吉田山田「うちのはなし」インタビュー|なぜ吉田結威と山田義孝は「家族」を題材にし続けるのか

吉田山田が“独立1周年”記念日である4月1日に新作EP「うちのはなし」をリリースした。

2025年3月31日をもって所属事務所から独立し、新たな体制で活動を始めた吉田結威(G, Vo)と山田義孝(Vo)の2人。彼らはこの1年間、ライブ活動を精力的に行い、制作に邁進し、“家族”をテーマにした「うちのはなし」を作り上げた。「愛された記憶」「おばけ」「母のうた」など、2人はこれまでも家族について歌ってきたが、それぞれが新しい家族を持ち、子供が生まれたことで、その表現にも少しずつ変化が見て取れる。約1年半ぶりとなったこのインタビューでは、家族に対する思いや作品作りにおける変化を2人に聞いた。

取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / はぎひさこ

実家の話から“うちのはなし”へ

──今作「うちのはなし」は、タイトル通り家族がテーマです。2024年10月に発表したEP「家族写真」も家族がテーマの作品でしたよね。

吉田結威(G, Vo) 僕らとしては特に意識して「家族をテーマに作品を作りたいから、それに沿った曲を書こう」とはしていないんですよ。ただ、山田が書いてくるデモが5曲あったとしたら、そのうちの1曲は家族のことを歌っている。それは「家族写真」という作品を出す前から、なんなら自分たちが結婚して家族を持つよりも前ですね。ずっと前から山田は息をするように家族の曲を書いてきた。

山田義孝(Vo) 自分の生まれ育った環境のせいなのかなあ。父親が早くに亡くなって、長く母親と2人きりだったことで反抗期に感情を爆発できなかったことがずっと自分の中で残っている。その思いは年齢を重ねても消えないんですよ。例えば恋愛のことだったら経験を重ねることで過去のことを払拭したりできるかもしれないけど、親と自分の関係性における気持ちの折り合いはいくつになってもつかなくて、しばらくは自分の感情に蓋をしてた。その蓋が「日々」(2013年12月発売のシングル曲。NHK「みんなのうた」で放送された)をきっかけに開いたような気がして。ああ、この気持ちって曲にしてもいいんだと思った。

吉田山田

吉田山田

──曲にすることで、山田さんの感情はうまく昇華されたんでしょうか?

山田 いや、感情を吐き出すことで楽にはなっているけど、消えないものなんだなと思っています。ただ、それは無駄なことでもなくて、「あ、あのとき本当はこんな気持ちだったんだ」「今、ここが傷付いてたんだ」と気付くことができる。曲を作りながら胸が痛んだり、当時の自分を責めたりすることもあるけど、それがなくなってしまったら意味がない。だから作為なく曲にしている感覚があります。

吉田 山田は幼少期に見てきた風景や、そのときの感情をよく覚えているんですよね。おそらく山田は心の中に残っているものを描ききりたいんだと思う。自分自身が次に進むために。その気持ちは僕もすごくわかるけど、頭の中でそんな日は来ないんじゃないかとも思っています。だからこそ、節目を付けてちゃんと残すことが必要だし、「家族写真」や「うちのはなし」という作品ができた。どちらも「家族」がテーマではありますが、中身は全然違うと思っています。

吉田山田

吉田山田

──「家族写真」が過去にスポットを当てた作品だとすれば、「うちのはなし」は今の家族にフォーカスした作品だと感じました。

吉田 その通りです。普通、“うち”と表現して意味するものは2つあるんですよ。自分が子供時代の“うち”と、自分が家族を持った今の“うち”。僕も山田も家族を持ってから、「うち」と言うと今の家族を指すことが多くなった。生み出す曲も今に近いものになってきている。それって僕の中ではすごく大きな変化だと感じていて。今回収録される5曲を何度も聴いて思いついた言葉が「うちのはなし」でした。

──事務所から独立したこともあり、今作に関してはジャケットも2人が自らデザインしたと伺いました。

吉田 はい。しかもこの写真、山田の家のシンクの写真そのままなんですよ。

吉田山田「うちのはなし」ジャケット

吉田山田「うちのはなし」ジャケット

山田 残飯が残っていると汚らしいのでそれは取り除いてますが(笑)。インスタのようなSNSでは、豪華な料理とか映えを重視したものであふれているけど、家のシンクの中ってどんなに家賃が高くても、安くても変わらないんじゃないかなと思って。僕自身、シンクを見ていると実家のことを思い出すし、今の家族のことも思い浮かぶ。

吉田 自分たちでデザインを手がけるうえで、いろいろ試してみました。ほかの写真で考えてみたり、AIを駆使して作ってみたり。その中でも僕らが表現したい家族は「素敵だね」と感じるだけのものでもなく、だからと言って生活感丸出しの物悲しいものでもない。いろんなものが入り混じった“営み”を感じさせる表現を探していたら、山田がいい写真を撮ってきてくれて。写真だけじゃなくて、ジャケットのあしらいに関しても山田の実家にあった家族アルバムの表紙を参考にして作ってみました。プロのデザイナーにお願いせずに自分たちで作るなら、これが一番納得できる形なのかなと思っています。

子供に向けて書いた「ピース」

──1曲目の「ピース」は今作の収録曲の中では最も新しい、つい最近できあがった曲だと聞きました。

吉田 この5曲の中では最も新しい曲ですね。「うちのはなし」という作品を作ることと、家族をテーマにしたツアーを回ることが決まったとき、僕らの気持ちがどう変化するのか考えてみると、もしかしたら次のフェーズに向かうのかもしれないし、もうちょっと家族を掘り下げてみたくなるかもしれない。そういうことを考えている中で、個人的に子供に向けての歌を書き残しておこうと思った。子供が生まれて個人的に一番変わったところは「僕にはこの子に何ができるんだろう」と考える時間が増えたこと。そして、僕が子供に対して願っているのは1点だけで「幸せになってほしい」ということなんですよ。でも「幸せになるためにはどうしたらいいの?」と問われたときに、僕はどう答えられるんだろうとつい考えてしまう。自分が幸せでないと説得力がないだろうから、この質問は自問自答でもあるわけです。

吉田結威(G, Vo)

吉田結威(G, Vo)

──「ピース」に込められているメッセージは、吉田山田の2人がライブに来たファンに向けて発していることにも近いなと感じました。

吉田 僕にとって大切なことが詰まっている曲なので、ライブで話すことと重なっているかもしれないですね。

山田 この曲を聴いたとき、僕はよっちゃんの新たな一面を見れた気がしました。高校で出会ってからいろんな姿を見てきたけど、今は余計なものが削ぎ落とされた状態なんだと。これまでのよっちゃんだったら、もっとひねった言い方をしたり、曲の中で引っかかりを作ったりしていただろうけど、この曲は最初から最後まで素直な感情が描かれている気がして。サウンドに関してもすごくシンプルな構成で、ひさびさにこんなまっすぐな曲ができたなと。

吉田 編曲のかねまっちゃん(兼松衆)とは古い仲だから、「僕が子供に向けて書いた曲です」と伝えただけで歌詞に合う素晴らしいアレンジにしてくれました。

山田 いい意味で、たくさんの人に向けて書いてないのがすごくいい。歌詞もサウンドももう少し特徴を付けて、いろんな人に引っかかるようなものに脚色することはできたかもしれないけど、まっすぐ、そのまま届けることに今の僕らは意味を感じているんだと思います。

山田義孝(Vo)

山田義孝(Vo)

「山田くんの家、大丈夫なの?」

──取材前にいただいた資料によると、「玉手箱」は2018年頃に作られた楽曲だそうですね。約8年前ということは吉田さんも山田さんもまだ結婚前ですが、「美味い不味いじゃなく並べられたおかずを 口へと運んだ」という歌詞に表れているように、この曲では倦怠期とも言える夫婦関係が描かれています。どういう経緯で生まれた曲でしょうか?

山田 まだ独り身だった頃、いろんな夫婦の話や家族の話を聞くとだいたいみんな愚痴ばっかりなんですよ。「家族がいて本当に幸せ」と胸を張って言う人は全然いない。みんな愚痴ばっかりなのに一緒にいるのは、なんでなんだろうって。その気持ちを曲にしてみました。僕、炊飯器を開けたときに立つ湯気が大好きなんです。炊飯器の湯気は実家でも、今の家でも変わらず立ち込めていて。おそらく何十年経ってもこれは同じなんじゃないかと思って「玉手箱」と名付けてみました。

──山田さんは家族にこの曲を聴かせましたか?

山田 まだです。

吉田 早く聴かせな? できれば「8年前に作った」とか言わずに。

吉田山田

吉田山田

──8年前に作った曲とはいえ「うちのはなし」という作品の中で“夫婦の愚痴”が書かれていると……。

吉田 普通に聴いたら、今の奥さんへの愚痴が曲になってると思うよね。

山田 うわ、全然考えてなかった! よっちゃんはこの曲を家族に聴かせてみた?

吉田 聴かせたよ。「これは山田が作った曲だから」と言ったら、めちゃくちゃ心配してました。「山田くんの家、大丈夫なの?」って。

山田 作った当初はピンときてなかったけど、みんな口には出さないだけで、家族の愚痴の中には「それでも幸せなんだけどね」という意味が含まれていたんですよね。それが今ならよくわかる。愚痴のような内容の歌詞だし、ちょっと不穏なため息みたいなフェイクも入っているけど、この曲で描いているのは間違いなく幸せの1つの形なんですよ。それがちゃんと伝わるといいな。