これが今のオレンジスパイニクラブ|ミニアルバム「ナイフ」から見えた4人のリアル

オレンジスパイニクラブが9月10日に4thミニアルバム「ナイフ」をリリースした。

これまでの作品とは異なり、テーマを決めることなく「今、曲にしたいことを曲にする」という意識のもと作られていったという「ナイフ」。初回限定盤に前身バンド・The ドーテーズ時代の楽曲を7曲収めた特典CD「夏服」が付属したり、10代を思い出したときのセンチメンタルな感情を詰め込んだ楽曲「ネクター」が収録されていたりと、過去との対比でより強く“今”が浮き彫りになっている。

音楽ナタリーではメンバー4人にインタビューし、「ナイフ」の制作を通じて見えた、オレンジスパイニクラブの“今”について話を聞いた。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 後藤壮太郎

迷いがなくなってきた

──4thミニアルバム「ナイフ」、無駄な装飾のない直接的なバンドサウンドが魅力的であると同時に、実年齢や心の中にあるものも含めて、今のオレンジスパイニクラブの姿がとてもストレートに伝わってくる作品だと感じました。作り出すにあたり考えていたのはどんなことですか?

スズキナオト(G, Cho) 今回は、事前に考えていたことが特になかったんですよね。1作前のミニアルバム「生活なんて」の場合は、パンクロックやロックンロールのような、僕らのルーツにあるものを前面に出そうという話をしたし、その前の「Crop」というアルバムは、キャッチーな部分も含めて僕らのいろいろな表情を見せようという話をしていたんですけど、今回はそういうテーマを決めることなく、できるだけリアルタイムで「曲にしたいこと」を曲にする、という意識で進んでいって。裏を返せば、「リアルタイム」というのが今回のテーマと言えるのかもしれないです。

オレンジスパイニクラブ

オレンジスパイニクラブ

──なるほど。では完成した作品を改めて振り返ったとき、この「ナイフ」という作品にどんなことを感じるか、お一人ずつ教えてください。

ナオト よりバンドらしい作品になったと思いますね。サウンドも隙間がある音を目指したし、いつも以上にセッション感も強かったし、初期衝動も感じるし、「これが今のオレンジスパイニクラブなんだな」と思う作品です。

スズキユウスケ(Vo, G) 全曲がライブで生きる作品になったと思います。前作からライブにピントを合わせることは意識していたんですけど、今回は本気で「生で聴いてほしい」と思える曲が7曲集まった感じがします。そういう選択を4人でできたのは大きいかな。

ゆっきー(B, Cho) オレスパって、本来は根底に「力の抜けた音楽」という部分があると思うんです。ピーズがルーツだったりするし。でもそのわりに、今まではどちらかというと肩に力が入った状態でアルバムを作ってきたと思うんですよね。経験や年齢が追いついてきて、やっと力の入れ具合を自分たちで調整できるようになってきたと思います。今回は、ちょっとチープで、だけどガチャガチャもしていて、ごっついロックバンドとは違うけど、ガレージ感がある……そんな、オレスパにとってちょうどいい温度感のアルバムができたと思います。

ゆりと(Dr) ゆっきーが言ったように、楽器隊の演奏はラフだけど、その反面、歌詞の存在感はすごく強い。そのギャップが僕は好きですね。「パートナー・イン・クライム」なんて、歌詞に演奏が食われちゃっているくらいの曲だと思うんです。全曲、そんな歌詞と演奏のバランスがすごくいいなと僕は思います。

──それだけ、オレンジスパイニクラブの音楽にとって歌詞は重要なファクターであるということですよね。

ゆりと ものすごくそう思います。デモの段階では「ラララ~」っていう仮歌が乗った状態なんですけど、そこに歌詞が乗ったときに「めっちゃいいじゃん!」という新鮮な感動が毎回ある。それがこのバンドのすごさだと思いますね。

──ゆっきーさんがおっしゃったオレンジスパイニクラブ特有の「力が抜けた感覚」というのは聴き手としてもすごく感じるんですけど、皆さんにとってそれが心地いい理由はなんだと思いますか?

ゆっきー メンバーの人間性がそういうタイプなんだと思います。みんな熱いタイプの人間じゃなかったり、ちょっと薄情だったり。そういうメンバーの「人間らしさ」が、今回はちゃんと音に出たと思うんですよね。僕らは嘘をついてゴツいロックバンドをやりたいわけではないので。

ナオト そうだね。人間性がにじみ出ているんだと思う。無理してゴツくしたいとも、無理に音を重ねてキラキラにしたいとも思わないし。

──「どんな音を鳴らすか?」ということを考えるとき、やはり「今の時代はどんな音が主流なのか?」ということを意識したり、そこへの距離感なども考えながら、自分たちの音を探っていくものだと思うんです。今回これだけ剥き出しなバンドの音を世の中に向けて鳴らすことができたのは、なぜだと思いますか?

ナオト 自信が出てきた、というのは一番大きいと思います。「オレンジスパイニクラブの音」ってあるなと、最近すごく思っていて。それを余計な飾りをせず、肩の力を抜いて出すことに迷いがなくなってきたんだと思います。

ユウスケ 今までいろいろなことを試してきて、「これは違うな」とか「これはいいな」とか感じてきたんですけど、そのうえで板についたサウンドを鳴らすことができているっていうのは、今回感じましたね。たくさん曲を作ってきて、ライブの場数も踏んできて、自分たちに合う音楽を見つけることができたのは大きいと思う。

不安を原動力に

──今回、前身バンドであるTheドーテーズ時代の楽曲を再録して収録した作品集「夏服」が初回限定盤に付属しますけど、これもタイミング的には「今だな」と?

ナオト そうですね。ライブではThe ドーテーズの頃の曲もやっているんですけど、「音源で聴きたい」というお客さんの熱も感じていたし、毎年やっている周年ライブで聴きたい曲を募集しても、The ドーテーズの曲は上位に入るんですよ。それもあって、「The ドーテーズ時代の曲も改めて形にしたいよね」という話はずっとしていて。今年はユウスケが30歳になる節目でもあるし、出すなら今のタイミングが一番いいんじゃないかって。

スズキナオト(G, Cho)

スズキナオト(G, Cho)

──一番年上のユウスケさんが今年30代に入ったことで、バンド全体としても「30代」という年齢は意識すると思うし、私生活でもご結婚があったり、皆さんの実生活もどんどん変化していると思います。その中で「バンドをやっている」ということを、皆さんはどのように捉えていますか? なぜこんなことを聞くかというと、今回のミニアルバム「ナイフ」を聴いていると、実社会における自分自身と、そんな自分の中にある心の世界、その2つを抱えながら生きているという感覚がすごくリアルに伝わってくる気がしたんです。

ナオト 僕の場合は、まさに結婚とかもあり、バンドを続けることが不安だっていう気持ちもあります。だからこそ「曲を書かなきゃ」と思う……そういう焦燥感で曲を書いていることが最近は多いんですよね。「今後、バンドを続けていけるかもわからない」っていう不安定な感覚が最近はあって。続けていくとは思うんですけど、今はその不安を原動力にしている感覚がある、というか。昔だったら「楽しいから」とか「売れたい」「評価されたい」みたいな原動力でバンドをやっていたと思うんですけど、最近はそうじゃないなと。バンドに対しての認識が「怖いもの」にもなっているというか。それが心地いい感じもあるんですけどね。

ユウスケ 怖い……それが率直に歌になっているのかなって思うような曲もありますからね。「パートナー・イン・クライム」なんてそんな感じがする。でも、どうだろう……「怖い」っていう感覚は俺はそんなにないかな。確かに昔のように「楽しいだけ」という感覚ではないけど。とにかく、今回のミニアルバムに賭けている感じはします。

──ゆっきーさんは、生活とバンドという部分では今、どんなことを感じますか?

ゆっきー ナオトが言った「怖い」という感覚もわかるし、怖くないわけではないですね。

──ゆりとさんはどうですか?

ゆりと 僕は子供がいるんですけど、家に帰ると現実に戻る感覚はありますね。今日も取材をしていただいていて、今はまさに「ミュージシャン!」って感じがするけど、家に帰った途端、急に“パパ”に戻る。ものすごく現実に引き戻されるんですよね。

ゆりと(Dr)

ゆりと(Dr)

ナオト わかるわ(笑)。

ゆりと そこで「怖さ」を感じる瞬間は確かにあります。その瞬間に「なんのためにやっているんだろう?」と思うときもあるし。でもバンドは好きでやっていることだし、音を聴けばスイッチはちゃんとまだ入る。だからまだバンドマンでいられているというか。メラメラと燃えているものは確かにあるんですよ。それは、なかなか消えない。あと最近、実家に帰ったんですけど、「バンドをやらせてもらっているんだな」って思います。僕は高校の頃からバンドをやってきましたけど、その頃から交通費を親にもらって、いわきまで通ったりしていたんです。今も「お米ちょうだい」と言えばお米を送ってもらえるし、「支えてもらっているから、今バンドをできているんだな」とアラサーになって感じるようになってきましたね。「生かしてもらっている」という感覚は、30歳が近付くにつれて感じます。