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佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 7回目 中編 [バックナンバー]

松隈ケンタとアイドルソングのメロディを考える

“歌”が変わったWACKメンバー、一体何が起きていた?

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佐々木敦と南波一海によるアイドルをテーマにしたインタビュー連載「聴くなら聞かねば!」。前回に引き続き、BiSBiSHらWACK所属グループのサウンドプロデューサーである松隈ケンタ(Buzz72+)をゲストに迎えたトークの中編をお届け。自身の驚くべき作曲テクニックや並々ならぬメロディへのこだわり、歌唱力が開花したアユニ・D(BiSH、PEDRO)、MAHO EMPiRE(EMPiRE)とのエピソードなどについて、松隈から話を聞いた。

構成 / 瀬下裕理 撮影 / 田中和宏 イラスト / ナカG

水曜と木曜に考えたメロディしか使わない

佐々木敦 松隈さんは毎回ベストを尽くして曲を作られると思うんですが、作り終えてみて自分が傑作だと思った曲が実際に採用されるか、世間的にヒットするかという問題もあると思うんです。そういうことを考えながら音楽を作り続けていく中で、ご自身の作曲家としてのモチベーションをどうやって保ち続けているんですか?

松隈ケンタ 確かに、どうしているんだろう(笑)。でも僕はやっぱりプロフェッショナルでありたいと思ってやっているのが大きいかもしれないです。音楽に限らず、陶芸家や画家、もちろんビジネスマンの方にも、それぞれプロの定義があると思うんですが、僕が思うプロは仕事がつながって途切れないことなんですよね。引退するまでずっと需要があるのがプロだと思う。オファーをくれた人が「この曲カッコいい」と言ってくれたらいいし、使ってもらえることが最大のモチベーション。そのために全力で曲作りをしているので。言い方は悪いかもしれないですけど、曲が売れなかったら俺を選んだ人のせいだと思うし(笑)。よく作曲家のせいにされがちですけど。

左から南波一海、松隈ケンタ(Buzz72+)、佐々木敦。

左から南波一海、松隈ケンタ(Buzz72+)、佐々木敦。

南波一海 売り上げってプロモーションの仕方とか、そのときの世の流れなどにも複雑に関わってきますしね。一概に曲のせいとは言えない。

松隈 そうそう。なのに、最近は1つのアーティストで作曲家をコロコロ変えたりすることも多いじゃないですか。僕はビジネスマンとしてそういうやり方はセンスがないと思っています。曲が売れなかったからって、すべてを作家のせいにするのは違うんじゃないかなって。それに、そういう考え方の人に自分がいいと思っている曲を預けるのは怖いなと。

佐々木 ある意味、曲を殺されてしまうかもしれない。

松隈 そういうことです。自分の曲を大切にしてくれる人に預けたい。だから自分も信頼できる若手にしか仕事は振らないし、がんばってくれたヤツにはちゃんと金が回ってくるようなシステムを構築したい。努力がちゃんと評価される環境を作りたいんです。

佐々木 長くやっていくという意味では、それが一番賢明な方法かもしれないですね。

松隈 ここだけ切り取られると偉そうに聞こえるかもしれないけど、例えばプロの料理人だったら、目の前に運ばれてきた料理を見てプロが作ったかどうかわかるじゃないですか。それと同じことがどんなジャンルにも言えると思っていて。ひと目でプロの仕事を見分けられるのが本物のプロなんですよ。僕はメロディを聴いたときに、プロが作ったものかどうかすぐにわかるし、それがわかるようになった瞬間から仕事に対する意識も変わったと思います。曲がどれだけ売れていても、たまたま運よく売れちゃったなという人と、中身が伴っている人との見分けがつくというか。アレンジとなると話は別ですけど、メロディに関してはある種のコツ、プロのメロディの音符の置き方みたいなものがあると思っています。そこは僕が育てている若手作家たちにも、なかなか言葉では伝えづらい部分ではあるんですが。

佐々木 いつも曲を作られるとき、メロディはどんなふうに考えているんですか? 練りに練って考えるのか、突然パッと降ってくるような感じなのか。

松隈 まず急に降ってくるということは絶対にないですね。「作るぞ!」という意識でやっています。具体的に言うと、今は毎週水曜と木曜に作曲の日を設けていて、その日に作ると決めているんですよ。なのでもし月曜日にメロディが浮かんできたとしても捨てます。作ろうと思ったときに頭の中にあると邪魔くさいから(笑)。基本的には水曜と木曜に考えたものしか使わないです。

佐々木 なるほど、そうなんですね。

松隈 かといって、こねくり回して考えるというのとも違っていて。イメージとしては、とりあえず冷蔵庫を開けてみる感じですね。どんな野菜が入っているか、どんなスープがあるか。で、パッと目に付いたもので今日の晩飯を作ろう、という感覚です。

10秒間のAメロは5秒で完成します

南波 でも自分の中のロジックが固まってくると、ちょっと味変したいと思ったりすることはないですか?

松隈 メロディが降ってくるタイプの人は、自分のセンスで自分の好きな感じのメロディをもとに曲を作っているんですよね。だから南波さんの言うように、同じような味になることが多いはず。でも僕の場合はそういうアプローチではなくて、まず1つ、キーワードやメロディの中で一番いいと思える部分を作るんです。で、そこに向かっていく物語としてメロディを作っていく。毎回キーとなるものを意識的に変えるようにしていて。ゴールを前とは違うところに設定すれば、自ずとそこに向かうルートも違うものになってくるという。

南波 なるほど。

松隈 芸人さんでいえばオチをまず決めて、そこまでの道筋を組み立てていく感じです。

佐々木 オチはつまり、サビみたいな部分ですか?

松隈 サビの頭か最後ですね。僕はよくサビの終わりの部分のメロディを最初に考えるんですよ。だから僕の曲って、サビの入り口はわりと地味なことが多くて。「オーケストラ」(2016年9月に発表されたBiSHの代表曲)も、サビ終わりに向けてだんだん盛り上がっていくじゃないですか。

佐々木南波 確かに。

松隈 普通はみんな、「イッツ マイ ラーイフ!」(Bon Jovi「It's My Life」)とか「ロージアッ!」(LUNA SEA「ROSIER」)とか、そういう歌いたくなるようなサビ頭を最初に考えることが多いと思うんですけど。僕は最初から勢いよく突っ走ってしまうと、サビが終わるまで一辺倒になってしまう気がして。入口を固定すると出口も決まってしまうけど、やっぱりサビは気持ちよく終わらせたいから。先に後ろのパートを固めて、頭を変えていくんです。なので極論を言えば、Aメロはなんでもいいというか。ちなみに10秒間のAメロは5秒で完成します。5秒のメロディを作ってコピーすれば10秒になるので(笑)。

南波 実際のメロの長さよりも、メロを作っている時間のほうが短いってあり得るんですかね? すごいなあ。

松隈 これだけ曲を作っていたら、そういうときもありますよね。思いついたらコピー、大体2回繰り返せばフレーズのベースができる。まあ今のはかなり極端な話ですけど、例えばAメロのメロディを頭の中で考えたら、実際に歌ってみるんです。で、そのあとパソコンに打ち込んで、もう1回、コードに合わせてなんとなく歌ってみる。そうすると微妙に異なるメロディが2テイクできるので、それを聴き比べてみて、どちらかいいほうを上書きするんです。そのあとさらにもう1回歌ってみて、「あれ、最初に録ったやつのほうがいいな」「でも終わり方の何音符かは上書きしたバージョンのほうがいい」とか考えて、最終的に合体させる。これでもうAメロができます。

南波 さも簡単に言いますけど。

佐々木 絶対に他人には真似できないですよね。

松隈 自分としてはキャベツを切っているくらいの感じです(笑)。前菜のサラダよりもメインディッシュを一生懸命作りたいから、サクッといけるものはサクッっといきたい。あとは、そのくらいの温度感で作ったほうが、自分でも意外な仕上がりになったりするんですよね。

左から南波一海、佐々木敦、松隈ケンタ(Buzz72+)。

左から南波一海、佐々木敦、松隈ケンタ(Buzz72+)。

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大森靖子さんのメロディセンスはプロ

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松隈ケンタ @kenta_matsukuma

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