「湾岸ミッドナイト C1ランナー」

私の名作 第8回 [バックナンバー]

楠みちはる「湾岸ミッドナイト C1ランナー」──無印とは読み味が全然違う!車好き以外にも読んでほしい“雑誌編集マンガ”

車は持ってないけど「湾岸ミッドナイト C1ランナー」の話をします

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どのマンガもすごい! ──とはいえ、マンガ好きなら誰しも、心の中に“自分だけの特別な作品”を持っているはず。このコラムでは、人一倍マンガを読んできたであろう人々に、とりわけ思い入れのある、語りたい1作を選んで紹介してもらうことで、読者にまだ知らないかもしれない名作マンガとの出会いを届けている。第8回ではライターやマンガ家として活躍するマシーナリーとも子氏が、「湾岸ミッドナイト C1ランナー」についてたっぷりと綴ってくれた。

/ マシーナリーとも子

車は持ってないけど「湾岸ミッドナイト C1ランナー」の話をします

「この歌、私だ……」みたいな言い方ってありますよね。耳にした歌にあまりにも共感してしまい、まるで自分のことを歌っているようじゃないか……ってヤツです。

今回のお話をいただいたときに2つのパターンを考えたんです。1つはただ単に大好きなマンガについてひたすら好き勝手に話すパターン。もう1つは「この歌、私だ……」というマンガをみんなに知ってもらいたいというパターン。熟考した結果、今回は後者を選ぶことにしました。そして、私にとってそんなマンガが「湾岸ミッドナイト C1ランナー」なんです。

「C1ランナー」は、前作にあたる公道バトルマンガ「湾岸ミッドナイト」無印の「FDマスター編」で登場した、廃刊チューン雑誌・GTカーズを復活させんとする人たちの奮闘を描いたマンガです。

「湾岸ミッドナイト」は全42巻が刊行されている。「FDマスター編」は38巻から描かれるエピソードだ

「湾岸ミッドナイト」は全42巻が刊行されている。「FDマスター編」は38巻から描かれるエピソードだ

どちらかというと有名なのは前作だと思います。“アキオと悪魔のZ”を軸に、それらに魅了され翻弄される人々を情緒豊かに描いていて、SNS上でも「お前が一人でやるんだヨ」とかずっと人気で擦られてますよね。

「C1ランナー」はそんな前作から、一気に軸足をズラして“雑誌”を柱に持ってくることで、読み味をまったく異なるものにしています。しかも見直すと無印完結後、間をほとんど置かずすぐに始まったみたいなんですよね。あまりにも雰囲気が変わるので、半年とか1年とか空けたのかなと最初は思ってました。すごいな……。

「湾岸ミッドナイト C1ランナー」より

「湾岸ミッドナイト C1ランナー」より

ところで私、車は持ってません。地元が千葉ということもあって自動車免許は持ってるんですが……さらに言うと、無駄にMT免許だったりするんですが、今では立派な“ペーパードライバーゴールド免許”です。街を歩いていても車の見分けはほとんどつきませんし、ワゴン車とミニバンの区別もつかない! 「トランスフォーマー」に出てきた車はわかるんですけどね……。

そんな私がなぜ「湾岸ミッドナイト C1ランナー」なのか。それは紛れもなく、このマンガに私の青春がそのまま描かれているからなんです。

雑誌編集あるあるの精度の高さ

実は私、両作を読んだのは本当にここ最近……今ログを見てみたら、2021年の出来事でした。そのきっかけも些細なことで、単にヤンマガのWebサイトで無料公開キャンペーンをやっていたからなんですよ。「『湾岸ミッドナイト』の話って一生みんなしてるけど、読んだことないから読んでみるか」と、軽い気持ちで読み始め、とても面白く読み、そしてまったく予想外に「C1ランナー」で激しい興奮を覚えました。「これは私のマンガだ」と思わされ、作品にのめり込んだんです。

私は今でこそ自営業のライター・マンガ家・イラストレーターとして飯を食っていますが、2018年までは雑誌編集のお仕事を5~6年してたんですよ。そこは出版社ではなく編集スタジオで、社員は20人くらいだったかな……。ボロいビルの3階にありました。まるで雑居ビルの2階にあったGTカーズ編集部みたいに!

「湾岸ミッドナイト C1ランナー」より

「湾岸ミッドナイト C1ランナー」より

さすがに車の雑誌ではなかったですけどね。プラモデルの雑誌です。毎月ガンダムにカッコいいポーズを取らせて写真を撮ったり、新発売の戦艦のプラモのどこがすごいかを書いたり、イベントや工場に取材に行ったり……いろいろしてました。

編集といってもマンガの編集とは全然仕事の内容が違って、雑誌の編集は本当になんでもやるんですよ。デザインはさすがにデザイナーさんにやってもらいますし、作品の制作や専門的な文章はライターさんにお願いします。が、あとは取材も記事のライティングも撮影のディレクションもなんでもやります。相当重労働で完全にブラック会社でしたがかなり楽しみました。なんやかんやあってメンタルをやられて辞めてしまいましたが、今でもあのときに得たものの残り滓で生きている、そんな実感を得られる場所でした。そんな私がやってきたことが、「C1ランナー」では描かれまくっているんですよ!

例えば新人バイトにやらせることのひとつが“バックナンバーの整理”! 会社の奥底にある、無数のバインダーに収められた20年、30年の歴史を持つ雑誌たちを引っ張り出して、整理して、倉庫に移動したり多すぎる本は捨てたり……。やっぱり中身を確認するわけなんですが、読むとその熱気がすごいんだよ。20年前のガンプラの記事を見て、その作例はもちろん、その記事を成立させた熱量みたいなものが紙面から伝わってきて圧倒されて……というのを繰り返してたわけ。で、そういうのを読んでりゃつい考えてしまうわけですよ。「なんでこうなったのか?」「どうすればこうできるのか?」みたいなことを。自然と。

「湾岸ミッドナイト C1ランナー」より

「湾岸ミッドナイト C1ランナー」より

あと“過去号の文章の丸写し”! これもねぇ。やるんですよ。やるやる。さすがにずーっとやり続けたりとか、手書きでノート何冊も描いたりとかはしなかったけど、ニュアンスが好きな文章を傍らに置いて、睨みつけながら書くみたいなことはいつもやってました。なんなら今でもやる。やっぱり「読む」と「書く」って行動としても思考としても全然違う活動なんですよ。たとえ丸写しでも「書く」ことではじめて頭のなかに浮かんでくることってやっぱりあって……。

「湾岸ミッドナイト C1ランナー」より

「湾岸ミッドナイト C1ランナー」より

そんな感じで「C1ランナー」では、雑誌編集者をやってた自分としては直撃レベルの“あるある”をずっと見せられるわけです。そして、それらの“あるある”に対していちいち、なぜそれが必要だったのか。なぜ大事なのかをしみじみと語りかけてくるんです。

そしてそれらは、ただの“あるある”ではなく、このマンガが本当に伝えたいことだと思うんです。

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「車には興味ないからなあ……」と言わず、読んでみてほしい

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