歴史のすべてを乗せたステージで
2000年代後半、東京・秋葉原を拠点に誕生したでんぱ組.incはアイドルシーンの中で特異な個性を発揮し、やがて多くのフォロワーを生む存在となった。幾度かのメンバー卒業と加入を繰り返しながら活動を重ねてきたが、2024年4月、「でんぱ組.incとしてのエンディングを迎える」と発表。同年秋から最後のライブツアー「宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!」で各地を回り、その最終地点として幕張イベントホールのステージに立った。
広いステージには、でんぱ組.incがこれまでの歴史の中で着用した衣装およそ400着がずらりと並べられ、そこに巨大なサイリウムが地面に突き刺さるように設置されていた。最終メンバーの古川未鈴、相沢梨紗、藤咲彩音、鹿目凛、天沢璃人、小鳩りあ、高咲陽菜、そして卒業メンバーの小和田あかり、跡部みぅ、
「ここにいるみーんなで、でんぱ組.incです!」
「破!to the Future」「でんぱれーどJAPAN」まで続けて3曲を披露した7人は、「萌えきゅんソングを世界にお届け、でんぱ組.incです!」と長年使い続けてきたお決まりのキャッチフレーズで挨拶。1人ひとり自己紹介を行い、「以上、この7名とここにいるみーんなで、でんぱ組.incです!」と、観客やスタッフ、生中継の視聴者、このライブに思いを馳せるすべての人々に呼びかけた。そして藤咲が「ついに、ついにこの日がやってきました。でんぱ組.incエンディングライブ! ……しょげてんじゃねー! お前ら、でんぱ組.incの歴史を一緒に作るんだぞー!」と発破をかけると、7人はディアステージのシャッター前へと移動。「私たちのストーリーの始まりの地、『Dear☆Stageへようこそ♡』」と声を合わせると、ここからは彼女たちはMCをほとんど挟むことなく、ラストライブにありがちな過度に感傷的な演出もない、ストイックとも言える怒涛のパフォーマンスを展開していく。
「愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ」ではメンバーが客席へと飛び出し通路をダッシュ。途中に用意された給水所では、でんぱ組.incの創始者であるもふくちゃんやマネージャーたちが待ち構え、へとへとの7人にエールを送った。さらに「ちゅるりちゅるりら」「千秋万歳!電波一座!」「でんぱーりーナイト」「おやすみポラリスさよならパラレルワールド」「バリ3共和国」とさまざまな時代の楽曲を織り交ぜながら披露していくでんぱ組.inc。幕張イベントホールいっぱいの観客は一糸乱れぬコールとペンライトで7人のパフォーマンスに色を添え、ともに最高のエンディングを作り上げていく。「キラキラチューン」は両日披露されたが、初日はメンバーが途中で仲違いを始めてしまうストーリー仕立ての振付で、2日目は“喧嘩なしver.”でパフォーマンスされた。そして7人はステージ左右二手に分かれると、トロッコへと乗り込みアリーナ脇の通路へ。目の前の観客に手を振り、「おつかれサマー!」「ファンファーレは僕らのために」「子♡丑♡寅♡卯♡辰♡巳♡」「ダンス ダンス ダンス」「ボン・デ・フェスタ」「BPM285EX」の6曲を凝縮したメドレーを歌いながら場内を1周した。ステージに戻ってきた7人は、ほとんど間を空けることなくリボンを持ってスタンバイ。フェスやイベントでも歌われ続けてきたでんぱ組.incの代表曲の1つ「でんでんぱっしょん」だ。でんぱのステージを彩ってきたこのリボンも使い納め。最後は7色の鮮やかな扇を作り上げた。
最後の「W.W.D」
アッパーなサマーチューン「プレシャスサマー!」では盛大なコール、ミュージカル仕立ての「プリンセスでんぱパワー!シャインオン!」では大きな拍手と、観客は楽曲ごとに異なる盛り上げ方でメンバーとともにライブを作り上げてきたが、「くちづけキボンヌ」のイントロが流れるとコールは控えめに、うっとりと7人の声に聴き入った。その余韻を切り裂くように鳴り出す凶暴なシンセのイントロとジャングルビート。「オーギュメンテッドおじいちゃん」だ。感傷に浸る間もない展開で攻めるでんぱ組.incと即座に対応する観客、巨大スクリーンに映される映像や飛び交うレーザー、すべての“ここにいるみーんな”がカオスな空間を作り上げていく。「いのちのよろこび」ではアフロビートに合わせて火柱が上がり、ステージ背後には巨大な椰子の木と真っ赤な太陽が。「電波のパワーでひとつになろうよ」と歌う「ONE NATION UNDER THE DEMPA」でステージと観客を1つにすると、でんぱ組.incはここで小沢健二のカバー「強い気持ち・強い愛」を披露。ミラーボールに反射した光がまんべんなく降り注ぎ、場内を祝祭感で包み込んだ。
これが最後のステージであることを忘れさせるようなにぎやかな時間が続いたが、ライブ開始からすでにおよそ2時間。「あした地球がこなごなになっても」の切ないメロディと歌詞、スクリーンに映る夜空が物語の終わりを感じさせる。続いてでんぱ組.incは、夢眠ねむ卒業ライブでも歌われた「絢爛マイユース」を披露。明るく切ない別れの歌がグループのエンディングと重なる。そして天沢が「私たちとたくさんの人が紡いでくれた今日を、始まりからエンディングのこれまでのすべてを、忘れないでね! 忘れないからー!」と叫び、古川が「でんぱ組の、私たちでんぱ組.incの、皆さんに届ける最後の新曲です」と告げると、7人は「W.W.D ENDING」をパフォーマンス。でんぱ組.incのラストナンバーであり、メンバーのパーナリティを歌詞に落とし込んだ「W.W.D」シリーズの最終章でもあるこの楽曲には、過去の楽曲の振付も盛り込まれている。2日間のエンディングライブのために用意されたこの曲を、7人は全身全霊をぶつけるように熱唱した。
オレンジに染まった景色の中で卒業式
盛大な拍手が鳴り響く中、次の曲のイントロが流れると、場内は申し合わせたように一気にオレンジ色のサイリウムで染め上げられる。でんぱ組.incが大事な場面で歌い続けてきた「ORANGE RIUM」だ。オレンジ一色の光景に、メンバーの目にも思わず涙が浮かぶ。スクリーンには「小さな光 集まって 夕焼け色の海になる 永久に褪せないオレンジで 過去と未来を繋いでく みんなで作ったこの景色 心の奥に灯らせて 夢を追いかけ どこまでも 未来へ駆け出せ!でんぱ組!」という“口上”が映され、観客はこれまでのすべてのでんぱ組.incに贈るように全力のコールを届けた。
なお、初日の公演では「ORANGE RIUM」がアンコールで歌われ、パフォーマンス中のスクリーンには客席で観覧していたOGたちの姿があった。そこに最上もがが当時の衣装を着て登場すると、場内には悲鳴にも似た歓声が。2017年8月、心身の不調で突然グループを去る格好になった最上はこのパフォーマンス中に“卒業式”を行い、ステージ上のメンバー7人とともに「ORANGE RIUM」を歌った。
物語の終わり
2011年、TOY'S FACTORY内レーベルMEME TOKYOからの第1弾シングルとして「Future Diver」をリリースして以来、最後までTOY'S FACTORYとともにその歴史を歩んできたでんぱ組.inc。最後は「みんなの最高の未来に向かって!」と「Future Diver」で締めくくり、「以上、萌えキュンソングを世界にお届け! でんぱ組.incでした!」とお決まりのフレーズを残してステージを去った。すると客席からは「みりん! りさ! ピンキー! ぺろりん! りと! りあ! ひなちゃん! アンコール!」と7人の名を呼ぶコールがこだまする。この声を受けて再びステージに現れたでんぱ組.incは、バラード「秋の葉の原っぱで」を歌唱。最後はアカペラで締めくくり、7人の声のみがアリーナに響き渡った。次に7人が歌ったのは、「W.W.D」シリーズの1つで2016年に発表された「WWDBEST」。これは古川、相沢、夢眠、成瀬、藤咲、最上の6人時代の楽曲で、それぞれのパーソナルを大きく反映した曲ゆえ長らく“封印”されていた。エンディングライブでは2日間ともにこの楽曲が歌われ、観客に大きな驚きをもたらした。
「以上、でんぱ組.incの相沢梨紗と」「小鳩りあと」「高咲陽菜と」「天沢璃人と」「藤咲彩音と」「鹿目凛と」「古川未鈴でした!」と1人ずつ名を告げた7人。そして古川の「宇宙を救うのはきっと」という声に、会場の全員が「でんぱ組.inc!」と声を合わせ、でんぱ組.incの歴史はついにエンディングへ。7人は「サクラあっぱれーしょん」を歌い、大量の紙吹雪が舞う中でトロッコに乗り込むと、そのままアリーナを回って姿を消した。メンバーの姿が見えなくなると、歴代メンバーによる現役当時の印象的なMCが流れ、最後は「君がいたから、でんぱ組.incの高咲陽菜は幸せな毎日を送ることができました。本当にありがとう。大好きなみんなとこれからの未来に駆け出せ、でんぱ組!(高咲)」「これまでも、これからも、みーんなのことが大好き! 最高のでんぱ組、最高ー! 絶対結婚~しような~!(鹿目)」「私はでんぱ組.incが大好きだー! 一緒に歩んでくれてありがとう。夢で終わらんよー!(藤咲)」「救ってくれてありがとう。アイドル小鳩りあ、でんぱ組.incとともに眠る(小鳩)」「もっと愛してー! 私のほうが愛してるよ。生まれ変わってもまた出会おうね。でんぱ組.incのりさちーこと相沢梨紗でした(相沢)」「わしはでんぱ組.incになれて幸せだよー! みんなとの思い出が宝物! 大好きだよー! 以上、でんぱ組.incの天沢璃人でした(天沢)」「16年間、本当にありがとうございました。みんなの記憶にでんぱ組.incが残ってくれているとうれしいです。みりんちゃんこと古川未鈴でした(古川)」と7人のラストメッセージが届けられた。そしてスクリーンには、これまででんぱ組.incにさまざまな形で関わってきたスタッフや関係者、「世界一審美眼のある素敵なオタクのでんぱとうのみんな」を羅列したエンドロールが流れ、「THE END」の文字が。映像は宇宙へと切り替わり、飛来する電波型のオブジェが秋葉原を歩く少女の掌に落ちたところで物語は終わりを迎えた。
セットリスト
「でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』DAY1」2025年1月4日 幕張イベントホール
01. ギラメタスでんぱスターズ
02. 破!to the Future
03. でんぱれーどJAPAN
o4. Dear☆Stageへようこそ♡
05. Kiss+kissでおわらない
06. STAR☆ットしちゃうぜ春だしね
07. 商売繁盛!元祖電波屋!
08. でんぱーりーナイト
09. おやすみポラリスさよならパラレルワールド
10. バリ3共和国
11. キラキラチューン
12. メドレー(おつかれサマー! / ファンファーレは僕らのために / 子♡丑♡寅♡卯♡辰♡巳♡ / ダンス ダンス ダンス / ボン・デ・フェスタ / BPM285EX)
13. 最Ψ最好調!
14. プレシャスサマー!
15. プリンセスでんぱパワー!シャインオン!
16. くちづけキボンヌ
17. オーギュメンテッドおじいちゃん
18. いのちのよろこび
19. でんぱせいばぁ☆
20. 強い気持ち・強い愛
21. あした地球がこなごなになっても
22. ユメ射す明日へ
23. W.W.D ENDING
24. Future Diver
<アンコール>
25. 秋の葉の原っぱで
26. WWDBEST
27. でんでんぱっしょん
28. ORANGE RIUM
「でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』DAY2」2025年1月5日 幕張イベントホール
01. ギラメタスでんぱスターズ
02. 破!to the Future
03. でんぱれーどJAPAN
04. Dear☆Stageへようこそ♡
05. 愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ
06. ちゅるりちゅるりら
07. 千秋万歳!電波一座!
08. でんぱーりーナイト
09. おやすみポラリスさよならパラレルワールド
10. バリ3共和国
11. キラキラチューン
12. メドレー(おつかれサマー! / ファンファーレは僕らのために / 子♡丑♡寅♡卯♡辰♡巳♡ / ダンス ダンス ダンス / ボン・デ・フェスタ / BPM285EX)
13. でんでんぱっしょん
14. プレシャスサマー!
15. プリンセスでんぱパワー!シャインオン!
16. くちづけキボンヌ
17. オーギュメンテッドおじいちゃん
18. いのちのよろこび
19. ONE NATION UNDER THE DEMPA
20. 強い気持ち・強い愛
21. あした地球がこなごなになっても
22. 絢爛マイユース
23. W.W.D ENDING
24. ORANGE RIUM
25. Future Diver
<アンコール>
26. 秋の葉の原っぱで
27. WWDBEST
28. サクラあっぱれーしょん
楊(やん) @yan_negimabeya
【ライブレポート】でんぱ組.incの物語、ここに完結!すべての歴史を乗せた最後のステージ(写真108枚) https://t.co/Aogq1oA2SE