「Turkey!」特集 第1回|北澤ゆうほ(Q.I.S.)×菱川花菜 対談

日本テレビほかで放送中のテレビアニメ「Turkey!」は、タツノコプロのアニメ制作レーベル・BAKKEN RECORDが手がけるオリジナル作品。長野県一刻館高校ボウリング部に所属する女子高校生5人が戦国時代にタイムスリップするという衝撃的な内容で、昨日9月2日に第9話がオンエアされ、キャラクターたちが抱える葛藤を生々しく描いた“楽しいだけじゃ語れない”物語は佳境を迎えている。

音楽ナタリーではアニメの放送を記念し、挿入歌 / エンディングテーマ担当アーティストと主要キャラクターの声優陣を迎えた特集を計5回にわたり展開する。第1回は、一刻館高校ボウリング部が歌うオープニングテーマ「ヒャクニチソウ」を手がけ、第4話のエンディングテーマ「フラッシュバック」を担当した北澤ゆうほのソロプロジェクト・Q.I.S.と、主人公・音無麻衣を演じる菱川花菜が登場。2人には「Turkey!」という作品や音無麻衣というキャラクターの魅力、「フラッシュバック」の制作秘話やお互いの歌唱バージョンを聴いた感想をじっくりと語ってもらった。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 曽我美芽

麻衣は明るい自分でいることを“選んでいる”子

菱川花菜 北澤さんがこの「Turkey!」という作品についてどんなふうに思われたのか、ぜひお聞きしてみたいです。第一印象はどんな感じでした?

北澤ゆうほ(Q.I.S.) 最初ですか? 最初は……楽曲提供のお話をいただいたときに「ボウリング部の女子高生たちが、ひょんなことから戦国時代にタイムスリップして、ボウリングで戦うお話です」という説明を受けて、「えっと、もう一度お願いします」って感じで。

菱川 「どういうこと?」って思いますよね(笑)。

北澤 そうですね(笑)。

菱川 まずボウリングと女子高生という組み合わせだけでも新しいのに、戦国時代という要素までプラスされるので「いや、盛りすぎ!」とは私も思いました(笑)。これはアニメ業界にとんでもない爪痕を残しそうだなって。

左から北澤ゆうほ(Q.I.S.)、菱川花菜。

左から北澤ゆうほ(Q.I.S.)、菱川花菜。

北澤 もう最初から強烈な興味を抱かされましたね。しかも絵がすごくかわいくて、女の子もめっちゃ好きだろうなと思いました。菱川さんが演じられた麻衣というキャラクターは、基本的には明るいパワーでみんなを引っ張っていく子だと思うんですけど、実はいろんな葛藤を秘めているじゃないですか。楽観的ゆえの明るい性格というわけじゃなくて。

菱川 そうですね。

北澤 子供の頃の経験を踏まえて、人生の中でいろいろトライアンドエラーを繰り返しながら「こうやって明るく振る舞っていくことが自分のやり方なんだ」という結論に達したんだろうな、という感じがして。もともと「楽しければいいじゃん」というタイプだったんじゃなくて、そういう自分でいることを選んでいる強さを感じましたね。

音無麻衣。テレビアニメ「Turkey!」第4話より。

音無麻衣。テレビアニメ「Turkey!」第4話より。

菱川 うれしい。アフレコのときに音響監督さんに言われて一番「なるほどな」と思ったのが、「みんなを明るく引っ張っていくセリフが多いんですけど、本当に思ってはいないです。そう思いたいだけなんです」というもので。

北澤 うんうんうん。

菱川 最初は私も麻衣ちゃんのビジュアルやセリフの感じから、ザ・主人公の圧倒的な太陽属性でみんなを明るく引っ張っていく子、という印象を持っていたんです。でもそのディレクションをいただいたことで「あ、麻衣ってそういう子なんだ」って、もう一歩深く麻衣のことを知れた気がしてうれしかったですね。演じるのは難しかったですけど。

北澤 だって、幼い頃にボウリングのピンがレーンの奥に消えていくところを見て「みんなどこ行くの? 怖くないの? あんな暗いとこ」と言い出すような子は、絶対繊細に決まってるじゃないですか。

菱川 確かに(笑)。

“人間”がちゃんと描かれる作品

北澤 本当に要素がてんこ盛りで、展開の予想がつかない作品ですよね。気付いたら夢中にさせられていて、油断できない感じが観ていてすごく楽しいなと思います。設定だけで言ったらまったく共感の余地がないんだけど……。

菱川 そうですよね(笑)。

北澤 キャラクター1人ひとりの内面が繊細に描かれているから、いつの間にかみんなの気持ちが少しずつわかるようになっていて。その丁寧さがすごく素敵だなって思いました。

北澤ゆうほ(Q.I.S.)

北澤ゆうほ(Q.I.S.)

菱川 みんな個性がしっかりしているので、特に序盤のあたりでは“ギャル”とか“体が大きくて気弱な子”とかテンプレっぽく見えやすい面もあると思うんです。でもお話が進むにつれて、それが全部ひっくり返るくらいにみんなが泥臭くがんばるんですよね。記号的なキャラクターとしてではなく、1人の人間としてみんなのことを見てもらえたらいいなと思いますし、きっとそう見てもらえるような脚本なので、セリフのひと言ひと言に注目していただきたいです。

北澤 “人間”がちゃんと描かれているから、要素が多いわりにスッと入り込めるんですよね。

菱川 何か自分の中でダメになりそうなときに観たら「私もこれくらい、イチから全部投げ捨ててがんばりたい!」という気持ちになれる、生きる活力をもらえる作品だなって思います。

菱川花菜

菱川花菜

北澤 今、急に思い出したんですけど、私ちょうど放送が始まる直前にひさしぶりにボウリングに行ったんですよ。

菱川 そうなんですね!

北澤 私は周りが気まずくなるぐらいの運動音痴なんで(笑)、ボウリングも全然うまくはないんですけど。ただ、そのときのボールを持って「重!」と思った感触が鮮明に残っていたので、アニメの序盤で麻衣たちが野武士をやっつけるシーンを観たときに「あんなの絶対痛い!」って実感として思えたのが面白かった。

菱川 あの重いボールを、容赦なく野武士たちにぶつけますもんね(笑)。私も最近、「Turkey!」のイベントでボウリングをする機会があったんです。新宿歌舞伎町の広場に特注のレーンを作っていただいて、それの始球式みたいなのをしたんですけど、1ピンも倒せなくて(笑)。

北澤 難しいですよね。

菱川 「Turkey!」の衣装を着てたのに、ターキーどころかっていう(笑)。事前にプロボウラーの方にレクチャーしていただいたときはけっこうストライクも出せたんですけど、本番がそれだったので、もう恥ずかしくて……どうせ失敗するなら、麻衣と同じ左投げでやったほうがよかったのかもしれないです。

北澤 ああ、確かに。余計な力が抜けて意外とうまくいったかも。

菱川 ですよね(笑)。

寿桃と音無麻衣。テレビアニメ「Turkey!」第4話より。

寿桃と音無麻衣。テレビアニメ「Turkey!」第4話より。

音無麻衣。テレビアニメ「Turkey!」第4話より。

音無麻衣。テレビアニメ「Turkey!」第4話より。

髪色も似てますし

菱川 北澤さんが書いてくださった第4話のエンディング「フラッシュバック」を最初に聴いたとき、4話の麻衣にぴったりな曲だなと思ったんです。でも、以前お会いしたときに「あまりそういうことを考えずに作った」とおっしゃっていて、すごくびっくりしました。

北澤 そうですね。私の記憶が正しければ、「普通にQ.I.S.の曲として書いていただければ」というふうにご依頼いただいたので、あまりキャラクターやアニメに合わせて書き下ろすということは気にせずに作りました。と言っても、4話目のストーリーがどういうものなのかは教えていただいていましたし、制作途中の映像も見せてもらっていたので、ある程度潜在意識の中に4話の要素は入っていたとは思いますけど。

菱川 サビのまっすぐに突き抜けていく感じとかは、周りが見えなくなって一直線に突き進む麻衣の性格ともすごくリンクしているように感じました。なので、てっきり当て書きしてくださったものとばかり……。

北澤 ふふふ。最初にいただいた映像の中に過去の回想シーンがあったので、何か暗い過去やトラウマのようなものを抱えている人が主人公の歌にしようかなと思ったんです。そこを出発点にして、自分が本当に歌いたいことを歌詞にも反映させていった結果、自然とリンクしていった感じですね。

幼少期の音無麻衣。テレビアニメ「Turkey!」第4話より。

幼少期の音無麻衣。テレビアニメ「Turkey!」第4話より。

音無麻衣と五代利奈。テレビアニメ「Turkey!」第4話より。

音無麻衣と五代利奈。テレビアニメ「Turkey!」第4話より。

菱川 私は「フラッシュバックを超えて今」という歌詞がすごく好きで。この「Turkey!」という作品を通じて麻衣が成長していく過程の中で、彼女の経験したつらい過去をこのフレーズで乗り越えていける感じがしたんです。

北澤 あとから思うと、例えば「過去は痛く光るけど」とかも、そこまでストーリー全体を把握していない状態で書いたものなのに、試写を観たら「まさに麻衣のことじゃん」って(笑)。

菱川 すごーい! 偶然なんですね。

北澤 4話目が重要な回であること、“1回目の最終話”みたいな話数だというのは事前に伝えていただいていたんですね。だからオープニング(北澤が手がけた「ヒャクニチソウ」)とは対照的に、ポップで明るい感じではなく、青春ではあるんだけど、涙を拭いながら駆け抜けた先に青空があるみたいな、もがいてる感じを「フラッシュバック」では表現したいなと思って。さっき言った、麻衣の「明るい自分でいることを選んでいて、それが苦しいわけでもなく自分にウソをついているわけでもない」という姿勢には共感できたので、そこから紐解いて歌詞を作っていったところもあります。

左から北澤ゆうほ(Q.I.S.)、菱川花菜。

左から北澤ゆうほ(Q.I.S.)、菱川花菜。

菱川 北澤さんの中に、もともと麻衣と重なる部分があったんですね。

北澤 そうですね。髪色も似てますし。

菱川 確かに!(笑) ずっとその色なんですか?

北澤 そうなんですよ。しかも、ちょうど放送が始まるくらいのタイミングでは私も毛先を赤っぽくしていたので、めっちゃ一緒でした。

菱川 長さも近いですよね。めっちゃ麻衣ちゃん。かわいい……!

北澤 狙ったわけじゃないんですけどね(笑)。

菱川 ホント、北澤さんに楽曲をお願いしたスタッフの方にはもう感謝しかないです。人選が的確すぎる!

北澤 あははは。