「ミュージカル『テニスの王子様』」「ミュージカル『刀剣乱舞』」など、演劇界に常に新風を巻き起こして来た演劇プロデューサーの
構成
“AMAM DACOTAN”という物語世界に魅せられた
平子良太シェフとは半年くらい前に、福岡で飲食店をやっている知人の紹介で知り合いました。AMAM DACOTANの本店が福岡にあって、2021年秋に東京にも出店したんですけど、僕が出会ったのは今年の春頃。会ってすぐに運命的なものを感じたというか、彼の考えに共感し、また自分の価値観が変わるくらいの衝撃を受けました。僕はどちらかというと食べ物に対して興味が低いほうですが、平子さんに出会って食べる喜びとかおいしいものによる幸せみたいなことを初めて感じたんです。食べるという行為に対する考え方が変化したという点で、彼との出会いは本当に人生の転機です!(笑)
表参道のAMAM DACOTANに行くと、お客さんが2・3時間は当たり前に並んでいて、皆さん、すごくワクワクした顔で待っています。まるでディズニーランドでアトラクションの順番を待っているお客さんとか、劇場で開場待ちしているお客さんみたいに期待した顔をされていて、まずそれがすごいことだと思いました。それで開場……じゃなくて開店(笑)までお客さんと一緒にお店の前で待っていたら、僕らが開演前にやる準備と一緒で、スタッフの方たちが開店ギリギリまでねばってねばって準備して、作りたてをバーっと店頭に並べていくんです。大きなソーセージが入ったパンなんて、最初のお客さんがお店に足を踏み入れた瞬間に、ジュワーっと音を立てるように演出されていたりして、まるでミュージカルのオーバーチュア(笑)。普通だったら開店前に商品を全部並べて、10分ぐらい前にはスタッフミーティングをして、落ち着いてお客さんを呼び込む……って感じだと思うんですけど、平子さんはスタッフの人たちがバタバタと忙しく働いている様子や作業音を、あえてお客さんに“聞かせ”て、彼の世界に引き込みながら140種類くらいの商品を次々と並べていくんです……まあ140種類というのも相当な数だと思いますが(笑)。
平子さんが作っているのは“小さな幸せ”
平子さんは物語性をすごく大切にしていて、お店を1つの世界と捉えて、スタッフもお客さんも自分が作った物語の登場人物の1人と考えているそうなんですね。それって、僕たちが作っている劇世界ととても似ている。さらに平子さんがすごいのは、彼はパンだけじゃなく、例えば店の内装とか店内に飾られているたくさんのドライフラワー、店員さんのユニフォームデザインなんかもすべて手がけているんです。元々彼はイタリアンのシェフで、今はパンやドーナツを作っているけど、彼は作家であり演出家であり、アーティストなんだなって。福岡のレストラン、Hiracon’chez Classiqueの料理の美しさやお店の天井のドライフラワーなんて見ると感動しちゃいますよ。これも平子さんにしか作れない唯一無二の世界なんだなと感心してしまいます。宮崎駿さんがいつまでも自分で絵コンテを描くのもわかるなって、平子さんを見ていると感じます。彼がよく言うんですけど、「僕が作っているのはパンやドーナツだけど、小さな幸せを作っているつもりだ」と。実際、僕も平子さんのパンを食べるとものすごい幸せを感じますし、手土産で持って行ってもみんなに喜ばれて、どんどん幸せの輪が広がっていく。パンやドーナツを介して幸せのお裾分けというか、幸せの連鎖が続いている感じがして、そこが羨ましいなって。
僕自身、お芝居を通じてお客さんに幸せを届けたいと思っているけれど、お芝居ってやっぱり「東京のこの場所の劇場に、この日19時に1万円持ってきてください」という形でお客さんと約束して、客席数に応じた人数しかそれを体験できないですよね。でも1つ300円くらいのパンやドーナツが、“幸せ体験”をどんどん広げていっている。「自分が作っているエンタメは、このパンに勝てるんだろうか?」と自問自答しました。もちろん全然ジャンルは違うし、比べるものではないとことはわかっているんですけど(笑)、ものすごいライバルがいるな!と思いました。
ただ考えてみると、平子さんのパンやドーナツを食べて「すごい!」と思った感覚と、僕が小学生のときに人形劇を観て「すごい! この感動をもっと多くの人に味わってほしい!」と思った感覚は、すごく近いんです。だから平子さんをただリスペクトするだけじゃなく、僕が感じた食による幸せ体験や感動を、どうやったらもっと人に伝えられるんだろうかと考えるようになりました。平子さんとの出会いで受けた衝撃を自分がプロデュースする作品に踏襲できるように広い視野でエンタメを届けていきたいですね。
ちなみにAMAM DACOTANのメニューで僕が最強に好きなのは明太ペペロンチーノ。お店でも1番人気商品なんじゃないかな。これはもう絶対皆さんに食べてほしいんですけど、“めちゃくちゃ”おいしいです!
さて、次回は8月に行ってきたニューヨークのお話をしたいと思います。話題の“アノ舞台”も観てきましたよ!
松田誠(マツダマコト)
演劇プロデューサー。一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会の代表理事。2022年6月にネルケプランニング代表取締役会長を退任し、7月フリーとなって新たに世界に挑む。
バックナンバー
関連記事
松田誠のほかの記事
タグ
mina @mfrmd2
あらまきさん前にアイムドーナツとコラボするみたいな話をしてたってちらっと見かけたんだけど松田さんに平子さん紹介してもらったんかな
https://t.co/n4D4ZGglIG..