ステージナタリー10周年記念トークイベント「植木豪×藤田俊太郎と振り返る10年」より。左から植木豪、藤田俊太郎。

植木豪×藤田俊太郎、初対談で尽きぬトーク ステージナタリー10周年記念イベントレポート

植木の「生はAIに負けない」自負、藤田の「劇場はオアシス」という指針

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ステージナタリー10周年記念トークイベント「植木豪×藤田俊太郎と振り返る10年」が、4月20日に東京・ユーロライブで開催された。

本ニュースサイト・ステージナタリーが企画したこのイベントには、演出家の植木豪藤田俊太郎が登壇。公の場で初対談となる2人は当日、楽屋で顔を合わせた瞬間から互いへの興味が尽きず、演出方法などについての会話が止まらなかった。ステージ上でも、演出に対するこだわりや共感、互いの作品への探究心あふれる濃密なクロストークが繰り広げられた。本コラムではイベントの模様を詳しくレポートする。

ステージナタリー10周年記念トークイベント「植木豪×藤田俊太郎と振り返る10年」より、植木豪。

ステージナタリー10周年記念トークイベント「植木豪×藤田俊太郎と振り返る10年」より、植木豪。 [高画質で見る]

互いの作品に受けた衝撃

まず話題に上がったのは、互いの演出作品を観た感想から。藤田演出のミュージカル「ISSA in Paris」について、植木は「日頃、僕の隣にいる演出助手が藤田さんの大ファンなこともあり、すごく楽しみにして観に行ったんですけど、素晴らしかったですね。僕にないものをすべて持っていらっしゃると思いました(笑)」とうらやましげな表情を浮かべつつ、特に「繊細な影の使い方に驚いた」と話す。「演出家にとっては、実際の劇場に入ってから行う“場当たり”が勝負。照明を決める“明かり作り”には“命をかけないといけない”んです。藤田さんには、稽古場の時点で舞台上の画が見えていたのか、それとも劇場で生まれたものなのか、会ったら必ず聞こうと思っていました。僕はビビリなので、事前にめちゃくちゃ計画していくタイプなんですけど」と、藤田の創作の裏側に関心を寄せた。

ステージナタリー10周年記念トークイベント「植木豪×藤田俊太郎と振り返る10年」より、藤田俊太郎。

ステージナタリー10周年記念トークイベント「植木豪×藤田俊太郎と振り返る10年」より、藤田俊太郎。 [高画質で見る]

対する藤田は、植木が演出した「『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stage」(以下ヒプステ)の最新公演「Fling Posse & 麻天狼 feat. 鬼瓦ボンバーズ & D4」を観劇したときのことを振り返り、「ヒプノシスマイクを通したバトルのほかにも、言葉や身体でぶつかり合う、演劇ならではの対決要素が詰まっていて、スリリングで情熱的でした。映像、美術、脚本などすべてに植木さんが携わっていらっしゃると知ったとき、なんて繊細な方だろうと感じました。それと、お客様の熱量。盛り上がるときと静かなときのメリハリにもびっくりしました(笑)」と客席で感じた衝撃を語った。

「あれは発明ですか?」藤田が震えたリングライト文化

さらに藤田を驚かせたのは、観客たちが腕に装着している発光型のリングライトだったという。藤田は「パイナップルのような見た目の……あれは(ヒプステの)発明ですか? 何かを振っているときは拍手ができないという鉄則があったはずなのに、あれは振りながら拍手することができる。これぞ、舞台を応援する方々が編み出した、特許ものの“観客スペシャル”だと思います」と絶賛。「開演前にお客さんを観察していたら、前の席の方がつけていて、さらに前の方も違う種類のものをつけていて……よく見たら僕だけつけていない。これはどういう世界に誘われてしまうんだろうと思いました」と、未知の文化に出会った衝撃を興奮気味に振り返った。植木が「いくつも装着することで(「ガンダムシリーズ」に登場する)ガンキャノンのように強そうになっている方もいらっしゃいますよね(笑)」と“武装”したファンの姿を例えると、心当たりのある観客から笑い声が上がった。

スタッフとの攻防戦!「ダメ」に抗い続ける演出家のこだわり

ステージナタリー10周年記念トークイベント「植木豪×藤田俊太郎と振り返る10年」より。左から植木豪、藤田俊太郎。

ステージナタリー10周年記念トークイベント「植木豪×藤田俊太郎と振り返る10年」より。左から植木豪、藤田俊太郎。 [高画質で見る]

続けて、2人の演出面での具体的なこだわりと、スタッフとのリアルなせめぎ合いが明かされた。植木は「僕はよく影を使うので、影の使い方の難しさは知っていますが、『ISSA in Paris』での影の組み込み方は相当大変だったはず」と興味津々。さらに自身の苦労を重ねてこう話した。「僕はレーザーをよく使用するんですけど、スタッフに『客席にブワーッといきたい(前方から後方までなでるように照らしたい)んだ』と言っても『絶対ダメです! 観客の目に入ったらダメです』と却下されて。でも『ISSA in Paris』を観に行ったら、『ブワーッと来とるやないか!』と(笑)。帰ってスタッフにそのことを伝えましたが、また『ダメです』と一蹴されて(笑)」。これに対し藤田は、「僕は『お客さんに当てても危険がないんですか?』と聞いたら『ないです』と断言されたので」と述べると、植木は「ほら見たことか!」と言わんばかりの表情を見せ、会場は笑いに包まれた。

藤田は「僕も影の演出をよく使いますが、影は照明プランナーや映像の方泣かせなんですよ。影というのは普通にしているとたくさん生まれるものなので、影をコントロールするには、照明が10個ついているとしたら9個切らなくてはならず、『藤田くん、それは不可能です』と言われるんです。事前に脳内で考えて緻密な打ち合わせをしても、明かりづくりの場で理想に近づかないことがある。そこで、僕の場合は『もう少しお願いします』と淡々と言って粘るんです。『藤田くん、これが限界です』と言われても、『先のシーンに行くために、ここでこういう影が必要なんです。お願いします』と頑なに伝える。周囲に『この人は本当に話が通じない』と思わせて、あとは待つ(笑)。そうやってなんとか実現しています」と裏技を明かした。これには植木も「これは強い! 一番の武器ですね。僕も心を強く持って、待ちます」と感銘を受けていた。

ステージナタリー10周年記念トークイベント「植木豪×藤田俊太郎と振り返る10年」より。左からステージナタリーの熊井玲編集長、植木豪、藤田俊太郎。

ステージナタリー10周年記念トークイベント「植木豪×藤田俊太郎と振り返る10年」より。左からステージナタリーの熊井玲編集長、植木豪、藤田俊太郎。 [高画質で見る]

演出家として歩んだそれぞれの10年

イベントのメインテーマである“この10年の振り返り”に話が及ぶと、植木は「2016年はちょうど僕が演出を始めた頃。それまでは役者とアーティストをやっていましたが、当時、日本の舞台業界には僕のようなストリートダンサー出身の人間はいなかった。でも海外では、友達のダンサーたちが舞台で活躍していて、日本は少し遅れているのではと感じました。僕が思うに、舞台というのは、古代からずっと、その時代ごとの最新のパフォーマンスが行われてきた場所。だから日本でも、クラシックなものと最先端が融合した舞台が総合芸術としていろいろな世代に届くべきだと思いながら演出の世界に入りました」と振り返る。「でも、2.5次元舞台は、日本だけで歴史を重ねてすごく進化している。ブロードウェイに行って帰ってくると『日本のほうがやれていることが幅広くない?』と思うことも増えてきて、これはみんなで切磋琢磨して日本オリジナルのものが生まれてきた結果だと思うんです。僕の中では映画『スパイダーマン』も、人間がマンガを表現するという部分で2.5次元舞台と同じなのですが、あちらの映画シリーズが常に最新のものをやり続けているように、僕も原作で受けた衝撃を“今の感覚”で舞台で伝えたい。自分のフィールドでは、そういった部分がこの10年で進化してきたのではないかと感じています」と語った。

一方、蜷川幸雄作品に演出助手として2015年まで携わっていた藤田は「2014年に初めてプロデューサーから声をかけていただき、自主公演以外で演出する機会をいただきました。ですので、この10年は僕自身が演出家として歩んできた時間のすべてです。ミュージカルやストレートプレイ、一人芝居など、やりたかった表現に少しずつ挑戦し、実現することができました。また、自分の脳内になかった言葉や物語をプロデューサーから提案していただくなど、思いも寄らない作品との出会いに恵まれた10年でした」と思いを馳せた。

「俺が画を超えるんだ」植木が語る、役者の覚悟が生む不変の感動

ステージナタリー10周年記念トークイベント「植木豪×藤田俊太郎と振り返る10年」より、植木豪。

ステージナタリー10周年記念トークイベント「植木豪×藤田俊太郎と振り返る10年」より、植木豪。 [高画質で見る]

「この10年、観客に変化を感じるか?」という問いに対しては、植木は「人を熱狂させるものは変わらないと思っています。誰かが本気で挑む姿に『こいつすごいな』と感じるのは、何年経っても変わっていない。演出にテクノロジーを多用する僕ですが、演出を始めた頃から役者のみんなに言っているのは『それら全部を超えてくれ』ということ。原作キャラクターに扮して出てくる役者の『俺が画を超えるんだ』という覚悟には僕も毎回鳥肌が立つし、『カッコいい』と思う。8年間続く『ヒプノシスマイク』シリーズでもそこはまったく変わっていないし、お客様が反応してくださるポイントも初演から最新公演まで変わっていません。その“超える”意識は作品を作るときも、自分がパフォーマーとして出るときも絶対に譲らないでいたい部分です」と言葉に力を込めた。

劇場が本来持つべき「優しさ」を守りたい

ステージナタリー10周年記念トークイベント「植木豪×藤田俊太郎と振り返る10年」より、藤田俊太郎。

ステージナタリー10周年記念トークイベント「植木豪×藤田俊太郎と振り返る10年」より、藤田俊太郎。 [高画質で見る]

藤田は「役者が演出家から『全部超えてくれ』と言われたら、本当にやる気になりますよね。そしてそれがお客様の熱狂につながるんですね」と深くうなずきつつ、それらを取り巻く環境の変化にも着目した。藤田は「コロナ禍で、劇場が当たり前にある場所ではないと再認識し、『今、観るんだ』と覚悟して来場されたお客様の数年間の体験が、今でも続いていて、もしかしたら(観客の)熱狂度は上がったのかもしれないと感じます。ただ、一方では物価高騰により、材料費が上がる中でチケット代も上げざるを得ない状況があり、2回来られていた方が1回しか来られない、あるいは観劇をあきらめる瞬間がある。作り手として、お客様にもっと優しくならないといけない、と思います。劇場は優しさを感じる場所でもあると思うので。この先、向き合わなければならない課題がたくさんあると思っています」と、真摯に語った。

AIには「負けない」人と人のつながり

最後に、AIの普及が加速する現代におけるテクノロジーとの共存や、未来の劇場への思いについて語られた。藤田は「植木さんの舞台がこれだけ多くのお客様に夢や感動を与えているのは本当に素晴らしいこと。劇場がオアシス、潤いの場所になっている様子を、先日、直に拝見して、これが一つの目指す場所だと思いました。お客様にこのように足を運んでいただくための努力を、この先の10年も続けていくことが何より大事なのだと思います」と述べる。

植木は「僕は“生”が負けることはないと思っています。なぜなら、我々は日々練習しているから。『豪くん、また一回転多くなったね』と(観客に)思わせたい。そうした人と人との温かい関係や積み重ねてきた時間は、AIには作り出せないもの。テクノロジーと“生”がちょうど競い合っている今の状態は一番面白い時代だと思いますが、僕たちはすでに、AIには負けないものを持っている」と話す。続けて「藤田さんが手がけられているような、舞台の伝統的な温かさと最新技術を融合させている作品も、絶対に負けないと思います。僕も現役プレイヤーのときにお会いして、藤田さんの作品に出たかったな、と感じるほど」と藤田に視線を送る。さらに、「『ヒプノシスマイク』の8年間の歴史も、皆さんが作ってくれたもの。今、ライブでお客さんがリングライトで盛り上がっている文化も、自分がデビューしてから応援してくださる方との関係も、AIには作れない。そういうものを大事に一日一日をちゃんと生きていけば、素敵なものが生まれるのではないかなと。今日、この場に呼んでいただいたのも、そうしたもののおかげです。AIには『この2人を引き合わせよう』なんてできないじゃないですか(笑)。周りの関係があったから、僕は『藤田さんにお会いしてしゃべってみたい』と思った。こうしたつながりをアーティストも役者も舞台を作る人も全員が大事にしていれば、お客さんはずっと応援してくれるし一緒に舞台を作ってくれると思うので、すごく大事なことだと思っています」と、力強く語った。

ステージナタリー10周年記念トークイベント「植木豪×藤田俊太郎と振り返る10年」より。左から植木豪、藤田俊太郎。

ステージナタリー10周年記念トークイベント「植木豪×藤田俊太郎と振り返る10年」より。左から植木豪、藤田俊太郎。 [高画質で見る]

このほか、イベントでは来場者から事前募集した質問に直接答えるコーナーも設けられた。演出のアイデアが生まれる瞬間や、この10年で大変だった仕事にまつわるエピソード、さらに若さを保つ秘訣まで、2人は時に笑いを交え、時に真剣な表情で回答。多岐にわたる話題で盛り上がり、予定時間を超えるほどたっぷりと語られた豊かな時間は、惜しまれつつ幕を下ろした。

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