物語の起点はとある化石の採掘現場。バイオテクノロジーを専門とする窮理教授(深津)らは、人類の夢をかなえる研究に必要な“謎の骨”を探していた。科学の力により命をながらえることができている男タスケテ(阿部)は、科学に恩返しをするために研究所の助手になることを決意。タスケテは、採掘事業のスポンサーであるウーロン・ハイカンパニーのウーロン・チャ会長(高田)や、その弟ウーロン・デスマスク社長(橋本)による骨肉の争いに巻き込まれつつも、現代から中世へ、そして古代へと時をさかのぼることになる。
本作において重要なキーワードとなるのは“骨”と“いのち”。何者かの骨とタスケテの骨が共鳴し、タスケテの腕が震える不可思議な現象や、窮理教授が唱える「人は骨でつながっている」という“骨伝導理論”など、作品の随所に“骨”が登場する。中でも、アンサンブルキャストが互いにつないだ手と手をしなやかにくねらせて、採掘現場から発掘された恐竜の骨や、タスケテが時間をさかのぼる際に通る“骨のトンネル”を表現するシーンなどには、生物の“いのち”が連綿と紡がれてきたことを感じさせる演出が施されている。
タスケテ役の阿部は、人々の中に渦巻く欲望や思惑に翻弄されながら、苦難を乗り越えて時空を旅する純朴なタスケテを好演。窮理教授役の深津は、白衣をモチーフにした衣裳にシャープなボブヘアという出で立ちで、知的好奇心にあふれる窮理教授を凛とした演技で立ち上げる。
中世の世界でタスケテと出会うメフィスト役ほかを演じる広瀬は、場面ごとに表情と声色を変え、時に少女のような、時に悪魔のような一面を見せる。また広瀬は、野田が紡いだセリフ1つひとつを力強く発し、戯曲に込められたメッセージを観客に届ける役割を果たした。そして、物語の鍵を握るハーメルンの笛吹き男役の大倉は、持ち前のユーモラスなセリフ回しで観衆の心をつかみながら、ハーメルンの笛吹き男が次第に心に狂気を宿す過程を見事に表現した。
開幕に際し、野田は「いつかやりたいとずっと前から思っていたテーマを、作品にすることができました。この素晴らしいメンバーが揃わなければ、叶わなかったことです。長く芝居をやってきたことへのご褒美のように感じています。初めての表現もあり、お客様はどういう反応なのかなと思っていたんですが、こういう芝居も受け入れられるんだなという感じがした初日でした。役者としての私自身は序盤で台詞を間違えて、久しぶりに舞台上でうろたえました。まだ一から出直せるということが嬉しいです(笑)。たぶん、世界中のどこにも存在したことのない芝居ではないかと思います。この作品は、答えのない様々に捉えることのできる芝居なので、だからこそよりたくさんの方に見てもらえたらなと思います」とコメントした。
上演時間は約2時間20分で、東京公演は5月31日まで。その後、国内公演と海外公演が予定されており、6月6日から14日まで福岡・J:COM北九州芸術劇場 大ホール、7月22日から8月2日まで大阪・新歌舞伎座にて上演され、7月2日から11日までイギリス・Sadler's Wells Theatreにて「-320°F」のタイトルで上演される。
初日公演を終えた阿部、広瀬、深津のコメントは以下の通り。
阿部サダヲ コメント
初日から、すごいカーテンコールで感激しました。昨日のゲネプロと違って、お客さんの笑い声もたくさん感じられて、やっぱり本番はいいなと思いました。野田さんがうろたえるのを目の前で見たり、貴重な経験ができた面白い初日でもありましたね(笑)。嬉しいのは、今回新しく覚えたことが、だんだんわかるようになってきたことです。心配なこともまだまだありますが、今回、対になって出ることが多いアンサンブルのMISAKIちゃんと、息をぴったり合わせていけたらなと思います。長い公演、お客様にお楽しみいただけるように頑張ります!
広瀬すず コメント
舞台に立つのは「『Q』:A Night At The Kabuki」の再演(2022年)以来だったので、初日の感じがどうだったか思い出せなくて、開演前は未知の世界に乗り出すみたいにドキドキしました。でも、楽屋の廊下で「間違える時は間違える!」と大声で言っていた野田さんが、最初の方で本当に間違えたお陰で、「こういう時もあるよな!」とフラットな気持ちになれて助かりました。今日は、お客様の反応を感じてさらに波に乗るというか、“船が動き出す”ような感覚がすごく新鮮で楽しかったので、ずっとフレッシュな気持ちのまま楽しめたらいいなと思います。健康に気を付けて、大きい声を出して頑張っていきたいです。
深津絵里 コメント
「こんな初日は初めて」と思ったくらい、小さなアクシデントがいろいろとあり、とってもドキドキした初日でした。でも、戯曲を初めて読んだ時のまっさらな瑞々しい気持ちを、お客様に毎回届けられたらと思ったこの作品。こういう初日がふさわしいのかもしれないな、とも感じました。動きと言葉と芝居、スタッフの皆さんとの連携……本当にたくさんの要素で成り立っていて、そのどれか一つが崩れると、全てが壊れてしまいそうなほど繊細な舞台。けれども言葉はとても力強い。そのバランスを楽しんでいただけたらなと思います。丁寧で繊細な心を失わないよう、最後まで精一杯努めたいと思います。
NODA・MAP 第28回公演「華氏マイナス320°」
開催日程・会場
2026年4月10日(金)〜5月31日(日)
東京都 東京芸術劇場 プレイハウス
2026年6月6日(土)〜14日(日)
福岡県 J:COM北九州芸術劇場 大ホール
2026年7月2日(木)〜11日(土)
イギリス Sadler's Wells Theatre
2026年7月22日(水)〜8月2日(日)
大阪府 新歌舞伎座
スタッフ
作・演出:
出演
スウィング
横山千穂 /
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ステージナタリー @stage_natalie
【公演レポート】“世界中のどこにも存在したことのない芝居”、NODA・MAP「華氏マイナス320°」開幕(舞台写真 / コメントあり)
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