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田中隼人

“クリスマスソングらしさ”の正体とは

聖夜を彩る名曲に共通するのはコード感? 音楽プロデューサー・田中隼人が実演解説

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12月になると街中で流れ始めるクリスマスソングの数々。それらの曲は聴くだけで人々に冬の景色をイメージさせ、クリスマスに向けての世間のムードをグッと高めてくれる。では、クリスマスソングが人々にそのような印象を与えるのはなぜだろうか?

この疑問を解き明かすべく、音楽ナタリーでは今回、音楽コミュニティ「MUSIC FUN!」とコラボレート。12月12日に生配信されたYouTube番組の中で、数々のヒット曲を世に送り出した音楽プロデューサー・田中隼人に、音楽ナタリーが提案した「“クリスマスソングらしさ”とは?」というお題を解説してもらった。

ポップミュージックの作曲家やアレンジャーたちは「クリスマスソングを作ってほしい」と発注されたときに、まず何を考えるのか。この記事では番組での田中の発言を編集して補足し、彼がキーボードを演奏する動画を織り交ぜながら解説していく。

取材・文 / 橋本尚平 撮影 / 佐藤類

“クリスマスっぽい”という感情はない

音楽というのは感情とリンクしたものなので、明るい曲、悲しい曲、切ない曲というのはメロディや曲調などでカテゴライズしやすいんです。でも“クリスマスっぽい”という感情はないので、本来は“クリスマスの歌”と言っても、みんなの間に共通した楽曲のイメージというものは生まれないはずなんです。

「じゃあ、何にクリスマスソングらしさを感じるのか」というのを考えると、それは記憶がトリガーになっているんだと思います。クリスマスシーズンの景色の中で、どんな曲が流れていたかという記憶によって、「この曲がかかるとすごくクリスマスっぽい」という感覚が生まれる。「この曲を聴くと、これをよく聴いていたあのつらかった時期を思い出す」みたいなことって、よくあるじゃないですか。それと同じことなんだと思います。

なので「クリスマスソングってなんなの?」というのはけっこう難しいテーマなんですが、今日はいろんなクリスマスソングを実際に弾きながら「この曲はこうやってできてるから、クリスマスっぽく感じるんですよ」というのを説明していこうと思います。

年に1回しか使わない楽器

「今回の曲はクリスマスソングにしたいので、クリスマス感を出してください」って発注されたときに、僕がまず何をするかというと、このスレイベルを入れるんですよ。

スレイベルという楽器はオーケストラでも演奏に使ったりするんですが、ほぼクリスマスソングにしか使われない(笑)。年に1回しか使わない楽器なんです。巷でクリスマスソングと言われているものって、だいたいこの“シャンシャン”という音が入っています。

なんでこのベルがクリスマスっぽいのかを調べたところ、トナカイの首に付けてる鈴の音なんです。じゃあ、そもそもなんでトナカイは鈴を付けてるのか。昔のフィンランドの人は、夜になると真っ暗なので、馬車が走ると蹄の音を聞いて「馬車が来たな」と気付いて道をよけたんです。でも雪が積もると蹄の音がしなくなるので、馬車が近付いているのがわかるように、動物の首に鈴を付けるという習慣ができたらしいです。

でも日本人にとっては、「鈴の音がしたら馬車が来る」なんて習慣はないじゃないですか。なのに「この鈴の音が聞こえたらクリスマス」っていう認識を多くの人がしてるっていうのはけっこうすごいことで。それぐらいクリスマスソングが、そしてこの鈴の音が日本中に行き渡ってるということなんですよね。

チューブラーベルという打楽器の音色も必ず使います。「NHKのど自慢」の“キンコンカンコン”の音、と言えばわかりやすいのでは。もちろんクリスマスソング以外でも使う楽器なのですが、調性感の外れたベルの音は、なんとなく冬っぽさを感じさせるんですよね。まあ、これも記憶に刷り込まれているだけかもしれませんが。

ほぼすべてのクリスマスソングは同じコードで始まる

鈴の音がいろいろな曲をクリスマスソングたらしめてる一番の要因なんですけど、クリスマスソングと呼ばれている曲には構造的な特徴もあります。長く聴き継がれているクリスマスソングのほぼすべてが“C”のコード、ハ長調から始まるんですよ。これはなぜかと言うと、俺の勝手な解釈ですけど、いろいろなキーの中で一番明るいのはCなんです。山下達郎さんの「クリスマス・イブ」も、back numberの「クリスマスソング」も、マライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス」も、Wham!の「Last Christmas」も、「サンタが街にやってくる」も。

やっぱりクリスマスって、サンタさんがプレゼントを持って来てくれるとか、すごくハッピーでワクワクできるポジティブなイベントじゃないですか。だからこの明るいコードが一番マッチするんだと思います。例えば「クリスマス・イブ」も、「きっと君は来ない ひとりきりのクリスマス・イブ」っていうさみしい歌詞なんだけど、コード感やメロディは明るい。街中がキラキラしてて笑顔があふれてるのに、自分1人だけ切ない状況にいる、というアンバランスな感じが心に響くので、これが暗いコード感になっちゃうとクリスマスっぽさはなくなるんです。

「コード感は明るくて、その中に切なさを少しだけ内包する」というクリスマスソングが、結果的に定着した、という話なんだと思うんです。もちろん、暗いクリスマスソングも多々ありますけど、それらは毎年繰り返し街で流れるほどのスタンダードにはなりえなかったという。

僕は小学生のときに毎年スキーに行ってたんですけど、当時どこのスキー場に行っても広瀬香美さんとユーミン(松任谷由実)さんがずっと流れてたので、2人の曲を聴くといまだにスキー場のイメージが浮かんでくるんです。でもユーミンさんの「恋人がサンタクロース」って、曲だけ聴くとあんまりクリスマスソングっぽくないと思いませんか? この曲、Cで始まってないんです。Fで始まってるので、みんなが思い浮かべるクリスマスソングのイメージとはちょっと印象が違うんじゃないかなって。それは1つの要因なんじゃないかと思います。

上着やコートを着せると“冬ソング”に

楽曲を聴いたときに「なんかこの曲、冬っぽいな」って感じることがありますよね。その冬っぽさっていうのは、また少し違う話なんです。例えば「ド・ミ・ソ」「ファ・ラ・ド」「ソ・シ・レ」のような三和音、このコードってすごくわかりやすいしメロディを乗せやすいんですが、服装で例えると“Tシャツと短パンだけ”みたいな状態なんです。だから三和音だけで作った曲は、1年中Tシャツと短パンで学校に通ってた小学生みたいなもので、あんまり季節感は感じられない。

でもそこに、上着やコートを着せるようにテンションを足していくと、Tシャツ&短パン姿よりもちょっとおしゃれになりますよね。

  • テンションコード:四和音にさらに特定の音を重ねた、複雑で緊張感のある響きのコード。

テンションを足して音が増えることによって、コード感がぼけて豪華に聴こえるようになるんですよ。そのゴージャス感が“冬ソングっぽさ”なんじゃないかなと思って。MISIAさんの「Everything」なんて、曲が始まってからまだ「すれ違う時の中で」しか歌ってないのに、たった2小節だけですごく“冬感”が強調されてますよね。

ゴージャス感と言えば、“冬ソング”ってスローテンポなバラードで、弦とかがゴージャスに入ってるイメージが強いですよね。僕も“冬ソング”を作るときには、オケが豪華に聞こえて冬っぽさが増すのでストリングスを入れてます。バラードが多いのはきっと、雪が降るリズムと四つ打ちのグルーヴは合わないんでしょうね(笑)。

楽器やコード感以外の話だと、ボーカルにリバーブを深めにかけたりもします。“冬ソング”はストリングスやベルでオケに厚みを持たせることが多いので、それに合わせて歌のリバーブを深めにする傾向があるんです。そうすると聴いた感じもしっとりするので、より“冬感”が増すんですよ。

近年のヒット曲には、昔と比べてクリスマスソングが減ってるというのはあると思います。やっぱり、今からクリスマスソングを出しても達郎さんやWham!には勝てないですから。これらの曲は発売から35年くらい経ってるけど、全然リアルタイムじゃない若い世代でも知っているので、それだけ街でいまだに流れているっていうことなんですよね。クリスマスっぽい曲を作ることはたぶんみんなできるんだけど、すでにたくさんの名曲で席が埋まってる。そこに対して真っ向勝負をして、2015年になって「クリスマスソング」という新しいスタンダードを作ったback numberはすごいですよ。

「今回話したメソッドを踏まえると、考えようによってはこの曲もクリスマスソング」selected by 田中隼人

サザンオールスターズ「真夏の果実」

ハープとベルによるイントロで始まり、サビでトニック感が全開になるこの名曲は、歌詞に目をつぶれば立派な冬ソングに聞こえます。

DREAMS COME TRUE「LOVE LOVE LOVE」

チェンバロのイントロとストリングスのハーモニー、そして美しいコーラスワークと、クリスマスソング要素が詰まった1曲。

Official髭男dism「宿命」

サウンドの要素は全然違うのですが、A、B、サビとすべて1度のコードから始まる男らしい1曲。僕はクリスマスにも聴きたいです。

AI「ハピネス」

チューブラーベルとストリングスで始まり、ラララというコーラスにつながるこの曲も、全体的に1度のコードが強調されていることで冬感たっぷり。サビの4拍目には“例のベル”がちゃんと登場します。

木村カエラ「Butterfly」

結婚式ソングのイメージが強いこの曲ですが、サウンド構成や1度から始まるコード感も相まってクリスマスソング的要素が多い楽曲だと思います。

スピッツ「楓」

楓は秋の季語らしいですが、切ないピアノで始まるこの曲もイントロ4小節目(バンドが出てくるところ)からのトニック感とサウンド感は僕的にはクリスマスソングです。

チャンス・ザ・ラッパー「Blessings(feat. Ty Dolla $ign, Anderson .Paak, BJ The Chicago Kid, Raury & Jamila Woods)」

こういうゴスペル感がおそらく本来のクリスマス感なのかもですけど、日本人にはなかなか作れないグルーヴとサウンドです。

Re:Complex「最初の雪が降る前に」

一番最近、冬を意識して作った曲です。スレイベルやチューブラーベルの音やサウンド感で答え合わせしてみてください。

田中隼人(たなかはやと)

音楽プロデューサー。2005年よりクリエイター集団agehaspringsに所属し、YUKI、flumpool、ファンキー加藤、Aimerなどざまざまなアーティストの楽曲制作やプロデュースを担当した。またFloor on the Intelligence名義でDJとしても活動し、2009年にアメリカの音楽レーベル・NEW WORLD RECORDSよりアルバム「ROMAHOLIC」をリリース。2017年にはDAOKO×米津玄師「打上花火」の編曲を共同で手がけた。

※記事初出時、本文に一部誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

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