左から綿貫大介、柚木麻子、明日菜子

ナタリードラマ倶楽部 Vol. 14 [バックナンバー]

柚木麻子と令和ドラマのヒロイン・ヒーロー像を考える、かつて愛されたドジっ子ヒロインの行く末とは

「大豆田とわ子と三人の元夫」「コタツがない家」「真夏のシンデレラ」「アトムの童」…柚木麻子×明日菜子×綿貫大介の令和ドラマ座談会(後編)

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テレビドラマについて語り合う連載「ナタリードラマ倶楽部」。2023年の秋ドラマ編からスタートし、1年間にわたってドラマウォッチャー・明日菜子と綿貫大介による座談会やレビュー企画をお届けしてきた。

今回は「ナタリードラマ倶楽部」1周年を記念し、大のドラマ好きとして知られ、2024年10月に書籍「柚木麻子のドラマななめ読み!」が発売された小説家・柚木麻子がゲストとして登場。“令和ドラマ”をテーマに、柚木の大ファンである明日菜子・綿貫大介コンビと語り合う。後編にあたる本記事では、令和ドラマのヒロイン・ヒーロー像についてトーク。柚木が愛してやまないドジっ子ヒロインの行く末とは。また彼女が注目する俳優陣を教えてもらった。

取材・/ 尾崎南・脇菜々香 撮影 / 間庭裕基

コラム

参加者プロフィール

柚木麻子(ユズキアサコ)

1981年8月2日生まれ、東京都出身。2008年に「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞。2010年に同作を含む初の単行本「終点のあの子」を発表した。著書として「ランチのアッコちゃん」「伊藤くん A to E」「ナイルパーチの女子会」「BUTTER」「らんたん」など。ドラマ好きとしても知られ、「anan」での連載を書籍化した「柚木麻子のドラマななめ読み!」がフィルムアート社から発売中。なお、柚木の同名小説をのん主演、堤幸彦監督で映画化した「私にふさわしいホテル」が12月27日に全国で公開。同じく柚木の「早稲女、女、男」を原作に、橋本愛主演、矢崎仁司監督で映画化した「早乙女カナコの場合は」が2025年3月に公開される。

明日菜子(アスナコ)

毎クール20本以上のドラマを鑑賞しているドラマウォッチャー。

綿貫大介(ワタヌキダイスケ)

エンタメを中心としたカルチャー分野で活動する編集者・ライター・テレビっ子。

令和では好かれないドジっ子ヒロイン

──前編では、皆さんがお好きな令和ドラマについて語っていただきました。柚木さんは1990年代のドラマをたくさんご覧になっているそうですが、ドラマで描かれるヒロイン像に変化を感じることはありますか?

柚木麻子 昔は、“ドジだけど圧倒的”な主人公が恋したり恋されたり、いろいろと奮闘していく話が多かった。でも今って、何もできないけどいいものは全部奪っていくキャラクターはあんまり好かれないですよね。1990年代のドラマだったら、会社の会議でヒロインがお茶をこぼしても、だいたい吉行和子さん演じる上司が現れて「あなた元気ね。この企画についてどう思う?」って聞いてくる。ヒロインは「えっ、うーんと、そんな展示室じゃなくてカフェにしたいです!」とか突飛な意見を出して、鈴木砂羽さん演じる先輩がムッとしている中、さらに「えっと、町の人が入れるカフェみたいなほうが、商品が手に取りやすいかなって」とか言い出します。すると「いいじゃない!」って吉行さんに採用される。そこからヒロインはどんどん活躍して、田辺誠一さん演じるエリート社員はだんだん彼女を好きになってしまう……。そして同期の平岡祐太さんは「お前すごいじゃん! 好きなやついるならいけよ」みたいに背中を押してくれて。私はそういうドラマを、100万回観てきました。

柚木麻子

柚木麻子

──(笑)。観たことがあるような気がします!

柚木 こういう、“何もない”のにガンガンのし上がっていく主人公より、最近のドラマではちゃんと努力しているキャラクターが増えてきたかな。「彼女はキレイだった」(2021年)の愛(小芝風花)も校閲の才能がちゃんとあって、しかもそれは実家の印刷会社を支えていた経験があるから。「虎に翼」(2024年)の寅子も「何かの一番になりたい」という思いを持って努力していきますよね。ヒロインのキャラクター性も大事だけど、そこに続く何かを持っているパターンが増えていると思います。

綿貫 時代が変わっても変わらず求められるキャラクターはいますし、ヒロイン像の変化って難しい議題ですよね。そんな中、令和ドラマのヒロインと聞いて真っ先に浮かんだのは「大豆田とわ子と三人の元夫」(2021年)のとわ子(松たか子)です。とわ子が40代ということも重要だと思う。これまでのドラマは20代・30代のヒロインの恋愛や結婚を描くのが当たり前で、「そのあとどうなるの?」という点についてはノータッチだった。でも最近はヒロインの“そこからの人生”を描くことが増えたと思います。これまで40代女性が主人公のドラマは職業が医者や弁護士というバリキャリ系、もしくは不倫する妻を描く作品が多かった。とわ子はチャーミングな社長で子持ち。現実社会で女性の社長が少ない中、こういう人がいたらいいなと思わせてくれる。

「大豆田とわ子と三人の元夫」ジャケット写真。Blu-ray BOX:2万8800円(税別) / DVD-BOX:2万3400円(税別) / 発売元:カンテレ / 販売元:TCエンタテインメント (c)2021 カンテレ

「大豆田とわ子と三人の元夫」ジャケット写真。Blu-ray BOX:2万8800円(税別) / DVD-BOX:2万3400円(税別) / 発売元:カンテレ / 販売元:TCエンタテインメント (c)2021 カンテレ

柚木 とわ子のファッションも、ちゃんと高そうでよかった。

綿貫 細かい設定にこだわっていましたよね。「コタツがない家」(2023年)の万里江(小池栄子)もウェディングプランナーで社長なんだけど、家庭に悩みを抱えている。視聴者の年齢が上がっているという要因もあるんだろうけど、40代ヒロインが抱える問題の深い部分をしっかり描く作品が増えてきました。また「ソロ活女子のススメ」(2021年)の恵(江口のりこ)が、40歳の誕生日にドレスアップして1人でリムジンに乗ってお祝いしていたのも印象的でした。恋愛や結婚に関する周囲からのストレスを全部ぶっ飛ばしてやります!という気迫を感じた。ヒロインの解放をしっかり描き始めたのも、令和ドラマなのかな。

「真夏のシンデレラ」のなっつんはデンゼル・ワシントン

柚木 最近は40代以上の女優さんが主役を張ることも増えてきましたよね。

明日菜子 「くるり~誰が私と恋をした?~」(2024年)ではヒロインにめるる(生見愛瑠)が抜擢されましたし、幅広い年代の女優さんにヒロインを演じてもらいたいという意識があるような気がします。

柚木 ただ令和のヒロインと言われると、どうしても「真夏のシンデレラ」(2023年)のことを思い出してしまって……(笑)。

綿貫 (笑)。「真夏のシンデレラ」のなっつん(森七菜)が家族のケアをして貧乏で、という設定は古典的なシンデレラ像ではあるんだけど、腕っぷしが強い!(笑)。

柚木 なっつんが系譜通りドジな女の子だったらいいんですけど、制作陣が「ドジな子って今は嫌われちゃうよな」と配慮したのか、彼女にあらゆる有能さを追加していて。結果デンゼル・ワシントンみたいな強者になっちゃってる。

明日菜子 なっつんはがんばっちゃうんですよね(笑)。家庭環境とか、もっと周囲を責めたほうがいいのに、なにせ全部自分で背負ってしまう。

柚木 そうそう。なのに「その辺にいる普通のかわいい子だよ☆」みたいな設定にしてるから、話がゆがんでるんですよ(笑)。なっつんは海で人命を救助して、家事をして、SUPのインストラクターをしながら食堂を運営して……。チンピラはビーサンで倒しますからね。

令和ドラマの男性キャラは話を聞いてくれる

──ではドラマで描かれる男性像の変化についてはいかがでしょうか?

柚木 1990年代のドラマでは「GTO」(1998年)の鬼塚(反町隆史)のような、とにかく勢いと熱いハートで虜にしていくタイプの男性キャラクターが非常に多かった。「虎に翼」の優三(仲野太賀)や「コタツがない家」の悠作(吉岡秀隆)を見ているとよくわかるのですが、最近の男性キャラってヒロインの話をちゃんと聞いてくれるんですよ。「コタツがない家」で万里江は、夫・悠作への文句を本人の前で話すじゃないですか。万里江はもはや彼に何も求めないんですけど、ただ話だけはするんですよ。そこがすごく今どきで面白いなと思いました。

「コタツがない家」ジャケット写真。Blu-ray BOX:2万9040円(税込) / DVD BOX:2万2990円(税込) / 発売元:VAP (c)NTV

「コタツがない家」ジャケット写真。Blu-ray BOX:2万9040円(税込) / DVD BOX:2万2990円(税込) / 発売元:VAP (c)NTV

綿貫 万里江は、悠作抜きで悠作の担当編集者・土門(北村一輝)に相談しに行くときもありましたよね。

柚木 そのシーンも1990年代のドラマだったら、実は土門は万里江のことが密かに好きで……という展開になるところですが、そういうのもないんですよね。お互い、ただ悠作の仕事に関する事務連絡だけをして帰ってる。土門が万里江に「悠作はあなたのこと、誰よりもわかってますよ」とかいいこと言うのかな?って思ったけど、そんなくだりもなかった。誰も悠作の能力を買ってないし、評価してないっていうのが新鮮でした。「コタツがない家」は「男はつらいよ」のオマージュだと思うんですが、「ダメなやつだけどチャーミングだから許してあげよう」みたいな風潮は通用しなくなったんだと思う。寅さんの甥っ子役の吉岡さんが悠作を演じたことも印象的です。

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西島秀俊で、時代が求めていることがわかる

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庭仕事|青空教室 @niwashigoto

"北川悦吏子さん脚本の「半分、青い。」(2018年)や「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」(2021年)で世間がザワついてるときも、昔からそうだったじゃん……そうじゃなかったときないじゃん……と思いましたよ。" https://t.co/TM0OnYgerK

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