曇ヶ原

サブスク時代に“逆行”する音楽、プログレが日本で今独自の進化を遂げている?

曇ヶ原、Evraakメンバーら関係者の証言を交えてシーンを検証

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“アイドル”という角度からプログレに挑むXOXO EXTREME

一方、バンドとはまったく別の“アイドル”という角度からプログレに挑んでいるグループもいる。“プログレッシブアイドル”として活動するXOXO EXTREME(キス・アンド・ハグ・エクストリーム)だ。

XOXO EXTREME

XOXO EXTREME

2016年から現在の形式で活動し、現在のメンバーは一色萌、小嶋りん、小日向まお、横山陽依、桃瀬せなの5人。ライブではプログレバンドのメンバーからなるバックバンドとともにパフォーマンスすることもあり、MagmaやAnekdotenといった海外のバンドの楽曲もカバーしている。当然プログレファンへの浸透度も高く、2021年にはプログレ専門誌「EURO ROCK PRESS」の表紙を飾ったこともある。

アイドルグループが無数にある中で、それぞれが個性を際立たせるための仕掛けや演出を打っているが、その中で彼女たちの武器は「プログレ」。しかし、ロックの中でもニッチなプログレを、どうして選んだのだろうか? XOXO EXTREMEプロデューサーの大嶋尚之氏は、こう語る。

「もともと自分がプログレが好きだったこともあり、ちょうどアイドルの仕事を始める頃にBABYMETALの世界的な成功を見て、ひょっとして需要があるんじゃないかな、と思ったのが最初だったと思います。実際に『プログレアイドル』と宣言して踏み出しているグループはいなかったので、そこを踏み出してみようと。とはいえ、果たして女の子たちに変拍子や長い曲ができるのか、プログレファンは怖いイメージもあったので叩かれるんじゃないか、という不安もあり(笑)、前身のxoxo(Kiss&Hug)の立ち上げとき、実は『プログレ&EDM』という2本柱で、プログレ色の薄いEDMの曲もやっていたりしました。ですが、圧倒的にプログレの反応が大きくて。女の子たちも特に先入観なく対応できそうだったので、そこで、こちらで行くべきじゃないかということになりました」(大嶋氏)

XOXO EXTREME / The Last Seven Minutes (MAGMA Cover) / 2023.4.24 5thワンマンライブ ~Ultimate UNION~@ZEPP DC

卒業などによりメンバーの変遷を重ねつつも、もう活動歴も8年を数える。「叩かれるのでは」という不安も乗り越え、独自の道を進んでいるのはどうしてなのだろう?

「プログレを名乗ることで、方向性をひと言で説明できたのは大きなメリットでした。現時点では、アイドルとしてはほかにいませんし。あと音楽としての幅が広いので、なんでもありで飽きが来づらい、というところもあるかなと思います。曲によっては難解で1回では入ってこない、ということもあるかもしれませんが、聴けば聴くほど味が出てくる、と言いますか。アイドルとの親和性も、実は高いジャンルなんじゃないかなと思っています。1曲を作る労力が通常の数曲分になって大変、というのはありますが(笑)」(大嶋氏)

プログレは特にマニアのファンが多いジャンルでもある。実際の反応はどうだったのだろう?

「蓋を開けてみると、プログレファンの方って『いろんなジャンルの音楽を聴いてきて、結果プログレファンになってる』方が多くて、懐が深く受け入れてくれる方が多かったんですよね。また、海外の大御所バンドもカバーを公認してくれたりと、温かく迎えてくれました。なんと言いますか、人も含めた「プログレ」というジャンルそのものに感謝しています。メンバーの中でもプログレを理解しようとする子も多いですし、特に今、唯一の初期からのメンバーでもある一色萌は、名前を知っているプログレバンドが来日するととりあえずライブに足を運んだりしているので、ちょっとしたプログレファン並みに現場を見ているかもしれません」(大嶋氏)

何よりアイドルの現場で彼女たちが、それまで縁のなかったアイドルファンにプログレを発信し続けている事実は大きい。「かつてのプログレの聖地でもある川崎のCLUB CITTA'での単独公演、イベントとしては曇ヶ原さんが先陣を切ってくれましたが、フジロックや『SUMMER SONIC』など、ロックフェスに出られるようになったり、リスペクトしているバンドさんと対バンできたりするようになればうれしいな、と思っています」と、大嶋プロデューサーのビジョンも広がっている。

薔薇のΝεμεσιs (ネメシス) / XOXO EXTREME with Silent of Nose Mischief(2023.4.24@Zepp DiverCity Tokyo)

プログレシーンの新たな可能性

彼ら以外にも、これからのプログレの可能性を感じさせるアーティストは多数活動している。ダミアン浜田のプロジェクト・Damian Hamada’s Creatures(D.H.C.)に参加していたことでも知られた金属恵比須、音大作曲学科首席卒業のピアニストを擁するトリオ・烏頭、全身モジャモジャの風貌で強烈なインストを展開するバンド・老人の仕事など、枚挙にいとまがないほど。

金属恵比須「魔少女A」MV Kinzoku-Yebis / Mashoujyo A

烏頭(uzu) / Isakower phenomenon

老人の仕事(works of old) - Live at pitbar 0802 [Ask the spiral line]

とはいえ冒頭に述べたように、そもそもプログレは現状の「サブスクのヒット要件に適さない」要素が満載の音楽ジャンルだ。そこについて、今回話を聞いた面々はどう思っているのだろうか?

「最近、若い人の間でモダンプログレッシブロックの波がひしひしと来ている印象があります。この波が大きくなったとき、フジロックにもお声がけしてもいいかなというアーティストは出始めてきています」(SMASH・南部氏)

「SNSでの投稿などを見ていると、インディーズのプログレシーンは間違いなく活性化しているという印象があります。今回の曇ヶ原のようにいいニュースがあると、周りにも『俺たちもがんばろう』という影響がありますしね。このニュースからポジティブな雰囲気が伝染していますし、曇ヶ原やEvraakからは『俺たちが今のプログレを引っ張っていく』という空気を感じています」(Arcangeloレーベル・永井氏)

「プログレやHR/HMなんかもそうなんですが、ジャンルが様式美を重んじる古典になってしまうのはあまり幸せなことではないな、と思っていて……温故知新と言いますか、今まで偉大な方々が積み上げてきたプログレというジャンルに最大限のリスペクトを置きつつ、そこにアイドルという要素を入れることによって、何かまだ見たこともないものを生み出せたらいいな、と思い続けています。そんな中でアイドルは好きだけどプログレはあまり知らないとか、逆にプログレは好きだけどアイドルはあまり知らないとか、そういった人たちの架け橋になっていけたら、両ジャンルへの恩返しになるかな、という夢があります」(XOXO EXTREMEプロデューサー・大嶋氏)

「社会通念上、長いギターソロが疎まれたりしているという傾向は承知していますけど、『過剰であることが大事』というアピールにもなるので、『このバンドはこの時代にイントロが5分もあるんだよ、ちょっと聴いてみ?』みたいなところがいいんじゃないですかね。何かしら『何これ?』と思ってもらえたら、それが大事な出会いになりますから。可能な限りそういう人たちの前で演奏する機会を持ちたいと思っていますし、プログレは今の若い方が知り得ない音楽じゃないですか。それでも『面白い』と映る人もいると信じています。もし『面白い』と思ってもらえたら、じっくり聴いてほしいし、SNSでも何でもいいからコミュニケーションが取りたいですね」(Evraak・ハヤヲ)

「曇ヶ原は、もともとやってることがニッチですから、『100人いたら1人気に入ってくれればいい』という気持ちでやっています。逆に言うと、その1人に届けるためには100人に知られなきゃいけないわけで。プログレに興味を持つ若者は変な人が多いんですよ。僕も変な若者でしたから。中学生の頃、1学年に100人いる中でプログレを聴いてたのは僕だけで、すごく孤独感を抱えていました。もともと変な人間だった僕が、プログレを聴くことによってさらに変になったけど、ある種救われたのも確かなんです。100分の1でもいいから、救われてくれる若者がいたら、14歳の僕も救われるなという気がします」(曇ヶ原・石垣)

「今のジャパニーズプログレ」の最前線に触れるには、曇ヶ原のフジロック出演も1つの契機だし、今年末には曇ヶ原もEvraakも(偶然だが)そろって2ndアルバムをリリース予定なので、そこから入ってみるのもいいだろう。プログレは確かに“沼”だが、決して怖くはない(はず)。プログレ沼で、サブスクにない、「他にない」音の世界を見つけてみるのはどうだろう。

※Arcangeloレーベルの2つ目の「a」はグレイブアクセント付きが正式表記。

高崎計三

1970年生まれ、福岡県出身のライター / 編集者。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。格闘技・プロレスをメインに、近年は音楽をはじめ多方面でライター・編集者として活動。2024年5月に刊行された、総合格闘家・鈴木千裕の著書「夢を叶える『稲妻メンタル』」(双葉社)の聞き手と構成を担当した。

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読者の反応

佐々木俊尚 @sasakitoshinao

1970年前後の古いロックという印象のプログレだけど、日本でいま密かに盛り上がってるらしい。プログレアイドルも登場。紹介されてるアーティストの楽曲、堪能しました。/サブスク時代に“逆行”する音楽、プログレが日本で今独自の進化を遂げている? https://t.co/A6R9nVG7TA

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