映画と働く 第7回 [バックナンバー]
アクション監督:谷垣健治(前編)「香港映画の現場を見て『この中にいたい』と思った」
ジャッキー・チェン好きの少年が単身香港へ移住し、大ヒットシリーズ「るろうに剣心」のキーパーソンになるまで
2020年12月31日 19:00 22
ドイツで「アクション監督もやってくれ」と言われ
──そして1999年にドイツのドラマ「SK Kolsch」でアクション監督デビューをされますね。
1997年に、あるアクション監督から「ロスでキアヌ・リーヴスの作品を撮るから来い」と言われたんですが、キアヌのケガでバラしになってしまったことがありました。そのアクション監督は降板して最終的にはユエン・ウーピンがやることになるわけですけど……その映画が、のちの「
──それがドラマ「THE PUMA ザ・ピューマ」ですか。
そうです。初年度は「PUMA」のテレフィーチャーを作ったんですが、その制作会社がケルンで「SK Kolsch」という刑事ドラマも撮っていて。そのうちの1エピソードで日本人役があったので出演することになり、「アクション監督もやってくれ」という話になりました。出来としては稚拙なんですけど、カット割りと編集を担当したという意味ではこれが最初のアクション監督作品です。
──初めてアクション監督をやってみて、感慨はありましたか?
まったくないですね。うまくいかないなあ、という思いだけでした。日本映画に久しぶりに参加したのは2001年の「
最大の手応えはやっぱり「るろうに剣心」
──では、アクション監督として手応えを最初に感じた作品は?
最初の手応えで言うと「PUMA」かなあ。マイケル・ウッズとかジョン・サルヴィッティっていうドニーチームのおなじみメンバー(※ドニー・イェンの初期作品「
──日本では2012年以降、谷垣さんがアクション監督を務めた「
最大の手応えでいったらやっぱり「るろ剣」ですね。
監督の仕事は“我慢の作業”
──1月1日公開のドニー・イェンさん主演作「
ははは、そうなんです(笑)。「
──アクション監督は大内貴仁さんが担当されていますが、谷垣さんがアクション監督ではなく監督になった理由は?
なんかわかんないけど、僕がちょうど香港にいたので、「監督やれよ」って言われて。
──(笑)
監督というか、基本的にはプロデューサーの
──監督業をやることで、今後もアクション監督をやるうえでの気付きはありましたか。
最初は「スーパーティーチャー」をやりながら進めていたこともあって、アクション監督のクセが抜けていなくて。どうしても前に出ていろんなことをやってしまうんですよね。監督が専門的なことを全部指示してしまうと、周りは「はいはい、どうぞ」と引いてしまう。そうするとこっちは「あれ、周りはなんで動かないんだ? 俺以外はみんなサボってるじゃないか」となるわけです。撮影の中盤でものすごく怒ったことがあって、「お前らがそんなんだったら、俺はもう何もしない! 勝手にやれ!」ってなったんですよ。すると、その日の現場はすっごくスムーズに進んだんですよ(笑)。僕みたいなアクションの人間が前に出て動いてしまうと、それが1つの答えになってしまって、他人の想像力が膨らまなくなってしまうんです。だから監督業とは、基本的にはいくつものバックアッププランを用意しながらも各部署から何かが出てくるのを待つ、我慢の作業だと思いましたね。「言ったほうがいかなあ、でも……」って悩んでいると、ドニーが出てきて全部バババッと言って、僕の我慢を台無しにしてしまうこともありましたけど(笑)。
──なるほど(笑)。
それもドニーは、その日その日で違うことを言い出すので(笑)。最初は「1980年代にあったようなアクションコメディって、最近ほぼ存在してない」という話から始まって。すごいアクションとゆるいコメディが同化した、香港らしい作品をやりたいということで企画がスタートしたんです。もちろんそこからブレてはいませんが、ドニーが「ここでロマンティックコメディの要素を入れるべきだ。痴話喧嘩していた2人が、表参道のイルミネーションの中で踊り出すんだ!」と言い出すので、ああ、絶対に昨日「
※「SK Kolsch」のoはウムラウト付きが正式表記
谷垣健治(タニガキケンジ)
1970年10月13日生まれ。奈良県出身。 1989年に倉田アクションクラブに入り、1993年単身香港に渡る。香港スタントマン協会(香港動作特技演員公會)のメンバーとなり、ドニー・イェンの作品をはじめとする香港映画にスタントマンとして多数参加。2001年にドラマ「SK Kolsch」でアクション監督デビュー。2018年台湾の金馬奨にて「邪不圧正」(日本未公開)で最優秀アクション監督賞を受賞。2019年にはDGA(全米監督協会)のメンバーになっている。監督を務めたドニー・イェン主演作「燃えよデブゴン/TOKYO MISSION」が1月1日に公開。アクション監督を務めた「るろうに剣心」シリーズの最新作「
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谷垣健治 @KenjiTanigaki
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