木ノ下歌舞伎「摂州合邦辻」、「みんなで舟を漕いでいるよう」に稽古中

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2月から3月にかけて上演される木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」が、本日20日に横浜での稽古を終え、最初の上演地である京都に稽古の拠点を移す。ステージナタリーでは、横浜最終稽古の4日前に稽古場を訪れた。

木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」稽古の様子。

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木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」稽古の様子。

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「糸井版 摂州合邦辻」は、木ノ下歌舞伎とロームシアター京都による共同制作企画「レパートリーの創造」の第2弾。第1弾「心中天の網島ー2017リクリエーション版ー」に続き、FUKAIPRODUCE羽衣の糸井幸之介が上演台本・演出・音楽を務め、監修・補綴・上演台本を木ノ下裕一が担当する。

1月中旬に、木ノ下歌舞伎ではおなじみの、歌舞伎の映像を観ながら歌舞伎俳優のセリフや動きをすべてコピーする“完コピ稽古”を終えたカンパニーは、和やかな空気の中、糸井の上演台本・演出・音楽を前に稽古を行っていた。

木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」稽古の様子。左から土居志央梨、田川隼嗣。

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仮道具であるビーチボールが用意された稽古場に、俳優たちは車座になって座り、糸井はギターを抱え、木ノ下は扇子を手に台本と向き合っている。「歌わなくていいから、もっと絶叫してみて」と糸井が声をかけたのは、俊徳丸役の田川隼嗣だ。夕日に極楽浄土を願う“日想観”のシーンで、田川は、病気のために目が見えなくなった俊徳丸が、海に沈む夕日に感情を吐露する様を歌声で表現する。

初めは床に座ったまま歌っていた田川だが、「もっともっと!」と糸井に求められると、「立ってみます!」とその場で立ち上がる。すると周りのキャストも「盛り上げよう!」と立ち上がり、笑いが起きる。その“盛り上げ”の効果か、田川の声はぐんと大きくハリのあるものになり、「いい声ー!」と稽古場にいる全員から声が上がった。

木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」稽古の様子。糸井幸之介(中央)と木ノ下裕一(手前)。

木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」稽古の様子。糸井幸之介(中央)と木ノ下裕一(手前)。[拡大]

糸井の歌詞には、大坂の地名と共に天体や宇宙を感じさせる言葉が並んでおり、それらが音に乗ることで、さらに壮大な画を描き出す。糸井はギターを弾きつつ、キャストの歌声を聴き、その場で少しずつキーやテンポを変えていった。

木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」稽古の様子。

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続けて、現代の街中を思わせるオープニングの稽古へ。道端のホームレス、コンビニで買い物するサラリーマン、デパートのトイレにいるOLなど、ごく日常的な光景が、のんびりした調子の歌に乗せて描かれる。すると突然、内田慈演じる玉手が土居志央梨演じる浅香姫を打擲するシーンが挟み込まれ……。

糸井はそのシーンをセリフ付きでやったり、セリフなしでやったり、スローモーションでやったりと、さまざまな方法で試す。さらに糸井が「この前、(振付の)北尾(亘)くんがやっていた動きをこのシーンでやってみてもらえますか」と言うと、キャストは先ほどと同じ歌を歌いながら、床を這ったり、身体をぶつけ合ったり、脚を高く上げたり、動物的な動きを繰り広げる。曲は同じなのに、先ほどとはまったく異なるシーンが立ち上がり、糸井と木ノ下はその様を、時折言葉を交わしながら見つめていた。

木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」稽古の様子。武谷公雄(中央)。

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その日は、糸井の台本と音楽、動きを一部用いつつも、楽器のチューニングをしているような状況で、俳優たちもそれを心得た様子で糸井のオーダーに即座に応えていた。稽古はこの後、“糸井版”をさらに追究すべく、京都で稽古を深化させていく。上演に向け、木ノ下は「まだ誰も見ぬ作品、それぞれの想像の中にしかないイメージを擦り合わせたり、継ぎ合せたりしながら、1つひとつ地道に具現化していく作業は、莫大なエネルギーがかかるものです」と語りつつ、「みんなで舟を漕いでいるような感覚です」「もう少し、待っててね!と舟の上から叫びたい、今はそんな気持ちです」と心境を述べている。木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」は、2月10日に京都・ロームシアター京都 サウスホールにて開幕する。

なおステージナタリーでは、木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」の特集を展開中。木ノ下と糸井が、「摂州合邦辻」へのアプローチについてさまざまに語っている。

木ノ下裕一コメント

木ノ下歌舞伎約2年ぶりの新作です。
目下、座組一丸となって、ごった返しながらの創作真っ最中ですが、まだ誰も見ぬ作品、それぞれの想像の中にしかないイメージを擦り合わせたり、継ぎ合せたりしながら、1つひとつ地道に具現化していく作業は、莫大なエネルギーがかかるものです。当然、重圧もかかります。しかし、こんなにスリリングで幸福な時間もなかなかありません。
そんな中、日々、糸井さんから、新しい台本や楽曲が届きます。それがまた、どれも素晴らしいのです。ああ、こんな「摂州合邦辻」が観たかったのだ、と思わせてくれるものばかりです。
役者さんも手練ればかり。糸井さんからの球を受けて、すぐさま形にしてくれます。
そうですねえ、みんなで舟を漕いでいるような感覚です。時に櫓(ろ)は重く、進みが悪い日もある。それでも櫓を手放さず漕いでいると、どこからか強い風が吹き帆を膨らませてくれる日もある。向こう岸には、まだ見ぬ「合邦」の世界が広がっている。そこには会いたかった玉手や俊徳丸もいる。お客さんも待っている。「もう少し、待っててね!」と舟の上から叫びたい、今はそんな気持ちです。

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木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」

2019年2月10日(日)・11日(月・祝)
京都府 ロームシアター京都 サウスホール

2019年2月15日(金)・16日(土)
愛知県 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール

2019年3月14日(木)~17日(日)
神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ

作:菅専助、若竹笛躬
監修・補綴・上演台本:木ノ下裕一
上演台本・演出・音楽:糸井幸之介
音楽監修:manzo
振付:北尾亘
出演:内田慈田川隼嗣土居志央梨大石将弘金子岳憲伊東沙保西田夏奈子武谷公雄、石田迪子、飛田大輔、山森大輔

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KAAT神奈川芸術劇場 @kaatjp

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