平成ドラマ委員会~懐かしドラマを令和に観てみた~ Vol. 3 [バックナンバー]
絶対に終電を逃さない女と「やまとなでしこ」 | 欧介も東十条も敵わない“究極の愛”とは
思わぬところで号泣してしまった
2026年4月10日 12:05 2
そこまで昔というわけではないけれど、改めて観るとなぜかセンチメンタルな気持ちになる……。そんな“微妙に懐かしい”平成ドラマの魅力を再発見するべく、映画ナタリーでは「平成ドラマ委員会」を発足。4人の委員会メンバーと、それぞれの思い出深い作品を振り返り、現代に生かせる教訓を探っていく。
Vol. 3では、文筆家の絶対に終電を逃さない女が2000年放送のドラマ「やまとなでしこ」を語る。「やまとなでしこ」は、「世の中で一番大切なものはお金」という信念を持つ神野桜子(
文
子供の頃の私は、これを愛だと思わなかっただろう
「やまとなでしこ」が放送された2000年、私は5歳で、母は28歳だった。話を理解できないくせに一緒に観ていた私は、ことあるごとに母に尋ねた。桜子はなんで急いでるの?と聞いたら、「28歳からは売れ残りだから急いでるの。お母さんと同い年」と返ってきたことを妙に覚えている。
4半世紀ぶりに観返しながら、いろんなことを思った。
当時母は何を思いながら観ていたのだろう。「女が最高値で売れるのは27歳」と豪語する桜子に対し、22歳で結婚した母は「早く売りすぎた」とか思ったりしたのだろうか。桜子が愛されるのは、一般的な倫理観からは逸脱していても己の信念を貫く姿がかっこいいからだろう。金があるだけの男か誠実なだけの貧乏な男か、つまり金か心かという王道のストーリーでありながら、時代にも縛られない唯一無二の面白さがある。
……などと様々な切り口で語れるドラマなので、何を書こうか迷いつつ、最初はジェンダー観について書こうと考えていたのだが、思わぬところで号泣してしまった。
桜子が東十条との結婚の挨拶のため、仕方なく父・勝を東京に呼びつけた第9話。極貧家庭に育ったことがコンプレックスの桜子は、9年も父に会っていなかった上に、実際は漁師である父に対し、豪華客船の船長を演じることを要請する。最初は拒否する父だが、最終的にはお嬢様育ち設定の桜子に合わせてなんとか挨拶を済ませ、「死ぬまでお前は俺の娘だ。海の上からお前の幸せを祈ってるぞ」という一言を残し、次の航海に急ぐという設定で去っていく。
桜子は幼き日を思い出す。夜中に高熱を出した桜子を抱いた父が、猛吹雪のなか病院のドアを叩く。桜子は貧しいながらも愛されて育ったのだ。
バス停まで送ってくれる欧介の車中で、父は東十条のことを「あのボンボンはただのボンクラだな。なんであんなのがいいのかなあ」とため息をつく。
そして、帰りのバスに乗り込もうとした時、走って見送りに来た桜子に、父は言う。
「桜子、なんだよ。俺やっぱりなんかしくじったか!? どした? 心配すんな! 父ちゃんな、もう二度とのこのこ、お前の前に顔出したりしねえから。父ちゃんのことなんか忘れて、あの大金持ちと結婚して幸せになれ。桜子、おめでとう。良かったな、望み叶ってよ。父ちゃんも嬉しいよ。お父様は海に落っこって死んじまったとでも言っとけ。もう会えねえかもしれねえんだからそんな顔すんな。つらかったら、いつだって戻ってさ……いやそんなことねえか、おめえは強い子だからな。元気でな」
引用が長すぎるが中略できるところがなかった。台詞を書き起こしながら再び号泣している。最初は笑顔だった父はこの長台詞の途中から泣き出すも、そのままバスに乗って帰っていく。
これこそが究極の愛だ、と私は思った。
愛情を注いで大切に育てたはずの娘に、貧乏が惨めだったという理由で嫌われ、9年も絶縁され、結婚の挨拶では嘘をつかされ、結婚式への出席は許されない。「お金よりも大事なものがある」という亡き母の教えも虚しく、見栄っ張りな金の亡者に成り果てた娘が選んだ男は、金だけは腐るほどあるボンクラ。なのに父は、桜子に対しては東十条のことを決して悪く言うことなく、娘が望んで選んだ道を応援する。愛する娘に会いたいはずなのに、本人が望まなければ会おうとしない。縁を切られることさえも受け入れようとするのだ。
リアルタイムの記憶はほとんどないが、子供の頃の私は、これを愛だと思わなかっただろう。愛とは、東十条が桜子を一途に想い、桜子の望みを何でも叶えようとすることや、欧介が桜子の洋服のために火事に飛び込んだことや、桜子が欧介を追いかけてニューヨークまで行ったことや、佐久間が真理子に土下座して「結婚してくれなきゃ今すぐ窓から飛び降りて自殺する」とプロポーズしたことだと思っていたに違いない。
しかし、愛とは、その人の選択を信じて尊重することなのだと、今は思う。欧介も東十条も、桜子を愛している。だが、父の愛には敵わないのではないだろうか。自分が否定され傷ついてもなお、我が子の望みが叶うことを喜んでみせる父の愛に。桜子の父が登場するのは(回想シーンをのぞいて)9話のみで、ドラマとしてはサイドストーリーなのだが、究極の愛はここで描かれていると私は思う。
最終話を観たあと、経営難の魚屋を切り盛りする欧介を見て魚屋に行ってみたくなった私は、初めて近所の魚屋を訪れた。鮭の切り身を買って、グリルで焼いて食べた。私は桜子の言う“女の売り時”をとうに過ぎた30歳の独身である。私は私を誰にも売らないし、魚屋の鮭はスーパーのよりも少し高いけど、ふっくらしていて美味しかった。
「やまとなでしこ」(2000年放送 / フジテレビ系)
類いまれなる美貌を持つCAの神野桜子は、幼い頃に極貧生活を経験したことから「恋愛相手も結婚相手もお金持ちでなければならない」というポリシーを持ち、より裕福な男性を探し求めていた。ある日彼女は合コンで出会った中原欧介を大金持ちだと勘違いし、2人は恋に落ちる。しかし欧介の正体が魚屋であることを知り、彼を拒絶。欧介は身分不相応とわかりながらも、桜子に強く惹かれていく。本作はフジテレビ系「月9枠」で放送され、桜子の強気な性格や、彼女の独特な恋愛観から放たれる名言の数々が視聴者を楽しませた。連続テレビ小説「あんぱん」の
絶対に終電を逃さない女 プロフィール
1995年生まれ、文筆家。エッセイ、小説、短歌を執筆。単著に「虚弱に生きる」(扶桑社)、「シティガール未満」(柏書房)、共著に「つくって食べる日々の話」(Pヴァイン)がある。「YNKs」にて「YNKsみんぞく採集」連載中。
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