vistlipが約1年ぶりのオリジナルアルバム「DAWN」を4月1日にリリースした。
新年度のスタートとともに世に放つ作品に、“夜明け”を意味するタイトルを付けたvistlip。2023年の事務所独立後は試行錯誤をすることも多かったが、ここにきてメンバーの関係性なども含め良好な状況だという。「本格的にスタートできた」という2025年1月リリースのアルバム「THESEUS」での手応えを得て、彼らはどのような日々を過ごしてきたのか。楽器隊メンバー全員が作曲に参加したという「DAWN」は、来年結成20周年を迎えるバンドにとってどういった意味を持つ作品なのか。智(Vo)、海(G)、Tohya(Dr)に話を聞いた。
取材・文 / 森朋之
何を言っても亀裂が入らない状態
──音楽ナタリーでのインタビューは、前作「THESEUS」(2025年1月発表)以来となります。まず、この1年間の活動の手応えについて教えてもらえますか?
智(Vo) そうですね……事務所から独立したことによる環境の変化にもだんだん慣れてきて、精力的に活動できるようになってきたのかなと。それまではマイペースというか、「これからどうしていこうか」みたいな時期もあったんですけど、「THESEUS」をリリースしたあたりから本格的にスタートできたんじゃないかなと。
海(G) うん。ライブの本数も増えてきて、ステージの在り方、ライブの作り方なんかも試行錯誤してましたね。以前とは違うスタッフの方も入ってくれたので、いろんな意見をもらえるようになって。今までは100%観に来てくれる人たちのことを考えて、作り上げたものをフロア側に投げかけるようなライブをやってたんですよ。それはもちろんいいことなんだけど、新たに関わってくれた人から「バンド内の熱量を高めることもやってみたら?」と言われたり。最初は気恥ずかしさみたいなものも若干あったんですけど(笑)、徐々に自然にやれるようになってきた。外からの意見をかなり柔軟に取り入れられるようになってますね。
Tohya(Dr) 2人が言ったこともそうだし、やっぱり環境に慣れたことが大きいのかなと思ってます。足りてなかったところ、不安定だった部分を整えることで、メンバー同士の雰囲気もどんどんよくなっている。前の雰囲気が悪かったわけじゃないんですけど(笑)、長くバンドをやってる中で、当たり前になっていたところや疎かになってたところに気付かせてくれるスタッフもいて。
智 むしろ最近は余計なことも言っちゃうようになってる。指摘したいことは気にせず言うし、デリカシーがなくなったというか。ただ、それは自分たちにとってきっといいことなのかなと思ってます。
──言いたいことを言い合っても空気が悪くならない?
智 というより「空気が悪くなってもいい」くらいの感じですね。何を言っても亀裂が入らない。
示したいのは「自分たちは乗り超えたんだ」というストーリー
──素晴らしい。では、ニューアルバム「DAWN」についてお伺いします。「BET」「Code Number」「Bedtime Story」などのシングル曲も収められていますが、アルバムの制作の起点はどこだったのでしょう?
Tohya まずアルバムのリリース日を決めるところからですね。そのときはツアー中だったので、実際に取りかかったのは11月の終わり、12月に入ってからでした。曲を選んでから智が作詞を始めるので、かなり優しくないスケジュールで制作させてもらいました(笑)。アルバムの全体像というか、どういう作品にするか?というのは毎回決めてなくて。作曲陣が作ってきた曲からピックアップしつつ、智がしっかりまとめてくれているんです。曲選びや作詞の段階で、メンバーの意識を操作しているのかもしれない(笑)。
海 今回のアルバムは悩むことが多かったんですよ、個人的には。Tohyaくんにも注意されたんですけど、レコーディングにけっこう時間がかかってしまって。主にギターの音作りで。プレイ的にはそこまで複雑なことはやってないけど、どんなギターを使うか、どんな音にするかでドツボにはまってしまった。自分はバッキングがメインなので、音色によって楽曲のイメージや広がり方が変わってしまう気がして……ひたすら迷ってました。
──トライ&エラーがあった、と。智さんはどうでした?
智 最初にデモが完成したのが「未明」だったんですけど、歌詞を書いているときに「夜から夜明けまでをアルバムでやれたらいいな」と思いついて。そのあとに作った曲も夜っぽいシチュエーションだったり、夜をテーマにした歌詞を書いてました。シングルの「BET」「UNLOCKED」(「Code Number」「Bedtime Story」収録)で解放に向かっている感じを演出していたので、アルバムでもその流れを表現したいなと。
──「夜明け」「解放」というイメージは、バンドの環境がよくなっていることとも重なっている?
智 それだけじゃないですね。独立してから、あまりうまくいってなかった部分もあったんですよ。言ってしまいますけど、メンバーのメンタルやバンドの状況を含めて、ぜんぜんよくないなという時期もあった。そこからどうやってモチベーションを上げていくか?という課題もありつつ、「自分たちは乗り越えたんだ」というストーリーをアルバムで語れたらいいなと思って。特に最後の「Drawing Dawn」の歌詞はかなり赤裸々に書いてます。もう過ぎ去った話でもあるし、これまでの経過を歌詞にして知ってもらうことで、結成20周年に向かっていけたらいいなと。それも相まって、ドラマチックな仕上がりになっていますね。
智の歌詞はずるい
──「Drawing Dawn」には「ブレたって仕方ないよな。/ 文句(おかえり)ぐらい云わせて欲しいから、まだ唄を謡っているんだ。」という歌詞もあって。比喩が智さんの歌詞の特徴だと思うのですが、この曲の表現はすごく率直ですね。
智 そうですね。1人の人間として伝えているというか。比喩で表現する理由の大部分は、自分の歌詞の世界観や美学なんですよ。でも、1割くらいは恐怖心があって。
──恐怖心?
智 比喩を使わないことで、ダイレクトに伝わってしまうことの恐怖ですね。SNSとかもそうですけど、「俺はお前のこと嫌い」って言うのは怖いじゃないですか。そこで縁や関係がすべて終わってしまうかもしれないので。それと同じで、比喩を使わないで歌詞を書くと、自分が考えていることがすべてファンにバレてしまう。それはやっぱり怖いことなんですよ。自分というより、受け取り手が傷付くのが怖い。そういうことを考えながら生きてるんですけど、「Drawing Dawn」の歌詞については比喩を使う表現より、「このバンドは乗り越えたんだよ」と伝えることのほうが大事だったんです。
Tohya レコーディングのときにこの歌詞を読んで、「ずるいな」と思いましたね。智も言ってましたけど、弱いところや暗い経験、自分のマイナスの部分を見せるって、怖いじゃないですか。でも、それはアーティストや人間としての魅力でもあって。そこを前面に出した歌をアルバムの最後に持ってくることで、ファンの心をつかみに行くような。もちろん作品としては素晴らしいんですけど、それ以上に「これはずるいな」って。あとは「うらやましい」という気持ちもありました。こういう歌詞を書く曲として、Yuhの曲が選ばれたのが。
──「Drawing Dawn」の作曲はYuhさんですからね。海さんはこの曲にどんな印象を持っていますか?
海 歌録りにも立ち会ったんですけど、「ライブで表現するのは難しいかもな」と思ってました。どんな顔をして演奏すればいいのか、どんな立ち居振る舞いで臨めばいいのか。そこまで重く考える必要もないだろうけど、だからと言って軽々しくやれる曲でもないと思うんですよ。あとは最近vistlipを知った人、ライトな気持ちでライブに来てくれた人には伝わりづらい曲かもしれないなと感じました。
──セットリストのどこに置くかも考えどころですよね。
海 そうですね。アルバムツアーでは最後に置いてもいいけど、そうじゃないライブのときはどうすればハマるのか。そもそも「ライブでやったらどんな感じになるんだろう?」という。ライブで演奏していく中で、聴いてる側の捉え方、こちら側のテンションも変わってくるでしょうね。
──歌い方もストレートですよね。普段はあえて歌詞が聞き取れないような発声もしていますけど、この曲は言葉がしっかり聴き取れるので。
智 それも意識してました。レコーディングのときもそうだったんですけど、声そのもので表現できるようになってきた手応えがあって。だからライブでも、言葉を伝えられるんじゃないかなと思ってます。
海 さらけ出す感じになりそうだね。「Drawing Dawn」を歌ってるときのライブ写真、智は嫌がりそう。
智 必死だろうからね(笑)。普段はあまり必死な顔をしないので。
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結成当初の感覚&今やりたいことの両立


