久保茂昭

映像で音楽を奏でる人々 第17回 [バックナンバー]

アクション映画のノウハウでエンタテインメントを表現する久保茂昭

EXILE HIROとの幸運な出会いから「HiGH&LOW」へ、そして「小説の神様」に至るまで

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「HiGH&LOW」は夢を叶えてくれる場所

MVにしても「HiGH&LOW」にしてもHIROさんのこだわりがとにかく強くて、そのチェックは100人以上いるエキストラのうちの1人にも及びます。「雨宮兄弟は革ジャンを取り入れた全身ブラックコーディネート。バイクはイメージに合ったものを作ろう」という提案があったときは「バイクを作る!?」と驚きました。

でもそういったこだわりが形になっていくのはワクワクしますし、作り手としてはものすごい喜びがあります。「HiGH&LOW」は本当に夢を叶えてくれる場所ですね。HIROさんの夢は壮大で、LDHはそれを1つずつ実現しているという感じなんです。LDHはもともと財力があったわけではなくて、自らパフォーマーとして活躍していた方がゼロから作り上げた会社なのですごいですよね。いろんなアーティストさんと仕事をしてきましたがLDHさんはなんでも別格だと思います。もう1つ「HiGH&LOW」の話をすると、EXILE「No Limit」のMVでカメラを1秒で10m移動させることができる機材を使ったんです。

「トータル・リコール」のリメイク版で使われていた機材なんですけど、HIROさんに使ってみたいと話したらそれに乗ってきてくれて。ハリウッドから専門のスタッフと一緒にその機材を取り寄せたんですけど、1台使うだけで数千万円くらいかかるんです。それを2台使って満足いく映像が撮れたんですね。その話をふと「HiGH&LOW」のアクション監督の大内貴仁さんに話したら「うちのアクション部がカメラを積んだワイヤーを引っ張れば30mを3秒で移動させられるんじゃないか」というアイデアが出てきて。アクション部は普段人をワイヤーで引っ張り上げたりしているのでめちゃくちゃ力持ちなんです。で、そのアイデアを「HiGH&LOW THE WORST」で使ったんですよ。河原で戦うシーンなんですけど。ハリウッド作品で得たアイデアを人力で叶えました(笑)。

世の中の人とMVを通じてエンタテインメントを楽しみたい

久保茂昭

久保茂昭

僕、世の中を救うのは音楽だとずっと思っているんですよ。だって音楽は生まれたばかりの赤ちゃんでも楽しめるものでしょう? だからMV監督をやっていて自分が売れたいとかそういうふうにはあまり考えてないんです。音楽というカルチャーやそれを表現するアーティストたちへのリスペクトの思いしかなくて、それをいかに増幅させられるかを重視しています。丹さんや栄樹さん、スミスさんみたいにとがった表現ができるのも素晴らしいですが、自分の個性はそういうエッジの効いたものではなく、アーティストファーストで作品を作れるところだと思います。あとはときどき自分が好きなアクションの世界観を入れられたら……ぐらいですね(笑)。アーティストが持っているポテンシャルを見出して最大限に見せられるアイデアやシチュエーションを提案して、エンタテインメントとして昇華できればと考えています。例えるならライブに近い感覚かなと思っていて、世の中の人と一緒にエンタテインメントを楽しみたいという気持ちが大きいです。

昔「1カットでもそのアーティストがいい表情じゃない、いい動きじゃないシーンを使っていたらそれはMVとして成立しない」とレーベルのえらい人に言われたことがあって、それはある種トラウマのように今の僕の作風に影響していると思います。その言葉だけじゃなく、そういう感覚はこれまで関わってくれたアーティストやスタッフの皆さんに育ててもらいましたね。DOUBLEなんて「ROCK THE PARTY」のMVを作っているときに丸2日間ずっと編集に付き合ってくれて、ああでもないこうでもないと一緒に構成を練ったこともありましたし。本人と一緒に編集していく作業も勉強になりました。

今まで撮った中で思い入れがあるビデオは、やっぱり「ふたつの唇」ですね。くまなくこだわって作れたんです。あのMVを作らなかったら「HiGH&LOW」もきっと生まれてないですよ。「ふたつの唇」はアクションというものがLDHの中でより広がっていくきっかけになった映像だったので。HIROさんと一緒に作るビデオはどれも思い入れがあるんですが、EXILE TRIBE「24karats TRIBE OF GOLD」が完成したときに「自分は大人数のビデオを撮れるんだ」という自信を得ましたね。巨大なセットの中でEXILEと三代目の総勢23人に踊ってもらって、それぞれの個性を見極めながら4分の尺に収めるというのは当時の僕にとって挑戦でした。

MV制作から地続きで生まれた「小説の神様 君としか描けない物語」

今、僕は「小説の神様 君としか描けない物語」の公開を控えているんですが、映画とMVだと現場スタッフの作品への向き合い方が全然違うんです。MVは歌に対して映像のクオリティやアイデアを切磋琢磨していく感じで、映画は物語を軸に芝居や音楽も絡んでくるのでもっと要素が多い。だからMVを中心に撮影していた僕からすると、映画という媒体はよりエンタテインメントを突き詰めたものだと思っていて。「小説の神様 君としか描けない物語」も実は僕の経歴が反映されている作品で、過去にYUIさんの「Laugh away」のMVで使った丘が登場します。

原作を読んだときにYUIさんの曲が自分の頭の中で鳴って、あのMVの雰囲気を映画の中で出せたらと思ったんです。実は「小説の神様 君としか描けない物語」を撮ることになったきっかけもHIROさんで、「久保監督の青春映画を観てみたい」というひと言で動き出したんですよ。まずは自分で原作を探して動き出すまで2年近くかかったんですが、ようやく固まってきたところでHIROさんにLDHの人を起用したいとお願いして。企画書を読んだHIROさんは佐藤大樹を提案してくれました。大樹はお芝居もうまいし性格もいいし、かわいい(笑)。

K-POPに感じる可能性

久保茂昭

久保茂昭

昔から注目しているのはK-POPです。K-POPアーティストはブランディングが上手で、エンタテインメントの見せ方をわかっている気がするんですよね。特にファンとのつながりをとても大切にしていて、お互いの関係にすごく愛があってそういうところもいいなと。日本だとCDが売れないという理由でMV制作の中でどこかあきらめている部分があるというか……いや、韓国のアーティストもあきらめている部分があるかもしれないんですが、それでもクオリティが高いと思うんです。ちょっと前までK-POPはJ-POPのマネみたいな風潮があったと思うんですけど、今では完全に抜かれちゃって、世界でも確固たるジャンルとして認知されています。K-POPのビデオで最初に感動したのはBIGBANGですね。「BANG BANG BANG」とかG-DRAGONのソロのビデオは何度も観ました。高価な機械を使わずともアイデアやカメラワークでダンスの見え方がこんなに変わるのか、といろんな発見がK-POPのビデオにはありますね。いつかチャンスがあればK-POPアーティストのMVを撮りたいです。あと日本のバンドのMVもまた撮りたいですね。ゴージャスなMVの話ばかりしてしまいましたが、ちゃんといただいた予算の中でがんばります(笑)。

久保茂昭が影響を受けた映像作品

U2「Even Better Than The Real Thing」(1991年)

大学時代に観て音楽と映像の融合でこんなにも人をワクワクさせられるのかと衝撃を受けました。あとこのビデオで驚かされたのが、縦に360°回るカメラワーク。MVにはものすごい可能性が秘められているんだなと思いました。

THE YELLOW MONKEY「太陽が燃えている」(1995年)

パフォーマンスに対してのカメラワークが当時の僕にすごく刺さりました。横撮りで動いているだけなんですけど、色味も特徴的ですごく心が動きました。

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