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“許し”が巻き起こす渦、三島由紀夫「白蟻の巣」を宮田慶子が読み解く

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トークイベント「ブラジルでの三島由紀夫」より。左から宮田慶子、松本徹、二宮正人。

トークイベント「ブラジルでの三島由紀夫」より。左から宮田慶子、松本徹、二宮正人。

トークイベント「ブラジルでの三島由紀夫」が1月27日に東京・ブラジル大使館にて行われ、東京・新国立劇場演劇芸術監督の宮田慶子が、三島由紀夫文学館館長の松本徹、サンパウロ大学教授の二宮正人と登壇した。

宮田は本イベントで、3月から5月にかけて新国立劇場で上演されるシリーズ「かさなる視点ー日本戯曲の力ー」の第1弾、三島由紀夫作「白蟻の巣」をアピール。「日本が誇る作家・劇作家である三島さんがブラジルに行ったことによって、触発されて書いた戯曲」と本作を紹介し、作品の見どころを解説する。

「白蟻の巣」は、ブラジルに夫婦養子で入った刈屋義郎(平田満)と妻・妙子(安蘭けい)、その家に仕える運転手・百島健次(石田佳央)とその妻・啓子(村川絵梨)を巡る物語。かつて心中未遂を起こした妙子と百島を、刈屋は彼特有の“寛大さ”でそのまま同居させていたが、4人の思惑はやがて奇妙で複雑な三角関係へと変化していき……。

まだ民間人の海外旅行が許されていなかった1950年代に、朝日新聞の特派員という肩書きで世界に旅立った三島が、ブラジルで元皇族の多羅間俊彦氏から見聞したエピソードが色濃く反映されている本作。タイトルは、三島が多羅間氏の家の庭で見た白蟻の巣から付けられた。1m弱ある岩のような白蟻の巣は、堅牢で苔むした抜け殻。その空洞で使われないままいつまでも残る姿が、三島に象徴的な存在として捉えられた。

松本は「三島はまずアメリカの地を踏んで、一言で言えば、惨めな思いをします。日本人用の旅館で大変まずい味噌汁をすすって、これが占領下の日本、惨めな国なんだとかみしめます」と作品の執筆背景を語る。二宮からは、「三島はブラジルでカトリックの信仰に触れ、罪を犯すことは人間の本質、悔い改めればそれでいい、とは『何と結構なことか』と思った」と作品を読み解くヒントが与えられた。

宮田は「もともとは、刈屋がすべてを許したことによって、渦に巻き込まれていくような話」と本作を解説。「啓子が刈屋に、“あなたは何故許すんだ、許すことは決していいことではない。清算しなければおかしい。ついてはもう一度ゲームを仕組んで2人を近づけてみよう”と持ちかける。このゲームがどんでん返しに次ぐどんでん返しで、決してうまくいかない。本当にややこしい話」と熱を込めてあらすじを語る。

さらに「三島さんの戯曲は最後のセリフのために書いてるんじゃないかと思うことがある」と言い、「本作では啓子が刈屋に『今度こそゆるしてはいけないわ』と訴えて、刈屋が『私はそんなふうには生まれついていないんだよ。とてもそんなことが……』と言って終わる。多羅間(俊彦)さんが“僕はもういい”とブラジルに移住なさったことが、戦後の日本に対する多羅間さんなりの1つ答えの出し方ですし、『白蟻の巣』に象徴される精神の空洞。『私は決められない』という他者依存をせざる得なくなった、ひいては国家感なのか。非常に考えさせられる戯曲です」と読み解く。

加えて本作が、宮田が所属する青年座に1955年に書き下ろされた作品であることについて触れ、「創立メンバーである山岡久乃さん、初井言栄さん、森塚敏さんという忘れられない先輩たちが初演を演じてます。私にとっても非常に思い入れの深い作品」と感慨を口にし、「(舞台であるブラジル)リンスの農園の本来持っていたエネルギーとの比較を考えながら上演をしたい」と、演出を手がける谷賢一にメッセージを送った。

「2016/2017シーズン かさなる視点―日本戯曲の力― Vol.1『白蟻の巣』」は3月2日から19日まで東京・新国立劇場 小劇場にて上演。その後4月4・5日に兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール、4月8日に愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホールにて公演を行う。

※初出時、役名に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

「2016/2017シーズン かさなる視点―日本戯曲の力― Vol.1『白蟻の巣』」

2017年3月2日(木)~19日(日)
東京都 新国立劇場 小劇場

2017年4月4日(火)・5日(水)
兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

2017年4月8日(土)
愛知県 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール

作:三島由紀夫
演出:谷賢一
出演:安蘭けい平田満村川絵梨、石田佳央、熊坂理恵子、半海一晃

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