映画「しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~」が、8月4日に全国で封切られる。
同作は、「クレヨンしんちゃん」シリーズ初の3DCG映画。ある夜、黒い光を浴びて世界の破滅を望む暗黒のエスパーとなった非理谷充によって、日本中が恐怖で支配されそうになったとき、同じく超能力を得てエスパーになった野原しんのすけが立ち上がるさまが描かれる。「モテキ」「バクマン。」で知られる大根仁が監督・脚本を担い、長年2Dアニメを制作してきたシンエイ動画が「STAND BY ME ドラえもん」の白組とタッグを組んで制作した。
映画ナタリーでは、同作の公開を記念して、しんのすけ役の小林由美子、ゲスト声優を務めた空気階段の鈴木もぐらと水川かたまり、鬼頭明里にインタビュー。長く愛され続けているシリーズへの思いや、アフレコ時のエピソード、本作のストーリーにちなんで手に入れたい超能力について語ってもらった。
取材・文 / 岡本大介撮影 / 曽我美芽
理想の3DCGしんちゃんというか、むしろそれ以上(かたまり)
──鬼頭さんと空気階段のお二人は、今回初めて「クレヨンしんちゃん」の世界に参加されました。そもそもの話ですが、子供の頃はご覧になっていましたか?
水川かたまり 世代ですから、ご多分に漏れずめっちゃ観ていました。ご多分に漏れずしんちゃんのモノマネもしていましたし。……とにかくご多分に漏れていないです(笑)。
小林由美子 漏れなさすぎ(笑)。
かたまり そうなんです。でも母親からは「似てないからもうモノマネはやめなさい」と言われまして。
小林 似てないから? お下品だからではなく?
かたまり そうです。品性の問題ではなく、純粋にクオリティの問題で止められました。
鈴木もぐら 僕もご多分に漏れずに観ていました。ちょうど野原しんのすけと同じ5歳くらいのときにテレビアニメが始まったので、アニメのしんちゃん第1世代だと思うんですけど、“ぞうさん”とか、よくマネしては怒られていました(笑)。
小林 やっぱり怒られたんですね(笑)。
もぐら でも子供は絶対にマネしたくなりますよね。中には「自我を乗っ取られたんじゃないか?」っていうくらい100%しんちゃんな友達もいました(笑)。
かたまり そうそう。温泉やプールに行くと、無数の“ケツだけ星人”が浮かんでいたり。
鬼頭明里 そうだったんですね。私も子供時代は家族みんなで楽しく観ていましたね。妹が私以上にハマっていて、マンガも全巻そろえていました。キャスト発表後に「今度しんちゃんの映画に出るよ」と伝えたら、「その話は原作の26巻だね」と即答されました。さらに原作の画像まで送ってきて「ほらっ!」って(笑)。
──本作にはシリーズ初の3DCGという大きな特徴があります。
小林 私に関しては、実は4年くらい前から今回のお話をいただいていました。普通のアニメだとアフレコは一度するだけなんですが、今回はゼロから3DCGのしんちゃんを作るということで、事前に何回もアフレコや読み合わせをしたり、口の動きをカメラで撮影したりと、長い時間を掛けて試行錯誤しながら作り上げていきました。
もぐら 壮大なプロジェクトだったんですね。
小林 構想、制作期間が7年なので、私が2018年にしんちゃんの声を引き継ぐ前からスタートしていたんですよね。本当にすごいことだなと思います。
かたまり 初めて映像を観たときはびっくりしました。ぶっちゃけると、「3DCGで制作」という話を最初に聞いたときには「なんで?」という思いもあったんです(笑)。
もぐら 国民的アニメの実写化みたいな(笑)。
かたまり そう。だから期待よりも不安のほうが先行しちゃって。
小林 その気持ちもすごくわかります。
鬼頭 そもそもしんちゃんって、立体にするのがすごく難しそうですよね。
小林 そうなの。2D表現の権化というか、2Dだからこそ表現できる造形なんですよね。
鬼頭 あの独特の顔の輪郭とかどうするんだろう?と思いましたもん。
かたまり だからこそ映像を観たときには余計にびっくりしたんですよね。僕が頭の中で思い描いていた理想の3DCGしんちゃんというか、むしろそれ以上だったので。
もぐら 本当に違和感がないですよね。これからはこの3DCGしんちゃんがスタンダードになっていくんじゃないかと思えるくらいで、2D、3DCGの概念すら超越している気がします。
しんちゃんと直接話せて、不思議で楽しい時間でした(鬼頭)
──アフレコについて伺います。空気階段のお二人は、国際エスパー調整委員会の顧問である池袋教授と、世界征服をもくろむ組織・令和てんぷく団を率いるヌスットラダマス2世に声を当てましたが、今回が声優初挑戦なんですよね。
小林 それは絶対に嘘ですよね?(笑) ベテラン声優さんが声を当てたのかなって思うくらいでしたよ。
もぐら・かたまり 本当ですか?
小林 うますぎでしたよ。
もぐら・かたまり めっちゃうれしいです!
鬼頭 本当に素晴らしかったと思います。
かたまり ここ絶対に見出しにしてください。「プロ声優2人のお墨付き!」って。
もぐら でも、やっぱり社交辞令なんじゃ?
小林 いやいや、本当ですって(笑)。
もぐら ……本当に本当?
小林 くどい(笑)。
鬼頭 終わらない(笑)。
かたまり ここも見出しにしてください。「何度も確認したけど、決して社交辞令ではない」と(笑)。
──アフレコではどのようなディレクションを受けましたか?
もぐら 僕は「自然体でいい」と言われたので、あまり深く考えずに演じました。
かたまり 僕は真逆で「今まで出したことのない声を出してください」と言われて(笑)。「もっとダミ声で」「トーンを落として」とか「裏返す感じで」とか、考えうる限りの声を出したんですけど、それでもダメで。めっちゃ難しかったです。
──では新たな引き出しが増えましたね。
かたまり 増えたと言うより、金づちと釘で一から棚を作っていった感じです。「あの森に行って木を切ってきて」というところから始まって。
もぐら 材料調達から?(笑)
かたまり そう。言われるがままにやったら、いつの間にか引き出し付きの棚が完成していました。ありがたいです。
──鬼頭さんが演じる深谷ネギコは、いわゆるきれいなお姉さんポジションですね。
鬼頭 そうですね。しんちゃん映画には欠かせない重要なポジションですし、しんちゃんとの絡みもけっこうあったので、それが何よりもうれしかったです。子供の頃から観てきたしんちゃんと直接話せて、なんだか不思議な気持ちもありつつ、楽しい時間でした。
──小林さんは、今回3DCGになったしんのすけを演じてみていかがでしたか?
小林 もちろんこれまでに演じてきたしんちゃんがベースではあるんですが、ところどころでその枠をはみ出しているところもあって、そこは新鮮でした。
鬼頭 そうなんですね。
小林 そう。特に後半、非理谷くん(※松坂桃李が声を当てた暗黒のエスパー)と心を通わせていくシーンでは、大根仁監督から「もっともっと思いっきり」「やりすぎくらいでいいです」と言われました。
かたまり そんなにですか?
小林 私も「これはさすがにやりすぎかな?」とも思ったんですけど、大根監督はそれを求めていたんですよね。3DCGのビジュアルと同じく、これまでとは少し違うしんちゃんが引き出されたなと思います。
一筋の光を見出せる作品(小林)
──特に印象深いシーンなどはありますか?
もぐら 運転シーンです。僕は運転免許証を持っていないんですよ。唯一取得した原付免許もすぐに失効したので、公道を走った経験がなくて。
小林 あらら。
もぐら だから池袋教授が車を運転しているシーンは感動しました。しかも現実ではありえない道を走ったりもできて、さらに興奮しましたね。
小林 シーンとしても迫力たっぷりですよね。私はみんながしんちゃんに対してまっすぐに「がんばれ」と声を掛ける場面が印象深いです。それって今の時代では珍しいですよね。
鬼頭 確かに。がんばっている人に対して「がんばれ」はあんまり言っちゃいけない風潮がありますよね。
小林 そうですよね。でもこの映画ではそれをあえてストレートに伝えていて、個人的に「やっぱりいい言葉だな」って改めて感じたんですよ。
もぐら 作品全体を通じて、けっこうメッセージ性がありますよね。
小林 そうそう。あちらこちらで「日本の未来は暗い」と言われる時代ですけど、そこに一筋の光を見出せる作品になっています。私も子供がいるので、なんだか救われた気持ちになりました。
かたまり そうですね。しかも野原家ってみんなが無償の愛を持っているんですよね。今回改めてこんなにも“無償”だったのかと。“無償”にもほどがあるだろうと(笑)。
小林 野原家の絆は強いですよね。
鬼頭 私が印象深いのは、「みんなで世界を救うぞ!」という流れになったときに、母のみさえだけは現実的で、しんちゃんを連れて家に帰ろうとするじゃないですか。やっぱりみさえはお母さんなんだなってすごく感じましたね。子供をそんな危ない目に遭わせるわけにはいかない、という気持ちは、確かにそうだよねって。
もぐら みさえって、基本的には家族への愛が第一にあるんですよね。対してひろしはサラリーマンだから社会に対する責任もあったり、どこかヒーロー願望もあったりして。しんちゃんは、そういう意味では2人のいいとこ取りというか、合体した存在な気がします。
かたまり そうですね。もしくは、家庭のヒーローであるみさえとサラリーマンのヒーローであるひろしの結晶と言うか……。
もぐら あれ? なんで言い直した?(笑)
かたまり いや、(もぐらが)すごくいいことを言うなと思って(笑)。
鬼頭 しんちゃんって、物怖じしなくて誰とでもすぐに仲良くなれるのがすごいですよね。人間関係が苦手な人からするとすごく助かりますし、私自身もそんなふうになれたらいいなって憧れちゃいます。
小林 しんちゃんはよくも悪くも先入観がないですよね。性別や年齢関係なく、まっすぐに向かっていけるところはやっぱり5歳児ならではですよね。今回も、非理谷くんは本来なら敵なんですけど、しんちゃん的にはそうは思っていなくて、あくまでも1人の人間として語りかけている。そこが一番の魅力だと思います。
もぐら まあ「きれいなお姉さん」に対しては偏見だらけですけど(笑)。
小林 それは確かに(笑)。
──本作のモチーフ「超能力」についても聞かせてください。皆さんが手に入れたい超能力はなんですか?
小林 瞬間移動! これさえあれば遅刻もしないし、社会人なら絶対に欲しいですよね。
鬼頭 飛行能力もいいですよね。空を飛べるなんて、人類の憧れじゃないですか?
──1つだけ選ぶなら?
鬼頭 じゃあ瞬間移動にします(笑)。
かたまり 瞬間移動が強すぎますよ。みんな一択になりますよ?
──では空気階段のお二人は、瞬間移動と飛行能力以外でお答えください。
もぐら それなら時間停止ですね。映画には登場してませんけど(笑)。
鬼頭 時間を止めて何をするんですか?
もぐら 寝ます(笑)。朝起きたとき「あと10分だけ寝かせてくれ!」と思うじゃないですか? もしそこから8時間とか寝られたらどれだけ幸せかと、いつも感じているので(笑)。
──かたまりさんは?
かたまり うーん。子供の頃からずっと空が好きで、パイロットになりたかった時期もあるので、どうしても飛行能力がいいんですよね。
もぐら じゃあ代わりに「鳥に変身できる能力」は?
かたまり あ、それにします。できればツバメのような渡り鳥になりたいです。
もぐら それは……飛ぶ気満々だね(笑)。
さんま師匠に観てほしい(もぐら)
──最後に、この映画をどんな人に薦めたいですか?
鬼頭 子供から大人まで、幅広い世代の方々が楽しめる映画なので、万人にお薦めしたいです。しばらくしんちゃん映画から離れている人でも、子供のときとはまた違った感想を抱くはずなので、ぜひ大人の皆さんにもご覧いただきたいと思います。
小林 そうですね。子供たちはもちろんですけど、今回の映画は特に10代や20代の若者にもすごく刺さると思うんです。非理谷くんのように将来を悲観したりコンプレックスを抱いている人ってとても多いと思いますが、きっと希望をもらえる作品になっていますので、どうぞ楽しんでください。
──空気階段のお二人が観てもらいたい芸人さんは?
かたまり 僕らは芸人縛りですか?(笑) じゃあファイヤーサンダーの﨑山祐くん。大切な友達なんですが、彼はとにかくしんちゃんが大好きなんですよ。グッズもたくさん持っているし、映画も全部観ていて。僕が映画に出ると話したら「ほんまええなあ」と喜んでくれたので、真っ先に観てもらいたいです。
もぐら さんま師匠(明石家さんま)に観ていただきたいです。さんま師匠って本当にアンテナが広くて、テレビ番組でも突然「東京リベンジャーズ」のネタでいじってきたりするんですよ。面白いと思った作品はあちこちで口に出して宣伝してくれるので、そうなればより大ヒットは確実だと思うんですよ。なので、なんとかしんちゃんにハマってもらえないかなと。
──そうなればこの4人で番組に呼ばれるかもしれませんね。
もぐら さすがにそれは……。
かたまり いや、可能性はゼロじゃない。
鬼頭 確かにゼロではない。
小林 夢は大きく! 狙いましょう!(笑)
かたまり サイコゥ! サイコゥ! サイコゥ!
プロフィール
小林由美子(コバヤシユミコ)
6月18日生まれ、千葉県出身。1998年に声優デビュー。2018年に「クレヨンしんちゃん」野原しんのすけ役の2代目に起用された。そのほか、主な出演作に「とっとこハム太郎」「デュエル・マスターズ」シリーズ、「デジモンアドベンチャー:」「デジモンゴーストゲーム」「雨を告げる漂流団地」などがある。
小林由美子 (@shubiko618) | Instagram
ヘアメイク / 関谷まゆみ
空気階段(クウキカイダン)
2012年結成、鈴木もぐらと水川かたまりによるお笑いコンビ。2016年に「マイナビ Laughter Night」で優勝。同大会では翌年も優勝し、2連覇を達成した。2021年には「キングオブコント2021」で優勝を果たす。2017年に始まったラジオ番組「空気階段の踊り場」がTBSラジオで毎週月曜深夜に放送中。
空気階段 鈴木もぐら (@suzuki_mogura) | Twitter
空気階段 水川かたまり (@kkkatmari) | Twitter
ヘアメイク / 原口ふうかスタイリング / 岩田沙帆
鬼頭明里(キトウアカリ)
10月16日生まれ、愛知県出身。2014年に声優として活動を始めた。「タイムボカン 逆襲の三悪人」ヒロインのカレン役、「鬼滅の刃」竈門禰󠄀豆子役、「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」近江彼方役、「Re:ステージ! ドリームデイズ♪」月坂紗由役などで知られる。第15回声優アワードでは助演女優賞に輝いた。
鬼頭明里 (@kitoakari_1016) | Twitter
ヘアメイク / 野口綾香(leading)スタイリング / 原田幸枝