「ミュージカル『テニスの王子様』」「ミュージカル『刀剣乱舞』」など、演劇界に常に新風を巻き起こして来た演劇プロデューサーの
構成
活気を取り戻していたブロードウェイ
少し前の話になりますが、8月の終わりにニューヨークに行きました。コロナ前は、仕事の関係もあり毎年のようにブロードウェイに行っていましたが、今回はなんと約4年ぶりです。懐かしく感じたり、街の変化に驚いたり、すごく面白くて新鮮でしたね。8月の日本では手指消毒やマスク着用が当たり前で公演中止も多い時期でしたが、ニューヨークの飲食店や劇場はどこも満員でタイムズスクエアの人通りの多さと言ったら“復活しかかってる”ではなく、完全に“復活してました”。
舞台に関しては、もちろんまったくコロナの影響がなくなったわけではありません。しかし現地のプロデューサーの話によれば、代役システムが出来上がっているので、仮に陽性の俳優が出ても公演が中止になることはほぼないそうです。そういった点は、スターシステムが多い日本とは状況が違うかもしれません。また、これはロンドンのプロデューサーからの話ですが、ロンドンでもパンデミック前よりチケットが売れているそうです。欧米の状況は、観客の劇場離れが心配されている日本とはかなり違うなと実感しました。
劇場の温度も上げてしまう「MJ The Musical」の熱気
今回のブロードウェイには、“研修”の目的もありました。実はずいぶん前から、僕は日本の若い世代の役者や演出家、作家やさまざまなクリエイターの皆さんはなるべく早く海外で作品を観るべきだと考えていました。自分自身が海外で作品を観たときに、ものすごく衝撃を受けたからです。いつかそういう機会を作りたいと思っていて、今回がその第1弾でした。若い作り手たちに「エンタメを生業とするのであれば、まずはニューヨークに行かなきゃ! ブロードウェイの空気を実感してほしい!」とずっと願っていたことが実現できたのです。
今回は5日間滞在し、昼間はそれぞれに自由に過ごして、夜はみんなで同じ舞台を観るということにしました。観劇は2チームに分かれ、観る順番は違うけれど、最終的に同じ5作品を観ることにしたんです。観劇後、自分が観たものがいかに素晴らしかったかをそれぞれに熱弁して(笑)、本当に充実していましたね。観たものすべて良かったのですが、特に心を動かされたのはマイケル・ジャクソンの半生を描いた「MJ The Musical」。僕らが観たのは幸運にもトニー賞ミュージカル主演男優賞を受賞したマイルズ・フロストが出演する回でした。彼はなんと本作が初舞台で、もとはマイケル好きが高じてYouTubeに動画を上げていたという若者。それをプロデューサーが見つけて、出演のオファーをし、なんとトニー賞を獲ってしまったというシンデレラボーイです。このエピソードも、実にニューヨークっぽいですよね(笑)。日本では、どんなにうまいからって未経験者がいきなりミュージカルに主演するってことはなかなかないですから。さらに彼が素晴らしいのは、いわゆるマイケルのモノマネではなく、自分の中でマイケルをきちんと消化し、自分なりのマイケルを演じているところ。マイケルの気持ちで生きている感じがすごく素敵だなと思い、感動しちゃったんですよね。作品の内容的にも、マイケルの葛藤や、彼のベースになっているフレッド・アステアをはじめとしたエンタテインメントのDNAなどが描かれていてとても良かったです。そして何より、知っている曲がいっぱい出てくるのが楽しくて曲が始まると劇場全体の温度や僕たちの体温も上がる感じがしました。これこそがまさにエンタテインメントの力だなと実感しました。
ヒュー・ジャックマンという俳優の生き様に感動「The Music Man」
もう1つ印象的だったのはヒュー・ジャックマンが主演する「The Music Man」。あのヒュー・ジャックマンが、客席数1000くらいの劇場で、汗を流して全力で歌って踊って演じるんです! しかもその運動量が、もう半端じゃない。「The Music Man」は彼が15歳のときに初めて参加したミュージカル作品で、すごく思い入れがあるそうなんですけど、今や50歳を過ぎたヒュー・ジャックマンが毎日この舞台に立ち、120パーセントの力を発揮していると思うと、ヒュー・ジャックマンという俳優の生き様に感動して、「若い俳優に観せたい!」と強く思いました。ちなみに相手役の女優さんがすごく上手で「なんだこの人は!」と思っていたら、僕がかつてニューヨークで「モダン・ミリー」を観て大感激したサットン・フォスターでした。「やっぱり舞台をフロントで引っ張るのは俳優だな!」と改めて俳優の力に圧倒されました。
ほかには、日本でも来年の夏に帝劇で上演が予定されている「ムーラン・ルージュ」や、観客が自由にホテル内を歩き回りながら観るイマーシブシアター「スリープ・ノー・モア」、近年の大傑作ミュージカル「ハミルトン」にも久しぶりに行きました。「ムーラン・ルージュ」は劇場に入った瞬間に、圧倒的な舞台美術にやられてしまいましたね。キャストも皆さん個性的で、人種も体型もキャラクターもバラバラ。それぞれ個々の魅力を発揮できるように演出されているのが現代の流れだなと感じました。「スリープ・ノー・モア」は、初めて体験したメンバーは「演劇ってこんなに自由なんだ!」と感動していました。
若い人はできるだけ早く世界を見たほうが良い!と僕が思うのは、海外に行くことによって日本という国の良いところ悪いところに改めて気付くことができるからです。もちろんエンタテインメントにおいても同じで、自分たちが作っている作品が世界的に見てどういうものなのかを感じることができます。長引くコロナで日本にいるとどうしても気持ちが萎縮しがちでしたが、ニューヨークでは周りが何をしていようが関係なく自分がやりたいことをやっているところが自由で素敵だなと思いました。また、僕がニューヨークという街に求めているのは“刺激”なんだとも再確認できました。ブロードウェイで熱気あふれる劇場に行くと「やっぱり僕は舞台が大好きだ! 自分が関わるエンタテインメントで世界で勝負したい!」とう思いが沸々と湧いて、すでにいくつか企画を動かし始めています。今回一緒に行ったメンバーもそれぞれ新しいことを考えているようで、野心に燃えているのではないかと思います(笑)。早くコロナが落ち着いてニューヨークのように日本でも自由にエンタテインメントを楽しめるようになってほしいと心から思いましたし、勇気をもらえました。
さて、ここまでパンの話、海外の話と続いたので、次回は日本の演劇の話ができたら良いなと思っています。観劇の予定がいくつかあるので、その話もできたら。
松田誠(マツダマコト)
演劇プロデューサー。一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会の代表理事。2022年6月にネルケプランニング代表取締役会長を退任し、7月フリーとなって新たに世界に挑む。
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