜子
綿貫 ただやっぱり、吉原を描くのは本当に難しいです。今の視聴者のリテラシーだとそれがどういう搾取に当たるのかがわかるから、「吉原に生きる女性たちのありのままを描く」と言ってその苦しみを再生産する必要があるのかは疑問。
明日菜子 蔦重が吉原で生まれ育ったからこそ、蔦重側から批判するのは難しいんじゃないかなと思っていますが、令和の今取り上げることで、「なぜ女性たちは体を売らなきゃいけなかったのか」といった視点がもっと入るといいなと思っています。
綿貫 男女逆転のNHK「大奥」を観ても脚本の
──そもそも、浮世絵師や文章を書く人ではなく、メディア王=編集者をフィーチャーしたという点はいかがですか?
明日菜子 ニッチなジャンルを扱っている分、蔦重のお仕事ドラマとして描くことで、あまり歴史に関心がない人や大河ドラマを最近観始めた人にとってもキャッチーな作りになっていると思います。
綿貫 文化についてもかなり調べているなと。サブタイトルの「蔦重栄華乃夢噺」といった漢字7文字って、当時の黄表紙本の定番なんですよ。各話のサブタイトルも多くが7・5調、7・7調でそろえられているので、ちゃんとしているなと感じています。あと、蔦重に関してはかなり架空のイメージで作っていると思っていて、当時はこの身長自体なかなかいないし、布を緑1色に染めるのはまだ難しかったから、蔦重が着ている濃い緑の衣装も本当は庶民が着れない服だと思うんですよね。でも「烈車戦隊トッキュウジャー」でグリーンをやっていたこともあって、すごく親和性がある。いい蔦重像ができあがってる。
明日菜子 綿貫さん、詳しすぎる!
綿貫 だからその辺をわかったうえでこの物語に入り込めるためのフィクション性を意識されているんだろうなと。少年マンガのような見やすさがあります。
「ホットスポット」第2話の体育館&車内の演出がおしゃれ
──続いて、同じく日曜に放送中の「ホットスポット」はいかがですか? 「ブラッシュアップライフ」以来2年ぶりに
綿貫 今回はホテルが舞台と聞いてシチュエーションコメディっぽさが強いのかなと思ったんですが、山梨・富士吉田市というロケーションをうまく生かして、ちゃんといろんなところに飛び出してますね。主人公の遠藤清美(
明日菜子 バカリズムさんの脚本って、読み物としても面白いんだろうなと思うんです。でもそれを「人が演じるからこそ倍面白い」ように仕上げてるのはすごいチームだなと思います。第2話の演出がすごくよかったんですけど、体育館の天井に挟まったバレーボールを取りに行く際、清美たち幼なじみの3人は車の中で待っていて、宇宙人の高橋(
※編集部注:清美の同僚である宇宙人の高橋は、“能力”を使って筋力や五感を強化することができる。第2話では清美の幼なじみである小学校教師・中村葉月(
綿貫 基本的に、友達同士なんだけどお互いそこまで人に興味がない空気感ですよね。それがちょうどいいんだろうなっていう感じ。地元だと関係が密になりがちな中、メインの3人がいい距離感で淡々としゃべっているのはかなり理想的だなと。
明日菜子 確かに市川さん、鈴木さん、
綿貫 田舎の人間関係って、(「ブラッシュアップライフ」の)埼玉とはまた全然違うと思うんです。だからそんなに頻繁に会わないと思うんだけど、そんな3人が集まって各々が深い話や重い話、身の上話をするのではなく、どうでもいい話だけしたい、みたいなのはわかる気がする。でも、ママさんバレーで体育館の天井にボールが挟まっちゃったなんて超ネタだから、自分から「あれ私なんだよね」ってしゃべりたくなるはずなのに、(平岩演じる日比野美波は)それも言わない。この空気感を描くのははすごいなと思います。
明日菜子 「ブラッシュアップライフ」放送時、麻美たち4人の密な関係性に気後れしている視聴者もいました。私は女子高出身なので、女友達との密な関係がわかるんですけど、そうじゃない人にとっては「ホットスポット」の3人のほうがリアルな距離感なのかもしれない……。
──一般社会だと30代後半にかけて、結婚している人や独身の人、子供の有無もそれぞれで、バラバラになっちゃうことも多いですもんね。「ブラッシュアップライフ」はみんな独身でしたし、恋愛の描写もほとんどありませんでした。
明日菜子 しかも「ブラッシュアップライフ」は最後、友達の命を救おうとする話になる。その関係性を考えると、「ホットスポット」は「ブラッシュアップライフ」に共感できなかった人たちに向けたことをやっているのかも!
綿貫 鈴木杏さんのキャスティングも、バカリズム作品の常連俳優がたくさんいる中で、新鮮だなと。(清美の同僚だった中本こずえ役の)
明日菜子 今後、高橋さんに我々の気持ちは乗ってくるのかな? 最終回で星に帰るとか別れがあった場合、私たちは果たして悲しい気持ちになるのか(笑)。
──同じく日曜には、互いに嘘を抱える恋人同士を描く「
明日菜子 主人公たちが次はどんなせいろ蒸し料理を食べるのかを楽しみに観ています。
綿貫 今流行りのせいろをドラマでこんなにフィーチャーするなんて! 「あさイチ」でも特集してたけど、実際に流行ってるのはInstagramだけの世界だと思ってた。
明日菜子 ピーマンの肉詰めもせいろで作れるんだ!と知りました(笑)。後半までせいろ蒸しレシピが続くのかな……。30代半ばから後半の食卓としてはすごく説得力があるんですけど。
──ストーリーはまだ謎が増えていっている段階ですね。
綿貫 謎解きを楽しむのではなく、ラブストーリーで2人がどう幸せになるかを見たいので、2人の過去が早く知りたいです。でも、せいろがトリックに生かされたら、このドラマの勝ちですね!
明日菜子 本当に絡んできたらあっぱれ!です。逆に、何の意味もなかったら不気味かも。
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【座談会🗣️】2025年冬クールの #ナタリードラマ倶楽部 更新されました🥳毎週楽しく見ている大河ドラマ『べらぼう』、令和のいまを描いた注目作『東京サラダボウル』、宇宙人の『ホットスポット』vs蒸籠蒸しの『フォレスト』日曜22時台ドラマ対決など、今回も盛り沢山です!
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