神奈川県では、“ともに生きる社会かながわ”を実現するため、文化芸術の分野において“ともに生きる ともに創る”を目標に、年齢や障がいなどにかかわらず、子どもから大人まで、すべての人が舞台芸術に参加し楽しむことができる「共生共創事業」を実施している。
このたびステージナタリーでは、「共生共創事業」2025年度プログラムの一環として実施された、精神障害を考える演劇ワークショップ・プロジェクト「IKIZAMAミュージックでぃなーしょー」と、「音の探検隊2025」の様子をレポート。本特集には、神奈川県鎌倉市にある多機能型事業所LEOで2月下旬に実施された「音の探検隊2025」ワークショップのレポートと、「音の探検隊」に参加する打楽器奏者の若鍋久美子、ボーカリストの伊神柚子のインタビューを掲載する。また神奈川県公式YouTubeチャンネルの「かなチャンTV」では、「音の探検隊2025」のドキュメンタリー映像を公開中。こちらも併せてチェックしよう。
取材・文 / 興野汐里
3年目を迎えた「音の探検隊」の歩み
「音の探検隊」は、若鍋と伊神が中心となって、2023年度から福祉施設等で実施している音のワークショッププロジェクト。2023年度には、神奈川県平塚市にあるスプラウトで全7回のワークショップが行われた。2024年度には、平塚市内にある5カ所の福祉施設でワークショップが実施されたのち、2025年2月にひらしん平塚文化芸術ホールで参加型音楽イベント「あつまれ!音の探検隊 in 平塚」が開催された。3年目に突入した2025年度の「音の探検隊」では、2025年5月に神奈川県横浜市のKAAT神奈川芸術劇場で開催されたKAATフレンドシッププログラム「KAATマルシェ」内でワークショップが実施されたほか、平塚市にあるソーレ平塚 / ソーレ平塚地域支援センターと、鎌倉市にある多機能型事業所LEOでそれぞれ3回にわたってワークショップが行われた。
「KAATマルシェ」でのワークショップには、若鍋と伊神、ピアニストの杉本亮、アコーディオン奏者の土屋恵が参加し、会場を訪れた観客たちと音楽や身体表現を通して交流を図った。
ソーレ平塚 / ソーレ平塚地域支援センターでは、2025年12月から2026年2月にかけて3回のワークショップが実施され、若鍋と伊神に加えて、バイオリニストの五十嵐歩美、音楽家の小日山拓也がゲスト出演した。
0歳から18歳までの重症心身障害児・医療的ケア児を対象に、児童発達支援・放課後等デイサービスを提供している多機能型事業所LEOでは、2025年12月から2026年2月にかけて全3回のワークショップが行われた。12月にはチェリストの袴田容、1月にはギタリストの紺田凌平、2月には杉本がゲストアーティストとして参加。今回は2月下旬に行われたワークショップの様子をレポートする。
「わー!」と声を出してアーティストを歓迎
最高気温20℃を記録し、一気に春の訪れを感じた2月下旬のある日、多機能型事業所LEOで行われた3回目のワークショップを取材した。JR大船駅からバスで10分ほどの閑静な場所にある多機能型事業所LEOは、民家をバリアフリーに改装した施設。施設の敷地内には広々とした庭があり、施設の裏手では樹林が緑をたたえている。この日のワークショップには、1歳から18歳までの児童発達支援利用者と放課後等デイサービス利用者が参加した。
“まめ”“ゆず”“すぎ”と書かれた名札をつけた若鍋、伊神、杉本の3人は、ワークショップ開始10分ほど前から、子どもたちが待機する居間へ楽器を運び、軽く音を鳴らして子どもたちが音に慣れやすいように環境作りを始めた。居間では、子どもたちが大きな円を描くように座り、1人ひとりの後ろで職員が子どもたちの身体を支えている。杉本が奏でる優しいピアノの音色が流れる中、若鍋が「こんにちは! 今日はよろしくお願いします」と参加者に向けてあいさつ。すると、1人の子どもが笑顔で「わー!」と声を発し、3人を歓迎した。
若鍋は「さあ、最初はこの曲からいくよー! 『パレード』!」と子どもたちに呼びかけ、鉄琴とペルー発祥の木箱型打楽器・カホンを用いて「パレード」を演奏。続いては、広い世代から愛されているナンバー「マツケンサンバⅡ」だ。「マツケンサンバⅡ」では、子どもたちが好きな打楽器を選び、即興的なセッションに挑戦。ある子どもはカホンが気に入ったようで、若鍋と一緒にリズム良くカホンを叩き、また別の子どもは手に持った楽器を揺らして、ジャラジャラと音を鳴らしていた。
子どもたちから少し離れたところでピアノを演奏していた杉本を輪の中へ呼ぶために、若鍋が「みんなで楽器の音を出して、“すぎ”ちゃんを呼んでみよう! 準備はOK?」と子どもたちに声をかけると、1人の子どもが両手を挙げてOKサインを出す。その様子を見ていた若鍋、伊神、職員らから温かい笑顔がこぼれる。子どもたちがドコドコと太鼓を鳴らす音に導かれて、杉本は鍵盤ハーモニカを手に円の中へ移動。このコーナーでは「犬のおまわりさん」と「だんご3兄弟」が演奏され、曲が終わると、とある子どもは拍手の代わりに太鼓を元気よく叩いて喜びを表した。
若鍋は打楽器を一旦回収し、「みんな、これから“ゆず”ちゃんが『いのちの名前』を歌うので、じっくり聴いてください」と呼びかける。伊神は、1人の子どもを優しく腕に抱き、ゆらゆらと身体を揺らしながら「いのちの名前」を歌い、透き通った美しい歌声を響かせた。
子どもたちが紡ぐ“音の物語”「はらぺこあおむし」
ここからは、多機能型事業所LEOの職員の子ども2人も輪に加わることに。“みんなでつくる音の物語”と題したこのコーナーでは、エリック・カールの絵本「はらぺこあおむし」の物語を、さまざまな道具を用いて紡いでいく。初めに登場したのは、若鍋が自作したフルーツ型のシェーカーだ。りんご型のシェーカーの中には小豆、梨型のシェーカーにはどんぐり、すもも型のシェーカーにはBB弾、いちご型のシェーカーにはビーズ、オレンジ型のシェーカーにはクリップが入っており、それぞれ異なる音を発する。若鍋は子どもたちにシェーカーを手渡しながら、「シェーカーの中に何が入っているかわかるかな?」と声をかけた。すると、ある子どもがすぐにりんご型のシェーカーを手に取り、シャカシャカと振りつつ、梨型のシェーカーにも興味を示す。この子どもはフルーツ型のシェーカーがとても気に入ったようで、シェーカーが入っていたかごを腕にかけて、あらゆる型のシェーカーを振ったりかごに入れたりして楽しんでいた。
「はらぺこあおむし」の“あおむし”がさなぎになる場面では、参加者全員を覆うサイズの、大きな薄茶色の布が登場。布に包まれたことがうれしかったのか、とある子どもがニコニコしながら布に手を触れようとする姿を、ほかの参加者たちは微笑み合いながら見守っていた。
「はらぺこあおむし」の“あおむし”が蝶へと羽化するシーンで、若鍋が鈴付きの色鮮やかなスカーフを参加者に配布すると、子どもたちは手にスカーフを握って蝶の羽のようにヒラヒラさせたり、職員の手を借りて髪飾りにしたりと、スカーフに興味津々な様子を見せる。子どもたちが“蝶”になったところで、春の訪れを感じさせる「どこかで春が」を演奏。「どこかで春が」を歌う伊神に、1人の子どもが手を伸ばし、2人が目と目と合わせて手を握り合うひと幕も。アンコールで披露された「さんぽ」では、子どもたちが職員の助けを借りながら立ち上がって歩いたり、参加者全員で元気いっぱいに歌ったりと、3回目のワークショップは大団円で幕を閉じた。
別れの時が近づいたとき、参加者を代表して1人の子どもから若鍋へ「音の探検隊のみなさま ありがとう」と描かれた色紙が手渡された。若鍋、伊神、杉本は顔をほころばせながら、「みんな、ありがとう!」と子どもたちにお礼を述べた。
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若鍋久美子・伊神柚子インタビュー




