鈴木もぐらが語る、「走馬灯で見たい、北野映画の3シーン」。

〇〇の話がしたい! 第4回 [バックナンバー]

空気階段・鈴木もぐらの「死ぬ前に走馬灯で絶対見たい、北野武映画の3シーン」

「キッズ・リターン」ラストのあのセリフはとんでもないですよ!

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さまざまな著名人が、自分の趣味や好きな映画を語る連載「〇〇の話がしたい!」第4回は、お笑い芸人・鈴木もぐらが登場する。高校生時代に観た「キッズ・リターン」がきっかけで北野武監督作品のファンになったというもぐら。全作品鑑賞しており、何度も見返す作品もあるという彼に、「走馬灯で見たい、北野映画の3シーン」を選んでもらった。

取材・/ イソガイマサト イラスト / 河井克夫

たけしさんのバラエティは、親が好きだった「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」を5歳か6歳ぐらいのときから観ていて。「スーパーJOCKEY」や「ビートたけしのお笑いウルトラクイズ!!」も毎週欠かさず観ていたんですけど、北野武監督の映画は観たことがなかったんです。

でも、地元(千葉県旭市)のレンタルビデオ屋でバイトしていた高1か高2のときに、客から「傷が入っていて観られなかった」って言われて返ってきたビデオをチェックする作業の中で「キッズ・リターン」を初めて観たら、めちゃくちゃ面白くて。

漫才師が「どうも~」と言いながらステージに出ていく冒頭の寄席のシーンの日常に近い温度感はほかの映画では感じたことがなかったものでしたし、主人公の2人だけではなく、そこにタクシードライバーや漫才師のエピソードが交錯する構成も面白かったんです。ヤクザのリアルな怖さも感じましたね。僕も思春期でしたから、気弱な高校生が、好きな女性が働いている喫茶店に通い続けるロマンチックなエピソードも好きでした。

そんな感じで一気にハマって全作品観たので、今回「走馬灯で見たい、北野映画の3シーン」というテーマにさせていただきました。でも、難しかったですね。見たいシーンだらけなんですよ! 可能なら本当は全部見たいんですけど、走馬灯って何十時間もないですよね(笑)。せいぜい30秒とか40秒とかだと思うので、それぐらいで見られる3シーンをピックアップするのは想像していた以上に大変でした。

「BROTHER」の大杉漣さんの切腹シーン

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BROTHER」でたけしさん演じるヤクザの山本がアメリカに行くきっかけを作ったのは、大杉漣さんが演じた兄弟分の原田です。

そこからは山本がアメリカで成り上がって行くシーンの連続なんですけど、原田から届いた手紙で日本のリアルなヤクザの世界にいきなり引き戻されて。アメリカで銃をバンバン撃っていたのに、渡哲也さん演じる親分の前で原田が切腹する場面に切り替わるんです。

そのギャップと「腹ん中、わかんないんだったら見てもらおうじゃねえか!」って言って本当に腹を切っちゃうむちゃくちゃさがすごかった(笑)。

ヤクザの世界の意地の張り合いもあるけれど、このシーンでは漫才と同じような、一個の言葉がきっかけで始まる言動の連鎖も面白くて。言葉の力みたいなものをすごく感じたんですよ。

「あの夏、いちばん静かな海。」のバスのシーン

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次に挙げたいのが「あの夏、いちばん静かな海。」です。この映画では生まれつき耳の不自由な主人公の茂(真木蔵人)と同じくろうあ者の恋人・貴子(大島弘子)がバスに乗ろうとするんですけど、サーフボードを持った茂は乗せてもらえなくて。彼女だけが乗るんです。だから、茂は懸命に走ってバスを追いかけるし、貴子も途中のバス停で降りて全力で彼のもとに戻ってくるんですよね。

あのシーンが僕は忘れられなくて。あの短い時間ですら離れられない、あの2人になりたかったですから(笑)。

たけしさんはロマンチストだと思うんですよ。暴力と笑い、「キタノブルー」ばかり切り取られて紹介されるけれど、たけしさんが描く男女の恋愛はものすごくピュア。「HANA-BI」の夫婦も「Dolls(ドールズ)」の男女も最後までずっと一緒にいるし、「アウトレイジ」のヤクザの若頭・水野(椎名桔平)も逃げる前に女のところへ行って捕まりますからね。

でも、僕はそこに共感するし、おじさんがキュンキュンしたっていいじゃないですか! 僕はマンガでも一途な恋愛モノが好きなんです。「ときめきトゥナイト」とか「BOYS BE…」とか「I"s」とか(笑)。

「キッズ・リターン」のラストシーン

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最後の1本は、やっぱり「キッズ・リターン」のラストシーンになりますね。走馬灯でも、僕はお金を払って見たいぐらいですもん。

シンジ(安藤政信)とマサル(金子賢)が自転車で校庭に入ってきたあとに彼らを教室から見る先生(森本レオ)の画があって、2人のセリフが終わったところでエンドロールが流れるんですけど、あのエンドロールも込みで見たい。

「俺たち、もう終わっちゃったのかな?」(シンジ)、「バカヤロー! まだ始まっちゃいねえよ」(マサル)という、どっちの意味にも取れるあのセリフも僕はすごいと思いました。結局は観た人次第なんでしょうけど、あれはどっちも正解のとんでもないセリフですよ!

僕自身、レンタルビデオ屋で出会って初めて観たときは“まだ始まってない”と思ったけれど、芸人を始めて2、3年目に観直したときは“終わっちゃった”と思ったし、その次に観たときは“やっぱり始まってねえよな”って思ったりもしましたから。まあ、シンジに「酒を飲まないと強くなんないよ。食っても吐きゃいいんだよ」って言う、先輩ボクサーのハヤシ(モロ師岡)はマジで終わってましたけど(笑)。

中華屋のシーンも僕は大好きですね。中華屋の息子(津田寛治)に「タバコを買ってきてくれ」って1万円札を渡して「釣りは小遣いだから、取っとけ」って言っていたヤクザの親分(石橋凌)が、その息子が自分の組に入った途端に鉄砲玉にするんです。あのシーンにはヤクザの世界のことだけではない社会の厳しさが詰まっているし、「キッズ・リターン」には人生のさまざまな要素が凝縮されているのがいいんですよ。

話したいことはまだまだいっぱいあるけれど、長くなってしまったので、今回はこのへんで終わりにします。

あとは北野映画の次の作品をただ待つだけなので、たけしさんとお会いする機会があったら、「どんな役でもいいので、出させてもらえませんか?」って言ってみようかな……いやいや、そんなこと俺、絶対に言えない(笑)。

そういう役者の仕事ではなくて、「」のBlu-rayやDVDのリリースのときに「北野映画DVDショップ」の1日店長をやらせてもらえたらうれしいです。その夢が叶ったら、たけしさんのサインを飾ったり、ポップにもこだわったお店作りをしたいですね。

鈴木もぐら(スズキモグラ)

鈴木もぐら

鈴木もぐら

1987年5月13日生まれ、千葉県出身。2012年に水川かたまりと空気階段を結成。「キングオブコント」には2019年より3年連続で決勝進出し、2021年に優勝を果たす。ライブも積極的に行っており、2023年に行った第6回単独公演「無修正」は全国ツアーで2万人を動員。同ライブはDVDが販売されている。また同年、映画「しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~」では空気階段としてゲスト声優を務めたほか、ドラマ「ゼイチョー ~『払えない』にはワケがある~」(日本テレビ系)にはもぐらがレギュラー出演、最終回にはかたまりもゲストとして登場した。

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てれびのスキマ/戸部田 誠 @u5u

鈴木もぐらの「死ぬ前に走馬灯で絶対見たい、北野武映画の3シーン」 https://t.co/E2ous8eNPy

もぐら「初めて観たときは“まだ始まってない”と思ったけれど、芸人を始めて2、3年目に観直したときは“終わっちゃった”と思ったし、その次に観たときは“やっぱり始まってねえよな”って思ったりもしました」

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