イラスト / 徳永明子

映画と働く 第7回 [バックナンバー]

アクション監督:谷垣健治(前編)「香港映画の現場を見て『この中にいたい』と思った」

ジャッキー・チェン好きの少年が単身香港へ移住し、大ヒットシリーズ「るろうに剣心」のキーパーソンになるまで

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ドイツで「アクション監督もやってくれ」と言われ

──そして1999年にドイツのドラマ「SK Kolsch」でアクション監督デビューをされますね。

1997年に、あるアクション監督から「ロスでキアヌ・リーヴスの作品を撮るから来い」と言われたんですが、キアヌのケガでバラしになってしまったことがありました。そのアクション監督は降板して最終的にはユエン・ウーピンがやることになるわけですけど……その映画が、のちの「マトリックス」でした。とにかくその頃は、アメリカが香港映画の人材に目を付けだして、「マトリックス」や「チャーリーズ・エンジェル」のいわゆる香港風アクションが”カンフー”ならぬ“ワイヤー・フー”として話題になるような時代だったんです。ドイツのRTLというテレビ局でも、ドニー・イェンをアクション監督に招いたテレビシリーズを作ることになって、僕らも一緒に行ったんです。

──それがドラマ「THE PUMA ザ・ピューマ」ですか。

そうです。初年度は「PUMA」のテレフィーチャーを作ったんですが、その制作会社がケルンで「SK Kolsch」という刑事ドラマも撮っていて。そのうちの1エピソードで日本人役があったので出演することになり、「アクション監督もやってくれ」という話になりました。出来としては稚拙なんですけど、カット割りと編集を担当したという意味ではこれが最初のアクション監督作品です。

谷垣健治

谷垣健治

──初めてアクション監督をやってみて、感慨はありましたか?

まったくないですね。うまくいかないなあ、という思いだけでした。日本映画に久しぶりに参加したのは2001年の「血を吸う宇宙」という作品で、これは香港のアクションチームとしての参加でした。プロデューサーの一瀬(隆重)さんはその何年か前に香港で撮った「もういちど逢いたくて・星月童話」という作品でも一緒だったんですが、彼がその次に手がけた2001年の「修羅雪姫」という映画があって。そこにスタントコーディネーターという形で参加(※アクション監督はドニー・イェン)したことで、再び日本映画でも活動することになりました。2000年代はプラハの「ブレイド2」や香港の「ツインズ・エフェクト」「SPL/狼よ静かに死ね」「導火線 FLASH POINT」に参加しつつ、日本でもVシネや低予算映画のアクション監督をやったりという感じですね。毎回あまり感慨はなくて「やっぱりうまくいかないな」「今回はちょっとうまくいったけど反響がないな」って……結局その繰り返しでした。

最大の手応えはやっぱり「るろうに剣心」

──では、アクション監督として手応えを最初に感じた作品は?

最初の手応えで言うと「PUMA」かなあ。マイケル・ウッズとかジョン・サルヴィッティっていうドニーチームのおなじみメンバー(※ドニー・イェンの初期作品「クライム・キーパー 香港捜査官」「タイガー・コネクション」などから参加)に加えて、僕が下村くんと吉田さんを日本から連れて行って。アクションがあまり認知されていなかったドイツで、僕らは「砂漠にレールを敷いていくような作業」と呼んでたんですが、そのとき作り上げた現場の形が今でも生きています。

──日本では2012年以降、谷垣さんがアクション監督を務めた「るろうに剣心」シリーズが大ヒットしました。

最大の手応えでいったらやっぱり「るろ剣」ですね。大友啓史監督が、新しいことをいろいろと経験させてくれたんです。正直「るろ剣」は僕以外の誰かがアクション監督をやっていてもそれなりのものになったと思うけど、監督が大友さんじゃなかったら、絶対ああいう結果にはなっていないです。あとはキャストが、いわゆる“アクション俳優”とカテゴライズされるような役者じゃなかった。もちろんアクション俳優がやってもいいんだけど、テレビCMに出ているような、いわゆるお茶の間の人気者たちが、彼らのできる限界に挑戦しているところが、世の中に響いた理由なのかな。実はインして最初の2日間は思ったような画が撮れてなくて、僕と(スタントコーディネーターの)大内(貴仁)は「どうしよっか……」と話していたのを覚えています。その前にやった「カムイ外伝」で、日本のメジャー作品でアクションをやる難しさを知っていたので。それで「るろ剣」では、3日目の撮影開始時間までの2時間を使って“アクション部主導の追撮”みたいなことをしました。前の2日間で撮れなかった、アクションのパワーを強調するようなカットを10カットぐらいですかね……。やり方としてはちょっと乱暴だったので、監督が気を悪くしてないといいなあと思ってたんですが、大友監督は駆け寄ってきてくれて、「このやり方はとてもいいね!」と言ってくれたんです。寛大な監督で助かりました。それからは集団戦のアクションはうまくいこうがいくまいが、まずは一連で撮る。そこから必要なカットをピックアップで撮る、というやり方が確立しました。

監督の仕事は“我慢の作業”

──1月1日公開のドニー・イェンさん主演作「燃えよデブゴン/TOKYO MISSION」には、監督として参加されましたね。最初は別の作品を撮るために香港へ行ったそうですが……。

ははは、そうなんです(笑)。「スーパーティーチャー 熱血格闘」(※谷垣はアクション監督として参加)の前に、ドニーと別の冒険ものを撮る予定だったんですけど、スケールがデカすぎて……。世界各国でロケして、南極にも行かないといけないレベルだったので、これは無理だという話になって、香港を東京を舞台にした「デブゴン」を撮ることにしたんです。8月に企画が出て、12月にはインするくらいのスピード感でした。

「燃えよデブゴン/TOKYO MISSION」ポスタービジュアル (c)2020 MEGA-VISION PROJECT WORKSHOP LIMITED.ALL RIGHTS RESERVED.

「燃えよデブゴン/TOKYO MISSION」ポスタービジュアル (c)2020 MEGA-VISION PROJECT WORKSHOP LIMITED.ALL RIGHTS RESERVED.

──アクション監督は大内貴仁さんが担当されていますが、谷垣さんがアクション監督ではなく監督になった理由は?

なんかわかんないけど、僕がちょうど香港にいたので、「監督やれよ」って言われて。

──(笑)

監督というか、基本的にはプロデューサーのウォン・ジン(※香港版「シティーハンター」の監督としても知られる)や主演であるドニーのやりたいこと、そのほかのいろんな人のやりたいことを、ちゃんと現場で形にする役割という感じですかね。まあ、監督って確実にそういう側面もありますけど。だから、とてもじゃないけどアクションまで見きれないです。中途半端には絶対したくないし。今までいろんな日本人スタッフを連れて行ったけど、特に大内くんと下村くんはドニーからの信頼が厚いんです。大内くんは「るろ剣」でもずっとスタントコーディネーターをやってくれていたし、アクション監督として「HiGH&LOW」のような難易度の高い作品もちゃんと形にしている。何よりドニーや僕のことを理解してくれているので、安心してアクションを任せることができました。

「燃えよデブゴン/TOKYO MISSION」より、ドニー・イェン。(c)2020 MEGA-VISION PROJECT WORKSHOP LIMITED.ALL RIGHTS RESERVED.

「燃えよデブゴン/TOKYO MISSION」より、ドニー・イェン。(c)2020 MEGA-VISION PROJECT WORKSHOP LIMITED.ALL RIGHTS RESERVED.

──監督業をやることで、今後もアクション監督をやるうえでの気付きはありましたか。

最初は「スーパーティーチャー」をやりながら進めていたこともあって、アクション監督のクセが抜けていなくて。どうしても前に出ていろんなことをやってしまうんですよね。監督が専門的なことを全部指示してしまうと、周りは「はいはい、どうぞ」と引いてしまう。そうするとこっちは「あれ、周りはなんで動かないんだ? 俺以外はみんなサボってるじゃないか」となるわけです。撮影の中盤でものすごく怒ったことがあって、「お前らがそんなんだったら、俺はもう何もしない! 勝手にやれ!」ってなったんですよ。すると、その日の現場はすっごくスムーズに進んだんですよ(笑)。僕みたいなアクションの人間が前に出て動いてしまうと、それが1つの答えになってしまって、他人の想像力が膨らまなくなってしまうんです。だから監督業とは、基本的にはいくつものバックアッププランを用意しながらも各部署から何かが出てくるのを待つ、我慢の作業だと思いましたね。「言ったほうがいかなあ、でも……」って悩んでいると、ドニーが出てきて全部バババッと言って、僕の我慢を台無しにしてしまうこともありましたけど(笑)。

──なるほど(笑)。

「燃えよデブゴン/TOKYO MISSION」メイキング写真より、ドニー・イェン(中央)と谷垣健治(右)。(c)2020 MEGA-VISION PROJECT WORKSHOP LIMITED.ALL RIGHTS RESERVED.

「燃えよデブゴン/TOKYO MISSION」メイキング写真より、ドニー・イェン(中央)と谷垣健治(右)。(c)2020 MEGA-VISION PROJECT WORKSHOP LIMITED.ALL RIGHTS RESERVED.

それもドニーは、その日その日で違うことを言い出すので(笑)。最初は「1980年代にあったようなアクションコメディって、最近ほぼ存在してない」という話から始まって。すごいアクションとゆるいコメディが同化した、香港らしい作品をやりたいということで企画がスタートしたんです。もちろんそこからブレてはいませんが、ドニーが「ここでロマンティックコメディの要素を入れるべきだ。痴話喧嘩していた2人が、表参道のイルミネーションの中で踊り出すんだ!」と言い出すので、ああ、絶対に昨日「ラ・ラ・ランド」を観たんだろうな……みたいな(笑)。「ここは童話スタイルのパッケージにしたい!」って言い出したときも、絶対昨日ドリームワークスの作品を観たんだろうな……って(笑)。前の晩に観た映画によって言うことが変わるから、それをうまくまとめながら進めていくというね、なかなかな体験でした(笑)。

※「SK Kolsch」のoはウムラウト付きが正式表記

谷垣健治がアクション監督という職業や、今後の日本アクション界について語る後編は近日公開!(参照:アクション監督:谷垣健治(後編)「安全な現場で危なく見える映像を」

谷垣健治(タニガキケンジ)

谷垣健治

谷垣健治

1970年10月13日生まれ。奈良県出身。 1989年に倉田アクションクラブに入り、1993年単身香港に渡る。香港スタントマン協会(香港動作特技演員公會)のメンバーとなり、ドニー・イェンの作品をはじめとする香港映画にスタントマンとして多数参加。2001年にドラマ「SK Kolsch」でアクション監督デビュー。2018年台湾の金馬奨にて「邪不圧正」(日本未公開)で最優秀アクション監督賞を受賞。2019年にはDGA(全米監督協会)のメンバーになっている。監督を務めたドニー・イェン主演作「燃えよデブゴン/TOKYO MISSION」が1月1日に公開。アクション監督を務めた「るろうに剣心」シリーズの最新作「るろうに剣心 最終章 The Final」は4月23日、「るろうに剣心 最終章 The Beginning」は6月4日より全国ロードショーとなる。「G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ」は2021年10月22日に全米公開される予定。

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谷垣健治 @KenjiTanigaki

映画ナタリーの「映画と働く」で取り上げてもらいましたが、よい子はマネしないように!笑

https://t.co/vH68JnAlt6

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