17年ぶり武道館大成功のRHYMESTER、50代でもいまだ成長途中「もっとラップうまくなりたいのよ」

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RHYMESTERの全国ツアー「KING OF STAGE VOL.15 Open The Window Release Tour 2023-2024 Presented by NISHIHARA SHOKAI」の東京公演が、2月16日に日本武道館で開催された。最新アルバム「Open The Window」を携えてのこのツアーで、昨年7月から各地で熱いステージを繰り広げてきたRHYMESTER。彼らにとって日本武道館は活動休止前の2007年以来17年ぶりであり、この日は前回の武道館公演をアップデートする形で、アルバムに参加した8組のゲストアーティストを全員迎えてのライブが行われた。

RHYMESTER

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どうしてもコントをしたかった岡村靖幸、出禁に

ステージの床から登場したRHYMESTER。

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RHYMESTER

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会場内にアルバム表題曲「Open The Window」のイントロが流れだし、ド派手にレーザーが飛び交う中、RHYMESTERの3人は床からゆっくりとせり上がって登場。大歓声に包まれながら彼らは、宇多丸がパーソナリティを務めていたTBSラジオ「アフター6ジャンクション」のテーマソング「After 6」のラジオバージョンとフルバージョンを連続で披露し、開演時間の18:00に合わせた選曲でライブの始まりを高らかに告げた。早くも登場した1人目のゲストはオレンジのドレスをまとってギターを構えたRei。彼女はファンキーなカッティングを繰り出しながら堂々と「My Runway」を歌い上げ、Mummy-Dと宇多丸とともに振りをそろえてダンスした。

ステージから見た客席の様子。

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曲が終わるとReiと入れ違いでMIGHTY CROWNのMASTA SIMONがステージに上がり、RHYMESTERの楽曲としては珍しいレゲエチューン「予定は未定で。」がスタート。序盤からゲストがハイペースで惜しみなく投入され、その後の展開への観客の期待感が否応なく高まっていく。

その後、舞台袖のモニタの裏に何者かが現れ、Mummy-Dと宇多丸に「グラミー賞を観ていたらヒップホップとラッパーしかいなかった。なので時代的にラップをできるようになりたくて。ラッパーになれるかどうかこの場でオーディションをしてください」と要求。その人物は美声で「Yo! 武道館! 草なぎ剛はチョナン・カン! 東大合格超難関! たまに食べたいメロンパン! ジェームス・ブラウンはゲロッパ! レッツゴー!」といったラップを披露した。「リズムに乗ってない」「ラップとダジャレは違う」「スマホを凝視してリリック読んでちゃダメ」とRHYMESTERからダメ出しをされ、「ラップをやめて歌とダンスに専念したほうがいい」と助言された彼は「岡村靖幸です」と名乗ってステージに登場。岡村は普段のライブでもなかなかないようなはしゃぎぶりを見せながらRHYMESTERとともに「マクガフィン」をパフォーマンスし、曲が終わると宇多丸から「出禁です」と耳打ちされていた。ちなみに岡村がラップするくだりは、どうしてもコントをしたいという彼の要望により盛り込まれたという。

初期の代表曲たっぷりの「特選盛り」に会場興奮

RHYMESTER

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クレイジーケンバンドの横山剣とスモーキー・テツニを迎えて披露されたのは、CKBが制作した株式会社西原商会の社歌をRHYMESTERが再構築した「世界、西原商会の世界! Part 2 逆 featuring CRAZY KEN BAND」。ここまですべて最新アルバムの曲が続いてきたが、CKBの2人が参加したまま引き続き、17年前の武道館公演でもセットリストに入っていた「肉体関係 part 2 逆featuring クレイジーケンバンド」に突入し、ひさびさの選曲に会場は沸き上がった。

RHYMESTER

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RHYMESTER

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そしてここから古参ファンのためにと、「日本武道館 特選盛り」と題して活動休止前の曲を4曲披露すると予告。1996年の伝説的イベント「さんピンCAMP」で披露してグループがシーンに初めて楔を打ち込んだ「耳ヲ貸スベキ」を皮切りに、「リスペクト」や、DJ JINによるアナログレコード2枚使いのドラムブレイクでラップする「ライムスターイズインザハウス」、そして「ザ・グレート・アマチュアリズム」と日本語ラップクラシックを次々に繰り出し、オーディエンスを興奮に導いた。続いて、SOIL&"PIMP"SESSIONSとReiが楽器を演奏しながら床からせり上がり、高らかに鳴り響く大迫力のバンドサウンドでRHYMESTERとともに「ジャズィ・カンヴァセイション」「初恋の悪魔」の2曲をセッション。息の合ったアンサンブルでヒップホップとジャズが融合する中、ゲストプレイヤーのReiもブルージーでパワフルなギターソロで観客を圧倒する。

天国のあの人に捧げた4MCの「B‐BOYイズム」

DJ JIN

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宇多丸が「次のゲストを紹介しましょう。この武道館のステージに立っているところを、あの人にも見せてあげたかった」としみじみ語って呼び込んだのは、RHYMESTERを師匠と慕い、2021年にプロデューサーの江崎マサルが新型コロナウイルス感染のため亡くなったhy4_4yh。彼女たちは「なめんなよ1989」で師匠たちに引けを取らないキレのあるラップを繰り出し、武道館の大きな空間にしっかりと存在感を示した。そして曲が終わるや否や、Mummy-Dと宇多丸とhy4_4yhは4人で声を合わせて「耳ヲ貸スベキ 当然ゴールまで騒ぎとおせ 風格の違いを見とけ 俺たちこそキング・オブ・ステージ」と「キング オブ ステージ Part 2」の一節をアカペラで歌い、そのまま「B‐BOYイズム」に突入。hy4_4yhを交えてマイクリレーを繰り広げ、それぞれの決して譲れないB-BOYイズムとB-GIRLイズムを示した。そして宇多丸が客席に向けて「俺たち全員で、天国にいる、hy4_4yhと二人三脚でやってきた江崎マサルさんの魂に届くように、でっかい声で騒げ!」と叫ぶと、会場中から大歓声が沸き起こり、これが長時間におよんだライブのハイライトの1つとなった。

RHYMESTERの日本武道館公演の様子。

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ここから再び「日本武道館 特選盛り」のコーナーに。今度は活動再開後の曲から「ちょうどいい」「POP LIFE」「The Choice Is Yours」の3曲がセレクトされ、「The Choice Is Yours」では武道館全体で盛大なシンガロングが発生した。

「連帯する力を音楽に込めないのであれば、ぶっちゃけ音楽なんか意味ねえよ」

Mummy-D

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宇多丸

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宇多丸はその後、ウクライナやミャンマー、パレスチナで現在起こっていることのひどさを訴えつつ、「戦争だけじゃない。我々の社会にある細かい暴力や不公正や搾取とかそういう1個1個をスルーするのはもうやめようという時代になってきてると思うんです。俺たちは世界について、あまりにも知ろうとしなさすぎた」と自戒。そしてアルバムのテーマである「Open The Window」について「窓を開くって、音楽そのものなんですよね。音楽に乗せれば言ってることがより伝わったり、夢みたいな話やストレートなメッセージだって音楽に乗せれば聞くことができる。それが音楽の力であり、もっと言えばヒップホップの力です。この文化を作ったのがどれだけ何も持ってない連中だったか。そんな奴らの精神を受け継ぐならば、今、瓦礫のような街の中で生きるか死ぬかの選択を勝手に迫られてるような人たちに、連帯する力を音楽に込めないのであれば、ぶっちゃけ音楽なんか意味ねえよとすら思います。ヒップホップやめちまえとすら思いますよ」と熱弁し、Mummy-Dも「僕らの世代のヒップホップはマイノリティのマイノリティによるマイノリティのための音楽だったから、そこに目をつぶっちゃいけないよね」と同意した。

JQ(Nulbarich)

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さらに宇多丸が「おっさん臭い説教みたいに聞こえたかもしれないけど、それがビートに乗ればみんな拳を挙げて叫ぶことができる。これはメッセージソングだけど、同時にノリノリのパーティソング。まさに俺たちがパーティを組んで世界に声を届けるためのハードコアヒップホップなんです」と言ってNulbarichのJQを呼び込み、ともに「Open The Window」をパフォーマンス。「Stop the war No more war」というラインでオーディエンスの大合唱が沸き起こった。最後にJQは天井に吊るされた日章旗について「このでっかい日の丸の下でこの曲を歌うことを決めてくれたRHYMESTERに、大きなリスペクト」と語ってステージをあとにした。

Mummy-Dと宇多丸

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RHYMESTERの3人にだけにスポットライトが当たり、DJ JINのスクラッチの上で「The R」の掛け合いが繰り広げられたのち、スチャダラパーのBoseとANIがステージの両サイドからペダルゴーカートをキコキコを漕ぎながら登場し、そのまま「Forever Young」に突入。ともに日本のヒップホップシーンのパイオニアでありながら現役で活躍し続ける2組の楽しげな掛け合いに、会場にも幸せな空気が広がっていた。そして最後の曲「待ってろ今から本気出す」が始まると、宇多丸に煽られたオーディエンスは残りの力を振り絞るように、本気を出して大声でコールをした。

「日本にはラッパーという生涯をかけてやる職業がある」

RHYMESTERの日本武道館公演の様子。

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RHYMESTERの日本武道館公演の様子。

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アンコールを受けてRHYMESTERが再び登場すると、観客は入場時に配布されたサイリウムを点灯させ、客席は一面青色に。3人はそのサプライズを喜び、宇多丸は「なっち(安倍なつみ)が横浜アリーナで卒業するときにこんな感じだった。あと飯田(圭織)さんがタンポポを辞めるときの『(一面の黄色いペンライトを見て)タンポポがいっぱい!』ってやつだ」と懐かしんでいた。そして彼らはこの日のライブを振り返り、宇多丸は「前回の武道館は活動休止のタイミングだったこともあって気負いまくってたけど、今日は仲間たちと一緒にすごく幸せな時間を過ごせました。俺たち本当に幸せだなって思いますね。そもそも、ヒップホップグループが35年続けてもう1回武道館をいっぱいにするって、言っとくけどすごいことだからね? でもすごいのは応援してくれた皆さんだよね。ありがとうね」と満員のファンに感謝。そしてMummy-Dが、3月13日に54歳目前にして初のソロアルバム「Bars of My Life」をリリースすることを報告しつつ、今の自分の状況について「俺、笑っちゃうんだよね。なんでこんなところに立ってるんだろう?って。最初の武道館から17年も経って、まだみんなに来ていただいてるの、自分でも不思議な感覚なんです。でも『日本にはラッパーという生涯をかけてやる職業がある』という状況にそろそろなってきてると思うんだよね。これで俺たちが潰れちゃうと『あー、やっぱりラッパーは50までなんだな』と思われちゃうけど、まだまだ曲作りたいし、もっと成長したいし、はっきり言って、もっとラップうまくなりたいのよ」と力強く語った。

ライブを終えたRHYMESTER。

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ラストナンバーに選ばれたのは、活動再開後初の曲である「ONCE AGAIN」。RHYMESTERがこの曲のメッセージ通りに“ONCE AGAIN”を果たしたことは、17年経って再び武道館公演を成功させたことで見事に証明された。そして最後に“プロの一本締め師”ことDJ JINによる一本締めでライブを締めることに。DJ JINは「多くの人が思っている一本締めは一本締めではなく、一丁締めもしくは関東一本締めである」という巷にあふれる誤解を解いて啓蒙し、オーディエンスとともに威勢のいい一本締めを響かせた。

なお公演終了後に、RHYMESTERが4月19日に東京・LOFT9 Shibuyaでトークイベント「公開飲みーティング2024-映像作品用副音声コメンタリーを収録する会。-」を開催することが告知された。このイベントは武道館公演の映像を、最速でメンバーと一緒に観ながら楽しむことができるというもの。ZAIKOでの生配信も予定されている。チケット情報などの詳細は後日発表。

京都・磔磔のオープン50周年記念企画の一環として、このツアーの追加公演が行われることも決定。このツアーはReiとhy4_4yhが日替わりでゲストとして同行してきたが、京都公演には2組ともゲスト出演する。またメンバーの体調不良のため3月9日に延期になっていた石川・金沢AZでの振替公演にて、収益の一部を令和6年能登半島地震の被災地に寄付することも合わせて発表された。

セットリスト

RHYMESTER「KING OF STAGE VOL.15 Open The Window Release Tour 2023-2024 Presented by NISHIHARA SHOKAI」2024年2月16日 日本武道館

01. Open The Window Intro
02. After 6(Radio Ver.)~After 6
03. My Runway feat. Rei
04. 予定は未定で。 feat. MASTA SIMON(Mighty Crown)
05. マクガフィン / 岡村靖幸さらにライムスター
06. 世界、西原商会の世界! Part 2 逆 featuring CRAZY KEN BAND(ゲスト:横山剣+スモーキー・テツニ)
07. 肉体関係 part 2 逆featuring クレイジーケンバンド(ゲスト:横山剣+スモーキー・テツニ)
08. 耳ヲ貸スベキ
09. リスペクト
10. ライムスターイズインザハウス
11. ザ・グレート・アマチュアリズム
12. ジャズィ・カンヴァセイション / SOIL&"PIMP"SESSIONS feat. RHYMESTER(ゲスト:SOIL&"PIMP"SESSIONS+Rei)
13. 初恋の悪魔 / SOIL&"PIMP"SESSIONS に RHYMESTER を添えて(ゲスト:SOIL&"PIMP"SESSIONS+Rei)
14. なめんなよ1989 feat. hy4_4yh
15. B-BOYイズム(ゲスト:hy4_4yh)
16. ちょうどいい
17. POP LIFE
18. The Choice Is Yours
19. Open The Window feat. JQ from Nulbarich
20. The R
21. Forever Young / スチャダラパーからのライムスター
22. 待ってろ今から本気出す
<アンコール>
23. ONCE AGAIN

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公演情報

WOWOW presents ライムスター・トークイベント「公開飲みーティング2024」-King of Stage Vol.15 at 日本武道館公演を最速で一緒に観ながら、映像作品用副音声コメンタリーを収録する会。-

2024年4月19日(金)東京都 LOFT9 Shibuya

「KING OF STAGE VOL.15 Open The Window Release Tour 2023-2024 Presented by NISHIHARA SHOKAI」

振替公演

2024年3月9日(土)石川県 金沢AZ

ゲスト:Rei

追加公演

2024年3月23日(土)京都府 磔磔

ゲスト:hy4_4yh / Rei

※記事初出時、本文の一部に誤りがありました。お詫びして訂正します。

撮影:cherry chill will. / 大石祐介 / 雨宮透貴

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