吾妻光良 & The Swinging Boppersの結成45周年イヤーを締めくくる東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)での単独公演が2026年1月11日に開催される。
1979年の結成以来、日本屈指のブルースギタリスト・吾妻光良を中心に12人編成のジャンプ&ジャイブバンドとして長年にわたり熱い支持を獲得してきたバッパーズ。その抱腹絶倒なライブは毎回超満員となり、ユーモアあふれる音楽性で大いに観客を楽しませてきた。そんなバッパーズの初となるLINE CUBE SHIBUYA公演には、彼らを敬愛してやまないEGO-WRAPPIN'がゲストとして出演する。
音楽ナタリーでは、これまで互いのライブで共演し、2024年リリースの最新アルバム「Sustainable Banquet」にも参加しているEGO-WRAPPIN'の中納良恵(Vo)、森雅樹(G)と、バッパーズの吾妻光良(Vo, G)、渡辺康蔵(A.Sax, Vo)による対談を企画。世代を超えて交流を続ける両者に、出会いや共演時のエピソード、そしてステージをともにするLINE CUBE SHIBUYA公演への意気込みなど、たっぷりと語り合ってもらった。
取材・文 / 佐野郷子撮影 / 沼田学
公演情報
CLUB QUATTRO presents 吾妻光良 & The Swinging Boppers 45th Anniversary "SPECIAL BANQUET"
2026年1月11日(日)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
OPEN 16:00 / START 17:00 ※途中休憩あり
ゲスト:EGO-WRAPPIN' / 福嶋“タンメン”岩雄 / 藤井康一 / 松竹谷清 / Leyona
バッパーズの長続きの秘訣は「理想の低さ」?
──バッパーズ初となるLINE CUBE SHIBUYA公演にEGO-WRAPPIN'がゲスト出演することが発表されました。
吾妻光良(吾妻光良 & The Swinging Boppers) 結成45周年の締めくくりに渋谷公会堂でコンサートを開催することになりまして。LINE CUBE SHIBUYAというんですね、今は。
森雅樹(EGO-WRAPPIN') しかし、45周年はすごいですね。
渡辺康蔵(吾妻光良 & The Swinging Boppers) EGO-WRAPPIN'も来年30周年なんだって?
中納良恵(EGO-WRAPPIN') はい、おかげさまで。
吾妻 我々は1979年の11月に結成して、間もなく46周年になるんですが、活動の密度が薄いですからね。年にライブが2本なんて年もあったので。
──EGO-WRAPPIN'のお二人がバッパーズの存在を知ったのはいつ、どんなきっかけだったのでしょうか?
森 2003年に僕がセレクトしたコンピレーションアルバム「ROCK A SHACKA vol.3 ~MOVE! BABY MOVE!~」で、バッパーズの「おいこら、お嬢ちゃん」を選曲させてもらったんですよ。
吾妻 おお! 我々の1983年のデビューアルバム「Swing Back With The Swinging' Boppers」と同時にリリースされた7inchシングルを選んでくださった。
──オリジナルはキャブ・キャロウェイのカリプソ調の楽曲「Que Pasa Chica」。バッパーズの記念すべき日本語歌詞曲の1作目で、最近7inchアナログが復刻されました。
森 僕も以前の再発タイミングで買ったんだと思います。
渡辺 そうだよね。だって、1983年のときは200枚くらいしかプレスしてないもん。
吾妻 ジャケットを今見ると、「誰だ?」という。まだ私の髪が長くて黒々としていた頃(笑)。
──その曲が森さんのアンテナに引っかかったのは?
森 「ROCK A SHACKA」シリーズで、僕は昔のカリプソ、ジャズ、R&Bなんかを中心にセレクトしたんですが、そうした楽曲に混ざってもバッパーズはまったく違和感がないし、カッコイイと感じたんです。
渡辺 カリプソはどのあたりから聴くようになったの?
森 カリプソはお世話になっていた大阪のスカバンドDETERMINATIONSのギタリスト、松井仁さんにいろいろ教えてもらいました。その過程でバッパーズを知って、「日本人が日本語でカリプソを歌っている! これや!」と。
吾妻 「おいこら、お嬢ちゃん」は、あくまでキャブ・キャロウェイのカバーという感覚で、あまりカリプソという音楽を意識して演奏してなかったんだけど、その後、別のカリプソの曲をレコーディングしたら、ちゃんとそれらしく聞こえてね。その理由は音程が悪いからだと気が付いた(笑)。
渡辺 カリプソは演奏がうますぎてもよくないんだよね。
吾妻 カリプソを生んだトリニダード・トバゴとか、あとはジャマイカとか、あのあたり特有のやる気のない感じというか、いい意味での下手さ加減というか。森くんがほかのカリプソと並べて我々の曲を違和感なく聴けたのはきっとそのせいですね(笑)。
森 いえいえ(笑)。技術的なことはわからないですけど、確かに南国独特のゆるいムードってありますよね。
吾妻 あんまり暑いとピッチを合わせるとかチューニングとか、どうでもよくなっちゃうんだよ(笑)。
渡辺 そういうところが俺たちのバンドの本質に近い。
吾妻 そう。理想が低い(笑)。それが長く活動できている秘訣なのかもしれない。
初共演後の居酒屋打ち上げで即興セッション
──森さんがコンピレーションを編纂した2000年代初頭、バッパーズは11年ぶりのアルバム「Squeezin' & Blowin'」(2002年)をリリースして、マイペースながらライブ活動の頻度もやや増えていった時期でした。
渡辺 そうだね。FM802主催の野外イベント「MEET THE WORLD BEAT 2002」にも出演したな。矢井田瞳さんのステージの次だったから、俺たちが出てきたら観客2万人全員がトイレタイム(笑)。
吾妻 モーゼの「十戒」の海が割れるところみたいに、さーっと客が引いて、あれは見事だった(笑)。
渡辺 EGO-WRAPPIN'と初めてライブを一緒にやったのは2010年のキネマ倶楽部だったね。
中納 年末恒例の「Midnight Dejavu」10周年のときでした。日替わりのスペシャルゲストとして清水ミチコさんや八代亜紀さんをお招きしたんですが、バッパーズさんにも出演していただいて。
森 お客さんもすごく盛り上がってくれて、めっちゃうれしかった。
渡辺 あのときの打ち上げだったっけ? よっちゃん(中納)が居酒屋で「Misty」(※サラ・ヴォーン、エラ・フィッツジェラルドらの歌唱で知られるジャズスタンダード)を歌い出したのは。
吾妻 あれは盛り上がったねー。
森 吾妻さんがギターを弾いて、よっちゃんが歌って。
吾妻 もう15年前なのか。遠くを見つめちゃうね。
渡辺 それ以降、年に1回やっている渋谷CLUB QUATTROでのライブにもEGO-WRAPPIN'のお二人には何度かゲストで登場してもらって。
森 僕がオープニングDJをしたこともありましたね。
吾妻 EGO-WRAPPIN'という面白い2人組がいると教えてくれたのは、我々が大変お世話になっているCLUB QUATTROの柿原晋さんだったと思いますね。
中納 大阪の梅田CLUB QUATTROのオープン記念のライブでもご一緒しました。
吾妻 あのときはジーン・クルーパの「Drum Boogie」を一緒に演奏したのかな。我々は一度こっちサイドに来てくれたら死んでも離さない(笑)。人材は有効活用したいから。
とにかく明るいバッパーズの現場
──何度かの共演を経て、晴れて中納さんをゲストボーカルに迎え、先ほど話題に挙がった「Misty」をレコーディングしたのは2019年のアルバム「Scheduled by the Budget」でした。
吾妻 「Misty」はいろんなシンガーが歌っているバージョンがあるんだけど、森くんがロイド・プライスという人のライブバージョンを提案してくれたんです。
森 ジャズのスタンダードナンバーやから、たくさんのカバーがあるんですけど、バッパーズでやるならこれがいいんじゃないかと。
吾妻 俺もR&Bはけっこう聴いているつもりだったんだけど、そのバージョンは知らなくて、森くんはDJをしているだけあって、よくぞ見つけてきたなと。
森 カッコイイ曲って出だしの5秒くらいでわかるじゃないですか? 後半になるにつれて歌が吠えるような感じになるのが、よっちゃんの歌とバッパーズのサウンドともマッチする気がしたんです。
吾妻 そう。アレンジが素晴らしくてほぼ完コピしましたから。また、それを楽勝で歌いこなすよっちゃんも、また素晴らしい。
中納 いえいえ。バッパーズの演奏で歌わせてもらえて光栄でしたけど、やっぱり歌と演奏の一発録りは緊張しました。
渡辺 あれを1回でキメるんだからよっちゃんはスゴいよ。
──バッパーズはライブやアルバムにゲストボーカルが参加することがたびたびありますが、その意図は?
吾妻 うちはフルバンド的なしつらえなので、ゲストを呼ぶと、伴奏している感じがして気が引き締まるんですよ。それが何より楽しい。
渡辺 ゲストが来ると、俺たちの集中力が全然違う。いつものライブでは、うっかりしてると吹き忘れたりするから(笑)。
吾妻 そう。「ちゃんとやろう」という気になる(笑)。
中納 バッパーズの現場って、とにかく明るいんですよ。皆さんでキャッキャしてはるから私も楽しくて(笑)。
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両バンドが乗り切った危機的状況