窪田渡(ex.
「貿易風」は、窪田がOYAMANGA(ex. NONA REEVES)の楽曲「Blues Bar 8」にインスパイアされて制作したインストルメンタルの楽曲。一方の「寒冷前線」は、ギターサウンドに窪田の淡い歌声を乗せた、ニューウェイブ感あふれる1曲に仕上がっている。なお本作の作詞、作曲、編曲のほかミックスやマスタリング、ジャケットデザインまで制作に関わることすべてを窪田自身が手がけている。
窪田渡 コメント
2000年代が過ぎ、2010年代が過ぎ、2020年代も2年が過ぎようとしています。「世紀末」という言葉が奇妙な終末思想と一緒に語られていた時代からすでに20年も過ぎようとしているのです。
ある時点の過去からすると輝いていたはずの、そして別の視点では思わせぶりに悲観視されていた未来は、当然の如くそんな些細な予想など軽々と覆して見知らぬ姿で次から次へと目の前にやって来ます。同じ場所に居るつもりでも、同じ場所には居られない。そもそも地球は公転し、かつ宇宙は膨張しているのですから、広大な座標軸の上で同じ場所に居られるわけがなく、同じ場所に居る感覚は錯覚に過ぎないと、つくづく思い知らされます。
音楽にはある程度のマナーや形式があります。それを世間体と言うのであれば、それに合わせるために四苦八苦した苦労の様子が、一つ一つの楽曲に「個性」として反映し、世に出て行っていた気がしてなりませんが、一方で意地悪く言ってしまうと、完成したそれらの作品は結果的に「個性」というよく分からない自分縛りのマナーに影響され、大きく広がるどころか、逆に収縮してしまうとも言えます。そしてその先には「同じ場所」という錯覚の世界が、つまりとても恐ろしい世界が広がっている…。
OYAMANGA氏の楽曲「Blues Bar 8」に大きくインスピレーションを受けて作った「貿易風」というインストルメンタルの曲は、まさに自分にとっての「ブルース」であり、そんな「同じ場所」から離れた曲になっているのなら、とても救われる事だと思っています。
時間や場所を超えてさえしまえば、恐ろしい位に世界は簡単に変わってしまう。20年前に想像していた世界はどこかを超えない事、旅立たない事を前提として想像していた、相変わらずの世界を想像していたに過ぎなのかもしれませんが「相変わらず」なんて幻想に過ぎないと思わされる事が多々あります。
この世界からあの世界に移りゆく人、この世界にまだ残る人。どちらも「相変わらず」ではなく、どちらも「相変わらず」一日が始まる。そんな様子を歌ったのが「寒冷前線」という曲です。
遠くに停滞する寒冷前線を飛び越えさえすれば、単に地理的に離れただけに過ぎないのに全く違う世界が存在するという、そんな境目を寒冷前線に見立てて歌ったものの、実際は境目を表す線など存在せず、探したとしてもどこにもなく、けれども、いつでもどこにでも存在している気がします。
未来が想像つかないのであれば、いつかはその境目を目にできる未来がやってくるのでしょうか。そんな境目を眺められる旅ができるのであれば、さぞかし興味深い旅になりそうです。
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窪田渡がニューシングル「貿易風 / 寒冷前線」明日配信、OYAMANGA作品にインスパイアされた楽曲収録 https://t.co/4Zum9trhkz