オフィスコットーネプロデュース「墓場なき死者」が、去る1月31日に東京・駅前劇場で開幕した。
これは、ジャン=ポール・サルトルの戯曲「墓場なき死者」を、文学座の
本作について、稲葉は「このサルトルの劇薬のような創作物にどう立ち向かうか、おこがましいことかもしれませんが、今この物語を読み解き表現することは我々人間の微々たる成長につながるのではないか、と思い創っています」と思いを述べた。公演は2月11日まで。
稲葉賀恵コメント
この劇はこれから拷問されるレジスタンスのフランス人と、拷問する対独協力者のフランス人が繰り広げる人間模様を描いています。
この極限状態の中に人間を置いてサルトルは、それでもなお自分の存在価値を求めて泥仕合を続ける人間の有様をある意味醒めた目で見つめています。そして戦争の傷跡癒えぬフランス人たちにこの作品を放ち、当時の記憶と肉薄しすぎている本作品の内容に席を立つ人が続出したと言います。
私たちはある意味、今極限状態の中にいるのかもしれません。
直面する未曾有の事態の中で、自分が価値ある人間かどうかふるいにかけられるような感覚は誰もが感じています。この状態の中でどう振る舞うのか、どう発言するのかによって全てが決裁される感覚、これはもはや新型コロナウイルスの脅威というよりも、「他者」の視線に対する脅威だと思います。
「地獄とは他人のことだ」とはサルトルの言葉ですが、まさにこの私をふるいにかけようとしているのは「他者」です。
今、他者の目は溢れる情報と急速に発達するSNSのおかげでバケモノのように肥大して、それが「社会の目」なのか「世間の目」なのかもはや分からないほどに、混沌としています。
それでもなお「他者」なしには生きていけない状況は確かに地獄かもしれない。
ただサルトルは、地獄であることを嘆くためだけに論じた訳ではもちろんありません。
「他者」という不自由さとどう向き合っていくか、そのためにどう自分が主体性を持って生き抜くのかということに執拗に拘り、追及しました。
そしてその視点は、まさしく今我々に欠乏している視点です。
このサルトルの劇薬のような創作物にどう立ち向かうか、おこがましいことかもしれませんが、今この物語を読み解き表現することは我々人間の微々たる成長につながるのではないか、と思い創っています。
オフィスコットーネプロデュース「墓場なき死者」
2021年1月31日(日)~2月11日(木・祝)
東京都 駅前劇場
作:ジャン=ポール・シャルル・エマール・サルトル
翻訳:岩切正一郎
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“サルトルの劇薬のような創作物”「墓場なき死者」稲葉賀恵「我々人間の微々たる成長に」 - ステージナタリー
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