秋山瑛・笹本玲奈が語る、“再演”で生まれる新たな表現 東京バレエ団「かぐや姫」

舞踊家、振付家、演出家の金森穣が演出・振付を手がけ、2021年に第1幕、2023年に第2幕の初演を経て同年全幕が世界初演された「かぐや姫」が、2026年5月に東京文化会館にて再演される。「竹取物語」を題材に、ドビュッシーの音楽に乗せて、金森が自身の舞踊の方法論とバレエの伝統的なスタイルを掛け合わせて生んだ本作は、2027年5月には、フランス・パリのオペラ座 ガルニエ宮での全幕上演も決定した。東京バレエ団のプリンシパルである秋山瑛は初演に続き、今回の公演でも、かぐや姫を演じる。

日本から世界へ、注目が高まる「かぐや姫」再演に向けて、ステージナタリーではバレエの可能性を拡張し続ける秋山と、ミュージカル「メリー・ポピンズ」でタイトルロールを好演中の笹本玲奈による対談を実施した。“バレエ”という共通点を持つ2人は、初対面にもかかわらず、すぐさま意気投合。再演を目前に控えた秋山、まさに今再演に挑んでいる笹本、それぞれが舞台にかける思いを語った。

取材・文 / 富永明子(サーズデイ)撮影 / 平岩享
[秋山瑛]ヘアメイク / 下田英里衣裳協力 / Max Mara
[笹本玲奈]ヘアメイク / 柿原由佳

小さいときに夢を見つけられたのは、幸せなこと(笹本玲奈)

──現在、ミュージカルの世界で活躍されている笹本さんですが、子供の頃にクラシックバレエを習っていらしたとお聞きしました。

笹本玲奈 そうなんです。私は9歳のときに「アニー」というミュージカルを観て、ミュージカル俳優になりたいと思って、10歳からバレエやジャズダンスを習い始めました。

秋山瑛 歌のお稽古も同時期に始めたのですか?

笹本 歌は12歳のときに「ピーター・パン」のオーディションに合格してから始めました。ダンスがすごく好きで、毎日ダンススタジオに通っていましたね。

秋山 10歳でもうプロを目指して習い事を始めたなんて、すごいです!

左から笹本玲奈、秋山瑛。

左から笹本玲奈、秋山瑛。

笹本 小さいときに夢を見つけられたのは、幸せなことだったと思っています。母は宝塚歌劇団の出身だったので理解があったのですが、父はまったく舞台に関係のない仕事をしていたので、芸能の世界で娘が揉まれるのは心配だったみたいですね。12歳のときに「ピーター・パン」のオーディションに合格してからは、積極的に応援してくれるようになりました。秋山さんはいつからバレエを?

秋山 7歳のときに、私もバレエの舞台を観たのがきっかけで、自分から「やりたい」と言ってバレエを習い始めました。始めてみたらすごく楽しくて、一度も辞めたいと思うこともなく続けて今に至ります。

先ほど笹本さんが主演されているミュージカル「メリー・ポピンズ」を拝見していたら、終演後に前に座っていた小さな子が「舞台が終わってしまったのが悲しい」って泣いていて。そういう感動がきっかけで、今後ミュージカルの世界を目指す子もきっと多いですよね。

笹本 自分がそのきっかけになれたら、すごくうれしいです!

再演までの時間に得た経験が、1つの役に別のアプローチを生む(秋山瑛)

──秋山さんは「メリー・ポピンズ」をバレエ的な視点からご覧になって、どんなふうに思いましたか?

秋山 バレエを習った経験がある人はよく「姿勢がいい」「立ち姿がきれい」と言われますが、まさにその通りで、笹本さんの身のこなしや動き、姿勢がとてもきれいでした。

笹本 ありがとうございます! メリー・ポピンズ役って型が決まってるんですよ。足は必ず1番(かかとをつけてつま先を外側に開くバレエのポジション)に開いて、肩は両側に開いて下げて、手はお腹の前で組んで……。型を守って演じるうえで、バレエを習っていたことが助けになりましたね。

秋山 今もバレエは続けていらっしゃるのですか?

笹本 本格的には踊れていないのですが、体力があるときはトレーニングがてら、今もバーレッスンに行くことはありますね。あと、舞台のときにみんなでバーレッスンをする時間があるので、それによく参加しています。「メリー・ポピンズ」にもバレエダンサーの方がたくさん出演しているので、お稽古中によく観て、手の使い方や脚の置き方などを学んでいます。セリフも歌もなく、踊りだけですべてを表現するバレエダンサーって、本当にすごいと思います。しかも、つま先立ちのトウシューズで!

秋山 私からすると、ミュージカルの方は歌って踊って演技もするなんて、やることが多すぎてすごいです。しかも、ヒールであんなに速い振付を踊るなんて。「メリー・ポピンズ」の舞台ではお客さまからの手拍子もあって、どんどんテンポが速くなっていくのに、乱れることなく踊っていて感動しました。あと、小道具の数も多いですよね。私は舞台上の小道具の扱いって、一番難しいんじゃないかと思っているんです。バレエでもお花を投げたり、グラスを投げたりするシーンがあるのですが、とんでもないところに飛んでいってしまうこともあって(笑)。

秋山瑛

秋山瑛

笹本 私も小道具の扱いには苦労していて、メリー・ポピンズは生地が網状の手袋をしているので、小道具や衣裳に引っかかりやすくて、穴を開けたこともありました。

秋山 ドキドキしますよね。私は今も舞台に出るとき、間違えたらどうしようとか、急に振付が飛ぶんじゃないかとか、不安な気持ちがずっとあります。

笹本 私もあります。開演前はいつも、急にセリフが出てこなくなって舞台を止めてしまったらどうしようという恐怖感がありますね。今回の「メリー・ポピンズ」は舞台装置が全部オートメーションでプログラミングされていて、セリフや歌詞できっかけが決まっているので、間違えられないプレッシャーがかなり大きいです。

──秋山さんは5月5・6日に「かぐや姫」の主役を踊られます。「かぐや姫」は3年前の全幕世界初演からの再演になりますが、笹本さんも「メリー・ポピンズ」に出演するのは4年ぶりですよね。再演で同じ役を演じるとき、心がけていることはありますか?

笹本 私は前回のときのことは忘れてしまったほうがいい、と思っています。

秋山 わかります! 再演までの数年の間に、お仕事だけでなく、人との関わりなどを通して人間的にも経験を積んでいるので、同じ役でも違うアプローチができるようになって、新しい表現が生まれてくる生まれてくることもあります。だから、前回こうだったからと固めすぎずに、新鮮な気持ちで取り組んだほうがいいのではないかなと思います。

笹本 新しいキャストが加わったり、演出も変わったりするので、前のことを覚えているとそれを引きずって更新できないこともありますよね。自分自身がひと段階、上にいくためにも、基本的に前のことは忘れて、まっさらな状態で再演に臨んだほうがいいと思っています。ミュージカルは再演がけっこう多いんですけど、そのたびに全部忘れるようにしていますね。

秋山 よく「相手の方が変わると、同じ作品でも表現は変わりますか?」と聞かれますが、本当にそのとおりで。今回の「かぐや姫」は前回とパートナーが違うので、表現も変わるし、日によっても違うし……これは“生の舞台”のよさだなと思います。生まれるものが毎回違うので予想ができないのですが、それがまたいいですよね。

笹本 演じる人によって解釈が違うので、相手が変われば表現も変わりますよね。生の舞台はお客さまの反応も毎回違うので、それによってもアピールの仕方が変わってくる。1回1回が最初であり、最後なのは、舞台の醍醐味だなと思います。

笹本玲奈

笹本玲奈

秋山 生の舞台には、人が発しているエネルギーを体感できる喜びがありますよね。それは舞台上だけで感じるのではなくて、客席にいるお客さまからも感じます。物語は舞台上で起きていますが、拍手や手拍子、息をのむ瞬間とか、お客さまのリアクションも含めて、一緒に舞台を作っていると感じる瞬間が必ずある。映像も好きですが、舞台にはそれとは違う何かがある。劇場っていいなと思います。

謎めいた人物をどう演じるか

──秋山さんのかぐや姫と笹本さんのメリー・ポピンズ、どちらも“人間のようでいて、実態が知れない”役ですが、工夫されていることはありますか?

秋山 私は子供の頃から「メリー・ポピンズ」の本が好きで読んでいて、ずっと「メリー・ポピンズって何者なんだろう?」と思っていました。いつから生きてきて、どんな存在なんだろうって。

笹本 確かにそこは気になりますよね。人間なのか、宇宙人なのか、マジシャンなのか(笑)。でも、それはご覧になったお客さまの感じたものでいいのではないかと思うので、私からあえて「こう思っています」とは言わないようにしています。ただ、原作のメリー・ポピンズがちょっと冷たい感じなのに対して、ディズニー映画のメリー・ポピンズはすごく温かい。だから今回は、原作にある雰囲気と映画版にあるファンタジー的な部分、両方の“いいとこ取り”をしたいと思って演じました。

ミュージカル「メリー・ポピンズ」(2026年公演)より。©Disney/CML

ミュージカル「メリー・ポピンズ」(2026年公演)より。©Disney/CML

秋山 確かに笹本さんのメリー・ポピンズは温かさがあって、愛に溢れていて、でもミステリアスな部分は原作と変わらなくて、わくわくしました。私もかぐや姫は、なぜ月から来たのかとか、どんな存在なのかとか、答えを求めなくていいのかなと思っています。かぐや姫というのは、周りの方からの見え方によって彼女の輪郭が見えてくるキャラクターでもあると思うので、あまり作り込みすぎないほうがいいのかなと。

──お二人が表現を深めるため、普段から心がけていることを教えてください。

笹本 読書も好きですし、バレエやオペラもよく観ますね。バレエは踊りで、オペラは歌ですべてを表すので、その突き詰めた表現はとても参考になります。あと、音楽はやはり助けになりますね。稽古場ではずっとピアノで練習してきても、オーケストラが入ると「ここは木琴が出す音だったんだ。それならもっと軽やかに踊ろう」というように、楽器の音色に合わせて表現を調整することもあります。

秋山 私は、「かぐや姫」のリハーサルで振付・演出の金森穣さんに「自分が起こすアクションは全部リアクションだよ」というアドバイスをいただいたことが心に残っていて。特に相手がいる場合、自分から発するものは常に、相手へのリアクションだということを忘れないようにしています。たとえば肩に手を置かれるシーンのとき、優しく触れられたのか、強くつかまれたのかによって、リアクションは変わりますよね。でも、自分の中で「このシーンでは強く感情を出したい」と決めすぎていると、優しく手を置かれても強い反応をしてしまって、ちぐはぐになってしまう。表現するうえで、常に相手ありきだということを大切にしたいと思っています。

東京バレエ団「かぐや姫」過去公演より。(Photo by Shoko Matsuhashi)

東京バレエ団「かぐや姫」過去公演より。(Photo by Shoko Matsuhashi)

──お二人とも長い年月、舞台に立ち続けていらっしゃいますが、どんなこと、ものが続けるための原動力になっていますか?

笹本 観に来てくださる方がいるのが大きいですね。だから絶対、体調を崩して休演したくないと思っています。

秋山 ミュージカルは上演回数がバレエよりはるかに多いので、体調を崩すとダメージが大きそうですよね。

笹本 本番中は風邪を引くのが怖くて外にあまり出られなくて……。のどのためにも家の中は熱帯雨林くらいに加湿しています(笑)。

秋山 私の原動力は“好き”ということですね。実は自分の姿が映像や写真に残るのが、あまり好きではないんです。でも、舞台上で何かを表現することはすごく好き。舞台上の出演者だけでなく、お客さんも含めて全員で作り上げるプロセスも好きですね。全員の情熱が作品に向かって集まっていくのは、何度経験してもいいもので、幸せな気持ちになります。

笹本 幸せですよね。「メリー・ポピンズ」はハッピーエンドの作品なので、お客さまにも幸せな気分になっていただきたいと思っています。キャストもみんな、終演後に身体は疲れていても気持ちは晴れやかで。すごくいいサウナに入った日みたいな気持ちで帰宅しています。5月9日までは東京で、5月21日からは大阪公演が始まるので、たくさんの方に笑顔を届けたいですね。

秋山 今日の舞台から幸せのおすそ分けをいただきました! 私ももうすぐ「かぐや姫」が上演されますが、前回よりもっとよくできるところがたくさんあると思うので、新たな気持ちでかぐや姫と向き合いたいと思っています。しかも来年5月に、パリ・オペラ座で上演することが決まったんです。今日の幸せな気持ちをもとにがんばります!

左から笹本玲奈、秋山瑛。

左から笹本玲奈、秋山瑛。

プロフィール

秋山瑛(アキヤマアキラ)

埼玉県生まれ。7歳よりバレエをはじめる。東京バレエ学校を2012年に卒業後、リスボンの国立コンセルヴァトワールに留学。卒業後はイタリアのカンパーニャ・バレット・クラシコに入団。在籍中にイタリアのmabコンクールで特別賞受賞。2016年1月東京バレエ団入団。2024年に芸術選奨文部科学大臣賞新人賞を受賞。金森穣「かぐや姫」のかぐや姫役でブノワ舞踊賞2024の最優秀女性ダンサー賞にノミネートされた。主なレパートリーに「眠れる森の美女」オーロラ姫、「くるみ割り人形」マーシャ、スペイン、「ドン・キホーテ」キトリ、キトリの友人、キューピッド、「ラ・バヤデール」ニキヤ、「ジゼル」ジゼル、ラコット版「ラ・シルフィード」ラ・シルフィード、エフィー、「海賊」メドーラ、「ザ・カブキ」おかるなど。

笹本玲奈(ササモトレナ)

千葉県生まれ。1998年にブロードウェイミュージカル「ピーター・パン」のピーター・パンを演じて舞台デビュー。2007年に第32回菊田一夫演劇賞の演劇賞、2008年に第15回読売演劇大賞優秀女優賞および杉村春子賞を受賞以降ミュージカルを中心に舞台やテレビ等で活躍。主な出演舞台に、「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」「マリー・アントワネット」「ジキル&ハイド」「ラブ・ネバー・ダイ」「ハリー・ポッターと呪いの子」など。現在、濱田めぐみ、朝夏まなととのトリプルキャストでタイトルロールを務めている「メリー・ポピンズ」は、東京・東急シアターオーブ公演が5月9日まで、大阪・梅田芸術劇場 メインホール公演が21日から6月6日まで上演される。