結成10周年を迎えたズーカラデルがニューアルバム「ポイントネモ」をリリースした。
陸地から最も遠く、人工衛星の墓場とも言われる場所を表す言葉「ポイント・ネモ」。結成10周年というおめでたいタイミングにもかかわらず、ズーカラデルのニューアルバムにはそんなネガティブなイメージを内包した言葉が冠されており、ソングライター・吉田崇展の内なる感情が、時にポップに、時にヘビーに鳴らされている。本作の発売を機に、音楽ナタリーはズーカラデルの3人にインタビュー。10周年を迎えた今の心境や「ポイントネモ」に込めた思いを語ってもらった。
取材・文 / 森朋之撮影 / 苅田恒紀
10年続いたのはえらいもんだな
──今年の8月31日はズーカラデルの結成10周年記念日です。この10年間は皆さんにとってどのような時間でしたか?
吉田崇展(G, Vo) 10年前にズーカラデルというバンドを始めて、「ずっと想像してきたことが起きているな」と思えたんですよね。人がいるライブハウスで演奏して、曲をリリースしたら、それを音楽プレイヤーで聴いてくれる人がいる。そういう光景に憧れて音楽を始めたんですけど、それが10年続いたのはえらいもんだなと。
──ズーカラデルを結成してから本当の音楽人生が始まった?
吉田 暗闇から抜け出したというか(笑)。ズーカラデルを始めてから少しずつ世界がカラフルになっていったような感覚がありますね。
山岸りょう(Dr) この10年、本当にあっという間でしたね。振り返ればいろいろあったけど、いろんな方に「10周年だね」と言われて、初めて10年経ったことに気付くような感じで。「節目だし、こういうことやってみない?」とスタッフの方に提案してもらったり、ファンの皆さんからいろんな反響をいただいたりして、逆輸入的に実感しています(笑)。
──関わってくれるスタッフやリスナーの人たちがいないと10年は続けられないですからね。
山岸 いや、それでもやってたかもしれないですけど(笑)。
吉田 ハハハハ。
鷲見こうた(B) 僕は途中から加入したので、ズーカラデルでの活動は8年目に入ったところなんですよ。ズーカラデルの前にやっていたバンドが志半ばで解散してしまって、音楽で食べていく未来があまり見えなくて。バンドは続けたいけど、仕事をしながら……というタイミングで声をかけてもらったんです。すごくいいバンドだし、すぐにやりたいと思って加入したけど、どんなにいい音楽をやっていてもうまくいかないバンドもいるし、10年という歴史を刻めるのはすごいなと思います。一生懸命音楽を作り続けてきたし、いろんな巡り合わせがあって、今こうやって東京のど真ん中で取材を受けていて。
吉田 壁一面窓の部屋でね(笑)。
鷲見 こんな未来が来るなんて、加入したときはまったく想像できてなかったです。作品を作って、ライブをやってを繰り返して10年も経ったのかと。山岸が言ったように、周りの方々に祝ってもらって実感している感じです。
──ライブに人が集まったり、聴いてくれる人が増えたりしたことは、生み出す楽曲にも影響を及ぼしていますか?
吉田 そこは現在進行形で変わり続けています。リスナーの存在を意識して作りたいものが変化しているなと思った時期もあったし、逆に「もっと自分自身に引き寄せたほうがいい」と思うタイミングもあって。それはそのときによって違うけど、どちらにせよ聴いてくれる人が増えたというのはすごく大きいですね。
今自分は歌をちゃんと作りたいんだ
──ここからはアルバム「ポイントネモ」についてじっくり聞かせていただきます。タイトルになっている“ポイント・ネモ”は、大西洋にある、陸地から最も離れた場所のことだとか。人工衛星を落下させる場所に最も適していることから「人工衛星の墓場」とも呼ばれる……って、孤独を表すのにこんなぴったりの言葉はないと思うんですが。
吉田 (笑)。ポイント・ネモという言葉は、ほかの言葉について検索しているときにたまたま出てきたんですけど、単語の意味が腑に落ちたというか、すごく身近に感じて。
──リスナーが増えて、ズーカラデルを応援している方が増えても、この言葉がフィットするんですね。
吉田 そうですね。皆さんがライブに来てくれて、そこで自分たちが音を鳴らして、「この瞬間、最高だな」と思ったり、共鳴してくれているのを感じたりすることはあるけど、お客さんと自分が本質的にシンクロしているとはやっぱり思えなくて。お客さん同士もそうだけど、みんな別々の人間だし、「俺たちファミリーだよな」みたいな感覚はないですね。
──“ひとつになろう感“もない。
吉田 ないですね。みんなバラバラで、でも、楽しくやれている。そのほうが居心地がいいなと。
──山岸さんと鷲見さんはこのタイトルをどのように捉えていますか?
山岸 僕もこの言葉を知らなかったけど、意味を聞いてしっくりきました。曲やアルバム全体の雰囲気をうまくパッケージできているなと思ったし、最後のピースがガチャンとハマった感覚がありましたね。
鷲見 まず言葉の響きがカッコいいなと思って、意味を知ってなおさら「いいな」と。もしかしたらネガティブに捉えられるかもしれないけど、ロマンがある言葉だとも思っていて。人工衛星って、人類が築き上げた文明の中でもかなり高度なものだと思うんですよね。それを落とすということは、その場所は宇宙開発の一翼を担っているということでもある。しかも、ポイント・ネモは「人の足跡が最も少ない場所」とも言われていて、それもカッコいいなと。
──「ポイントネモ」は楽曲自体も素晴らしいですよね。どんなに大事な人、好きな人でも、すべてをわかり合えることはないし、ずっと同じ場所にいられるわけではない……ということがじんわり伝わってきました。アルバムのタイトルを決めてから書いた曲なんですか?
吉田 いや、実は曲自体は前からあって。タイトルがなかなか決まらなかったんですよ。いくつか候補はあったけど、今ひとつピンとこなくて。自分でも気に入っていた曲だし、実りのある名前を付けてあげたかったんです。その後、アルバムのタイトルを決めて、「これをあの曲の題名にしよう」と。
──それくらい手応えがあったし、結果的にアルバムの軸にもなったと。
吉田 そうですね。曲の原型を作ったのは今年の頭ぐらいだったんですけど、ひと晩でワンコーラスできたんです。そのときに「いい歌ができたな」という実感があったし、「そうか、今自分は歌をちゃんと作りたいんだな」と思って。それがこのアルバムにつながる1つのポイントだったと思います。
山岸 アレンジはかなり迷ったし、「どんな楽器をどこまで入れるか?」みたいなことを時間をかけて考えていたんですけど、できあがったときに「この曲が一番輝いてるな」という印象があって。「ポイントネモ」という楽曲ができたことで、アルバムの方向性が決定付けられたような感覚がありました。
鷲見 デモ音源を吉田が持ってきて、ワンコーラス分を1日で作ったんですけど、その時点でめちゃくちゃよくて。「すぐにでも完成させてリリースすべき曲だな」と思ったし、アルバムの顔になる曲だという感触がありました。ズーカラデルのいいところが出ているし、バンドにとって大事な曲になると思います。
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まだ誰にも指摘されていない素晴らしさ