平成ドラマ委員会~懐かしドラマを令和に観てみた~ Vol. 1
ひらりさと「トリック」大人になったら山田奈緒子になりたかった
山田上田の関係は、子供には「新しい」ものだった
2026年3月17日 12:05 2
そこまで昔というわけではないけれど、改めて観るとなぜかセンチメンタルな気持ちになる……。そんな“微妙に懐かしい”平成ドラマの魅力を再発見するべく、映画ナタリーでは「平成ドラマ委員会」を発足。4人の委員会メンバーと、それぞれの思い出深い作品を振り返り、現代に生かせる教訓を探っていく。
Vol. 1では文筆家のひらりさが、2000年にスタートしたミステリードラマ「トリック」を語る。「来世では山田奈緒子になりたい」と思うほど、ひらりさを魅了した「トリック」の世界。その理由はさまざまな霊能力事件に立ち向かう“山田上田”コンビの関係性にあった。
文
山田奈緒子は私にとって、実在を祈りたくなるような「おもしれー女」
子供の頃、「エンタメ」といえばテレビドラマのことだった。
父が通信系の会社で働いており、世間の家庭よりは比較的早く、インターネットと出会った私。しかし子供にとってその「箱」はまだ、万能とは言い難かった。スピードは遅いし、使える時間は制限されているし。検索は自由に許されていたけれど、「自分が面白いと思うもの」がわからないから、どんな検索ワードを入れればいいかわからなかった(レコメンドもAIも存在していない世界!)。
そもそも、「エンタメ」とインターネットはまだ出会っていなかったはずだ。その海は、あくまでコミュニケーションを主体に、個人のクリエイティビティを発揮するところだった。
少女マンガも大好きだったが、雑誌はおこづかいで買う必要があった。その点、テレビドラマは毎日のようにどこかの局で放送されている。しかも無料。まさに「魔法の箱」だった。
“チャンネル権”を家族で奪い合いながら、本当にいろいろなドラマを見た。「ナースのお仕事」「踊る大捜査線」「イグアナの娘」「銀狼怪奇ファイル」「P.A. プライベート・アクトレス」……。子供だったのもあり、恋愛ものよりはコミカルなお仕事ものや、キャラの立ったサスペンスをよく見ていた記憶だ。
その中でも一番夢中になったドラマと言える作品、このコラムの依頼を受けた時に真っ先に思い浮かんだのが──「トリック」だ。
え、みんな知ってますよね? 説明する必要ある??? あるか。
「トリック」第1シーズンの放送が開始したのは2000年7月。ワクワクしながら視聴していた11歳小学生は、36歳文筆家となってしまった。もう、25年以上前のドラマだなんて!
「お前のやったことは全てお見通しだ!」
「トリック」はタイトルの通り、霊能力者を名乗る者たちが仕掛ける奇跡や事件の「トリック」を、売れない奇術師・山田奈緒子(
同作のメイン監督は、
美人だし絶対的な奇術の才能があるのに、ニコリとも笑えずセルフプロデュース力がなく全然売れてなくて、友達いなくて家賃も払えない、でも「奇跡」を暴かせたら右に出るものはいない山田。世間では“天才”ともてはやされているが、見栄っぱりでだまされやすくて怖がりで、霊能力者と対峙する際は山田に頼ってばかりなのに、実は空手の達人(通信教育で免許皆伝)で、いざというときには腕力(と鈍感さ)で山田を救う上田。
生まれながらの幼馴染でも、会社から組まされた同僚でもないのがいい。全然息が合ってないし、お互いのことをちょっとバカにし合っているのに、欠点と長所をうまくカバーし合いながら霊能力事件をサバイバルし、なんだかんだずっと一緒にいるふたり。当時の少女漫画では、ゴールはだいたい「男女が恋愛関係になる」ことに設定されていた。テレビドラマでもまあ、そういうことが多かった。その中で山田上田の関係は、子供には「新しい」ものだった。ふたりの距離が近づくことを期待しつつ、そのままでいてくれることに安心していた。
ちなみに山田奈緒子は荒川区尾久のボロアパートに住んでいる。私の実家は高校の頃に荒川区尾久近辺に引っ越したのだが、引っ越して最初にやったのは、山田奈緒子のアパート探しだった。今思えば、あれは私にとって人生で初めての「聖地巡礼」だったかもしれない。山田奈緒子は私にとって、実在を祈りたくなるような「おもしれー女」だった。
25年ぶりに、Netflixで「トリック」を観た。人生で辛いことや悲しいことがあった人たちが「奇跡」に傾倒する様は、現代のSNSで陰謀論や排外主義に染まってしまう人たちに重なり、古びないテーマだとも感じた。
実は「トリック」に触発されて、手品を学ぼうとしていた時期があったのだが、手先が不器用すぎて挫折した。来世では、山田奈緒子になりたいです。
「トリック」(2000年~放送 / テレビ朝日系)
自称売れっ子奇術師の山田奈緒子(仲間由紀恵)と物理学者の上田次郎(阿部寛)が、超常現象のウラに隠されたトリックを暴いて怪事件の謎に迫るミステリー。堤幸彦らが演出を手がけた。コメディ要素が強い作風や“山田上田”コンビの独特な空気感、山田の「お前のやったことは全部お見通しだ!」というセリフが人気を博し、テレビドラマはシーズン3まで放送。その後スペシャルドラマが3本、劇場版が4本製作された。現在Netflix、TELASA、U-NEXT、TVerで配信中のほか、Blu-ray / DVDが発売中。
ひらりさ プロフィール
平成元年、東京生まれの文筆家。女オタク文化からフェミニズムまで、女性と現代社会にまつわる文章を執筆する。最新刊に「まだまだ大人になれません」(大和書房)。単著に、「沼で溺れてみたけれど」(講談社)、「それでも女をやっていく」(ワニブックス)、上坂あゆ美氏との共著に「友達じゃないかもしれない」(中央公論新社)。オタク女子ユニット「劇団雌猫」メンバーとしても活動。
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ひらりさ🍰新刊「まだまだ大人になれません」 @sarirahira
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