日本テレビほかで放送中のテレビアニメ「Turkey!」。本作はタツノコプロのアニメ制作レーベル・BAKKEN RECORDが手がけるオリジナルアニメで、長野県一刻館高校ボウリング部に所属する女子高校生5人が戦国時代にタイムスリップするという衝撃的な展開でアニメファンの注目を浴びている。
音楽ナタリーではアニメの放送を記念し、挿入歌 / エンディングテーマ担当アーティストと主要キャラクターの声優陣を迎えた特集を計5回にわたって展開中。第2弾となる今回は、第5話の挿入歌「幾星霜」を手がけたZAQと、劇中キャラクター・三鷹希を演じ、かねてからZAQの大ファンだったという声優・天麻ゆうきを迎える。「Turkey!」の一見突拍子もない設定の裏で丁寧に描かれる人間模様や、希というキャラクターの魅力、「幾星霜」を歌唱するうえでこだわったポイントについてじっくりと語ってもらった。
取材・文 / ナカニシキュウ
衝撃の出会い「え、今?」
ZAQ 天麻さんとはこの「幾星霜」のレコーディングで初めてお会いしましたけど、その出会いが衝撃的すぎて。
天麻ゆうき (笑)。
ZAQ 歌録りが終わって天麻さんが先に帰られる感じになって、まさに部屋を出て行こうとするその瞬間に突然「ずっとファンでした!」と言ってくださって、「え、今?」みたいな(笑)。
天麻 お恥ずかしいです(笑)。ZAQさんのことは学生の頃から本当にずっと好きなんですけど、現場であまりそういうことを言っちゃいけないような気がしていたので、すべて終わったタイミングでお伝えして。もう本当に最後の最後。
ZAQ あまりにも去り際すぎて。今までにもお会いした方にそういうふうに言っていただく機会はあったんですけど、歴代で最も反射速度が遅かった(笑)。しかも「じゃあ一緒に写真でも撮りましょう」ということになったとき、天麻さんのスマホケースになぜか土偶のステッカーが貼ってあって。それがめちゃくちゃ面白くて、変わった人なのかな?という印象でした。
天麻 まさか土偶ステッカーにそんなに食い付いてくださるとは思わなかったので、貼っておいてよかったです(笑)。そもそも私、あの日にZAQさんがいらっしゃることを知らなかったんですよ。
ZAQ あ、そうだったんだ。
天麻 しかもディレクションまでしていただけるということで、急なことでいっぱいいっぱいになっていたんですけど、すごく気さくに話しかけてくださって。フランクで優しい方だなと思って、ホッとしました。
ZAQ 周りからはよくツンデレならぬ“ヒョウデレ”と言われます。ひょうきん×デレデレって意味なんですけど。人前ではひょうきんなのに、2人きりになるとなんかモジモジしちゃうタイプなんですよ。
天麻 へえー、素敵な表現ですね。
最初は気持ちが置いていかれちゃって
ZAQ そんな天麻さんに負けず劣らず、この「Turkey!」というアニメ作品も相当変わってますよね。まず「ボウリング×戦国時代」という題材だけでもめちゃくちゃ面白くて、第1話を観た段階では「なんで? なんで?」とハテナマークしか浮かんでこない(笑)。
天麻 私も、最初にシナリオを読んだのがもう3年前とかなんですけど……。
ZAQ え! そんな前なんだ!
天麻 そうなんです。オーディションのときに「どんなシナリオなのかな」って読んだとき、最初は気持ちが置いていかれちゃって(笑)。でも読み進めていくと、突拍子もない設定とは裏腹に、意外と身近な悩みや葛藤が描かれていくんですよね。それをボウリングや戦国時代といった要素と合体させてしまう、スタッフの皆さんの力量が本当にすごいなと感じました。
ZAQ インパクト勝負の作品なのかと思いきや、2話以降はシンプルに人間関係を描くドラマになっていくという。それこそ第5話の、天麻さん演じる希にスポットを当てる回もそうですけど。
天麻 そうですね。4話目までは「現代から戦国時代へタイムスリップした5人がどうなっていくのか」というお話だったんですけど、この回からキャラクター1人ひとりを深掘りしていく流れになっていて。それまでの希はちょっとやる気のない、めんどくさがり屋で周りと衝突しがちな今どきの女の子、という感じだったのが、庵珠との交流や危機的状況などを経て、今まで見せていなかった面を見せ始める。
ZAQ 希の内面にフォーカスした回ですよね。それをこじ開けたのが庵珠ちゃん、っていうのがすごくいいなと思いました。しかも2人をつないだのがグミの実っていう、過去と現代で「グミ」の意味が違うっていうレトリックもよかったですし。お互いに素直になれない2人がちゃんと気持ちと気持ちをぶつけ合えるようになるまでの、自分の心に素直に向き合うお話って感じですよね。
天麻 この回あたりから、どんどん「世界観の設定よりも心を描く作品なんだ」ということがわかってくると思いますね。
ZAQ 確かに。希は一見ギャルい印象ですけど、あの5人の中では一番シンプルに思ったことをそのまま口に出せる、嫌なことは嫌とハッキリ言える子ですよね。視聴者の目線に一番近いキャラクターというか、私たちが観ていて「いや、それ無理あるでしょ」とツッコみたくなるタイミングで必ず希が「無理あるでしょ」と言ってくれるみたいな(笑)。
天麻 ホントそうですよね(笑)。一番現実を見ているタイプではありますね。
ZAQ ケータイの充電残量をずっと気にしてるしね。庵珠に充電を減らされてめっちゃキレたりしていて、「キレるとこ、ちっちゃ!」みたいな(笑)。実際に私たちが過去へ行ったらそうなるだろうなあと思わせてくれる、リアルな今どきの子って感じ。
天麻 JKっぽい。最初に設定資料を見たときは、「自信家で高飛車で、“かわいすぎるボウリング部員”としてボウリングをやっている」と書かれていたので、私とは正反対かもと思ったんです。
ZAQ 正反対なんだ?
天麻 はい。だからどんなふうに演じていこうかなと最初は迷った部分もあったんですけど、内面に抱えている悩みや葛藤は私と変わらないんだなと気付いてからは、一気に身近な存在になりました。流されるのが楽だから周りに合わせてきたけど、実は「本当の私はこう」というものをちゃんと持っていて、芯の部分はとてもピュアで素直な子なんです。派手な見た目の一方で、陽キャではない私のような人間でも共感できる部分があるのがすごく魅力だなって思います。
ZAQ 絶対オタクに優しいしね。
天麻 そうですね(笑)。脚本の蛭田(直美)さんもおっしゃっていました。「スクールカースト上位だけど、分け隔てなくみんなに優しいのが希だと思います」って。
ZAQ そうそう。誰に対してもズバズバ言いそうだもんね。一番友達が多いタイプだと思います。そんなふうにフラットでピュアな子だからこそ、庵珠とも通じ合えたんでしょうし。
天麻 確かに! そうかもしれないです。
チャキチャキのキャピキャピで行きそう
天麻 5話のラストでZAQさんの歌声が流れてくる完成映像を観たとき、曲が入るとこんなに広がるんだ!とびっくりしました。歌詞もすごく内容とリンクしてるし、シーンが盛り上がってくるところでちょうど曲も一番気持ちいいところに……。
ZAQ 「とーきーをーこーえてー」と(笑)。
天麻 あははは。より心をグッとつかまれるシーンになっていたので、こんなに変わるんだ?と思って。
ZAQ 今回は画に合わせて曲を作っていくという、いわゆるフィルムスコアリングで挿入歌を制作させていただいたんですよ。私、それが大好きで。音ハメというか、セリフのタイミングを見計らって歌を入れたり、画の動きを考慮してメロディラインを当てはめたりするようなことがすごく好きなので、「これができるなんてうれしい!」という気持ちでやらせていただきました。
天麻 へええー……!
ZAQ 歌詞についてはやっぱり希と庵珠の掛け合いからインスピレーションを受けて、「ここも未来も同じ月が見えるんだよ」という希のセリフから「星」や「月」という言葉を入れていこうという感じで作っていきました。
天麻 私、ZAQさんの楽曲というと激しくて複雑なイメージが強かったんですが……。
ZAQ そうですよね(笑)。
天麻 「幾星霜」はバラード曲だったので、すごく新鮮な気持ちで聴かせていただきました。
ZAQ それは私も思ったんですよ! 希というキャラクターにZAQを掛け合わせると考えたら、なんかチャキチャキのキャピキャピでいきそうな感じがするじゃないですか(笑)。でも今回リファレンスとしていただいたのが、ピアノのリフから静かに始まって徐々に盛り上がっていく感じの曲だったので、私も作りとしてはそれを踏襲する形にさせてもらって。
天麻 そうだったんですね。
ZAQ これまでにアニメ関連の曲は100曲近く書いてきていますけど、その中でバラードって……たぶん3曲あるかどうかくらい。めちゃくちゃレアです(笑)。
天麻 100曲! それがまずすごいです……! 私、「幾星霜」の中にすごく好きなフレーズがあって。「奇跡的な出会いがあるなら 運命的な別れもあるのだろう」のところがもう……(無言で手ハートを作る)。
ZAQ わはははは! 記者さんが文字にしづらいやつ(笑)。
天麻 ごめんなさい(笑)。ここがもう希と庵珠にぴったりで、この部分だけを聴いても情景が浮かびます。本当に素晴らしいです。大好きです。
ZAQ ありがとうございます。ここに関しては、ポジティブにもネガティブにも捉えられるようにというか……先のことは2人にもわからないけど、それが悲しいことなのか希望なのか、断定的ではない印象にしたかったというのはありますね。「いいか悪いかはさておき、時を超えてまたどこかで会えたらいいね」というような感じです。
天麻 なるほど……!
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音楽的な“正解”と、物語としての“正解”