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内沼映二

エンジニアが明かすあのサウンドの正体 第4回 バックナンバー

筒美京平作品、角松敏生、石川さゆりらを手がける内沼映二の仕事術(後編)

今の音楽業界について思うこと

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誰よりもアーティストの近くでサウンドと向き合い、アーティストの表現したいことを理解し、それを実現しているエンジニアにスポットを当て、彼らの視点でアーティストの楽曲について語ってもらうこの連載。今回は内沼映二の後編をお届けする。半世紀以上にわたって第一線で活躍する内沼から見た今の日本の音楽業界に対する率直な思いなどを語ってもらった。

取材・文 / 中村公輔 撮影 / 吉場正和

リバーブによる音作りこそエンジニアの妙技

──空間の作り方ですが、最初はスタジオやホールの生の響きを生かしたサウンドで、それからエコーチェンバーが出てきて生のリバーブを後付けるようになり、その後リバーブマシンが登場して1970年代後半にデジタル機器に移り変わるなど、時代を経てだいぶ様変わりしていったと思うんですが、そのあたりのお話も聞かせてもらえますか?

僕がやり始めた頃はリバーブというとEMTのプレートリバーブ(※鉄板を用いたアナログ式のリバーブ)しかなかったんです。その後デジタルリバーブが出てきて僕自身のサウンドもだいぶ変わりましたね。その中でも特にLEXICONが出したM200っていうデジタルリバーブが好きで、1979年に導入してから今でも使っています。その時代だから8bitで、キレイなリバーブじゃなくて骨格が太い音なんです。これがなんとも言えずよくて。これがなくなったら仕事ができないっていうくらい、いまだによく使ってます。スタジオに置いておいても、僕以外は誰も使わないけどね(笑)。

──僕も昔のリバーブの音が欲しくて、先日LEXICONの224を買ってしまいました(笑)。

ほんと? LEXICONは224までですね、僕が好きなのは。480Lからはだいぶキレイになっちゃって。ただ480Lでも960Lでもああいうキレイなリバーブをほかのいろんな種類のリバーブとうまく混ぜて使うと、音像が全然変わりますよ。元がかなりドライな音源でも、前後左右の奥行き感が出て広い空間になる。これこそエンジニアの妙技だって思いますね。僕はボーカル以外は数種類のリバーブを混ぜて使っていますね。

──どうやって混ぜているんですか?

例えばブラスセクションなどは、M200のプリセットのルームを選んでホールトーン的な感じで広がりと奥行き感を出し、それに480Lのプレートエコーをプラスします。そうすることで、特に高域の艶が加味されて豪華さが出ます。あとはYAMAHA REV5、これのプリセットの17番にルームリバーブがあるんですけど、ドラムにバッチリなんですよ。これはエンジニアのヒュー・パジャムに教えてもらったんだけど、フィル・コリンズもスティングもこれを使っていて、彼はもうこれ以上のリバーブはないって断言していましたよ。ほかにはROLAND SRV2000も使ってますね。数種類のリバーブの割合が決まったら、生音とリバーブのバランスは最後まで変えません。

──複数の種類のリバーブを混ぜて使うようになったのはいつ頃なんでしょうか?

昔はそんなに種類がなかったから無理でしたけど、ミキサーズラボを作ってからは機材も充実してましたからその形でやってます。480Lはまだ出てなかったので224で。その後すぐ480Lが出て、「なんだかどんどんキレイになっていくね」なんて話しながら使ってました。224は太いと言うか、厚みがあるザラついた音で、僕は好きでしたね。

ヒュー・パジャムとの交流

──ヒュー・パジャムの話が出ましたが、80年代になると海外のエンジニアとも情報交換をするなどの交流が生まれていたのでしょうか?

彼はロンドンのアビーロードスタジオをはじめとする音響設計を手がけた豊島(政実)さんがつないでくれたんですよ。当時豊島さんはADG(Acoustic Design Group)という会社をロンドンで作って、僕は豊島さんと親しいからロンドンによく遊びに行っていて、そこで紹介してもらいました。

──ゲートリバーブが最初に出てきたときには、斬新すぎて解析するのに手間取ったんじゃないかと想像していたんですが、そのあたりも交流でわかっていたんでしょうか?

ゲートリバーブを最初にやったのはヒュー・パジャムですからね。AMSのノンリニア(※自然界の残響法則を無視した、デジタルならではの逆回転リバーブ)は彼が作ったプログラムだし。フィル・コリンズの昔の作品とか聴くと懐かしくて仕方がないですよね。The Power Stationの1stアルバム(1985年発表の「The Power Station」)は、あれをもっとオーバーにしていてカッコよかったですよね。

シンプルイズベスト

──うしろゆびさされ組や少年隊の「SILENT DANCER」(1988年発表)は、The Power Station並みにゲートリバーブで攻めまくっていて、当時のアイドルはここまでやってよかったのかと驚いたのですが。

あの時代はアイドル全盛期で、制作者は目立たせたいから「派手に、派手に」と言ってきて、次第に僕も派手好きになってしまったのかもね。あの頃のアイドルのサウンドはなんでもアリで、みんな新たなサウンド作りを考えていて僕は好きなんですよ。今は打ち込みが多いせいかどれも同じに聞こえてしまい、驚かされることが少なくて。作り手ももっと考えたほうがいいんじゃないかな、なんて偉そうなことを考えてますけどね。例えば昔、ブラスロックって流行ってたでしょ? そういうのをバンドでやってアイドルに歌わせれば、ほかとは違う特色がでるので絶対アリだなと思うんだけどなあ。それが僕の希望です。

──女の子だけじゃなくて、バックバンドも人数を増やしてくれるといいんですけどね(笑)。その頃はC-C-Bも担当されていましたよね?

C-C-Bはデビュー曲は違うんですけど、その後のアルバムとシングルは全部やってます。その中で特に好きなのが「Lucky Chanceをもう一度」(1985年発表)ですね。リミックスで培ったエディットの手法を使って作ったLucky Mixっていうのがあるんですけど、それがアイドル的でオモチャっぽくっていいんですよ。

──この曲も筒美京平さんですが、いわゆる筒美京平サウンドと呼ばれているものとは、ずいぶん変わってきていますよね。テクノロジーの進化に合わせてどんどんサウンドを変化させていますが、この辺りの頭の切り替えはどうしていたんでしょうか? 例えば、僕の世代だと「古いロックは古い時代の機材がいい」みたいな考えに陥りがちで、リアルタイムに時代の変化を見てきた方は、どういう心持ちで対応してきたのか気になるんですが。

僕もどちらかと言うと昔のサウンドのほうが好きで、それをもとに作ればもっといいものができるのになって思うところはあるんですけどね。さっきも言いましたけど、生音代わりの打ち込みの音楽がどうも好きになれなくて。もちろん、打ち込みにしか作れないサウンドでやってる音楽はカッコいいと思います。海外だと、古くはマイケル・ジャクソンや最近ではK-POPなどシンプルでいい作品がたくさんあるけど、生音もどきなのはどうかと思うんですよね。どんなにクオリティが高いサンプル音源でもやっぱり生と比べると、高周波がない分リアル感がない。それを誤魔化すために音を積みすぎるんですよ。今の日本の音楽は音数が多すぎる。

──音数が多すぎると、空間系エフェクトにしても歪みにしても、加える余白がないのでサウンドに差をつけにくいのではと思います。

それは絶対そうです。K-POPを聴くと、無駄がないサウンドですよね。だからミックスだけ頼まれた曲だと、あんまり音数が多すぎるんで、必要と思わない楽器を整理してスッキリさせることもあります。シンプルイズベストですよ。

──歌だけじゃ耐えられないから、オケで盛っていこうって考える人が多いんでしょうね。

そう。だけどそれは逆なんですよね。少ないオケで歌わせて、ちゃんと聴かせられるように歌いなさいっていうのが僕はあるべき姿だと思う。もっとシンプルなオケでも、僕は十分リスナーに訴えることができると思うんだよね。それが僕の本音ですね。 

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再生環境ではなく、ジャンルに合わせてミックスを変える

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