こまつ座「戦後“命”の三部作」、鵜山仁「命が輝いている素晴らしさを今だからこそ」

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こまつ座「父と暮せば」および「戦後“命”の三部作」の製作発表が、本日4月16日に東京・紀伊國屋ホールで行われた。

こまつ座「父と暮せば」および「戦後“命”の三部作」製作発表より。

こまつ座「父と暮せば」および「戦後“命”の三部作」製作発表より。

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製作発表には6月上演の「父と暮せば」に出演する山崎一伊勢佳世に加え、同作の演出を手がける鵜山仁、こまつ座代表の井上麻矢、紀伊國屋書店 代表取締役会長兼社長の高井昌史氏、そして映画「母と暮せば」の脚本・監督で、「父と暮せば」「木の上の軍隊」に続くこまつ座「戦後“命”の三部作」の最後の1作となる舞台「母と暮せば」の監修を務める、山田洋次が登壇した。

こまつ座・井上麻矢代表。

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井上ひさしの娘である井上麻矢は「井上ひさしは(広島を舞台とした)『父と暮せば』の後に沖縄と長崎を舞台とした作品を書きたいと言ったまま他界しました。その思いを引き継いで、今回のように三部作が立ち上がったこと、大変うれしく思います」と感慨を述べる。続けて「こまつ座は設立当時から、演劇を通して平和をきちんと考えていくことを理念としております。混沌とした時代に消耗品ではない演劇を丁寧に作っていきたいと思っております」と挨拶する。続く高井会長は、紀伊國屋ホールとこまつ座のこれまでの歴史を振り返りつつ「こまつ座をこれからも力の限り応援し、演劇文化の発展に微力ながら貢献できるよう劇場の経営を続けてまいります」と語った。

紀伊國屋書店 代表取締役会長兼社長の高井昌史氏。

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鵜山仁

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鵜山は1994年の「父と暮せば」初演を思い返し「僕はこれまで、こまつ座の新作書き下ろしの演出を7本担当させていただいていますが、ちゃんと初日が開いたのは『父と暮せば』だけなんです」と会場の笑いを誘う。続けて本作の変遷をたどりながら「初演のときは僕も娘の福吉美津江の目線で(物語を)見ていたところがあるんですが、いつのまにか父親の竹造の目線にシフトしていました。この話を我々が伝えないでどうする、という父親の目線です」と述べ、今回の演出版について「初めて僕より年下の竹造(山崎)が登場します。我々の知らない戦争をどう伝えるか?ということについては、なかなか困難だとは思いますが、井上さんがよくおっしゃっていた“芝居の力”を借りて表現力を進化させるしか方法がないと思うんです。プレッシャーをかけているわけじゃないんですけど(笑)」と、キャスト2人に視線を送る。

山崎、伊勢という新キャストを迎えた「父と暮せば」について尋ねられると、鵜山は「今の僕らの現代劇を作るのが目標です。新しい声と新しい表情が必ずや出てくると思います。我々の表現がどれだけの力を持つのかということに改めてチャレンジしたいので、そのためにも若い力が助けになるんじゃないかと」と期待を述べ、「せっかく『戦後“命”の三部作』というヒントをいただいたので、命が輝いている素晴らしさを今だからこそ表現したいです」と展望を語った。

山崎一

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父・竹造を演じる山崎は「お話をいただいたとき、すごくうれしかったのと同時にものすごくプレッシャーを感じました。それはこの作品が井上作品の中でも名作中の名作だと思っているからです。演じられてきた俳優さんは名優と呼ばれる方々で、果たして僕にこの役ができるんだろうか?という気持ちが膨らんで、しばらく悩みました。ところがある日、ふと、そんなに気負わずともいいんじゃないかと思えてきました。僕らは僕らの『父と暮せば』をやればいいんじゃないかって。井上さんがこの作品の前口上で『2つの原子爆弾は日本人の上に落とされたのみならず、“人間の存在全体”の上に落とされたものと考えている。被爆者は核から逃れることのできない我々20世紀後半の人間を代表して、あの地獄の火に焼かれたのだ。それを知らぬふりはできない。だから私はこれを書く』とおっしゃっていて、その言葉にものすごく感動しました。未熟で微力ですが、一生懸命に竹造を演じようと思っています」と力強く宣言した。

伊勢佳世

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娘・美津江役の伊勢は「プレッシャーはありますが、私には頼もしい山崎一さんと演出の鵜山さん、素敵なスタッフの方々がいらっしゃいますので、できるだけ楽しんで作っていけたらいいなと思います。私は戦争を題材とした作品を何本かやらせていただいていまして、その度にとても苦しんで、終わった後は身も心もボロボロで、毎回寿命が縮まる思いでした。そのことを初演で美津江役を演じられた梅沢昌代さんにお話ししたら、『私も同じように思ってやっていた』とおっしゃられました。戦争が題材ですが、父と娘の愛情あるあったかいお話という印象も残っているので、大切に演じさせていただきたいです」と意気込みを語った。

左から伊勢佳世、山崎一。

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今回が初共演となる伊勢の印象について尋ねられた山崎は「伊勢さんが娘で光栄です」と笑顔を見せる。これを受けた伊勢は「山崎さんのお芝居は何本も拝見させていただきましたが、観るたびに本当に頼もしいなと。共演できることが楽しみです」と答えた。

山田洋次

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続いて10月上演の「母と暮せば」の監修を手がける山田は、「死者が亡霊となって現れ、生き残った人と会話を交わすという形式では、古くからたくさんの名作が生まれています。井上ひさしさんは『父と暮せば』を、父と子の二人芝居として、重い主題を秘めながら、軽やかに、ときにユーモアを交えて書かれました」と作品を解説。続けて「4年近く前に井上麻矢さんから、井上ひさしさんには三部作の構想があったことを聞き、『母と暮せば』の映画化を委ねられたとき、僕が作らなきゃいけない、大変な機会を得たんだと思いました。吉永小百合さんも映画への出演を、二つ返事で引き受けてくださいました。今度はそれを井上ひさしさんの遺志の通り、舞台にする。井上さんに負けないくらいの脚本を書くというのは大変なチャレンジだと思いますが、畑澤聖悟さんという優れた作家が引き受けてくださったと聞いて安心してます。魅力的な『母と暮せば』ができあがることを期待しています」と舞台化までの道のりを振り返り、畑澤らへエールを送った。

左から井上麻矢代表、山田洋次、伊勢佳世。

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山田は最後に映画「母と暮せば」の創作過程を振り返り、「井上さんが『父と暮せば』の戯曲を書くにあたって、広島に何度も通って被曝した方々の思い出を書き残されています。井上さんは資料をメモするんだけど、コピーではなく、全部手書きでノートに書き写されたと聞きました。僕も原爆の資料を読み、資料館に行って膨大な記録を見たとき、井上さんの真似をし、大事なところはノートに書き写しました。もう大部分の人たちは生きていないんだろう思い、祈るような気持ちで書いたのですが、死者を悼むというより、この人たちが生きていたら、どんな人生を過ごしていたんだろう?と思うことが大事なんだと。記録から命についてのイメージを掻き立てる。そんなことをしきりに思ったものです」と締めくくった。

こまつ座「父と暮せば」は、6月5日から17日まで東京・俳優座劇場にて。また「母と暮せば」は10月に東京・紀伊國屋ホールで上演後、12月まで全国各地で公演を行う予定だ。

※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

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こまつ座 第122回公演「父と暮せば」

2018年6月5日(火)~17日(日)
東京都 俳優座劇場

作:井上ひさし
演出:鵜山仁
出演:山崎一伊勢佳世

こまつ座 第124回公演「母と暮せば」

2018年10月
東京都 紀伊國屋ホール
※12月まで全国各地にて上演。

監修:山田洋次
作:畑澤聖悟
演出:栗山民也
出演:富田靖子松下洸平

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赤崎〇喜。 @MARQUISAKASAKI

『2つの原子爆弾は日本人の上に落とされたのみならず、“人間の存在全体”の上に落とされたものと考えている』
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