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パンチライン・オブ・ザ・イヤー2020 (後編) [バックナンバー]

女性ラッパーの活躍、差別語、ラッパーの労働観……2020年のシーンに何が起こったのか?

言葉という観点からシーンを振り返る日本語ラップ座談会

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まともなことを言うほうがパンチラインとして強みがある?

斎井 Genaktionさんが般若の「SORIMACHI」を選んでますよね。僕は最近般若さんにインタビューをさせていただいてから、その人間性に強く惹かれているので、選ぼうとしても主観が入りまくって選べないんですよ(笑)。だからGenaktionさんがどんな説明をされるのかを楽しみにしていたんです。

Gen ZORNさんの「No Pain No Gain」と一緒なんですけど、曲のコンセプトとパンチラインが合っているなと思って。この曲はフックのところでザ・ドリフターズに言及するじゃないですか。「ドリフみたく言う オイっす」って。ここだけだとなんで「ドリフ」なのかよくわからないまま曲が続いていくのですが、2ヴァース目の最後のラインで「俺等は生まれた事自体 敗北か? / あの人が言ってた『だいじょぶだぁ』」と締めてくるんですよね。ああ、ちゃんとそこで「ドリフ」の件を回収するんだと。言うまでもなくこの「オイっす」は「8時だョ!全員集合」のいかりや長介さんの挨拶で、「だいじょぶだぁ」は志村けんさんのキャッチフレーズです。志村さんは新型コロナウイルス感染症で最初に亡くなった著名人の方で、昨年の感染拡大とリンクした人でした。この曲はまとめ方も面白いし、ちょっと笑える感じもして。全体の作りがコミカルでありつつ、彼なりの2020年を出そうとしている感じがして、僕はこれを2020年的だと思って入れましたね。

斎井 般若さんへのインタビューではドキュメンタリー映画「その男、東京につき」について話を聞いたので、自伝本「何者でもない」も読み、当然過去の曲も再度聴き直して臨んだのですが、改めて般若さんって己に厳しく、他人には義理堅い方だと印象を持ったんです。本当は完璧人間として自分を見せることだってできるのに、コミカルさを混ぜることでそう見せないあたり、謙虚な方だなあと思ってしまいます(笑)。あと自分が挙げた中でまだ触れていなかったんですが、僕はACE COOLの1stアルバム「GUNJO」に収録されている「AM 2:00」から「派手なバックグラウンド / ボースティング / 無いんだ特に / だけどこんな日々が詩に落とすとなるよ歌に」というラインも選んでいます。

斎井 アルバム「GUNJO」を聴いて僕は、音楽性は違いますがSEEDAの「花と雨」っぽいなと思ったんですよね。「花と雨」は、「ラッパーにもハスラーにもなりきれない男が、お姉さんの死を乗り込えることでSEEDAというラッパーに成長する」というストーリーが、アルバムを何度も聴くと浮かび上がるんです。ACE COOLもアルバム半ばからは、無色透明に感じた人生に希望を見出す過程をテーマにしています。中でもこの「AM 2:00」という曲は、彼がサッカークラブの中で感じた無力感と孤立感を生々しく味わえる曲で、アルバムの全体の中でも特に印象的な部分でした。

二宮 「花と雨」絡みで自分も1曲、SEEDAがJinmenusagi、IDと一緒にやった「みたび不定職者」を選んでます。Jinmenusagiのラインなんですけど、ヴァースの最後で「なんだかんだもう3月 / 不定職者が確定申告」って言って終わるんですよ。

二木 これはうまいですね。

二宮 「みたび」って言ってる通り、SEEDAの「花と雨」に初めて「不定職者」が収録されて、「街風」っていうSEEDAのメジャー進出的なアルバムで「また不定職者」が入って、今回のは3回目のリメイク。この曲は、Jinmenusagiのあふれる日本語ラップ愛が出ているし、すべてのラインに気合いが入ってるのを感じる。最初から「不定職者は引きこもり / バナナの皮 剥くだけの日」とか言ってますからね。

Gen ははは(笑)。

二宮 「たったの3日で結果が出るダイエット / 何それヤバくね?」とか(笑)。ワードとして強いから聴いていて気持ちがいいんですよ。

二木 なるほど(笑)。

二宮 ZORNの“韻の飛距離”で言えば、「不定職者が確定申告」も相当飛距離のある組み合わせですよね。2006年の「不定職者」と、2007年の「また不定職者」は、どちらもハスリングの曲だったんですけど、3度目のタイミングでJinmenusagiをこの曲に呼んで新たな視点を入れたのは、すごく面白いなと思いました。

二木 さらに「不定職者 feat.仙人掌+ID」バージョンもありますね。

二宮 あ、そうだ! ありますね。

二木 「夏の魔物」のYouTubeで無料配信された「MAMONOISM ZERO」でSEEDAがヘッドライナーを務めて。そこに参加した仙人掌がヴァースの最後を「ラッパーで食うとかそんな興味ねぇ / そのダセェの作るなら働け」と締めるんです。めっちゃカッコいいこと言うなって痺れました。

斎井 ははは(笑)。

二木 この仙人掌のラップは、のちにリリースされたMULBEの1stアルバム「FAST & FLOW」に収録されている「DO ORIGINOO feat. 仙人掌」でも聴けますね。生きていくうえで金が不可欠なのは言うまでもないですが、ダサいラップで金を稼ぐことよりも、ヤバいヴァースを録音してプロップスを得ることに価値があると主張していると解釈できます。これぞ“アンダーグラウンド”の存在意義を示す最高のパンチラインだと思います。さらに、別の角度から考えると、アーティストの労働観の変化を感じます。ZORNにも通じる話ですね。

二宮 そうですね。コロナ禍になってますます、本業のほかに副業を始めたり「仕事は1つだけじゃなくてもいいんじゃないか」という考え方が広まっていると思いますが、それはラッパーにも当てはまりますよね。SpotifyのCEOが「アーティストが音楽だけで生活していくなら1、2年ごとに作品を出していかないといけない」みたいなことを言っていたように、ストリーミング時代はどんどん曲をリリースしてカタログを作ることが重要視されていますが、「音楽のほかにも仕事を持って、寡作だけど毎回いいものを作る」というスタイルも逆に増えてくると思います。それにアーティストは副業をしていることは公には口にしない風潮があったと思うんですが、それがコロナを機に変わってきているような気もしています。

斎井 それに、みんなの感覚が徐々に「まともなことを言うほうがパンチラインとして強みがある」となってきた気がしませんか?

二木 ああ、なるほど。言われてみると確かに。

斎井 普段の生活では耳馴染みのないラップ特有の言葉も混じりつつ、複雑なリズムの詞が聞こえてくる中で、いきなりド直球な言葉でまともなことを言われると耳に残りますよね。

二宮 パンチラインが近年直球になっているというのは確かにあると思いますね。KID FRESINOはそういう流れに逆らって、最新アルバム「20,Stop it.」では「単純に気持ちいい音をハメることの面白さ」に立ち返ろうとしていて。そういう意味でもあのアルバムは面白かったですね。

いよいよ2020年のパンチライン・オブ・ザ・イヤーが決定!

二木 最後にパンチライン・オブ・ザ・イヤーを決めなければいけないんですが、去年より難しいですね(笑)。

二宮 去年の「たかだか大麻 ガタガタ抜かすな」に匹敵するラインを選ぶわけですからね(笑)。今日の話を振り返ると「パンチラインと言えばZORN」という感じはしますが。

二木 先ほど斎井さんが語っていた「当たり前のことを当たり前に言うリリックの強さ」は、2020年のパンチライン・オブ・ザ・イヤーを考えるうえで1つの基準かなと思いました。

Gen 僕らが5曲ずつ選んだ中で考えるなら、複数票入った曲にしないと辻褄が合わないですよね。ZORNさんの「Rep」とAwichさんの「洗脳」にそれぞれ2票ずつ入っているので、このどちらかにするべきじゃないかと。

二木 確かに。そう考えると「洗脳」の「バカばっかだ全く」でしょうか。自分で選んでおいてなんですが、ZORNの「仲間たちはWeedとコケイン / 俺はいらねぇBeatよこせ」は、パンチライン・オブ・ザ・イヤーというには文脈が限定的すぎるかもしれません。また、それこそがヒップホップの多様性ですし構わないのですが、去年のパンチライン・オブ・ザ・イヤー「たかだか大麻 ガタガタ抜かすな」とちょっと対立している(笑)。

二宮 そういえば確かにそうですね(笑)。

斎井 自分もZORNかAwichだったらAwichですね。みんながイラついてボヤいていた2020年をよく表している気がして。「洗脳」に客演している鎮座DOPENESSは、Moment Joonの「BAKA(Remix)」でも最後に「バカばっかだ全く」とラップしていますし。

Gen ははは(笑)。じゃあ連名にしちゃえばいいんじゃないですか?

斎井 僕もそれがいいと思いますね。「洗脳」が収録されたAwichのアルバム「孔雀」は2020年1月11日発売で、「BAKA(Remix)」が収録されたMoment Joonのアルバム「Passport & Garcon DX」は12月30日発売なので、2020年はAwichの「バカばっかだ全く」で始まって、鎮座DOPENESSの「バカばっかだ全く」で締めくくられたわけです。

Gen ああ、きれいに収まりますね(笑)。

 

 

 

 

 

 

Genaktionが選んだパンチライン

ZORN「No Pain No Gain feat. ANARCHY」

なんにも持たざる者たち / にだけヒップホップがもたらす言葉 / これが俺の痛みの作文 / 今じゃ家にしまじろうが来る

ZORN「Have A Good Time feat. AKLO」

表参道のオープンカフェ / よりも嫁さんとの醤油ラーメン

Meiso「Immigrate Us」

何も自分に限ったことじゃないさ / 線を越えた者にはある二つの視座 / そんな白黒はっきりしてないよ / 俺らは見てるフェードするグレーを色調とした七色

Moment Joon「Hunting Season」

「休憩中でも子供と日本語で話すな」と言う学校の先生 / 外人だったら外人をやれ そうじゃなかったら牽制 / 俺より英語が下手な白人 俺の時給の1.5倍 / それでも頑張って働いたのに先月分が入ってこない

般若「SORIMACHI」

恋愛と天気はメンヘラ / みたいに限界は無いんだよ 絶対だ / 俺等は生まれた事自体 敗北か? / あの人が言ってた「だいじょぶだぁ」

プロフィール

USラップの解説ブログ「探究HIP HOP」管理人。これまで体系的な資料がなかった“インディラップ”をまとめた書籍「インディラップ・アーカイヴ もうひとつのヒップホップ史:1991-2020」を2020年11月に上梓した。

斎井直史が選んだパンチライン

Awich「洗脳 feat. DOGMA & 鎮座DOPENESS」

バカばっかだ全く

valknee, 田島ハルコ, なみちえ, ASOBOiSM, Marukido, あっこゴリラ「ZOOM」

うっせーブーンバップ爺は沸いとれサンタフェ見とけ

ACE COOL「AM 2:00」

派手なバックグラウンド / ボースティング / 無いんだ特に / だけどこんな日々が詩に落とすとなるよ歌に

ZORN「Evergreen」

俺の課題 / homiesが爆笑するようなライム / 誰がイケてたって俺ら以上だとは思わない / どんな芸能人より余裕で達也の方がオーラある

Moment Joon「BAKA(Remix)feat. あっこゴリラ & 鎮座DOPENESS」

バカじゃないとバカにされるくらい日本はバカ / 「そんなのバカらしい」って言っちゃった瞬間、君もバカ

プロフィール

ヒップホップライター。OTOTOYにて「パンチライン・オブ・ザ・マンス」を連載中。

二宮慶介が選んだパンチライン

ZORN「Rep feat. MACCHO」

俺は滝川クリステル / でもとしやがマリファナ売りつける

舐達麻「BUDS MONTAGE」

言われ尽くされてるそんな言葉が核となる人生はクソだ

REAL-T「THUG SCENE」

あの時のこと反省してない1ミリも

Awich「洗脳 feat. DOGMA & 鎮座DOPENESS」

バカばっかだ全く

SEEDA「みたび不定職者 FT Jinmenusagi, ID」

不定職者が確定申告

プロフィール

インディペンデントストリートカルチャーマガジン「DAWN」の編集 / ライター。現在、3冊目の刊行を目指し鋭意製作中。企画の持ち込みなど、ドープな人からの連絡はいつでも歓迎です。

二木信が選んだパンチライン

ZORN「Rep feat. MACCHO」

仲間たちはWeedとコケイン / 俺はいらねぇ Beatよこせ

LSBOYZ「SHOWDOWN(feat. Meta Flower & peedog)」

このすでに暴徒と化した音楽で生活を立て直す

Awich「Poison ft. NENE」

しゃべえ奴しゃぶってんじゃねーよ

Playsson「Gang」

俺らはアングラ / 本当のギャングだ / 安倍と絶対写真撮らない

あっこゴリラ「ミラクルミー」

わたしはブラを外したけど 恥の基準だけはぶらさないよ

プロフィール

1981年生まれの音楽ライター。単著に「しくじるなよ、ルーディ」、編著書に「素人の乱」(松本哉との共編著)、「ヒップホップ・アナムネーシス ― ラップ・ミュージックの救済」(山下壮起との共編著)など。漢 a.k.a. GAMI著「ヒップホップ・ドリーム」の企画・構成を担当。

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