「新作歌舞伎『刀剣乱舞』月刀剣縁桐」より。シネマ歌舞伎「刀剣乱舞 月刀剣縁桐」は2024年春公開。(c)NITRO+・EXNOA LLC/新作歌舞伎「刀剣乱舞」製作委員会

松田誠のスタオベ図鑑 Page7 [バックナンバー]

2023年夏、松田誠がパンチを喰らった“3つの作品”

未来を感じた、3人の作り手たち

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「ミュージカル『テニスの王子様』」「ミュージカル『刀剣乱舞』」など、演劇界に常に新風を巻き起こして来た演劇プロデューサーの松田誠。彼が“思わず立ち上がって拍手を送りたくなる”人、もの、場所を紹介する「松田誠のスタオベ図鑑」のPage7では、2023年の夏に松田が“パンチを喰らった”と感じた、3人のクリエイターたちを紹介。「彼らのようなクリエイターがいてくれることに未来を感じる」と、いつになく熱っぽく語る松田の表情は、とても明るかった。

構成 / 熊井玲

まずは尾上松也の強烈なパンチ!

「新作歌舞伎『刀剣乱舞』月刀剣縁桐」より。(シネマ歌舞伎「刀剣乱舞 月刀剣縁桐」2024年春公開。(c)NITRO+・EXNOA LLC/新作歌舞伎「刀剣乱舞」製作委員会)

「新作歌舞伎『刀剣乱舞』月刀剣縁桐」より。(シネマ歌舞伎「刀剣乱舞 月刀剣縁桐」2024年春公開。(c)NITRO+・EXNOA LLC/新作歌舞伎「刀剣乱舞」製作委員会)

7月に新橋演舞場で上演された「新作歌舞伎『刀剣乱舞』月刀剣縁桐」はとにかく素晴らしかったです。演出も担当された尾上松也さんは企画の最初から「“歌舞伎っぽいもの”ではなく、100年やれる歌舞伎演目にしたい」と一貫しておっしゃっていて、出来上がった作品は正真正銘の歌舞伎でした。僕も舞台を観て「こんなふうに『刀剣乱舞』を歌舞伎にできるんだ!」ととても感動しました。

尾上松也さんはすごくニュートラルでシンプルな考え方の人で、刀剣が主役の話なのだから刀が生まれるところを見たいとわざわざ刀鍛冶のところまで見学に行き、その様子を見て「絶対にオープニングはこれだ!」と思ったそうです。なので歌舞伎の「刀剣乱舞」は刀を打つシーンから始まり、(松也演じる)三日月宗近が生まれるところが描かれました。ちなみにラストシーンには登場した6振りが“本身”で飾られていました。そんな終わり方は今まで観たことがなくとても素敵な演出でした。

松也さんがすごいのは、「刀剣乱舞」というコンテンツの本質をちゃんと探り当てて、それを歌舞伎の表現で見せているところです。なにしろ「刀剣乱舞」を歌舞伎にするにあたって松也さんは「刀剣乱舞」の舞台もミュージカルも観に来てくださいましたし、ゲームもやり込んでものすごく原作を勉強していらっしゃいます。原作があるものを作るということは原作に対する愛がないとダメですし、その点で松也さんの歌舞伎愛と「刀剣乱舞」愛はものすごく深い。だからこそ「新作歌舞伎『刀剣乱舞』月刀剣縁桐」は、歌舞伎ファンの方からも刀剣ファンの方からも評判が良かったのだと思います。

ちなみに「新作歌舞伎『刀剣乱舞』月刀剣縁桐」で初めて歌舞伎を観た「刀剣乱舞」ファンの方がそれ以降も歌舞伎を観に行っているという話を聞きます。一方で歌舞伎ファンの方が「刀剣乱舞」のゲームにハマっているという話も聞きます。コラボレーションとしてお互いにいい影響が出て最高ですね。表現者のみならず作り手としても尾上松也さんに脱帽です。

2つ目は小沢道成からのパンチ!

EPOCH MAN「我ら宇宙の塵」(撮影:小岩井ハナ)

EPOCH MAN「我ら宇宙の塵」(撮影:小岩井ハナ)

8月に観たEPOCH MAN「我ら宇宙の塵」はとにかく小沢道成の才能のすごさを感じました。小沢さんは3月に上演されたTHE RAMPAGEの陣さんの一人芝居「Slip Skid」(小沢は脚本・演出を手がけた)も素敵でしたが、今回もびっくりするほど素晴らしかったです。小沢さんはオールマイティになんでもできる人で、脚本を書いて演出をして出演もして、さらに舞台美術やチラシのデザインなどもするそうです。本当に多才な方で、まるで演劇界の新海誠さんだと感じました。実は新海作品のキャスティングを担当していた時期があるのですが、初期の新海さんは孤高の天才という感じで何でも自分お1人でやっていらっしゃいました。今回小沢さんを観てそのころの新海さんと同じ才能を感じました。小沢さんの作品は「もうちょっとここはこうしたほうが良いのでは」と感じるような隙が一切無い。脚本も演出も完璧に作られていました。いずれ彼が日本が誇れるクリエイターになっていく姿が想像できて感銘を受けました。

小沢道成

小沢道成

3つ目は末原拓馬からのパンチ!

劇団おぼんろ「月の鏡にうつる聲」

劇団おぼんろ「月の鏡にうつる聲」

3つ目は、同じく8月に観た劇団おぼんろ「月の鏡にうつる聲」です。小沢さん同様、末原拓馬さんのことも以前から、次代を背負っていくクリエイターだと思って注目しています。「月の鏡にうつる聲」に関しては途中まではいつもと違う感じだったのでどうなるのだろうと思って観ていましたが、ラストに向かう怒涛のクライマックスは圧巻でした。主人公が魂の太鼓を力強く叩いて役者さんたちが力の限り躍動して散っていく……演劇が持つ一番シンプルな力にあふれていたというか、これこそ演劇の力だなと思って涙が出でてきました。個人的には演劇は身の丈にあった日常的な心のヒダを描くだけではなく、もっとスケールが大きなことをやっていいんじゃないかと思っているんです。その点、末原さんはある意味あえて身の丈をわきまえてないというか、高みを目指している姿勢が素晴らしいなと思っています。今ある素材、今ある劇場、今ある予算、今いるお客さんで最善を考えるのではなく、キャパオーバーしているくらいがいい!と思います。

末原拓馬

末原拓馬

それと末原さんも小沢さんも、一切妥協しないところが素敵です。一緒に仕事をするときは何回も何回も話し合いますが、腑に落ちるまでは途中で適当な相槌を打ったりせず「わからない」「もうちょっと詳しく教えてもらっていいですか」って言い続けるんです。でも一旦飲み込んだあとの展開が早い。そこは本当にすごいなと思います。

……ということで、この夏は日本の伝統芸能を担う雄と若いクリエイターたちのパンチを喰らいました。彼らのような作り手がいてくれることは日本の舞台の未来の大きな希望だと思います。妥協しない、ある意味無謀なことも考える人たちだから、彼らとものづくりをすることは時間もお金もかかるかもしれない。でもそれを一緒に実現していくのが自分の仕事だと思っています。そしてグローバルなことをやっていくのが自分の今のミッションだと思っているので、彼らのような才能と志が世界をあっと言わせることを自分が少しでもお手伝いすることができるならば本望だと実感した2023年の夏でした。

松田誠(マツダマコト)

松田誠

松田誠

演劇プロデューサー。一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会の代表理事。2022年6月にネルケプランニング代表取締役会長を退任し、現在はフリーとして幅広く活動。

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読者の反応

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今さらこの記事読んだけど、松田誠さんがみっちーと拓馬くんの名前を挙げてる…! 松田さん、趣味が合うわ。

https://t.co/cM7LFzFNTK

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