日本テレビほかで放送中のテレビアニメ「Turkey!」。本作はタツノコプロのアニメ制作レーベル・BAKKEN RECORDが手がけるオリジナルアニメで、長野県一刻館高校ボウリング部に所属する女子高校生5人が戦国時代にタイムスリップするという衝撃的な展開でアニメファンの注目を浴びている。
音楽ナタリーではアニメの放送を記念し、挿入歌 / エンディングテーマ担当アーティストと主要キャラクターの声優陣を迎えた特集を計5回にわたって展開中。第4弾となる今回は、第7話のエンディングテーマ「Strike freedom!」を手がけたアザミと、劇中キャラクター・二階堂七瀬を演じる声優・伊藤彩沙を迎え、2人が考える「Turkey!」の魅力や、「Strike freedom!」のレコーディング時のエピソードを語ってもらった。
取材・文 / ナカニシキュウ
中心にあるのは人間のドラマなんです
アザミ 今回、第7話のエンディングテーマ「Strike freedom!」を作るにあたって、事前にアニメのシナリオをすべて読ませていただいたんですけど、まず序盤のつかみにびっくりしました。青春ボウリングアニメかと思いきや、いきなり戦国時代へタイムスリップするというまさかの幕開けで。
伊藤彩沙 びっくりしますよね(笑)。たぶんキャストのみんなは最初からそういうお話だという前提でオーディションに臨んだと思うので、私はタイムスリップ自体への驚きはそんなになかったです。むしろ、放送までタイムスリップのことを黙ってなきゃいけないことのほうが驚きでした。
アザミ なるほど(笑)。でも、その後の展開ですごく丁寧にいろいろ回収されていくので、ただ興味を引くためだけのつかみじゃないんだなというのはすごく感じました。
伊藤 本当にそうですよね。毎週毎週あっと驚くような仕掛けがあって、それぞれのキャラクターが抱えている葛藤を深掘りするんですよね。一見するとインパクト頼りの作品っぽく見えるんだけど、中心にあるのは人間のドラマなんです。そこのバランスが「Turkey!」ならではですよね。
アザミ その中で伊藤さんの演じられた二階堂七瀬というキャラクターは、あの5人の女子高生たちの中では一番共感しやすかったです。もし同じ状況になったら、自分もこの子に近い考えを持つだろうなという感じがしたので。
伊藤 おおおー! そうなんですね!
アザミ 例えば過去の世界で歴史を改変しないように“空気”であろうとするじゃないですか。自分もけっこう臆病なタイプで、石橋を叩き割ってきた人間なので……。
伊藤 叩いて渡るんじゃなくて、叩き割ってきたんですね(笑)。
アザミ 渡れないっていう(笑)。そういう慎重なところや、理論的な整合性を重んじるところはすごく自分に似てると思いました。
伊藤 カッコいい……私はめちゃくちゃ感情型のタイプなので、憧れちゃいます。七瀬はコミカルなシーンが多いし、キャラデザも相まって、オーディションの段階では「不思議で面白い子なのかな?」という印象だったんですね。タイムスリップ後はみんなを導いていく役割も担い始めるので、真面目でしっかり者の一面も見せてくれる……でもアフレコが進んでいくにつれて、「彼女の本心はどこにあるんだろう?」と思うことが増えていって。
アザミ うんうんうん。飄々としているがゆえに本心が見えづらいところはありますよね。
伊藤 それが第7話で夏夢さんと出会うことによって、七瀬が本当に抱えていたものが表に出てくる。「いい子でいなければいけない」という思いが強くて、そのために我慢しているものがあったんだなということがわかる回なんですよね。
アザミ それまではわりと博士ポジションというか、みんなの保護者的な役割をずっとしてきた子が、初めて感情をあらわにする回で。両親との確執を抱えていたことが明らかになりますけど、それはやっぱり夏夢さんというお姉さんっぽいキャラクターによって紐解かれていったものですよね。結局、七瀬さんもまだ子供なので、彼女が子供のままでいられる唯一の相手が夏夢さんだったのかな、と思いました。
伊藤 その関係性はアフレコ現場でもそうでした。6話まではボウリング部のメンバーとのやりとりがほとんどだった中で、7話で初めて佐久間レイさん演じる夏夢さんとの1対1のお芝居があって。私も飛び込んでいくような気持ちで臨みましたし、佐久間さんにも体当たりで受け止めていただいて、演じていて本当に心がほぐれていくような感覚がありました。
キーポイントは上総掘りかなと
伊藤 7話のラストに流れるアザミさんの楽曲が、本当に七瀬の心情を歌ってくれていて。より素敵な内容になったなと思います。
アザミ ありがとうございます! 発想の取っかかりとしては、7話のエンディングテーマということだったので、キーポイントは上総掘り(人力で井戸を掘削する工法)かなと思って……。
伊藤 えええー! そこなんだ!
アザミ なので上総掘りの映像をめちゃくちゃ観ました(笑)。この技術に詳しい女子高生ってすごいインテリだなあと思いながら。
伊藤 確かに(笑)。
アザミ あと、主人公の麻衣さんはわりと天真爛漫なキャラクターで、「そういう仲間に振り回されることが救いだった」みたいな描写がアニメの中にけっこうあったので、その感覚は絶対に入れたいなと思って作っていきました。
伊藤 聴かせていただいた瞬間に「七瀬の魂の叫びだ!」と感じて、めちゃくちゃ感動したんですよ。彼女が叫びたくても叫べなかった心の声が歌として形になっている!と思って。ずっと連続で聴き続けちゃいました。
アザミ (恐縮した様子でぺこりと頭を下げる)
伊藤 やっぱりサビの力強いメロディが素晴らしいですし……あ! 上総掘りがキーポイントだったってことは、サビの「地上の奥の奥のその奥の」という歌詞はそういうことですか!
アザミ そういうことです(笑)。温泉を掘って自由を手に入れよう、という。
伊藤 すごい……! 七瀬の心情だけじゃなく、7話のすべてが表現されている。サビ以外も、もう全部のフレーズが「これってあれのことか」と思わせてくれますよね。
アザミ サビはけっこうすぐできちゃって。作品自体もボウリングという一貫したモチーフを描いているので、ボウリング用語集を見ながら書きました。作詞はそんなに大変じゃなかったイメージです。それでいて自分で歌う曲でもあるので、自分の言葉としてウソにならないようなバランスには気を使いました。今回本当に運がよかったのは、七瀬さんと自分にそんなに乖離がなかったことですね。わりと自然に書けたかなと思います。
大きな挑戦状がやって来たぞ
アザミ 確か、曲を作り終えてから「これを伊藤さんもカバーされます」と伺ったんですよ。最初から人に歌っていただくことを想定する場合はその方の音域や雰囲気などを一応考えるんですよ。例えばアイドルっぽい方に提供する場合は、めちゃくちゃかわいい歌詞を書いたり(笑)。
伊藤 わあー、そうなんですね。
アザミ この曲では一切そういうことを考慮していなかったので、ごめんなさいという気持ちです(笑)。音域もけっこう広いですし、歌うのしんどくなかったかなと思って。
伊藤 確かにエネルギーをすごく感じる楽曲だから、いつものレコーディングよりもグッと入り込む集中力が必要だったかもしれないです。
アザミ 歌声も普段の七瀬さんとはちょっと違って、エッジの利いたロックな声で歌っていただいていたので、非常にうれしかったです。ちょっと歪んだギターのような声で。
伊藤 うれしい! 最初にアザミさんのデモ音源を聴かせていただいたときに、魂のこもった歌声に心が震えまして。強さと繊細さの両方がとっても素敵だなと感じたので、七瀬として歌うときもアザミさんの表現に重ねていくような感覚でしたね。
アザミ このカバー企画は「ボウリング部のみんなでカラオケをしている」というコンセプトなんですよね? 七瀬さんみたいな真面目なタイプの子がカラオケでこういう曲をこんな感じで歌ってくれたら、好きになっちゃう(笑)。「意外とこういう曲聴くんだ?」みたいなギャップがあっていいなと思いました。
伊藤 そうでしたね、テーマはカラオケで。七瀬はムードメーカーだから、そういう場で照れずにちゃんと熱唱してくれそうだなと思ったので、ちょっと調子に乗っている感じが出てるかもしれない(笑)。みんなを楽しませてくれるタイプの子ではあると思うので。
アザミ 七瀬さんが両手でマイクを持ってノリノリで歌っている感じが、音だけでも伝わってきて。なんか、めっちゃマイナーなインディーズバンドの曲とか歌ってくれそうですよね。ヴィレッジヴァンガードとか好きそう。
伊藤 確かに!(笑) 持ってるアイテムも独特なカエルのグッズとかで、サブカルチャーっぽいものが好きそうなところありますし。
アザミ 一緒にカラオケ行ったら楽しそうだなって思いました。
伊藤 あははは、うれしい(笑)。あと、カラオケってパートで分けずにつるっと通して歌うものだから、その流れをより意識したかもしれません。一発で歌っているようなリアルさは重視していた気がしますね。キレイに歌いすぎないように、泥臭くいこうという気持ちで臨みました。
アザミ つるっと歌う場合だと、一番しんどいタイミングで一番しんどい「潜っていけその先へ」のロングトーンが来ますよね(笑)。あそことか、それこそ普通の提供曲だったら絶対に使わない音域なんですけど。
伊藤 へえー、そうなんだ! 確かにあの部分は大解放!という感じで、今までに歌ってきたアニソンやキャラソンではここまでのものはなかった気がします。キーもそうですし、力強さなども含めて……そういえば、デモを受け取ったときに「大きな挑戦状がやって来たぞ」みたいな感覚があったのを今思い出しました(笑)。
アザミ 挑戦状(笑)。
伊藤 絶対に七瀬として歌いきりたい!と思って、めちゃくちゃ気合を入れて練習していった記憶がありますね。
アザミ 私の場合は自宅で歌を録るので、エディットも自分でするからいくらでもチート技が使えちゃうんですね(笑)。難しいパートは1音ずつ分けて録ったりとか。でも伊藤さんはカラオケ感を残しながらあのロングトーンをしっかりキレイに出されているので、本当にすごいと思います。この曲を歌っていただけるのが伊藤さんでよかった。
伊藤 いやいやいや、こちらこそチャレンジできてよかったです。
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伊藤さんに歌っていただけて本当によかった