ACIDMANが昨年開催した全国ツアーのうち、ファイナルとなった東京・日本武道館公演の模様を収めた映像作品「This is ACIDMAN 2025 in 日本武道館」がリリースされた。
セットリストを事前公開するというコンセプトのもと、2021年にスタートした「This is ACIDMAN」シリーズ。5回目の開催となった2025年は過去最大規模となる全国10カ所で開催され、その総決算として行われたのが、バンドにとって7年ぶり7度目の武道館公演だ。映像作品にはライブ本編のほか、ツアーの舞台裏に密着した約1時間20分に及ぶドキュメンタリーが特典として収録される。
今回のインタビューでは、映像で観るからこそ際立つポイントに焦点を当て、セットリストや演出、MC、パフォーマンス、そして武道館を経た現在の心境まで大木伸夫に語ってもらった。
取材・文 / 黒田隆憲撮影 / 森好弘
当初の構想とはまったく別物になった武道館公演
──武道館公演のセットリストは、どんなテーマでどのように組んでいったのでしょうか。
前のインタビュー(参照:ACIDMAN「This is ACIDMAN」開催記念インタビュー「センス・オブ・ワンダーと向き合い続ける フロントマン・大木伸夫の現在地」)でもお話ししましたが、「This is ACIDMAN」は2021年にスタートしました。ある程度セットリストを固定し、あらかじめ演目を知ってもらった状態で楽しんでもらうのが、このライブシリーズの特徴です。ただ今回は全国を回るツアー形式だったので、基本のルールは守りつつ、各地の思い出や、その街で共有してきた記憶も含めて、「その日だけのライブ」という特別感を出したいという欲が湧いてきました。
──そこで、会場ごとにセットリストを変えていったと。
はい。もちろん、曲を入れ替えれば入れ替えるほど準備も練習量も増えるし、時間もタイトになる。正直、かなり大変でした。でも結果的にはそれがすごくよくて。各地でセットリストを変え続けた先に“武道館にハマる流れ”が自然に見えてきました。最終的には最初に想定していた武道館のセットリストとはまったく違う形になったけど、ツアーを重ねたからこそたどり着けた並びだったと思います。
──セットリストの中で、特に気に入っている流れは?
8曲目の「sonet」から13曲目の「廻る、巡る、その核へ」までの流れが特に気に入っています。比較的静かな曲が続くパートですけど、演奏する側の集中力も、お客さんの緊張感も含めて、華やかさと寂しさ、切なさ、苦しさが同時に立ち上がったというか。激しい曲で出てくるような衝動的なエモーションが、静かな曲の中からも湧き上がってきたのが面白かった。「廻る、巡る、その核へ」からライブの後半へ向かって一気に加速していく展開も含めて、すごくいい流れが作れたなと思います。
──アンコール1曲目の「feel every love」は、ストリングスとクワイアが圧巻でした。
クワイアの皆さんはレコーディングに参加してくれたお二人と、ミュージックビデオにも参加してくださった方々で、とにかくポジティブなエネルギーがすごい。極端な言い方かもしれないけど、「この曲が鳴り響き続けたら世界は平和になる」という確信に近い感覚があって、そういう瞬間を作れたのは本当によかったです。皆さんが笑顔で、心から音楽を楽しんでいることが嘘偽りなく伝わってくる。それは映像からも感じてもらえると思います。
──四家卯大さん率いるストリングスは今回、「sonet」の途中から合流する演出でしたよね。
リリース当初からスタッフに「途中からストリングスが入る演出はどうですか?」と提案してもらっていて、ずっとやりたいと考えていたんです。それを武道館で実現できたのが、とてもうれしかった。四家さんは、何年も前からストリングスアレンジをお願いしている方なので、全幅の信頼を置いています。例えば今回、「愛を両手に」の前にチェロのソロパートを入れてもらったけど、実はオーダーしたのが3日前くらい(笑)。それでも快く受けてくださって、当日のリハでも「こんな感じで」と軽くニュアンスを伝えただけなのに、すごくいいソロを考えてくださったんです。リハでは合わせるたびに毎回違うアレンジだったのですが、本番が一番よかったです。あの空気を作ってくれたのは、四家さんのチェロの響きだったと思います。
時間をかけて変化してきたアンサンブル
──各地でファン投票の結果をもとにリクエスト曲を披露されていましたが、武道館は「ファンファーレ」でした。MCで「意外だ」とおっしゃっていましたね。
もっと昔の曲とか、普段あまり演奏していない曲が選ばれると思っていたんです。「ファンファーレ」は前作「INNOCENCE」(2021年10月リリースの12thアルバム)の曲で、わりと最近リリースしたものだったので正直、びっくりしました。でも結果的に、武道館にすごく合っていた。「ファンファーレ」のオープニングでスクリーンに映る画像は、こちらで作らせてもらったんですが、完成したものを見た瞬間に「この曲を選ぶとはファンの皆さん、さすがによくわかってるな」と。確かにこの日は、武道館でツアーが大団円を迎えたし、「ファンファーレ」がぴったりだった。当日には完全に腑に落ちて、すごくいい流れになりました。
──今回の「This is ACIDMAN」も同期を極力排し、大木さん、佐藤雅俊(B)さん、浦山一悟(Dr)さんの3人だけによるミニマルな演奏スタイルでした。特に武道館では、どんなことを意識して臨みましたか?
基本はいつも同じです。大事なのは目の前のお客さん。時間を作って、チケットを買って、ここに来てくれている、その人たちに感動してもらうこと、何かが変わるきっかけになってもらうこと。それだけを考えよう、と。変な話ですけど、最近は2人ともちゃんと練習してくれるようになって(笑)。ここ数年でようやく……という感じではありますが、武道館は本当に歌いやすかったです。
──そこはやはり、長年培ってきたメンバー同士の信頼の重みもありますよね。
昔は何度言ってもなかなか伝わらなかったですけどね(笑)。レコーディングもライブも重ねながら、体で示したり、絵にしたり、色に置き換えて伝えたり……いろいろ試しました。言葉で「ここはこう」と言っても、届かないときってあるじゃないですか。でも10年、20年かけて、2人が僕の世界観をちゃんと理解してくれているのが伝わってきた。これまで2人にとって重荷だった部分が、今はちゃんと血となり肉となっている。そんな感じがしました。
──大木さん自身は武道館での演奏中、どんなことを考えていましたか?
不思議なくらい冷静でいられました。曲の中に深く入り込んで演奏ができた。7回目の武道館だからというより、長い時間ずっとイメージしてきた場所だったからかもしれないです。特に中盤のスローバラードが続くパートは、楽曲の世界観に入り込めた感覚が強かった。バラードって感情の表現そのものだから、実はリズムが一番難しいんです。激しい曲は勢いで押し切れる部分もあるけど、バラードで情感豊かに歌おうとすると、クリックがあっても毎回ニュアンスが変わって、その変化に演奏が寄り添っていく必要がある。結果として、武道館では音楽とかアートを超えた“何か”にお客さんが触れる瞬間が作れたんじゃないかなと思っています。
やれることは全部やろう
──演出も、シンプルなステージにLEDスクリーンとレーザーという構成でした。だからこそ曲ごとの表情がより際立っていました。
7年前の武道館では、LEDで「Λ」(2017年12月リリースの11thアルバム)の世界観を作ったり、セットを組んだりもしましたけど、今回はまず「映像をしっかり観てほしい」という思いが大きかったです。予算の問題もありましたけど、演出は振り切りたかった。カルテットやクワイア、紙吹雪、ミラーボール、銀テープ……「やれることは全部やろう」と決めて、面白く感じてもらえる方向に全振りしました。普通ならクライマックスでやる演出も、あえて1曲目から全部出しにする。削ってるのか削ってないのかわからない感じですけど(笑)。AIでは絶対に再現できない体感というものに、演出の軸足を置きたかったんです。
──映像についても、「world symphony」は幾何学的なイメージだったり、「FREE STAR」は深海や宇宙に放り出されたような幻想的な表現だったり、曲の世界観を引き出すうえで大きな役割を担っていました。
ACIDMANは昔から、映像の比重が大きいバンドなんです。今回の武道館のために新しく作ったというより、20年以上やってきた中で作り溜めてきたものもあるし、積み重ねの上にある感覚です。僕自身も、映像に関してはけっこう意見を出します。次に挙げる2曲はミュージックビデオですが、「廻る、巡る、その核へ」は西郡(勲)監督と膝を突き合わせて仕上げました。「風追い人(前編)」もそうで、「若い2人のダンスシーンを入れたい」「最後に子供が生まれるストーリーにしたい」とか、そういうオーダーはしています。
──「風追い人(前編)」は、映像と音楽のコラボレーション作品というか、アート作品に近いなと。
この曲は映像も含めて前後編の2部構成で、どちらも坂本龍一さんにピアノで参加していただきました。僕の中では、かなりアーティスティックな位置付けですね。そもそも「風追い人」という言葉自体、僕が作った造語なんです。テーマは「何かを追い求めること」。恋愛感情なのか、愛なのか、生への渇望なのか──そこははっきり言い切れないけど、人間が抱える根源的な欲望みたいなものがあると思っています。
武道館でやってみたかったこと
──MCでもいろんな話が出ました。演奏のシリアスさや大きなうねりと、MCでのリラックスした語り口。そのギャップもACIDMANのライブの大きな魅力だと思います。
僕の宇宙論の話って、一度スイッチが入ると止まらないんです。宇宙の話を聞きたくて来たわけじゃない人もいるのに、半ば強制的にその場に閉じ込めて、ここぞとばかりに聞かせる(笑)。自己満足と言われたらそれまでかもしれない。でも、武道館で7年ぶりにライブをするなら、やってみたかったことがあったんです。これまで総立ちで突っ走ってきたお客さんに向かって、「座ってほしい」と言ってみる。みんな着席の状態で、僕が講演会みたいに語り出したら面白いだろうなって。
──確かに。大木さんの講義を聞いているようでした(笑)。
楽曲だけでは収まりきらない伝えたいことがあるんです。人類は生まれて、いつか必ず死んでしまう。その事実の中で生きている。明日のことを考えるのはもちろん大事だけど、宇宙規模で見れば、138億年という宇宙の歴史の中の“今”を僕らは生きている。そのスケール感を、どうしても体でわかってほしいんです。それが世界平和につながると思っているから。
──それは、「sonet」で歌ったバタフライ効果にも通じますね。
人間って、どうしても自分のことばかり考えてしまう。未来のこと、お金のこと、不安だらけになる。でも、一旦ピントを宇宙に合わせてみる。そうすると、生きていることへの感謝が生まれて、表情が変わるし、生き方も変わるし、発する言葉も変わってくる。メンバーにもよく「思考は現実化する」と話していて。だから、できるだけポジティブに考えて、感謝を忘れないでほしい……こんな話、聞きに来たわけじゃない人もいると思うけど(笑)、これからも語り続けていくと思います。
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