「ガールズ&ボーイズ」が4月に新国立劇場 小劇場で上演される。本作は、ミュージカル「マチルダ」で知られるイギリスの劇作家デニス・ケリーが2018年に書き下ろした戯曲で、恋愛・結婚・出産を経験し、仕事も順風満帆だった主人公の「わたし」が、壮絶な体験を経て、“それでも生きる”様を描いた一人芝居だ。本作の演出を手がけるのは繊細さと大胆さが魅力の稲葉賀恵。出演者には真飛聖と増岡裕子が決定した。
ステージナタリーでは3月上旬、稽古が始まって間もないタイミングで稲葉、真飛、増岡の座談会を実施。なお本作は新国立劇場が2025/2026シーズンに取り組むシリーズ企画「いま、ここに──」の第1弾となる。
取材・文 / 熊井玲撮影 / 藤田亜弓
「わたし」の言葉が、姿が、突き刺さる
──稲葉さんは過去のインタビューで本作について「世界中の女性の声を代弁するような言葉が詰まっていて、ごくパーソナルな事柄でありつつも、広がりのある戯曲だと感じました」とお話しされていました(参照:『ガールズ&ボーイズ』演出・稲葉賀恵インタビュー)。皆さんが本作に惹かれたポイントを教えていただけますか?
稲葉賀恵 私は主人公に起こるさまざまな出来事が、年齢的に今の自分に引っかかる、重なる部分が多いと感じました。仕事もプライベートもすべてがんばりたいけれどいろいろな側面で選択を迫られて、彼女はそこで自分を信じて突き進んでいくのだけれども問題が起きて……果敢に立ち向かっていく彼女の姿が突き刺さったのは、自分が今、猪突猛進している時期だからこそだと思います。
真飛聖 主人公の「わたし」が、悲劇が起きても諦めずに前に進んで行こうとする力、生きるエネルギー、信じ抜く力に私は共感しました。私自身はけっこう卑下しがちというか、自己肯定感が低めな人間で、がんばりたいとか、諦めたくない気持ちがあってもクヨクヨしたりイジイジしたり、そういう自分に腹が立ったりとジレンマを抱えながら生きてきました。そんな自分の人生と彼女の人生を重ねてみたときに、要所要所で「わかる!」と感じる一方で、「それでも真っ直ぐ生きていくのがすごいな、でもそれが人生だよな」とも感じて。
増岡裕子 実人生で私は今4歳の子供がいて、子育てしながら仕事をいただいている状況なのですが、フルにできないなと感じている部分がどこかにあって。キャリアと子育てのせめぎ合いの真っ只中にいるので、どちらかというと働く母目線で本作を読み、共感するところがたくさんありました。
──主人公の「わたし」が、現在から過去を振り返る形で描かれる一人芝居です。声に出して読むことで感覚が変わった部分はありますか?
真飛 声に出せば出すほど難しいなと思っています。稲葉さん、増岡さんとセリフの行間について考えたり、(劇中には登場しない)子供たちが実はこんなことを言ってるから、彼女がこう返しているんじゃないかとみんなで考えながらお稽古しているんですけど、改めて声に出してみると「うわ、全然違うな」と感じることも多くて。その点、増岡さんが演じる母のシーンは、やっぱりお母さんのリアルさを感じます。声のトーンが素敵なので、いいところは自分の中に取り入れたいなと思いますが、でもやっぱり今はまだ、全然思うようにいっていないです。
──卑下されてますね(笑)。
一同 あははは!
増岡 家で1人、稽古しているときは“母の物語”という印象があったんですけど、真飛さんの声を聞いているうちに、「あ、やっぱり『ガールズ・アンド・ボーイズ』、女と男の物語なんだ」と作品の印象が変わりました。で、「なるほど!」と思って実際にやってみると、まだどうしたらいいのかわからないところがけっこうあって……私も今は不安の真っ只中です(笑)。
稲葉 私も自己肯定感が低いので(笑)、それぞれ不安を感じながら稽古を進めていく感じになるとは思いますが、でも私、1人で読み解いていたときよりもお二人の声を聞いて「こうしたほうがいいんじゃないか」というアイデアがすごく浮かぶようになりました。ダイアローグのときは俳優さんが声に出す前から構造を決めてかかることが多いんですけど、1人の人がこれだけ語る様子を観ているだけでワクワクしてしまうし、お二人は1人で舞台に立てる、空間を掌握できる人だと思うので、絶対に大丈夫だと思っています。
“Wキャスト冥利”な顔合わせ
──今回はWキャストでの上演です。真飛さん、増岡さんが演じる「わたし」の違いを、稲葉さんはどんなふうにお感じになっていますか?
稲葉 このお二方だからこその面白さを実感しています。お客様は別の作品を観るような感じでご覧いただけるんじゃないかと思いますね。まさにWキャスト冥利に尽きます。真飛さんが演じる「わたし」はインテリジェンスを感じるというか。彼女が築いてきた仕事におけるプライドや、トップにいる覚悟みたいなものが真飛さんの話し方にすでに備わっているので、映画業界でひと旗揚げてきたという説得力があります。一方、増岡さんには母性というか、子供との関係性に向き合う切実さの説得力がすごくあるなと感じています。それぞれご自身が生きてきた人生が役に反映されているので、俳優自身が浮き彫りになるんです。手前味噌ながら褒めてあげたい、自由度の高いキャスティングになっていると思います(笑)。
真飛・増岡 うれしいです!
──お二人は、お互いの稽古の様子を見てどんなことをお感じになっていますか?
真飛 増岡さんのセリフには、稲葉さんがおっしゃった母性の部分と言いますか、「リアル母って、このトーンでこういう言い方をするな」という説得力があります。自分が忙しかったり疲れているときの子供のあやし方、なだめ方、叱り方、黙らせ方が日常にある人の声音だなと。もちろんいろいろ考えて演じていらっしゃるとは思うけれど、それを感じさせないというか、リアルな日常から芝居へ、自然とつながっている。そこがすごく魅力的だなと思いますし、「ああ、私もああいう魅力的な感じでこのセリフを言えたらいいな」と参考にしています。また一人芝居であることは変わりないんだけれど、このセリフ量を一人で発することの大変さや思いを2人で分かち合えるのはよかったなって。最強の味方だと思っているので、自分がわからないところはまっすー……あ、いつもの呼び方になっちゃった(笑)、まあいいか! まっすーに聞いているし、まっすーの素敵なところは本人にちゃんと伝えていて、いい関係でやらせてもらっています。
増岡 先ほどお話しした、「これは女と男の物語なんだ」という発見は、真飛さんの読みを聞いて感じたことですし、この主人公の「わたし」は自分で会社を立ち上げて、ものすごく闘う人なんですね。自分に自信もあるし、頭もいい女性。それが真飛さんにはピタッとハマるんだけれど、私はやっぱり、会社を立ち上げそうにないじゃないですか。
真飛 (笑)! そんなことないよ、笑わせないで!
増岡 (笑)いや、私、自分で思ったんです。(子供をあやす仕草をして)これはできるかもしれないけど、今の状態じゃ会社は立ち上げられないなって。でもそれは自分1人で稽古していたのでは見つからなかったことだったので、Wキャストで良かったなと思いました。
真飛 本当にそうですよね、1人では考えつかなかったことに気づけるし、だから(考えが)何倍にもなる。本番が近づくにつれて1人ずつの稽古になっていくのが寂しい!
増岡 そうなんですよ、でもできるだけお互いの稽古場に通いたいと思っていて。
真飛 本当に。私も見学に行かせてください!
──稲葉さんが演出面で、あえて変えようと思っている部分、変えずにいこうと思っている部分はありますか?
稲葉 基本的には彼女が「語る」ことで舞台が変容していく作品だから、演出的に全部をガラッと変えることは邪魔になると思っています。もちろん、ちょっとしたビジュアルはそれぞれ変えていくんですけど、その日の気持ちによって見え方が変わるような、自ずと印象が変わるような演出にしたいと思っています。
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自分のため、回復のために語っているのではないか




