第32回読売演劇大賞の木場勝己がブロンズ像抱き締め喜び「主役をやるとこんなこともあるんですね」

昨日2月28日に、第32回読売演劇大賞贈賞式が東京都内で行われた。

読売演劇大賞は、演劇文化の振興のために1992年に創設された賞。第32回読売演劇大賞最優秀作品賞に新宿梁山泊「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」が選ばれたほか、最優秀男優賞を木場勝己、最優秀女優賞を岩崎加根子、最優秀演出家賞を前川知大、最優秀スタッフ賞を渥美博、杉村春子賞を新原泰佑が受賞。また芸術栄誉賞に株式会社俳優座劇場、選考委員特別賞にブロードウェイミュージカル「カム フロム アウェイ」が選ばれた。

選考委員特別賞の「カム フロム アウェイ」からは、主催・企画制作のホリプロより菅井敦代表取締役社長が登壇。菅井社長は、本作が2001年の9.11の際に実際に起きた出来事を元にしていることに触れつつ「緊急事態のとき、言葉や国境、人種、宗教などを超えて互いに思いやる。世界で戦争が続いている中、上演する意義がある作品だった」と話し、「近い将来、必ず再演したい」と言葉に力を込めた。

芸術栄誉賞に選ばれた株式会社俳優座劇場の藤江修平代表取締役社長は「70年の歴史を築けたのは、先輩方が堅実に事業を続けてきたからにほかならない」と先達に謝辞を述べる。また藤江社長は、株式会社俳優座劇場が舞台装置仮組施設・Theatre Zeroのオープン準備を進めていることを挙げて「新たな道を進む株式会社俳優座劇場をよろしくお願いします」と語った。

読売演劇大賞では、各賞の前年の最優秀賞受賞者が翌年の同賞プレゼンターとなり、受賞者に正賞のブロンズ像・蒼穹（そうきゅう）を手渡す。杉村春子賞のプレゼンターを務めた清原果耶は、「インヘリタンス-継承-」「球体の球体」の演技を評価された新原に「『インヘリタンス-継承-』で、新原さんが役と共に命を削って踊り続けたあの時間は唯一無二だった。おめでとうございます」と祝福のメッセージを送る。新原は「2作品に携わったすべての時間が学びであり、幸せでした。いつもどんな作品でも新たな自分との出会いがあります。日々研鑽を積み、演劇界に貢献していけるように精進します」と瞳を輝かせた。

スタッフ賞プレゼンターの松井るみは「舞台は総合芸術で、スタッフがいなければ成立しない。そんなスタッフの代表として選ばれた皆様、おめでとうございます！」と祝辞を述べる。「キラー・ジョー」の殺陣、「ロミオとジュリエット」のアクションが評価されて受賞となった渥美は「殺陣師としてはこのような場にいるのが不思議。僕を起用してくれた演出家のシライケイタさんと岡本健一さん、ありがとうございます。それに何度も稽古してくれた俳優たち、黙って見守ってくれたプロデューサーや制作の皆さん、殺陣でセットを壊しても笑ってくれたスタッフの皆さんも、ありがとうございます！」と感謝を口にした。

演出家賞プレゼンターの藤田俊太郎は、受賞者の名前を挙げながら「皆さんの作品はどれも素晴らしかった。演劇の言葉をより責任を持って伝えなくてはいけないと学び、深く感銘を受けました」と称賛した。前川は、受賞理由となった「奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話」について「我ながらよくできた作品」と笑い、「おいしい和食のように、手をかけすぎず、でも丁寧に、素材の味を生かすようなイメージで立ち上がった作品です。俳優、スタッフ、制作、そして小泉八雲という素晴らしい“素材”に支えられ、半ばおのずから出来上がった舞台でした。そのようなことはめったにないので感謝しています」とコメントした。

女優賞プレゼンターの池谷のぶえは「昨年この場で、チケット代の高騰について話しました。すぐには変えられなくても、意識して工夫することが必要だと思います。俳優としては『また演劇を観たい』と思ってもらえる作品を作り続けることが大切。舞台を作り続けるにあたり、希望をくれるような皆様が女優賞に選ばれてうれしい」と笑顔。「慟哭のリア」の演技が評価された岩崎は「胸がいっぱいで何を申し上げれば良いか。本当にありがたい」と感慨深げな表情を浮かべる。また岩崎は谷川俊太郎が昨年死去したことに触れて「『困ったとき、苦しいとき、うれしいとき、悲しいとき、いつでもうたって良いよ』と、ずいぶん前に（谷川から）お許しをいただきました」と、ハンドマイクを手に谷川の詩「生きる」を暗唱。岩崎が「あなたの手のぬくみ。いのちということ」と最後のフレーズを語り終えると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。

続いて、男優賞プレゼンターとして登壇した山西惇は「岩崎さん、素晴らしいスピーチでした。僕は（M-1で）令和ロマンのあとに出てきた真空ジェシカのような気持ちですが」と笑いを誘いつつ、山西は「芝居を始めた19歳のとき、木場勝己さんを初めて舞台で拝見した。これからも、その背中を追いかけさせてください！」と木場に呼びかける。木場は「脇役ひと筋だったので賞は縁遠いと思っていた。でも主役をやるとこんなこと（受賞）もあるんですね」「手違いだと判明しても、返しません」とブロンズ像を抱き締めた。また木場が「『リア王の悲劇』『天保十二年のシェイクスピア』両方の演出をしてくれた藤田俊太郎くん！ ありがとう！」と声を張り上げると、藤田も「ありがとうございます!!」と大きな声で応える。最後に木場は「山海塾の天児牛大、舞台監督の武川喜俊といった同世代の同業者が鬼籍に入り始めた。このあと、どこかの居酒屋で2人に受賞の報告をしたい」と結んだ。

作品賞のプレゼンターは前川。前川は「またも私が出てきてすみません（笑）。作品賞はみんなで『おめでとう』と言い合えて、個人賞とはまた違う喜びがあるなと、昨年心から感じました。今年はプレゼンターができて光栄」とあいさつ。「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」カンパニーからの大声援を受けながら登壇した新宿梁山泊の金守珍は「寺島しのぶさんの『私もテントに立ちたい』のひと言で始まった企画」「豊川悦司くんに出演を打診したら断られたが、私は“スッポンの金”。粘り強く交渉したところ、豊川くんが『おちょこ～』の台本を持ってきて『これならできるのでは』と決まった」などエピソードを明かし、「約半年間もミーティングを重ね、今日、この賞にこぎつけた。ありがとうございます！」とコメント。また金は「故・唐十郎とは『ニューヨークのハドソン川沿いでテントを立てよう』と約束した。私は命を懸けて、ニューヨークにテントを立てて『唐十郎こそ、日本のシェイクスピアだ』と世界に広めます。本日はご清聴ありがとうございます!!」と声を高らかにし、大きな拍手を浴びた。

また既報の通り、大賞に選ばれたのは木場。受賞者のスピーチののち、読売新聞グループ本社の老川祥一代表取締役会長・主筆代理が木場の名前を呼ぶと、木場は「何かの手違いじゃないでしょうか……でも返しません！（笑） ありがとうございます！」と会場を笑いで包み、晴れやかな笑顔を浮かべた。