「西寺郷太のPOP FOCUS」

西寺郷太のPOP FOCUS 第15回 [バックナンバー]

A.B.C-Z「Moonlight walker」

純粋なるジャニーズ継承者のデビュー曲

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西寺郷太が日本のポピュラーミュージックの名曲を毎回1曲選び、アーティスト目線でソングライティングやアレンジについて解説する連載「西寺郷太のPOP FOCUS」。NONA REEVESのフロントマンであり、音楽プロデューサーとしても活躍しながら、80年代音楽の伝承者としてさまざまなメディアに出演する西寺が私論も織り交ぜつつ、愛するポップソングを紹介する。

第15回では西寺と公私ともに親交のあるA.B.C-Zのデビュー曲「Moonlight walker」にフォーカス。A.B.C-Zとの出会いを振り返りながら、80年代以降の少年隊の楽曲を彷彿とさせ、マイケル・ジャクソンの伝統も感じる「Moonlight walker」の魅力を紐解いていく。

/ 西寺郷太(NONA REEVES) イラスト / しまおまほ

きっかけは錦織一清と井ノ原快彦

井ノ原快彦くんとは2011年にV6の楽曲「Sexy.Honey.Bunny!」を作詞、プロデュースさせてもらったとき以来の大切な友人で。ある日、井ノ原くんから「びっくりするくらい読書家で、雑誌『ダ・ヴィンチ』でも連載を始めた後輩がいて。郷太くんみたいに音楽をやっていたり本を執筆したりしてる人と会うと、絶対刺激になるはずだから」と言われて紹介されたのが、とっつー(戸塚祥太)でした。2014年の初頭だったと思います。僕ら3人とも少年隊の錦織一清さんを尊敬しているということもあって、すぐに打ち解けて盛り上がりました。

A.B.C-Zとの仕事はその後、濃密なものに発展してゆきます。錦織さんが原案および演出を手がけた「A New Musical『JAM TOWN』」という舞台がKAAT 神奈川芸術劇場で、2016年1月13日から30日まで行われまして。僕が音楽を担当することになり、とっつーと仲よくなったのは、そのための準備に2年かけていた頃でした。その間とっつーもずっと「めちゃくちゃ楽しみです!」と言ってくれてたんですが、ちょうど「JAM TOWN」が上演されている期間に、A.B.C-Zも出演した舞台「JOHNNYS' World」の日程がまるまる重なっていて……。そのうえ、最終日27日の翌日から別の舞台の稽古がスタートすると聞いたので無理かなと正直思っていたんですよね。でも、「JOHNNYS' World」の最終日が昼公演で終わるということで、当日夜の「JAM TOWN」に、仕事のあった橋本良亮くん以外のメンバー4人が横浜まで駆けつけてくれたんです。うれしかったですね。終演後に、僕と錦織さんがいた制作陣が集まる部屋にも4人が挨拶しに来てくれました。感激した表情の河合郁人くんが錦織さんに「こんなカッコいい舞台、どうやったら作れるんですか?」と聞いていて。その瞬間、錦織さんが後ろにいた僕にクイッと顔をやって「音楽なら郷太に頼めばできるよ」と答えたんです。そしたら河合くんがクルってターンして僕に頭を下げながら「ぜひお願いします!」と言ってくれたんで驚きました。そんな流れで実現した舞台が、2016年秋に日生劇場で行われた「ABC座2016 株式会社応援屋!! ~OH&YEAH!!~」。テーマ曲「サポーターズ!」や、もともと少年隊に渡そうと思って2001年に作っていた「ONE MORE KISS」のほかにも舞台用に10曲ぐらい作ったんですよね。「腐れ縁・イン・ザ・レイン」「将棋 BANG!」、SMAPやV6でもタッグを組んだ谷口尚久くんと共作した「Delicious」含め、個人的にも大好きな曲が多くて。わりと初期の段階で錦織さんが「脚本も郷太がやりなよ」とおっしゃいました。「ジャニーさんはできない奴には頼まない。俺も同じだ」と言われて、「わかりました」と返事をしましたね。

「いつも応援される側のアイドルが応援する側に回る」、「応援屋」というタイトルとコンセプトを考えたのは錦織さんでした。その言葉を聞いた瞬間、僕がひらめいて「『OH & YEAH!!』って英語表記にしたらどうです?」と返したら、錦織さんが「いいねー!! ジャニーさんもそういうの大好きなんだよー!」とニコッと微笑まれて。初めての脚本ということで、さまざまな体験をさせてもらいましたが、なんと言っても、この舞台の稽古中、ジャニーさんが頻繁に稽古場や劇場にも顔を出され、いろいろなアドバイスをいただいたことは、今も忘れられない体験です。A.B.C-Zのメンバーに心から感謝しています。

コロナ禍で見たジャニーズの底力

先日、その舞台を原案に「オレたち応援屋!!」というタイトルで、A.B.C-Zの主演映画も公開されました。実はその映画に僕は本当に一瞬だけですけど、友情出演もしてるんです(笑)。昨年の僕の誕生日11月27日に、早朝4時起きでロケ地に行き、サプライズでメンバーを驚かせるみたいな企画が持ち上がって。ただ、実際ロケバスに隠れて衣装に着替えて、役になりきったつもりで撮影に挑んでみるとむしろ「なんで? 急に郷太さん来るの?」みたいな感じで皆、キョトンとしてたんで失敗な気もしましたね(笑)。衣装と役柄のせいか、気付かない人もいるらしく、SNSの反応を見てても面白かったです(笑)。その映画の設定の前日譚がさらに今年10月に「ABC座2020 オレたち応援屋!! On Stage」というタイトルで舞台にもなりました。2020年版の映画も舞台も、僕自身は脚本などには関わっていないのですが、日本青年館ホールで行われた「ABC座2020 オレたち応援屋!! On Stage」に関しては、テーマ曲「チカラノアリカ」を依頼されたのでこの夏、全力で作らせてもらいました。アレンジを船山基紀さんが担当してくださるということを知った僕が歓喜したのは言うまでもありません。凄腕ミュージシャンが結集し、ストリングスやホーン隊もフルでレコーディング参加したスーパーゴージャスなサウンド! コロナ禍でもできるかぎりのエンタテインメントを生み出し続けるジャニーズの底力を感じ、レコーディングスタジオでは譜面を目で追いかけながら涙を流しそうになりました。今年、稽古を含め演劇公演を開催するのは苦労ばかりだったと思います。息抜きも難しいですし。シンボリックな“ジャニーズサウンド”をジャニーさんと共に作り上げた船山さんの編曲作品を、舞台を中心としたジャニーズという“アトラクション”の純粋なる継承者、A.B.C-Zが歌い踊るわけですからね。初日、音響などの確認のために日本青年館ホールを訪れたんですが、「チカラノアリカ」が終わった頃には、心の奥に熱いものがウワッとあふれてしまいました。

日本音楽史上にきらめくジーニアスが集結

2015年にリリースされたA.B.C-ZのCDデビュー曲「Moonlight walker」は松井五郎さんが作詞、馬飼野康二さんが作曲、アレンジが船山さんという最強集団によって作られている“ジャニーズ芸術”の極致。個人的には2010年代にリリースされた地球上のすべての楽曲の中でトップクラスに愛してやまない名曲です。松井さん、馬飼野さん、船山さん、いずれ劣らぬ“日本音楽史上にきらめくジーニアス”であり、少年隊にも楽曲提供をしていたチーム。そして、ダンスや衣装、タイトルも含め、スパイ映画的サスペンスの香りも漂うマイケル・ジャクソン風味も特徴なんです。「Moonwalker」は、マイケルのキャッチフレーズでもあるので。それでいてジャニーさん好みのマイアミサウンド的なパーカッシブでリズミックな魅力もある! 鋭く独自性のあるダンスパフォーマンス! 並べていくと僕が好きになる理由しかない(笑)。

ラテンなブレイクから始まる短くもインパクトのあるイントロ、いきなりのサビ頭。合間に入るとっつーと河合くんによるセリフ「What's your name?」は、メンバーに直接聞いたところによるとジャニーさんからのアイデアだそう。「What's your name?」と言えば、「Moonlight walker」と同じく馬飼野さんが作曲をされ、以前この連載第3回「まいったネ 今夜」で取り上げた天才ソングライター・宮下智さんが作詞された少年隊の名曲。そのワードが頭に浮かぶ発想に、ジャニーさんの伝統をつなぐ継承者・A.B.C-Zに対する愛情を強く感じました。「船山アレンジの真骨頂ここにあり」という間奏のスリリングで流麗なストリングスと、アタックの強いホーンのフレーズ! アウトロもまるで1本の大作映画を観たかのような余韻を残す重厚感に満ちた響き。いかにコンピュータのプログラミングのみで生まれる、シンプルで素晴らしい音楽が現代にあったとしても、この20世紀を制した巨人たちによる匠の集大成と言うべき楽曲のスケールを知ると、演奏者のスキルや制作予算も含めて通常の概念では太刀打ちできるわけがないとひれ伏してしまいますね。経験値が勝負ですから、なかなか僕のような40代では職業作曲家、アレンジャーとしてこれだけ膨大な予算をかけた豪華絢爛なレコーディングの数をこなせないんですよね。

A.B.C-Zには大人っぽい曲が似合う

A.B.C-Zのシングルでは盟友・堂島孝平くんが作った「Black Sugar」、2010年度版の「STRIPE BLUE」(少年隊)だと僕が思っているポップでさわやかな「Shower Gate」も好きですね。2016年7月に発売された3rdアルバム「ABC STAR LINE」に収録されている「Fantastic Ride」も最高。僕はどうしても少年隊を軸とするジャニーズ的な伝統を踏まえつつ、そのうえでモダンに再構築してゆくスタイルが好きなんです。なので、A.B.C-Zにはまさに先日お亡くなりになった筒美京平さんが少年隊と共に作られた少し大人っぽいムードの「仮面舞踏会」「君だけに」「ABC」「じれったいね」のような楽曲が似合うなあ、と思いますし、自分が提供するときはその部分を大切にしています。

A.B.C-Zの特徴は、5人の歌声の強い個性。SMAPにも同じように感じたんですけど、ファンではなく一般の人が聴いても、声を判別しやすいグループであることは武器だと思います。橋本くんはグループの土台になる甘いリードボーカルで、“俺様キャラクター”なのかと思いきや、めちゃくちゃ周囲に気を遣うタイプで打ち上げなどでの姿を見て驚きました。塚田僚一くんは甲高い超わかりやすい声で、そういう癖が僕は好きで。よく慕ってくれるんで、人間的にも可愛くて魅力の塊ですね。五関晃一くんは振り付けでも大活躍ですし、河合くんのことを僕は“ふみきゅん”ではなく“フミくん”と密かに呼んでいますが、冠番組が放送されているのを観て反応を送ったら、すぐに連絡が来て。最近波に乗っていて超忙しいのにさすがだな、と。とっつーは単なる最高の音楽仲間ですね(笑)。僕はいろいろと縁がある彼らの“応援屋”だと思ってましたけど、僕を脚本家にしてくれたり、実質的にジャニーさんに会わせてくれたり、ほんの少しですが俳優にもさせてくれたり、彼らに応援されているのは僕のほうかもしれません。

西寺郷太(ニシデラゴウタ)

1973年生まれ、NONA REEVESのボーカリストとして活躍する一方、他アーティストのプロデュースや楽曲提供も多数行っている。7月には2ndソロアルバム「Funkvision」をリリースした。文筆家としても活躍し、著書は「新しい『マイケル・ジャクソン』の教科書」「ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い」「プリンス論」「伝わるノートマジック」「始めるノートメソッド」など。近年では1980年代音楽の伝承者としてテレビやラジオ番組などさまざまなメディアに出演している。

しまおまほ

1978年東京生まれの作家、イラストレーター。多摩美術大学在学中の1997年にマンガ「女子高生ゴリコ」で作家デビューを果たす。以降「タビリオン」「ぼんやり小町」「しまおまほのひとりオリーブ調査隊」「まほちゃんの家」「漫画真帆ちゃん」「ガールフレンド」「スーベニア」といった著作を発表。イベントやラジオ番組にも多数出演している。父は写真家の島尾伸三、母は写真家の潮田登久子、祖父は小説家の島尾敏雄。

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