赤い公園は高校の軽音楽部で先輩後輩だった津野米咲(G)、佐藤千明(Vo, Key)、藤本ひかり(B)、歌川菜穂(Dr)によって、2010年1月に結成されたロックバンド。東京・立川BABELを拠点に始動し、2012年にミニアルバム「透明なのか黒なのか」でメジャーデビューを果たした。2017年に佐藤が脱退するも、バンドは2018年に元アイドルネッサンスの石野理子(Vo)を迎えて再始動。しかし2020年10月18日、バンドのソングライティングおよびプロデュースを手がける津野が29歳の若さでこの世を去った。同年11月にシングル「オレンジ / pray」を予定通りリリースするも、コロナ禍の影響もあり、出演予定だった音楽フェスの中止などが相次ぎ、バンドの活動は白紙に。2021年3月には「津野米咲がいない“赤い公園”は、もはや違うものになってしまうのではないか」という思いにより、今回の中野サンプラザホールでのワンマンライブをもって解散することを表明した。そして迎えた本公演は、赤い公園にとってラストライブにして記念すべき初めてのホールクラスでのワンマンライブ。サポートメンバーとして津野と親交が深かった小出祐介(G /
ライブは会場に足を運べない人のために生配信も行われ、大勢のファンが見守る中、メジャーデビュー作「透明なのか黒なのか」と対になる作品として2012年に発表されたミニアルバム「ランドリーで漂白を」の収録曲「ランドリー」で幕を開けた。ステージには石野、藤本、歌川の3人と小出が立っており、小出は津野が愛用していたFender Custom Shop製のオールローズストラトキャスターで演奏に加わった。「今日は最後までよろしく!」とテンション高く石野が声を上げ、2019年の石野加入後に発表された「消えない」や、「ジャンキー」「Mutant」、そしてキーボードの堀向が加わった「紺に花」と、ライブで届けられる機会が少なかった2020年発表の最新アルバム「THE PARK」の収録曲を躍動感たっぷりに披露していった。解散ライブということもあり、複雑な心境でライブ当日を迎えていたファンだったが、会場では大きな拍手が巻き起こり、配信ではチャット欄に歓喜のコメントが続々と寄せられた。
赤い公園は続く「Canvas」でキダも加え、6人で美しく感動的なアンサンブルを会場いっぱいに響かせた。MCでは石野が「改めまして、こんにちは。赤い公園です。今日は特別なサポートの方を迎えてライブしていくんですけど」とサポートメンバー3人を改めて紹介。石野から「いろいろな編成でライブをお届けできたらなと思います。皆さん楽しんでいってください。全員そろったところで、小出さんは帰らなくちゃいけないんですよね?」と言われた小出は、「中抜けして戻ってきます」とゆるく会話を交わし、「お疲れさまでしたー」と送り出された。
MCで小出を送り出し、赤い公園はアグレッシブなキラーチューン「絶対的な関係」を激しくも繊細に届け、間髪いれずに「絶対零度」へとつなげる。続く「ショートホープ」では徐々に熱を帯びるセッションを展開。美しいメロディの「風が知ってる」では石野が手を前に差し出し、まっすぐな歌声を聞かせた。赤い公園はさらに「透明」「交信」「pray」と、比類なきコンポーザー・津野が10代から20代にかけて生み出した多彩な楽曲群を次々に披露していき、中野サンプラザを優しく感動的なムードで包み込んだ。
13曲を終えたところで石野は「こうやって皆さんの前に立ってライブをするのは1年半ぶり。コロナの影響で去年はツアーができなくなって、いろんなことが先延ばしになったりしたんですけど、今回ライブをなんとかすることができました。こういう状況の中でも来ようと思ってくださった方、本当にありがとうございます。楽しい話もしたいところなんですけど、まずはしっかり私たちの口から伝えておきたいことは伝えたいと思います。私たち赤い公園は本日5月28日をもって解散することになりました。米咲さんが亡くなって、3人とも本当にたくさんいろんなことを考えたんですね。いろんな案を出し合って、スタッフさんともいろんな話をして、自分の将来も考えて。そもそも赤い公園には津野米咲という存在がいなければ意味がない。みんなの納得するところはそこだったので、それだったら赤い公園を続けることはできないねってことで、みんなの総意で解散することになりました。私たちはライブをすることが大好きなのでどんな状況でもライブをしたいと思っていて、年末のライブもコロナでなくなっちゃいましたけど、それでも5月28日は絶対にライブをするんだ。みんなに赤い公園の音楽を届けるんだって思いでやってきました。皆さんにはこの場が楽しかったなと思ってもらえたらうれしいです」と語る。歌川は「私たちは受け止めていたり、いなかったりするけど、ラストライブをやると発表をして、皆さんのいろんな声が届いています」と話し、藤本は「今日は席が1席ずつ空いてると思うんですけど、(米咲が)どこかに座ってるかもしれないから」と笑う。空席部分には石野が描いた4人のゆるいイラストが。石野の絵心にさまざまなツッコミがあったが、会場からは温かい拍手が送られた。
セットチェンジが終わり、ステージには津野が高校時代にバイト代で購入したFender Japanの白いストラトキャスター・通称“白田トミ子”が置かれた。メンバーがこのギターにまつわる思い出を語ったあと、3人はユニット名を決めようということで、ユニット名は石野発案の“さんこいち”に即決。さんこいちによるセッションでは「衛星」「highway Cabriolet」「Yo-Ho」の3曲が披露された。歌川は楽曲ごとにアコースティックギター、キーボード、ドラムをプレイ。彼女のマルチプレイヤーぶりについて藤本は「赤い公園は高校からやってるんだけど、(歌川は)別のバンドもやってたんだよね? ギターボーカルで、歌もギターもうまいのに、自信なさげにチャットモンチーの曲を歌ってた」と笑う。歌川は恥ずかしそうに「その話を解散ライブでするなんて(笑)。高校2年くらいのとき1、2回文化祭でやったけど……」と10代の思い出話に花を咲かせた。さんこいちのセッションのあとには、藤本が唐突に中野サンプラザホールでの思い出を振り返り、高校2年の頃に津野と映画の試写会に来たことがあると話す。石野はそんな藤本の話に耳を傾けつつ、「反省していいですか? 3年間、ひかりさんの“4次元っぽい話”をうまく拾う努力はしたけど、今日もダメでした」と告白。そんな石野に藤本は「理子は悪くない。みゃあちゃん(津野)がいたら私に向かって『お前が悪い』って言ってるはず(笑)。これからも強くたくましくね」と語りかけた。
小出とキダがステージに戻ったところで、石野が「ツインギターで面白いことをやってみようと思います」と話し、セットリストを組むにあたってやりたい曲が多かったことを明かす。そして「皆さんが聴きたいであろう曲をダイジェストにしましたので、ツインギターとともにお届けしたいと思います!」と宣言し、赤い公園メドレーへ。ここでは「今更」から「のぞき穴」「西東京」「ナンバーシックス」「闇夜に提灯」の5曲が、5人編成で届けられた。メドレーのあと、赤い公園は「KOIKI」「NOW ON AIR」を伸び伸びとパフォーマンス。熱い余韻に浸る間もなく、アッパーチューン「yumeutsutsu」、轟音ギターのイントロから石野がお立ち台に座って歌うミディアムチューン「夜の公園」と幅広い楽曲を届けた。そんな中で観客は手を大きく掲げてバンドサウンドを全身で受け止める。一方配信では歓声に代わるシンガロングの書き込みが大量に書き込まれ、会場と同じく大いに盛り上がった。
ライブ終盤、最後のMCでは藤本、歌川、石野が順番に挨拶。藤本は「軽音楽部、高校の視聴覚室から始まって、自分たちで始めたものが大きくなるなんて、あの頃の自分に教えてあげたいです。いろんな人に助けられながら、ベースがいっぱい弾けました。でも米咲がいなくなっちゃった。たぶん、彼女はすごく私たちに対して心配性だったから、車で先にピューンって向こうの世界に下見しに行ってるんだろうなって。そんな気がします。私たちはこっちの世界のすごく楽しいこと、ワクワクすることをいっぱい見つけて、向こうでまた一緒に音楽ができたらと思っています。100年後、ここにいる人たちはみんないないと思うから、好きなようにおいしいごはんを食べて、いっぱい遊んで。生きている人たちは物語のページをめくることができると思っていて。めくることもできるし、書き足すことも燃やしちゃうこともできる。なんでもできると思うし、(石野と歌川を見て)2人もなんでもできるよ。私の電話番号、緊急連絡先として使って。ヤバい、締まらなくなっちゃった。同じときを過ごせて幸せです。声は聞こえなくても、皆さんの気持ちはいっぱい伝わってきました。皆さんたぶん超能力者なんで、いろんなところで生かしてください。ありがとうございました」と語る。続けて歌川は「11年と半分くらいやってきて、こんなにたくさんの人に聴いてもらえるバンドになるとは思わなかったです。私自身が赤い公園の曲に救われ、助けられ……。遠くのどこかに行ってしまいましたけど、私は米咲が作る曲が本当に大好きで。赤い公園の曲を自信を持って叩けるようになりたいと思ってたけど、できるようになったかなと思います。配信を観てる方も席が取れなかった方もたくさんいると思うけど、たくさんの人に支えられて今日を迎えられました。本当にありがとうございました」とメッセージを送った。
最後に石野は「私も本当に毎晩、ここで何を話そうか考えていたんですけど、とにかく私は赤い公園の楽器隊の、音楽をしているときの楽しさにすごく魅了されて赤い公園に入ったんですね。一目惚れみたいな感じで。会ったこともない、声しか聴いたことのない人物なのに、私のことを最初から受け入れてくれて。8歳も9歳も離れているのに気にしないでいいよって。1人ひとりリスペクトしていけるバンドになろうねって。年下の私を受け入れてくれたファンの皆さんも、メンバーにもすごく感謝しています。そしてちょっと申し訳ない気持ちもあります。ボーカルが替わってしまったのは困惑する方がいるだろうし、だからって困惑を私がどうこうできるわけでもなかったから、ちょっと心苦しいところもあったけど。毎回毎回ライブで成長していく姿を見せたかった。みんなで行きたいねと言っていた目標にしていた東京ドームに行けないのはすごく残念だけど、私たちの音楽が生活の一部になって聴いてくれているファンがいるだけでうれしいんです。場所とかよりも皆さんの気持ちのほうが大きくて。今日ライブができて顔を観られたこともうれしかった。赤い公園として会うのは最後になってしまうけど、またどこかで皆さんにお会いしたいなって思うくらい、本当に楽しいライブでした。皆さんありがとうございました」と述べた。そして赤い公園は最新曲にして最後の楽曲「オレンジ」をライブのラストに披露。津野やバンドメンバー、ファンへの思いを込めて、赤い公園は熱くパフォーマンスし、ステージをあとにした。
大きな拍手に迎えられてアンコールに登場した赤い公園。藤本がレンズ付きフィルムを手に観客を撮影する場面もありつつ、それぞれが定位置へ。「石野が3人じゃ物足りないので」と、堀向を招き、「KILT OF MANTRA」で幸福感に満ちたアンサンブルを響かせた。その後、小出とキダも再び登場し、キダと堀向はそれぞれ「赤い公園が大好きです!」とひと言。小出は「気持ちを話そうと思ったら朝までかかっちゃう。僕はバンドとかロックは継承されていくものだと思う。魂や精神は脈々と引き継がれていくと思っていて。赤い公園という素晴らしいバンドがいたこと、メンバーみんなめっちゃいいやつだってこと、素晴らしい米咲ちゃんの曲も、中止になっちゃったけど『COUNTDOWN JAPAN』に赤い公園で出るためにたくさんリハしたこと、これからもこれらの経験を引き連れて、バンドをやっていきたいです。俺は絶対バンドを辞めねえからな。ありがとうございました!」と熱い思いを言葉に乗せた。
そして手拍子に合わせて「黄色い花」の演奏に移ると、金テープが発射され、場内はハッピーで温かなムードに。アンコールはいよいよクライマックスを迎え、「私たち赤い公園、12年間ありがとうございましたー!」という石野の挨拶に続いて、赤い公園はラストにアッパーチューン「凛々爛々」でライブを締めくくり、メドレーを含む全29曲をもってバンド活動に終止符を打った。最後は石野、藤本、歌川がお立ち台に立ち、マイクを使わずに「ありがとうございました!」と感謝を伝え、深く一礼。笑顔で手を振りながらステージをあとにした。
なお配信チケットは5月29日(土)18:00まで購入可能。見逃し配信は5月29日24:30まで視聴できる。
※記事初出時より、本文を一部変更しました。「赤い公園 THE LAST LIVE『THE PARK』」2021年5月28日 東京・中野サンプラザホール セットリスト
01. ランドリー
02. 消えない
03. ジャンキー
04. Mutant
05. 紺に花
06. Canvas
07. 絶対的な関係
08. 絶対零度
09. ショートホープ
10. 風が知ってる
11. 透明
12. 交信
13. pray
14. 衛星
15. Highway Cabriolet
16. Yo-Ho
17. メドレー(今更 / のぞき穴 / 西東京 / ナンバーシックス / 闇夜に提灯)
18. KOIKI
19. NOW ON AIR
20. yumeutsutsu
21. 夜の公園
22. オレンジ
<アンコール>
23. KILT OF MANTRA
24. 黄色い花
25. 凛々爛々
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なんぼー | Taishi nambo @architectizm
赤井公園、ラストライブのレポート。読んでるだけで涙が出てくるなあ。中心である津野米咲を喪い、コロナでライブもできない中で、終わることを選択した赤い公園メンバーの未来が明るいものであることを祈りたい。ありがとうございました。
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