今年の「FUJI ROCK FESTIVAL」でメインステージの1つRED MARQUEEに立ち、鮮烈なパフォーマンスを披露したkurayamisaka。イギリスの音楽総合メディア「NME」が選ぶ「2025年注目すべき世界中の新鋭アーティスト100組」に選出されるなど、国内だけでなく海外からも熱い注目を浴びる新鋭オルタナティブバンドの1stアルバム「kurayamisaka yori ai wo komete」がリリースされた。
2022年のバンド結成から現在に至るまでの集大成とも言える本作には、全12曲を収録。トリプルギター編成という特性を生かしたアレンジ、轟音の中で突き抜けていく内藤さち(Vo, G)の歌声など、kurayamisakaならではのサウンドが凝縮されている。次世代の音楽シーンを担うバンドとして期待されるkurayamisakaはどのように生まれ、何を目指しているのか。メンバーインタビューで探る。
取材・文 / 森朋之撮影 / 大橋祐希
社会人になった今ならもっとうまくやれるんじゃないか
──kurayamisakaの結成は2022年。起点は清水さんですよね?
清水正太郎(G) はい。社会人になってからもバンドを続けていく中で、これまでに得た知見や出会ってきた仲間を含めて、またイチから新たにバンドを始めたら、もっとうまくやれるんじゃないかなと思って。まず、大学生のときに一緒にバンドを組んでた内藤さちに声をかけたんです。田渕ひさ子さんがボーカルギターをやっているtoddleが好きなので、「toddleみたいなバンドをやらないか」と。
内藤さち(Vo, G) 清水から話があったときはすぐに納得したというか、「なるほど!」という感じでしたね。
清水 その時点ではまだ曲はなかったんですけどね。その後、「メンバーにしたい」と思う人たちに声をかけて。ベースの阿左美倫平は以前から知り合いだったんですけど、知らない人とも一緒にやりたいと思って、阿左美の知り合いの堀田庸輔を引き入れてもらいました。阿左美はyubioriというバンドでも活動していて、僕が“せだい”というバンドをやってたときに知り合いましたね。阿左美はyubioriではギターなんだけど、ベースプレイがすごいんです。そのことを知っていたので、kurayamisakaにもぜひ参加してほしいと思ってたんだけど、彼が忙しいのもわかってたし、ちょっと改めて声をかけるのが恥ずかしくて。
阿左美倫平(B) ハハハ。
清水 なので堀田を紹介してもらうときに、「実は自分も新しいバンドを始めようと思ってて」とチラつかせつつ、「ちなみにベースが空いてるんだけど、弾く?」って誘いました。
──清水さんは回りくどい性格なんですか?(笑)
清水 どうでしょう(笑)。恥ずかしがり屋なんだと思います。
──堀田さんは、清水さんから誘われたときはどんな状況だったんですか?
堀田庸輔(Dr) それまで組んできたバンドをすべて辞めたあとでした。で、普通に仕事してたら、いきなり清水くんから連絡が来て。軽い気持ちで「いいですよ」って引き受けたんですけど、スタジオで初めて音を合わせたときに、すぐに1曲通せたんですよ。これまでのバンドではそんな経験はあまりなかったから、「うまくいくかもしれないな」と。そのときは「まずはいい音源を作る」という感じで、すごくやる気が出ましたね。
──なるほど。阿左美さんは?
阿左美 清水くんがやってたせだいもすごくカッコいいバンドで。ギターもカッコいいし、実は密かに憧れてたんですよ。なので「ベースやらない?」と言われたときも、「ぜひ!」という感じでした。
清水 ありがたいです。その後、フクダがSNSを通して連絡してきて。彼だけは自薦ですね。
フクダリュウジ(G) 僕は大学生になってからギターを始めて。バンドをやろうと思ったこともあるんですけど、うまくいかなかったんです。清水と内藤は大学の先輩で。せだいもyubioriもカッコいいなと思っていたし、清水がkurayamisakaを始めるのを知って、「自分も一緒にやりたい」とダメ元で連絡しました。
──その結果、ギター3本のバンドになったと。
清水 最初から3本にしようと思ってたわけではないんですけど、フクダが立候補してくれてそうなりました。4ピースのバンドでも、音源では3本くらい重なってることがありますよね。それをライブで再現できるのもkurayamisakaの魅力の1つなのかなと思ってます。阿左美のフレージングもギタリストならではだし、音が低いギターのような音なんですよ。
──ギター3本とベースのフレーズが絡み合い、爆音で放たれるのは間違いなくkurayamisakaの特長ですよね。内藤さんはaikoさんがルーツだということですが、オルタナ系のバンドサウンドの中で歌うことに違和感はなかったですか?
内藤 それはまったくなくて。高校まではaikoさんやチャットモンチーが好きだったんですけど、大学の軽音楽部で清水に会って、いろんなバンドや音楽を教えてもらいました。一緒にやってたバンドでもいろんな曲を演奏したし、カッコいいと思う音楽の幅がすごく広がった。kurayamisakaの曲もすごくいいなと思ったし、違和感みたいなものは全然ないですね。
──内藤さんのポップな手触りの歌声もこのバンドの大きな魅力だと思います。いい意味でaikoさんの影響も感じられて。
内藤 うれしいです。
清水 自分の中のイメージなんですけど、「こういう音像でこういうテンション感のボーカルのバンドって、今いない気がするな」と思ってたんです。もしかしたら自分が知らないだけかもしれないけど、「ないんだったら、自分でやろう」と。
Muse、アジカン、The Novembers、cinema staff──kurayamisakaを形作る音楽
──メンバー皆さんの音楽的ルーツも似てるんですか?
清水 共通言語みたいなものはあるけど、けっこうバラバラですね。堀田は洋楽が多いよね?
堀田 UKのバンドが多くて、一番好きなのはMuseですね。言い出すとキリがないんですけど、もちろんOasisも好きだし、Block Party、マイルズ・ケインとか。阿左美くんが僕を清水くんに紹介してくれたときに送った“叩いてみた”動画は「透明少女」(ナンバーガール)やyubioriの「雪国」なんですけど、たぶんそのあたりを気に入ってくれたのかなと思ってます。
阿左美 そうだね。僕はcinema staffとDeath Cab for Cutieが2大巨頭で。cinema staffの辻友貴さんがオルタナやエモ、ハードコアに詳しくて、ご自身のコラムでオススメのバンドを紹介していたんですよ。それを聴きまくっていました。
フクダ 僕は日本のバンドだとThe Novembersが一番好きで、阿左美と同じくcinema staffも大好き。洋楽だとMuseが好きなので、そこが共通項になっていますね。
──The Novembersのルーツも洋楽がメインでしょうし、掘っていく楽しさもありますよね。
フクダ そうなんですよ。The Novembersもcinema staffも、インタビューを繰り返し読んで、そこで出てくるバンドを聴いていました。
──清水さんもいろんなバンドを掘ってますよね?
清水 もちろん掘ってました。バンドに目覚めたきっかけがASIAN KUNG-FU GENERATIONだったので、ゴッチさん(後藤正文)のブログを読み漁って、そこでOasisやWeezerなどを知って。その後もいろんなバンドを聴いてましたね。
──なるほど。ちなみに今度のOasisのライブは行きますか?
阿左美 いや、チケットが……(笑)。
堀田 取れてBeady Eyeまでですね。
清水 去年のフジロックにノエル・ギャラガーが出ましたけど、自分たちはROOKIE A GO-GO出演のためのセッティングがあったので観られなかったんですよ。初フジロックで緊張してたし、とにかくいいライブをやりたいと思ってたので。
自分が10代の頃に受けた衝撃をリスナーにも
──昨年のROOKIE A GO-GO出演を経て、今年はフジのRED MARQUEEのステージに立つってすごいですよね。そんなタイミングで、1stアルバム「kurayamisaka yori ai wo komete」がリリースされます。結成以来、積み重ねてきたことが結実した作品だと思いますが、まずは皆さんの手応えを教えてもらえますか?
清水 2年間くらいかけて作ってきて。制作を始めた頃の記憶が薄れつつあるんですけど、アルバムを意識して曲を作っていたので、それをようやく聴いてもらえるなと。完パケしてからリリースするまでの今の時期が一番もどかしいですね。
──バンドを結成したときに思い描いていたことが形にできた実感がある?
清水 そうですね。自分が10代の頃に受けた衝撃、好きなバンドのアルバムを通して聴いたときの素晴らしさを、今のリスナーの皆さんや、未来の少年少女に感じてもらえたらうれしいなと思っています。
内藤 カッコいいと素直に思えるアルバムになりました。作ってるときはけっこうつらかったんですけど、できあがったものを聴いて、「こんなにいいアルバムになったんだ」と感動しました。
──つらかったことと言うと?
内藤 歌録りですね。思ったようにいかないことも多くて、グズる場面もあって。それがあったから、完成したときに余計に感動したのかもしれないです。
──ボーカル、素晴らしいと思います。ギターがガツンと鳴っている中、内藤さんの声が気持ちよく響いていて。
内藤 よかった。ありがとうございます。
清水 内藤の歌が映える音作りはみんな意識しているし、エンジニアの島田智朗くんの力も大きいですね。歳も近くて、せだいやyubioriの録音もやってくれてたし、kurayamisakaでもずっと一緒にレコーディングしている仲間で。6人目のメンバーくらいの勢いで親身になってくれる。音作りから手伝ってもらってるし、いろんな提案もしてくれるんですよ。彼も音楽オタクというか、海外のインディーシーンをずっと掘り続けていて。週1でバンドのグループLINEにオススメのバンドを送ってくれます(笑)。
──実現したい音を理解してくれているエンジニア、心強いですね。
清水 本当に。島田くんはもともとギタリストだし、特にギターに関しては、こちらがやりたいことをすぐに理解してくれる。僕らは運がいいですね。