日本テレビほかで放送中のテレビアニメ「Turkey!」。本作はタツノコプロのアニメ制作レーベル・BAKKEN RECORDが手がけるオリジナルアニメで、長野県一刻館高校ボウリング部に所属する女子高校生5人が戦国時代にタイムスリップするという衝撃的な展開でアニメファンの注目を浴びている。
音楽ナタリーではアニメの放送を記念し、挿入歌 / エンディングテーマ担当アーティストと主要キャラクターの声優陣を迎えた特集を計5回にわたって展開している。最終回となる今回は、第9話のエンディングテーマ「夏の住処」を手がけたやなぎなぎと、五代利奈を演じる声優・市ノ瀬加那が登場。スケジュールの都合上、2人の対談は叶わなかったため、やなぎはリモート形式、市ノ瀬はメールにてインタビューを行い、「Turkey!」や「夏の住処」の魅力についてそれぞれ答えてもらった。
取材・文 / ナカニシキュウ
こんなにまとまるものなんだ?
──やなぎさんは今回「Turkey!」第9話のエンディングテーマ「夏の住処」を手がけられましたが、このアニメの第一印象はどんなものでしたか?
いわゆる部活動ものなのかと思いきや、まさかの戦国時代へタイムスリップするというトンデモ展開から始まるので(笑)、最初にシナリオをいただいたときは「どういうことなんだ?」と思いましたね。
──ですよね(笑)。でも、そこからストーリーはどんどん多面的な魅力を見せ始めます。
最初は本当にどういうお話になっていくのかまったく想像がつかなかったんですけど、想像以上に戦国時代と現代とが美しく絡んでいくことに驚きました。ボウリングというものが存在しない時代へ行くことで、逆にボウリングという競技の意義が浮き彫りになったり、序盤で出てくる「みんなで一緒に帰ろう」というセリフがのちのち大きな意味を帯びてきたり……要素の多い設定なのに「こんなにまとまるものなんだ?」と、すごくびっくりしました。
──要するに、ずっと驚き続けられる作品ということですよね。
そうですね、はい(笑)。
──そんな作品のエンディングテーマを作るにあたって、まずどういう形でオファーがあったんでしょうか。
9話目のエンディングテーマになるというお話と……同時だったかどうかはちょっと記憶が定かではないんですけど、わりと早い段階で「9話でメインになる利奈ちゃんも歌うことになります」ということは伺っていたと思います。
──ということは、作曲段階からご自身のみならず市ノ瀬加那さんも歌うことを想定されていた?
がっつり意識したというほどでもないですけど、頭の片隅にはちゃんと置いていたと思います。とはいえ、かなり“私成分”多めというか(笑)、けっこう好きなように作らせてはもらいましたね。
──実際の作曲作業としては、どういうところを取っかかりにして始めた感じですか?
今回はかなり早い段階で映像をいただいていたので、当て書きのような形で書くことができたのがありがたかったです。音に情景を込めやすかったと言いますか、「このタイミングでピークを持ってきて、エンディングに入る瞬間に少し落ちサビ展開に持ってきて、ここでまた盛り上げて……」というふうに流れがすごくイメージしやすくて。いただいた映像にはすでに声優さんたちのお芝居のお声も入っていたので、そのセリフにも影響されたりしながら、自分らしい曲ではありつつも作品に寄り添う音作りができたな、という感じですね。
──実際に聴かせていただいた印象としても、イントロの入り方からして映像にものすごくマッチしていて納得感がすごかったです。
「ここでこう、ふわっとイントロが入ってきて……」というのを明確にイメージして作っていけたので、そう受け取っていただけたらいいな、と思っていたポイントではありますね。
利奈は作中で一番成長する人物
──その9話でメインを張る利奈というキャラクターについては、どんな印象ですか?
利奈ちゃんは最初はけっこうツンツンしていて、主人公の麻衣ちゃんに対して「なんで本気で勝負しないんだ!」と怒ったりしている子だったんですけど、回を重ねていくにつれて、だんだん彼女の深い部分が見えてくるんですよね。私が担当させていただいた9話目では特に、利奈ちゃんが抱えていたモヤモヤを自分の口で言葉にして伝える場面があったりして。作中でも、一番成長が感じられるキャラクターなんじゃないかなと思っています。
──おっしゃる通り、ボウリング部の5人の中では最も変化の大きいキャラクターかなと思います。
もちろん、5人それぞれに大きく成長するお話ではあるんですけど、利奈ちゃんは特に振れ幅が大きい印象ですね。
──やはり第9話で朱火という存在に出会うことが大きいですよね。おそらく、利奈にとって初めて自分の抱えるモヤモヤを分かち合える相手と出会ったことで、自分自身を見つめ直す大きなきっかけになったんじゃないかと思います。
私的にも、9話はとても重要な回だと感じました。「Turkey!」全体を通して見てもターニングポイントというか、みんなの気持ちも大きく動いていきますし、5人がようやく一致団結する回でもあると思うので。
──これは単なる個人的な感想でしかないんですが、この話を9話に持ってくるのも攻めてるなと感じたんです。全12話のアニメ作品として考えると、普通なら11話くらいでやりそうなお話というか。
確かに(笑)。だいぶクライマックス感が出てますもんね。
──「このあとまだ3話もあるけど、このテンションで持つの?」と心配になってしまいました。でも、そのあとも全然間延びしない。
そうなんですよね。さらに驚きの展開が待っているので、そこも注目ポイントだと思います。
──ちなみに、利奈を演じた市ノ瀬さんのお芝居についてはいかがでしたか?
歌もそうなんですけど、ちょっとした感情の揺れ動きみたいな表現がとにかく素晴らしいなと感じました。自分には出せないものなので……どうしても9話のことばかり言ってしまうんですけど(笑)、ずっと言えなかった本心を利奈ちゃんがやっと口にするシーンは本当に心を揺さぶられましたね。ギュッとなるような気持ちでずっと観ていました。
思いは過去と現代の“真ん中”で交わり続ける
──「夏の住処」は、基本的には“ザ・やなぎなぎ曲”という印象が強いんですが、それでもやはり「Turkey!」のために書き下ろしたからこそ出てきた表現も含まれるわけですよね。
そうですね。歌詞でいうと……まあ全体的にそうではあるんですが、特に挙げるとしたら「残したい あの日の私」というフレーズなんかは「Turkey!」じゃないと出てこなかったかな、とは思います。私はあまり過去のことを振り返るタイプではないので、「あのときの自分を大事に残しておきたい」という感覚はこの作品だからこそ呼び起こされたものだな、というふうに感じますね。
──タイムスリップものであるがゆえに生まれたものであると。
単純なタイムスリップ劇じゃなくて、現代で生きてきた自分と過去の時代の人とが交錯することによって、新たな自分を得ていくお話ですよね。その感じをうまく言い表せるんじゃないかと思って浮かんできたのが、あのフレーズですね。
──確かに、普段生きていて「過去にタイムスリップしたらどう思うだろう?」なんて考えないですもんね。
考えないですね(笑)。
──でありつつ、やはり情景描写の美しさはやなぎさん特有のものだなと感じます。
映像を事前にいただいていたことがものすごく大きくて。もともと映像が浮かぶような曲作りというのは普段から意識しているところではあるんですけど、この曲は特にその部分が出せたかなと思いますね。表現すべき映像が明確に存在していたので、それを曲に落とし込めたらな、という思いで臨めました。
──個人的には「想いは青とオレンジの真ん中に詰め込んで」の部分が特筆に値すると思っていまして。いかにもやなぎさんっぽいですし、それでいて「Turkey!」の世界観を強く想起させる1行でもあるなと。
ありがとうございます。そうですね、ここは夏と別の季節が交わるところでもあり、過去と現代が交わるところでもあって。何かと何かの真ん中というものを空の情景として表現したかった部分なので、自分でも気に入っているポイントではあります。
──過去と現在の両方に詰め込むのではなく、どちらか一方に詰め込むのでもなく、「真ん中に」というのが独特の視点だなと感じました。
やっぱり季節は移ろうものですし、時間も時代も流れていくもので。この「Turkey!」というお話がエンディングを迎えたあとに、過去と現代が同じように交わることはもうないのかもしれないけど、そこで彼女たちが見てきたものや得たものが消えてしまうわけではない。ずっと思いとして“真ん中”で交わり続けるのかな、とシナリオを読み終えたときに感じたので、そういう表現になったのかなと思います。
──アニメの中で描かれるのは過去と現代だけですよね。“真ん中”は描かれない。だからこそ「その間に“真ん中という概念”があるんだよ」という、新たな視点を与えてくれるフレーズなんじゃないかなと思います。
それこそがまさに主題である「夏の住処」なんです。その“真ん中”こそが夏の住処なんじゃないかということで書いたものなので、そういうふうに言っていただけるとすごくうれしいですね。
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利奈バージョンだけでもいいんじゃないかと