渋谷慶一郎&七尾旅人、夏空の全壊コンビニでコラボ曲披露

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東日本大震災の発生からちょうど3カ月となる6月11日に、ジャーナリストの津田大介がプロデュースするイベント「SHARE FUKUSHIMA」が福島県いわき市のセブン-イレブンいわき豊間店で開催。渋谷慶一郎七尾旅人によるコラボライブが披露された。

七尾旅人(写真:新津保建秀)

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渋谷慶一郎(写真:新津保建秀)

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震災による津波が店舗に直撃し、かろうじて鉄筋と屋根のみが残っている状況ながら、現在は本部から借りた移動販売車を使って営業を再開しているセブン-イレブンいわき豊間店。津田が被災地取材でこの店に立ち寄った際に、店長から「ここで楽しいことをたくさんやって、楽しいことでつらいことを上書きしたいんだ」と言われたことがきっかけとなり、今回のイベントは企画された。

ライブの共演は今回が初であり、音を合わせたのは直前のリハーサル1回きりだったという渋谷と旅人。2人はイベント前日に津田の案内で宮城県女川町を訪れ、震災前の町並みが想像できないほどに壊滅的な津波被害を受けた風景を目の当たりにした。そして彼らは女川からいわきに向かう車中で、カシオトーンを弾きながら今回のライブで演奏するための新曲を制作した。

イベントのために用意された東京発着のバスツアーには約100人が参加。ツアー参加者は午前10:00過ぎにセブン-イレブンいわき豊間店に到着し、まずは現地の人々からの説明を受けつつ、ライブに先立って被災地を見学しながらゴミ拾いのボランティア活動を行った。なおツアー参加料金は1万円で、この金額はいわき豊間地区へ義援金として全額寄付された。

また、ライブ直前には参加者から集まった義援金が豊間区長・鈴木徳夫へ渡される贈呈式も開催。このとき会場にはゲストとして、行政刷新・消費者及び食品安全担当大臣の蓮舫も姿を現した。イベントの開催を知って、自分に何かできることはないのかと急遽会場に足を運んだという蓮舫大臣。ツアー参加者への挨拶として「人の力は人が支えることによってつながっていく。今、その力がここで発揮されているんだということを、改めてこの目で見させていただきたかった」と語った。

14:30からはいよいよセブン-イレブン店舗を使用したライブがスタート。ライブにはバスツアー参加者のみならず近所の人々も来場した。ステージではまず鈴木区長が観客に挨拶し、津田が「『SHARE FUKUSHIMA』という名前のとおり、これはライブイベントというよりもコミュニティ。被災地に対する思いをみんなで共有して、その思いを自分の住む場所に持ち帰ってまた他の人に伝えることで、具体的な復興につながっていくと思う」とイベントへの思いを語った。またここで、バスツアー参加者らが昼食を購入したことでセブン-イレブンいわき豊間店が過去最高の売上を記録したとのことも発表された。

ライブはまず、渋谷のグランドピアノと旅人のボイスパフォーマンスによる、静かでおごそかな即興演奏から開始。会場は2人が音を鳴らし始めると同時に空から陽が差し込み、小雨混じりの曇り空から一転して暑い夏の日差しへと変わった。旅人は自分の声にディレイをかけつつ、口笛を吹き、「あなたの好きなものだらけ / この町 / 空、海、土、子供たち / だからここで暮らす」といったフレーズを組み合わせて歌を紡いでいく。

この即興演奏は東日本大震災が発生した時間である14:46に一旦ストップ。津田による「黙祷」の合図で演者、観衆ともに目をつむり、1分間にわたって震災犠牲者への祈りが捧げられた。その後ピアノのインプロは緊張感のあるものに変わり、地元出身のアートディレクター・YDMが鉄骨柱や屋根にガムテープを貼ってリアルタイムでステージ上をデコレート。旅人は即興で「棄民の歌 / 棄てられし者たちの歌」「いつかまた種を植えて / やがて芽吹くときまで / 20Km圏内、30km圏内、40km、50km、つぼみ広がり」といった歌を青空に響かせた。

およそ30分にわたる即興が終わると、続いては渋谷によるソロ演奏。亡き妻に捧げたピアノ曲「for maria」や、批評家の東浩紀が作詞した初音ミク楽曲「イニシエーション」のピアノバージョン、そして前日に旅人と車中で制作した新曲のピアノソロバージョンなどを、グランドピアノの美しい音色で奏でた。

再び旅人がステージに現れ、相対性理論+渋谷慶一郎のコラボアルバムにも収録された渋谷の楽曲「BLUE」を旅人のボーカルで演奏。ここから先は渋谷がゲストとしてステージに残り、旅人の楽曲を2人でコラボレートする予定だったが、旅人がギターのカポタストをなくしてしまったためライブは中断。旅人がカポタストを探している間に、渋谷は「モノをなくすって典型的な挙動不審だよね」とからかいつつ予定にはなかった「sky riders」をピアノで弾き、津田がトークで場をつないだ。

数分後、無事カポタストを発見した旅人は、アコースティックギターの弾き語りで未発表曲「サーカスナイト」をしっとりと歌唱。優しいピアノの伴奏にのった歌声は、風に乗って目の前の海へと広がっていく。真夏のような日差しの中、「どんどん季節は流れて」ではサンプリングされたヒグラシの鳴き声が山にこだまし、次に「わたしの赤ちゃん」を歌い始めるころから実際に少しずつ日が傾きはじめる。

続く「圏内の歌」では渋谷が一旦ステージから退席。この曲は震災後に福島を訪れた際のことを歌にしたもので、生まれ育った小さな町が原発事故の避難区域に入った人々の悲哀や葛藤が描かれている。旅人は今回特にこの曲を歌いたいと考えていたとのことだが、歌い出しに納得がいかなかったようで、歌を途中で止めて「今日は楽しさもあるけどやりづらさもあります」「簡単な気持ちではここに来れないですよ。だから僕は今ここにいることに葛藤があります。遊びに来たわけじゃないんで」と話し、改めて最初から歌いなおした。

この後、旅人は「自然災害で家ごと飛ばされた少女が悪戦苦闘して戻ってくるまでの話」と紹介して、映画「オズの魔法使い」の音楽に自作詞をつけた「オーバー・ザ・レインボー」を演奏。そして前日に車中で渋谷と作った新曲を初披露した。「いつかのミュージック 聴こえた気がして つかまえたいよ この手の中に」というフレーズから始まる、シンプルな構成ながら胸に沁みるメロディのこの曲。まだタイトルもなく未完成とのことだが2人とも気に入っており、いずれきちんとレコーディングしたいと話していた。

この日最後の曲は「Rollin' Rollin'」。オリジナルバージョンのメロウなトラックにさらに渋谷がピアノを重ね、この日限りの豪華なアレンジで披露された。ラップパートが終わったところで旅人はトラックの音を消し、後半はゆったりとしたピアノにあわせて優しくも力強く熱唱。その歌声は倒壊した家屋や砂まみれの瓦礫が残る海辺の風景に響き渡った。

ライブ終了後はセブン-イレブンいわき豊間店の店長が「この出会い、絆をますます深くして、復興のエネルギーにしていきたい」と挨拶。「行政はなかなか対応してくれないけど、地域の絆は1分ごとに切れている状態。子供たちは自分の小学校で勉強できずに他地区まで通っていて、親たちもそれに疲れてしまいどんどん転校していく。でも、この町には室町時代から歴史がある。昔ながらの文化を守りながら新しい文化を発展させていきたいので、何度もここを訪れて力をください」と豊間地区の現状を話した。その後ツアー参加者はこのイベントを通して感じたさまざまな思いを胸に、再びバスに乗って東京へ帰っていった。

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