ロンドンを感じる、ビッグ・ベン。

松田誠のスタオベ図鑑 Page9 [バックナンバー]

アナログとテクノロジーの融合が作り出す、エンタメの未来

実験的なことに貪欲なロンドンで感じた刺激

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「ミュージカル『テニスの王子様』」「ミュージカル『刀剣乱舞』」など、演劇界に常に新風を巻き起こして来た演劇プロデューサーの松田誠。彼が“思わず立ち上がって拍手を送りたくなる”人、もの、場所を紹介する「松田誠のスタオベ図鑑」のPage9では、春に訪れたロンドンで出会った舞台について紹介。人間が作り出すエネルギー、テクノロジーが作り出すイリュージョンをいかに作品に取り込むか……エンタテインメントの可能性を追求する松田が、ロンドンで受けた刺激を語る。

構成 / 熊井玲

人間のパワーを感じたRSC「となりのトトロ」、「キャバレー」

春にロンドンを訪れました。久しぶりのロンドンだったので、いろいろショーを観ようと思い劇場にも足を運んだのですが、どこもお客さんがすごく多くて熱量も高く、パンデミック前に戻ってきているなという感じがしました。

ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)「となりのトトロ」のロビー。

ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)「となりのトトロ」のロビー。

まず印象的だったのは、今回のロンドンの目当てでもあった、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)の「となりのトトロ」。まさにザ・アナログという感じで、人力でいろいろなものを動かしていく演出により作品がフィジカルに立ち上げられていました。演劇発祥の国が作り出すパワーを感じました。そして驚いたのはトトロの大きさ! あの大きさを実際に作ってしまうロンドンカンパニーには脱帽です。

そして「キャバレー」のリバイバル公演。これまでの上演版と違い、センターステージがあって立ち見のお客さんが舞台を取り囲みセットチェンジとともに移動する形なんですけど、その舞台空間や臨場感が本当に面白かった。この「キャバレー」も完全にアナログで、LEDも映像も一切使ってなく、人間の放つ力に圧倒されました。

演出の一部としてテクノロジーが馴染んでいた「ABBA Voyage」

「ストレンジャー・シングス」を上演しているフェニックス劇場。

「ストレンジャー・シングス」を上演しているフェニックス劇場。

話題の「ストレンジャー・シングス」も観ました。これはNeflixシリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」の舞台版で、僕がドラマ版を観ていないこともあるかもしれないのですが、舞台版はドラマのエピソードゼロみたいな内容で、ストーリーはちょっとわからない部分もありました。ただこの作品にはLEDや映像などのテクノロジーが多用されていて、素晴らしいのはどこからLEDや映像なのか、まったくわからないんです。テクノロジーを作っているのは「ハリー・ポッターと呪いの子」チームだそうで、「ハリー・ポッターと呪いの子」でもマジックやイリュージョン的演出が印象的でしたが、「ストレンジャー・シングス」にもそれに通じるものを感じました。

「ABBA Voyage」を上演しているABBAアリーナ。

「ABBA Voyage」を上演しているABBAアリーナ。

「ABBA Voyage」のロゴと松田誠。

「ABBA Voyage」のロゴと松田誠。

ただテクノロジーの面で一番衝撃を受けたのは、実は「ABBA Voyage」でした。

「ABBA Voyage」は、ABBAのアバターコンサートで、ロンドン郊外に建てられた3000人くらい収容できるABBAアリーナで上演されているんですけれど、若い人だけでなく、ABBAの衣裳の要素をどこかに入れた華やかなご年配の方達が、みんなお祭り気分で集まっていました。会場自体も素敵で、入るとバーやショップがあり、早めに来場したお客さんたちはお酒を飲んだり話をしたりしながら、賑やかに開演を待っていました。ちなみに客席は、座席シートが3分の2くらいで、残り3分の1はいわゆる立ち見のダンシングシート。そこに、若い人だけじゃなく年配の方たちもたくさん入って行きましたね。

「ABBA Voyage」を楽しむ観客たち。

「ABBA Voyage」を楽しむ観客たち。

「ABBA Voyage」を楽しむ観客たち。

「ABBA Voyage」を楽しむ観客たち。

ホログラムショーだと聞いていたので、最初はこれまで観てきた、初音ミク的な立体映像かなと思っていたんです。でも、「ABBA Voyage」は全くそういうスタイルではなくて、映像は完全なるLEDなんですけど、すごく上手に作られているせいか、本当に目の前で生身の人間を本当に眼の前で若かりし頃のABBAのメンバーが歌っているとしか思えませんでした。僕も一応この仕事をしているので、舞台を観れば「なるほど、こういうことか」とか「こういう映像を使っているな」ということはある程度はわかるんですが、この舞台については、どう目を凝らしてもどこまでがリアルでどこからが映像なのかが全くわかりませんでした。ちなみに僕が観に行った日はマシントラブルで10分くらい上演が止まったんですが、それすら「あえてリアルなコンサートであることを感じさせるための演出なのかな?」と思うくらい、没入感がありました。しかも再開を待つ間、待ちきれないお客さんたちがコンサートさながら、みんなでABBAのナンバーを歌い出したんです。ラストは素敵な演出もあって、本当にABBAのライブに参加した満足感がありました。

「ABBA Voyage」の様子。

「ABBA Voyage」の様子。

盛りだくさんな「ABBA Voyage」のグッズ。どれも素敵!

盛りだくさんな「ABBA Voyage」のグッズ。どれも素敵!

中でも僕が一番素敵だなと思ったのは、「ABBA Voyage」では、テクノロジーの精度に重きを置いてなくて、演出上当たり前のこととしてテクノロジーを取り入れているところ。「このテクノロジー、すごいでしょ」ではなく、「そこにいるのは実態ではなく映像だけれど、この“アーティスト”があなたに最高のショーを観せますよ」という部分を重視しているんです。あのショーを観るだけでもロンドンに行く価値があると思います。

今回改めて感じたのは、ロンドンは実験的なこと、革新的なことに本当に積極的で、新しいことをどんどん生み出す街だということ。ロンドンで新しい作品に出会えたことはすごく収穫だったなと思います。「となりのトトロ」のようにフィジカルだけで成立する世界にもやっぱり価値があるなと思うし、一方で「ABBA Voyage」のようにフィジカルとテクノロジーが溶け合って新たな表現を生むこともできるんだなと。また、新しいことに対するロンドン舞台界のチャレンジ精神って、それを受け入れる国民性も重要だなと思うので、改めてロンドンの懐の深さみたいなものを感じました。

松田誠(マツダマコト)

ロンドンの街角で佇む松田誠。

ロンドンの街角で佇む松田誠。

演劇プロデューサー。一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会の代表理事。2022年6月にネルケプランニング代表取締役会長を退任し、現在はフリーとして幅広く活動。

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