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街角マチコ

愛する楽器 第11回 バックナンバー

街角マチコが操るテルミン

効果音だけじゃない、メロディ楽器として面白い

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アーティストが特にお気に入りの楽器を紹介するこの企画。今回はザ・ぷーの街角マチコが登場し、テルミンについて語ってくれた。

取材・文 / 松永良平 撮影 / 阪本勇

演奏方法は弦楽器と似ている

テルミンの存在を知ったきっかけは「テルミン」(2001年)という映画です。それを観てなんとなく気になるなと思っていたタイミングで、NHKの番組「トップランナー」に日本人のテルミン奏者の方が出演されたんです。それが今、私の師匠である竹内正実さんでした。その番組を観て楽器にもすごく興味を持ったし、何より竹内さんという人に対して「すごく面白い人だな」と思いました。さらに番組の中で、観覧席にいた女の子が演奏にチャレンジするのを見て、私もやりたいと思ったんです。「ロシアに留学して習得したい!」くらいの衝動がありましたが、実際にしたことは池袋のカルチャースクールに週1で通うことでした(笑)。でもそれがテルミンの第一人者に習う唯一の道だったんです。当時はテルミンがちょっとしたブームになっていて、教室は常に予約でいっぱいでキャンセル待ちが出る状態でした。

最初は今みたいにプロとしての活動ができることになるとは思っていませんでした。とはいえ、「ちゃんと演奏できるようになりたい」とは純粋に思っていました。実際始めてみると、早々に予想していたような手応えを感じました。師匠は自分の演奏活動もあるし、東京以外でも各地で教室をやってるし、さらに、マトリョミンというロシアの民芸品マトリョーシカにテルミンの機構を内蔵した楽器を開発して販売や教室も始めたので、もう自分1人では手が回らないということで、第2世代を育てる意味でマトリョミン教室ではスタートの時点から弟子を講師にしたんです。その1つを私がいただくことになりました。マトリョミンを何人かで合奏するアンサンブルのメンバーにも選ばれて、日本各地に行って「愛・地球博」(2005年)で演奏したり、ロシアやフランスにも行って……思いがけない展開でしたね。

テルミン以前の楽器経験としては、幼稚園のときからバイオリンを12、3年やってました。テルミンの演奏の仕方って、ちょっと弦楽器に近いところがあるんですよ。片手が発音のタイミングや音の強弱を決めて、もう一方の手で音程を決める。クララ・ロックモアさんという伝説的なテルミン奏者の女性もバイオリンをやっていたし、テルミンを開発したレフ・テルミン博士もチェロをやっていたんです。実は、音を出す原理の発想が弦楽器と一緒なんですよ。ただし、バイオリンだったらフレットを押さえて音程を変えるんですけど、テルミンは宙に浮かせた手の形によって変えるんです。その形が毎回同じになるように再現できないと、ちょっと音がずれて、「ソのつもりだったけどちょっと高くなっちゃった」みたいになる。だから、その手の形の再現性を高めるための練習をするんです。私は電車の中でもその練習をしてました(笑)。

人によって音色が変わる

テルミンは箱の中にコイルを使った装置が入っていて、アンテナから電磁波が出ています。そのアンテナに近づいてくる物の距離と面積によって音程や音量が変わるんです。工業高校の学生さんが授業の一環でテルミンを作っていたりするので、ちょっと電子工作がわかる人なら同じ仕組みのものは作れると思います。でも、表現力がある楽器の域まで仕上げるということは、エンジニアリングだけでなく音楽や楽器のことがわかってないとなかなか難しいですね。以前に雑誌の付録(2007年発売の「大人の科学」17号)で組み立て式の「テルミンmini」が大ヒットして、私も持ってるんですけど、楽器のサイズがずごく小さいからドレミファソラシドの音程を付けるのが難しいんです。やっぱり大きい方が演奏しやすいです。

私は最初に買ったテルミンを今もずっと使ってます。2つ持ってるんですけど、1つは家用で、1つはいろんなところに持って行く用です。実はテルミンって、ビンテージのものでなければ、Amazon.co.jpでも買えるくらい入手しやすいんですよ。この現行品はアンテナもスタンドも取り外せるので、バッグに収まるくらいコンパクトで持ち運びがしやすい。ただ、テルミンだけあっても音は出ないのでスピーカーにつながなければいけないんです。アンプやスピーカー次第で音が変わるし、電子楽器なので、エフェクターを使って周波数帯ごとに音を調整することもできる。同じテルミンを使っても、演奏動作(主にスピードコントロール)で音の印象はガラッと変わります。そんな音作りも、ちょっとこだわってやるところです。

テルミンというと、映画の「テルミン」に出てくるライティングデスクみたいな形の4本脚が付いているものを想像する方も多いと思います。あれは私が使っているテルミンと同じMOOGが昔製造していたモデルです。そのビンテージモデルにはスピーカーが内蔵されていて、4本の脚が床と共鳴してすごくキレイな音がするんですけど、今は数百万円でオークション取引されるほどの価値。実は師匠が自分で開発した4本脚のテルミンがあるんです。脚付きだけど持ち運びの利便性も考えられて本体が2つのパーツに分かれるようになっているし、表現の幅である音量を自由に変えられる機能も付いてる。古いテルミンと今のテルミンのいいところがミックスされているんですね。そのオリジナルテルミンを私は2012年に予約購入してるんですけど、まだ納品されてません(笑)。製作に時間がかかるものなので、いまだに私は“夢のマイ・テルミン”を待ってるところなんです。

ユニークな制作依頼が多い

街角マチコの名前で演奏活動をするようになったのは、ザ・ぷーの前身ユニット、ザ・プーチンズを組んだことがきっかけです。もともと本名の佐藤沙恵で五反田団の前田司郎さんにアトリエの和室を借りて「テルミン大学」という教室をやったり、演奏活動やテルミン以前は演劇をやったりしてたんです。あるとき私のソロ演奏を今の相方が観に来て、一緒にやろうと誘われ2人で“街角マチオ”“街角マチコ”と芸名を名乗るようになりました。マチオがギター&ボーカル、私がテルミンで、パペットの川島さる太郎も加わって、6年くらいザ・プーチンズで活動していたんです。ザ・ぷーに改名したのは、2017年に渋谷のヒカリエで行われた「チームラボジャングル」のとき。“子供たちの未来”をテーマにしたデジタルアート展で、そこで使われた音楽の半分はザ・ぷーが制作しました。会期中に1日だけチームラボとのコラボライブ(「ザ・ぷー in チームラボジャングル」2017年8月26日)もやったんですね。それがザ・ぷーとしての初ライブです。ザ・ぷーが認知され始めてからはテルミン教室も街角マチコとしてやるようになりました。

ザ・ぷーでのテルミンの使い方は、教室でしているようなソロ演奏での使い方と違うところがあるので観ても聴いても楽しんでもらえると思います。特にボーカルが入ってるバンドでのテルミンの使われ方は、“ヒューン”とか“ホワーン”みたいな効果音的なものが多いのですが、ちゃんとメロディ楽器としてコントロールしてるのはザ・ぷーだけだと思います。だからユニークな依頼も多くて、例えば佐渡島温泉のPR曲とか、ナマハゲのテーマ曲を作ってくださいというのもありました。「食べ物が口から入ってうんちになるまでを曲にしてください」とか「世界遺産をなるべくいっぱい歌詞に入れて曲を作ってください」とか、そういう依頼がNHKの番組から来たこともありますね(笑)。一番テルミンの面白さがわかる作品というと、ザ・ぷーのアルバム「コレナニ」だと思っています。収録曲の「テルミン・テルミン」には、テルミンの魅力をもっと世の中に広めたい、多くの方にテルミンの魅力を知ってほしいという私の長年の野望を詰めこみ、テルミンが主役の楽曲にしました。

テルミンが縁をつなげてくれる

2015年には以前テルミンをお教えした片桐仁さんに名誉会長になっていただき、ザ・ぷー主催で「全日本テルミンフェス」もやりました。テルミンをもうちょっとポップにしたいという思いと、「テルミン大学」10周年の年ということもあり開催したんです。2016年に渋谷WOMBで行った第2回ではテルミンが好きだとおっしゃっていたケラリーノ・サンドロヴィッチさん、吉澤嘉代子さん、DJやついいちろうさんにも出ていただいて、それぞれの曲に私が無理矢理テルミンで参加していきました(笑)。今は「全日本テルミンフェス」はちょっとお休みしてるんですけど、またやれたらいいなと思ってます。

吉澤嘉代子さんは以前からステージでテルミンを演奏されていて、ザ・ぷーの曲が好きと言ってくれていたんです。それが縁で、彼女がいろんな人を招いて作ったミニアルバム「吉澤嘉代子とうつくしい人たち」(2016年)では、「じゃじゃじゃ feat. ザ・プーチンズ」という曲でコラボしました。声優の上坂すみれさんも我々のことを気に入ってくださっていて、楽曲(上坂の冠番組「上坂すみれのヤバい○○」のテーマソング「ヤバイ○○」)を提供したこともありますし、私がレッスンをして上坂さんご自身がライブでテルミンを演奏したこともあるんですよ。「新年工場見学会」という五反田団主催のお正月イベントには毎年ザ・ぷーも出演させてもらっています。そうやってテルミンを通じていろんな人とつながることができるのは本当に面白いですね。

街角マチコ

東洋英和女学院短期大学部保育科卒業。2002年よりテルミンを竹内正実に師事。05年、自身の主宰するテルミン教室「テルミン大学」を開校。首都圏でテルミン、マトリョミン教室を開講している。07年10月に1stアルバム「テルミン大学」を発表。現在はザ・ぷーのメンバーとして精力的に活動中。今年6月には吉澤嘉代子や上坂すみれらに提供した楽曲のセルフカバーを含む12曲が収録されたアルバム「コレナニ」をリリースした。

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