「エンドゲーム」閉塞空間の先に、一筋の光を探して──小川絵梨子×近江谷太朗×佐藤直子×田中英樹×中山求一郎座談会

終わりに向かっていく世界、“それでも生きる”人間たちを描いたサミュエル・ベケット「エンドゲーム」が、小川絵梨子の演出で立ち上げられる。出演するのは、フルオーディション企画で選出された近江谷太朗、佐藤直子、田中英樹、中山求一郎の4名。陰惨な作品内容とは対照的に、和気あいあいと稽古を楽しむ彼らの姿は、“生きること”を手放さない登場人物たちの姿にどこか重なる。

ステージナタリーでは3月下旬、稽古序盤の5人にインタビューを実施。作品への思いを聞いた。なお本作は新国立劇場が2025/2026シーズンに取り組むシリーズ企画「いま、ここに──」の第2弾となる。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 祭貴義道

“生きる力を持って抵抗し続ける人たち”の「エンドゲーム」

──本公演は、小川さんの芸術監督任期ラストシーズンのシリーズ企画「いま、ここに──」の1作品にラインナップされています。3作品の1つに「エンドゲーム」を選ばれたのはなぜですか?

小川絵梨子 シリーズ企画「いま、ここに──」は、決して生きやすくはない今、それでも生き続け、明日を迎えるために“次への一歩”をどう踏み出したらいいのか、それをみんなで考えたいという思いで立ち上げました。第1弾に「ガールズ&ボーイズ」を選び、第3弾はノゾエ征爾さんに新作を書いていただけることになり、「りんごが落ちる」を上演します。第2弾に「エンドゲーム」を選んだのは、もともと作品に興味があったことに加えて、“今まさに終わろうとしている世界の中で、終わらないためにどう生きるか”を描いた本作が、このシリーズの理念にぴったりだと思ったからです。

小川絵梨子 

小川絵梨子 

──また、本公演はフルオーディション企画の第8弾でもあります。オーディションには1016通の応募があったそうですね。

小川 たくさんの方が興味を持って応募してくださったことが本当にうれしくありがたく、励みに感じています。オーディションでは、「同じテキストを読んでも、人によってこれだけ表現が違うんだ」とか「こんなアプローチの仕方もあるんだ」という発見がありましたし、演技を通していろいろな方と出会わせていただけたのがすごく贅沢だと感じました。素敵な方たちがたくさんいらっしゃって迷ったのですが、私が思う今回の「エンドゲーム」に必要な方々に最終的に残っていただくことができ、「出演しますよ」と言っていただけて感謝しています。

──キャストの皆さんが今回、フルオーディション企画に応募した理由を教えてください。

近江谷太朗 「新国立劇場の舞台に立ちたい」という思いと「小川さんの演出を受けてみたい」という2つの思いがずっとあり、それで応募しました。翻訳物のお芝居って日本人が演じたときにしっくりこないことがあるのですが、小川さんの演出は、登場人物たちがそこで生きている感じがしてスッと入っていけますし、最後まで集中して観ることができるんです。純粋に面白かったしセンスを感じて、いつか小川さんの演出を受けてみたいと思っていました。

中山求一郎 僕は新国立劇場のフルオーディション企画第1弾「かもめ」を受けたのですが、選考で何度も相手役を変えて演じるのがすごく大変で。でも同時に、非常に刺激的な体験だったんです。その後、しばらくいろいろな事情でフルオーディション企画を受けることはできなかったんですけど、今回は絵梨子さんの演出で「エンドゲーム」をやるということで、ぜひ受けたいと思いました。実は以前、自主公演をやろうと思ってリサーチをしているときに、「エンドゲーム」が候補に挙がっていたんです。また絵梨子さんが演出された作品をいろいろ拝見したり、絵梨子さんの演出を受けた友達が目覚ましく演技が変わったのを目の当たりにしたりして、なんとかご一緒したいと思っていました。今回、新たな人たちと作品に取り組むことで新しい場所に行きたいし、今後の人生がより実り豊かなものになるんじゃないかと期待しています。

田中英樹 新国立劇場のフルオーディション企画は前から素晴らしいなと思っていて、以前も受けたことがあるのですが、出演には至らずでした。でも2年前くらいから演劇の面白さを改めて感じるようになり、自分自身のエネルギーがみなぎっているタイミングだったのと、やっぱり僕も絵梨子さんの演出を受けてみたいと思って、勉強のつもりで応募しました。

佐藤直子 私はフルオーディション企画を受けるのが今回で3回目です。今65歳なのですが、自分が経験してきたことからなかなか世界が広がらないもどかしさがあり、やりたい役がなかなかやれない思いもあって、フルオーディション企画はすごく面白いなと思っていました。特に今回は絵梨子さんの演出ですし、不条理劇にハードルの高さを感じつつも、今だったら逆に楽しんで不条理劇に取り組めるかもしれないと思って、トライさせていただきました。

左から小川絵梨子、田中英樹、佐藤直子、中山求一郎、近江谷太朗。

左から小川絵梨子、田中英樹、佐藤直子、中山求一郎、近江谷太朗。

──オーディション中のお互いの印象は、皆さん、記憶にありますか?

佐藤 あります! ただ途中まではナッグとネル、ハムとクロヴの組み合わせで分かれてのオーディションだったので、田中さんとはずっと一緒だったのですが、近江谷さんと中山さんとは最後にお会いした感じです。田中さんは、劇中で出てくるビスケットを持参されていて、オーディションの最初から世界観ができていたことにちょっとびっくりしました。私は(作品に対して)もっと暗い世界や抽象的なイメージを持っていたのですが、具体的だったのが面白かったし、田中さん自身がすごく楽しんで演じていらっしゃる印象を受けました。

田中 どうせオーディションを受けるなら自分なりの解釈を提示したほうが、何か伝わるものがあるんじゃないかと思ったんです。でもほかのナッグ役候補の方は全然違う表現をしていたので、「うわ! 失敗したー!」と思いました(笑)。

僕は佐藤さんにお会いして、「ネルがそこにいる!」と思いました。「やりやすい」という言い方はおこがましいかもしれませんが、佐藤さんとは集中してできた印象があります。

近江谷 (中山の方を向きながら)すごくやりやすいというか……。あまり何も考えず、その場その場で楽しくキャッチボールできたかなっていう感じはありました。

中山 「茫漠と広がる宇宙のちっぽけなシミ」といったハムのセリフが、近江谷さんが演じると巨大なイメージで押し寄せてくる感じがしました。僕は四畳半的なギュッとした感覚を持っていたのですが、拡大してくるというか、背負っているものの大きさを感じて、それに拮抗しないといけない!と思いました。

近江谷 オーディション前に台本が読みたかったんですけど、図書館ではずっと順番待ちで、結局顔合わせも終わった後に図書館から「入りました」って連絡が来て(笑)。でも今思うと、全部を読んでいなかったのが良かったのかもしれない。全部を読んでいたら「わあ、どうしよう! わからない!」と思ったかもしれないけれど、(オーディション用に渡された)戯曲の一部に集中して自分なりの解釈を膨らませたことで、セリフに身を任せられたというか。

──撮影中や稽古場での皆さんの和気あいあいとした様子を拝見して、作品が持つ鬱屈としたイメージとは対照的な、“陽”の印象がある座組だと感じました。

小川 そうですね。お客さんにはこの登場人物たちを好きになってほしい、じゃないとなかなか自分ごととして捉えにくいんじゃないかと思ったので、その点は意識しました。翻訳の岡室(美奈子)先生もこの戯曲の中のコメディ性は重要だとおっしゃっていますが、状況としてはこれ以上ないくらい悲惨なんだけれども、そこで足掻いて足掻いて前に向かっていく人たち、この状況にありつつも生きる力を持って抵抗し続ける人たちを、可笑しみや滑稽味、悲しみや痛みを込めて描いている作品だというイメージがあったので、チームとしてもそのようなイメージを表現してくださる方々にお集まりいただいたと思っています。

ベケット作品の魅力は、人間へのまなざしと徹底した普遍性

──お稽古が始まり、セリフを声に出すことで実感していることはありますか?

中山 今日やっと全部のシーンを当たったところなんですが……1行1行を紐解いていき、みんなで感じた意見を話し合う中で、1人で読んでいただけではわからなかったことがすごく立体化している感覚がします。

近江谷 これまでの本読みの時間で、たとえばフランス料理を食べるときの作法を教えてもらって「よし、食べに行くぞ!」と思えるくらいの安心感で挑めるところまで来た、というような感じ(笑)。稽古が始まる前は不安が70でワクワク30だったとしたら、今はワクワクが70で不安が30に逆転したかなという感じで、すごくありがたいなと思っています。

近江谷太朗

近江谷太朗

佐藤 初日は翻訳の岡室(美奈子)先生も稽古場にいらしてくださって、自分の役のことだけでなくお互いの役についてあれこれお話しできたのがすごく楽しかったです。こういう感じで作っていけるグルーヴ感は素敵だなと思っています。

田中 本当に楽しいですね! 芝居を始めた頃は本を読んだり深掘りするのが苦手だったのですが、2年前ぐらいから楽しめるようになってきて。特に今回は振り幅がすごくある作品ですし、じっくりと作らせていただける環境なので、脳はくたくたになりますが非常に心地よい。なかなか経験できない時間だと思っています。

──それぞれの役について今感じていらっしゃる印象も伺いたいです。近江谷さんは、盲目でキャスター付きの肘掛椅子に乗った口の悪い男・ハムを演じます。

近江谷 今ざっくりと感じているイメージですが……物語としても役としてもエンタテインメントな部分もあると思っていて「これはお客さんに向かって言っているのかもしれないな」というセリフがあったり、ある対象に向かって一人芝居をしているような瞬間もあったり。そこはこれまで自分がエンタテインメントの芝居で培ってきたものをうまく出せればいいんだろうなと思っています。ただリアルに成立させなければいけない瞬間も多々あり、その部分では舞台上にちゃんと存在して、お客さんが信じられる空間を作ることを大事にしないといけないなと思っています……が、それでうまくいかない場合は小川さんに身を委ねようと思っていて(笑)。それくらい楽観的な感じでいかないとプレッシャーに押しつぶされてしまいそうな重大な役だと思いますし、「楽しくやるぞ!」と自分に言い聞かせて立ち向かっていこうと思いながら稽古しています。

──中山さんは、ハムに仕える足が不自由な若い男・クロヴを演じます。

中山 クロヴは、父親かもしれないハムに従順に仕えていって、ナッグとネルのことはけっこう不遜な扱いをしている人です。クロヴはハムになぜ従っているかというと、反射的に動いているというか、脳を通さずに従って自閉しているような感じ。その気分が自分にも通じるところがあるなと思い、共感性の強い役です。ただそれを自分の感情や体験に引き寄せるだけでなく、戯曲そのものにある文脈とかベケットが書いた意図を汲み取りながら演じていくことが重要なんじゃないかと思って、今勉強中です。

──田中さん演じるナッグはハムの父親、佐藤さん演じるネルはナッグの伴侶で、2人は両脚がなくごみバケツの中にいます。

田中 心身ともになかなかな状況ではありますが、ナッグは生きることを諦めない人物で、あとすごく愛やユーモアを感じます。いろいろと虐げられていても、ユーモアを言うことでバランスを取ろうとしているというか、あったことをないことにしないしぶとさがある。今回、とてもいい創作環境なので、この役はもっと変化するんじゃないかとすごく楽しみなんですよね。なかなか経験できない時間だと思っています。

佐藤 ネルは本当に死にそうな人物で、男たち3人がなんだかわからないけれど「生きる」ということにすごくフィーチャーしているのに対して、ネルはそこから一線超えているような気がするというか。魂だけの存在みたいに見える瞬間があれば良いと思っています。

佐藤直子

佐藤直子

──稽古が進む中で小川さんのイメージも膨らんできている感じでしょうか?

小川 そうですね。私1人では思いつかなかったようなアイデアを皆さんが出してくださったり、新たな切り口をくださったりするので、台本との距離が縮まった気がしますし、この「エンドゲーム」の世界が立ち上がってくる感じがしています。ベケット作品や「エンドゲーム」の哲学的な部分には難しさも感じますが、キャストの方々のおかげで、「人間の物語である」という核心に徐々に近づいている感じがします。

──小川さんの演出席には、ベケット関連の分厚い書籍が多数置かれています。小川さんはベケット作品のどんなところに惹かれているのでしょうか?

小川 人間へのまなざしと、徹底した普遍性でしょうか。否定も肯定もせず人間を見つめるベケットのまなざしには、体温のような温かみがあると感じます。アメリカにいたころ、たとえばアメリカの戯曲をやろうとすると、論理やストーリーは理解できても匂いがわからないことがよくあって……たとえばウォーターゲート事件とかニューオーリンズと聞いて、調べれば内容はわかるんだけれど匂いがわからない。でも逆に阿部定事件やドラえもんと言われたら、共通認識としてわかる匂いや感覚がありますよね。その点、ベケット作品には「この世の中で生きるとはどういうことか」「人間とは何か」というような、人間の普遍的なことが描かれているので、自分の中で気持ちが動きやすかった。また、アメリカで観たゲイト・シアターの「ゴドーを待ちながら」がとても印象に残っていて……不条理劇を観ている感覚ではなく、すごく笑いましたし、でも最後の「Let's go」と言いつつ行かない、というシーンで涙がグーッと湧き上がってきて「人間ってなんなんだろう」と思わされたり……言語も文化も時代も超えて、人間の普遍性、根源があるがままに描かれていると感じましたし、同時に人間を決して見捨てていない視点で書いているところが好きだなと。「エンドゲーム」の稽古をやればやるほど、どんどんベケット信奉者になっている感じがします(笑)。

──小川さんはさまざまなタイプの作品を演出されますが、不条理劇を演出するうえで普段と組み立て方の違いはありますか?

小川 多少あります。……つまらない話になってしまうかもしれないのですが、舞台上での一瞬一瞬の幅を、論理だけじゃないあり方で取らないといけない、ということは意識します。流れは条理でつなげるんだけれども、生きる / 生きないといった根源的な広がりを登場人物たちの中でも持っておいていただく必要があると思っていて。なので普段だと流れを具体的に考えて丁寧に具象化することで物語を作っていくんですけれども、今回はそれもやりつつ、それ以上に広がりや深さなど、言葉では説明できないものを含ませて、ギュッと固めすぎないようにしなくてはいけないなと思っています。ただそのためには結局、具体が必要になってくるので、やることは一緒だけれど生まれてくるもののレイヤーが大きくなってくるようにしたい、それが今回の自分の挑戦でもあります。

“それでも終わらせないための力”を信じて

──クリエーションの中で、皆さんが「これはヒントになるな、支えになっているな」と感じるキーワードなどはありますか?

中山 これは今回のテーマの1つでもあるんじゃないかと思うんですが、絵梨子さんが稽古中に「関わり続ける」という言葉をおっしゃっていたんですね。たとえばクロヴはハムに対していろいろ思うところはあるんだけれど、結局彼と会話を続けていてコミュニケーションを取り続けている。それは、演劇作りのことも含まれているし、人生そのものとも言えて、人と関わることで人は“生”を実感できるんだなということを、毎日稽古場で感じています。

中山求一郎

中山求一郎

近江谷 ハムはきっと誰よりも欲深くて、とにかく生き続けようとするエネルギーがあって……それが伝わるように、自分自身もこの稽古で、どんなことも諦めずにやり続けようと思っています。自分の人生を重ねることで役に説得力を持たせる、ということは、年齢を重ねた俳優の最後の手段なんですけど(笑)、そういう魂を信じてもらえるようになればいいな、それがこの物語のテーマに結びつけばいいなと思って稽古しています。

佐藤 小川さんが先ほどおっしゃった、“不条理劇は具象の芝居よりも感覚を広げておく必要がある”というお話はすごく面白いなと思っていて。具体的に作っていく部分はあるけれども、イメージの広がりが感じられるようなものになればいいなと思いますし、そのことによって本作がお客さんにとって自分ごとになったらいいなと思います。

田中 欲張りなので、思っていることを伝えなきゃと思うとあと1時間ぐらいかかりそうなのですが(笑)、この座談会の中でも出てきた「生きる力、抗う力」とか「続けること」というワードはすごくしっくりくるなと思っていて。特にナッグは、言葉とか語るということが大事なんじゃないかと思うんです。僕の家は商店をやっていたから、子供の頃からお客さんとしゃべって生きてきたし、言葉の中にはすごいエネルギーがあると思っています。だから今も、「しゃべればわかる」じゃないけれど、僕は稽古場でもものすごく話をするんです(笑)。ナッグもハムやクロヴ、ネルに対して愛や希望を持ちながら話し続ける。その生き様をどんどん知っていきたいなと思うし、ナッグを知っていくことによってほかの3人のことも知っていけるんじゃないかと思いながら稽古しています。

田中英樹

田中英樹

──先ほどもお話に上がった岡室美奈子さんが、本作の翻訳を手がけられているのも本作の大きなポイントです。ベケットの研究者で、現代演劇に造詣の深い岡室さんのお話の中で、小川さんのヒントになっていることがあれば教えてください。

小川 岡室先生が最初に教えてくださったことですが、本作が「物語を語り継いでいく話である」という部分は、私自身は読み取れていたわけではなかったので発見でした。ナッグからハムへ、ハムからクロヴへというふうに、語ること、語り続けること、物語を語ることを継承し、これが生きる力やつないだり、引き留める力になっていく。そういう物語なんだということを、岡室先生が教えてくださいました。また、先生が「これは絶望の芝居じゃないんです」と言ってくださったことは「よかった、私もそう思います」と共感しましたし、私にとって大きな支えになっています。

──ビジュアル的な部分も伺いたいです。美術の小倉奈穂さん、衣裳の前田文子さんは、小川さんとたびたびタッグを組んでいるクリエイターです。

小川 はい。デザイナーの皆さまにも、この世界を立ち上げるためのインプットをたくさんいただいています。舞台美術に関しては、具体的すぎず生々しすぎず……中間地点になるような感じになっています。やや現代的ですが、今回は物語の世界観から外れないような普遍性のある感じをキープしたいと思っています。色味に関しては全体的に灰色。白を「無」、黒を「苦痛や痛み」と捉えたときに、“死の無”か“黒の暗闇”の中間……煉獄みたいな重苦しい灰色というイメージの世界観になると思います。

──「エンドゲーム」で書かれている世界は、少し前までは遠いフィクションだと感じられました。でも今は、とても現実的な話、リアルな話に感じられます。だからこそ、この作品を通してどんなふうに人間が生き続けることができるのか、どんなポジティブな光が見えてくるのかということがとても気になります。一見すると“終わり”に向かっていく本作のラストで、皆さんはどんなことを感じてほしいと思われますか?

佐藤 人は滑稽で愛おしい──そう思ってほしいなと思います。

近江谷 どんな状況においても人は生きていく、そのことを感じてもらえればと思いますし、そのエネルギーを感じてもらうことで1人でも「明日もちょっとがんばろうかな」と思ってもらえたらいいなと思っています。

中山 今、明るい未来をイメージしづらい世の中だと感じるのですが、ベケット作品は絶望的な状況の中でどう生きるかということを問い直してくれる強靭な力のある作品だと思うので、“なけなしの希望”みたいなものがどこかでちょっと射してくれたらいいなと思っています。

田中 僕は人を楽しませながら生き続けたいと思っているので、お客さんに何か、うーんと考えるような思いを持ち帰ってもらいたいというよりも、生だからこそのエネルギーを楽しんで観てもらいたいし、そしてこの芝居の話をみんなでしてもらいたいなという願いがあります。

小川 世界が本当に終わるかもしれないということが、こんなにリアルに感じられてしまうのは、とんでもない悲劇だと思っています。ただ……「エンドゲーム」の草稿では舞台が野戦病院だったそうです。台本を読むとすべての生命が途絶えて、この人たちしか残っていない、終わりに向かっていく世界の中で、“それでも終わらせないための力”が人間にまだ残されているはずだ、ということを描いた作品のように感じています。人間は終わらせる力を持ってしまっているけれども、終わらせないための力も持っているんだ、ということを描けたらいいなと思っています。

前列左から中山求一郎、近江谷太朗、後列左から佐藤直子、小川絵梨子、田中英樹。

前列左から中山求一郎、近江谷太朗、後列左から佐藤直子、小川絵梨子、田中英樹。

プロフィール

小川絵梨子(オガワエリコ)

東京都生まれ。翻訳家・演出家。2004年、ニューヨーク・アクターズスタジオ大学院演出部卒業。2006から2007年に、平成17年度文化庁新進芸術家海外研修制度研修生。2018年9月より新国立劇場の演劇芸術監督に就任。近年の演出作品に、「エクウス」「ヴォイツェック」「ピローマン」「デカローグ」「ART」「おやすみ、お母さん」「管理人」「レオポルトシュタット」「ダディ」「アンチポデス」「ダウト~疑いについての寓話」「検察側の証人」「キネマの天地」「ほんとうのハウンド警部」「ユビュ王」「タージマハルの衛兵」「死と乙女」「骨と十字架」「WILD」「熱帯樹」「スカイライト」「出口なし」「マクガワン・トリロジー」「1984」「FUN HOME」「The Beauty Queen of Leenane」「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」「CRIMES OF THE HEART-心の罪-」「マリアの首-幻に長崎を想う曲-」「死の舞踏 / 令嬢ジュリー」「コペンハーゲン」「スポケーンの左手」「RED」など。6月から8月にかけて「セールスマンの死」、7月から8月にかけて「20の物語 ─週末を、劇場で─」、11・12月に「ロックンロール」が控える。

近江谷太朗(オウミヤタロウ)

北海道帯広市出身。1989年に演劇集団キャラメルボックスに入団。2002年に退団したのち、さまざまな舞台・映像作品に出演。近年の主な出演作品は、映画「威風堂々~奨学金って言い方やめてもらっていいですか?~」「パタリロ」、テレビドラマ「大追跡~警視庁SSBS強行犯係」「プライベートバンカー」「モンスター」、舞台はIN EASY MOTION「いきない─ケシの花に囲まれて─」、演劇集団キャラメルボックス「ミスター・ムーンライト」、ala Collection「フートボールの時間」、NAPPOS PRODUCE「ナミヤ雑貨店の奇蹟」、wonder×works「幸福論」、艶∞ポリス第12回公演「恥ずかしくない人生」、JACROW#32「キョウカイセン」など。映画「Piccola felicità(ピッコラ・フェリチタ)~小さな幸せ~」が4月24日に公開。7月にプリエールプロデュース 舞台「父よ!」、2027年に映画「波の先へ」が控える。

佐藤直子(サトウナオコ)

福島県生まれ。1988年に円演劇研究所に入所し、1991年に劇団員に昇格。2008年に退所。主な出演作に映画「シサム」「コーヒーが冷めないうちに」「紙の月」「たみおのしあわせ」「ぐるりのこと。」「ハッシュ!」、テレビドラマ「名もなき毒」「ペテロの葬列」、舞台は名取事務所「カタブイ、2025」、M&Oplaysプロデュース「帰れない男~慰留と斡旋の攻防~」、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「蜘蛛巣城」、明後日「青空は後悔の証し」、シス・カンパニー公演「ヘッダ・ガブラー」、葛河思潮社「浮標」、Bunkamura「恋する妊婦」など。

田中英樹(タナカヒデキ)

神奈川県生まれ。2001年、劇団テアトル・エコーに入団。2004年より日本版「セサミストリート」のパペティアとして活動。主な出演作にテレビドラマ「あなたを奪ったその日から」「ラーメン大好き小泉さん」、吹き替えに映画「シンデレラ(’15)」「塔の上のラプンツェル」「モンスターズ・インク」など。舞台は劇団テアトル・エコー「11ぴきのネコ」、「大正パンデミック~喜劇 猛威を振るう~」「ママごと」「カレンダー・ガールズ」「淑女はここにいる「フレディ」」、ノックノックス「人魚姫」、文化座「太陽の棘」、江戸糸あやつり人形座 人形音楽劇「泣いた赤鬼」など。

中山求一郎(ナカヤマキュウイチロウ)

埼玉県生まれ。大学在学中に映画「恋人たち」のワークショップオーディションを受け、2015年に同作でデビュー。主な出演作に映画「碁盤斬り」「茶飲友達」「あんのこと」、テレビドラマ「シナントロープ」「異人アンドロ氏」「花咲舞が黙ってない」「厨房のありす」など。舞台はKAAT×城山羊の会「勝手に唾が出てくる甘さ」、三月倶楽部「センスセンスセンス・オブ・ワンダー」、劇団た組「ドードーが落下する」、KAATキッズ・プログラム2024「らんぼうものめ」、「話してくれ、雨のように」、パルコ・プロデュース「裏切りの街」、城山羊の会「ワクチンの夜」、「ダニーと紺碧の海」、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「ルーツ」など。