愛する楽器 第24回 [バックナンバー]
服部栞汰(SHE'S)の愛用ギター「Music Man AXIS EX」
エディ・ヴァン・ヘイレンに憧れて……「笑顔ですごいソロを弾くのがカッコいいんですよ」
2021年2月17日 19:00 4
アーティストがお気に入りの楽器を紹介するこの連載。第24回では、
取材・
ハードロック好きは父親の影響「Kiss、ちょっと聴いてみ?」
父親の影響で1970年代のハードロックにハマりました。中学生の頃、特に趣味もなかったんでギターを始めようと思って、ギターにアンプとかシールドが付いた初心者用セットを手に入れました。最初はORANGE RANGEの「ラヴ・パレード」とか当時流行っていた曲を練習してたんですけど、そのうち親父が「Kiss、ちょっと聴いてみ? ギターもそんなに難しくないから練習にもいいと思う」って、昔好きだったというライブ盤の「ALIVE II」(1977年)をカセットで聴かせてくれたんです。それを聴いたら、「なんやこれ! カッコいい!」って衝撃を受けて。「Shout It Out Loud」を聴いたとき、初めてのはずなのになぜか聴き覚えがあったんです。僕が小さい頃に親父が流してたんでしょうね。たぶん、僕にも好きになってほしかったんだと思うんです。
Kissの最初のライブ盤「ALIVE(地獄の狂獣 キッス・ライヴ)」(1975年)は、CDやのに傷だらけで聴けなくなるくらい聴きました(笑)。1曲目から流して、それに合わせて1人でエース・フレーリーになりきってギターを弾いて完コピしました。もともとオタク気質だったので、エースのシグネチャーモデルのギターも買い、家もグッズだらけになり、レコードプレイヤーもないのに部屋に飾りたいからLPも買ったり、めちゃめちゃのめり込みました。そのうちほかのバンドもいろいろ聴き始めて、70年代のハードロックについては親父よりも詳しくなってしまいました(笑)。中3で同じクラスになったのがSHE'Sのベースの(広瀬)臣吾で、彼は同年代で唯一昔のロックの話ができる友達でしたね。クラスでの席は僕が前、臣吾が後ろで、授業中に後ろ向いて、机に落書きするんですよ。「これ誰?」「ジミヘン」「これは?」「若いときのクラプトン」みたいな(笑)。
エディに憧れて手にした「AXIS-EX」
そんなKiss狂だった僕に、あるとき親父が「Van Halenもいいぞ」って聴かせてくれたんです。最初に聴いたのは「Panama」(1984年)や「Jump」(1984年)といった有名どころの曲で、めちゃくちゃ衝撃を受けました。映像も観て、エディ・ヴァン・ヘイレンにどんどんハマりました。デヴィッド・リー・ロスがボーカルだった初期も、サミー・ヘイガーがボーカルの後期も聴きました。「そんな動く?」くらい自在にタッピング(ライトハンド奏法)もしてる。ただ、コピーするとなるとKissに比べたら大変で(笑)。タッピングなんかは自分なりにコピーしていたんですけど、彼の真骨頂である速弾きは自分にしっくりこなかったので、それ以外の部分でエディに魅了されていきました。具体的には音作りとか、タッピングしてるときの笑顔ですね(笑)。本当に楽しそうにギターを弾くんです。
エディは使ってるギターも独特ですよね。最初の頃は自分でパーツを集めた改造ストラト(通称“フランケンシュタイン”)を使ってて、白黒だったボディカラーを途中で赤に塗り変えたりとか。そういうことを調べていくうちにどっぷりハマっていきました。今日持ってきてるAXIS(Music Man製)は、フランケンシュタインのあとにエディが使い始めたギターで、これも独特なんです。普通のAXISではなく、アメリカで作られたパーツを日本で組み立てた「AXIS EX」というモデルで、エディが使っていた仕様になっているんです。
AXISを自分で使ってみたら、ネックのグリップの手になじむ感じがすごくよかったですね。これ、左右が非対称のグリップなんですよ。目で見てもわかりにくいんですけど、触ってみると片側が薄くて、片側が分厚いんです。これがエディのこだわりなんですね。僕はネックを握り込んで弾くことが多いんですけど、握ったときの手にしっくりくる感じがほかのギターにはない感じ。めちゃくちゃ弾きやすいし、ボディもちっちゃい。でも攻撃的なサウンドも出る。これはAXISならではのよさです。
今使ってるストラップもエディ仕様なんです。最初は普通のストラップを使ってたんですけど、エディの仕様に憧れて、「これ、やらない手はないやろ!」と思って、黒のストラップと金具を買ってきて、自分で作りました。ただ、このストラップの難点はカチャカチャうるさいってことなんですけどね(笑)。曲つなぎで持ち替えるときとかもカチャカチャうるさいけど、これは譲れない。ボディに傷も付きます。でも雑誌で見たらエディ自身のギターも金具が擦れるところがボロボロになってたんで、それも味でいいかなと思ってます。今はライブのメインで使うギターはJames Tylerなんですけど、「Ghost」(1stアルバム「プルーストと花束」収録)を弾くときは絶対AXISに持ち替えますね。レコーディングでも、力強いサウンドが欲しいときにAXISを使います。
新曲でエディに捧げるギターソロ
やっぱりギターソロがある曲をずっとコピーしてきて、ギターの見せ場がある曲のほうが好きだし、SHE'Sを始めてからもメンバーもそれをわかってくれていて、ギターソロをたくさん入れたアレンジも増えてきました。僕としてもアルバムを出すのにギターソロが1曲もないとなったら「いや、1曲くらい入れようや」ってこっちから言いたいくらいの気持ちではありますし。SHE'Sは“ピアノロック”と言われることが多いんですが、その中に僕のハードロック育ちのエッセンスが入ってこそ、このバンドらしさかなと自分でも思ってます。なので、そこはこれからも揺るぎなく出していきたいなと思うし、どちらかと言えば「これがギターのカッコよさだ」みたいなシンプルな音作りを心がけてます。
実は新曲「追い風」で、エディに捧げるギターソロを弾いてるんですよ。その曲のデモで「ここがギターソロ」と指定されている箇所があったんですけど、昨年10月にエディが亡くなったことを知ったあとだったので、曲を聴いたときに追悼の意味も込めて「ここ、エディっぽくしたいな」と思ってたんです。そしたら、作詞作曲をしている(井上)竜馬から電話で「1個お願いっていうか、相談あんねんけど。ギターソロをエディっぽくやるのはどう?」と言われて、「思ってた! まったくその考えやったわ!」って(笑)。「SHE'Sっぽくないって言われるかもな、どうかな」と思ってたところにそう言ってもらえたんで、もう自由にやろうと決めました。音作りもそうだし、タッピングも入れて、もう完全にエディですね。聴いてもらえれば「あ、これはエディ好きやな」とわかってもらえると思います(笑)。
ギターを好きな人がこの曲を聴いて、エディが好きだってことにちょっとでも気付いてくれたらうれしいです。自分自身もいろんなアーティストの曲を聴いて、「わ、このソロ、絶対エディを意識してんな」と発見することがいっぱいあるし、音楽を聴くうえで楽しいポイントでもあったので。それが自分でもできたのがうれしかったですね。今までの曲でもエース・フレーリーっぽい感じとか、ブライアン・メイ(Queen)っぽい感じも入れてたんで、そういう遊び心をずっと入れていけたらなと思ってます。例えば僕のギターを聴いたのがきっかけでもいいですし、何かしら昔のギターヒーローのギタープレイの魅力を皆さんが知ってくれたらうれしいです。
俺の知ってるエディや!
昨年10月6日、エディが亡くなったときはショックでしたね。朝起きて、ニュースで知ってびっくりしました。もちろん親父とも連絡を取り合いました。生でVan Halenを観たのは、デヴィッド・リー・ロスがバンドに復帰して「Tattoo」(2012年)という曲を出したときのツアー。大阪に来たときだけだったんですけど、大阪市中央体育館の2DAYS公演(2013年6月24日、26日)はどっちも行きました。1日は親父と、もう1日は1人で。そこで2日間エディを堪能しました。昔よりうまくなってるくらいだったし、エディらしさを貫いて、ずっとブレずにやってましたね。ああいうギタリストはやっぱりカッコいいなと思います。もう1回来日したら絶対行こうと決めてたんですけど叶わなくて残念でした。
エディのギターソロで好きなのは「Right Now」(1993年)です。時期的に使ってるギターはAXISなのかな。音的にはたぶんフロントピックアップで弾いてるんですよ。ギターソロに入る前に3弦の2フレットをピッキングハーモニクスで弾くんですけど、ずっと同じポジションなのに右手のハーモニクスで出す音の位置で音階を変えてる。まずそのすごさに感動して、しかもそこからのギターソロが死ぬほどカッコいい。何回も巻き戻して聴きました。初期の曲も好きですね。一番たくさん聴いたのは1stアルバム「Van Halen(炎の導火線)」(1978年)かな。「Ice Cream Man」のギターソロとか。めちゃくちゃ楽しそうに笑顔ですごいソロを弾くのがカッコいいんですよ。ライブで観たときも「俺の知ってるエディや!」と感動しました。今、自分がSHE'Sでソロを弾くときも、楽しいときの表情がしっかりとお客さんにも伝わるように気を付けながら弾いています。
SHE'S(シーズ)プロフィール
2011年に大阪で結成された、井上竜馬(Vo, Key)、服部栞汰(G)、広瀬臣吾(B)、木村雅人(Dr)からなるピアノロックバンド。全作品のソングライティングを担う井上が奏でるピアノをセンターに据え、エモーショナルなロックサウンドからバラードソングまで壮大なスケール感の楽曲を多数発表している。2021年、バンド結成10周年・メジャーデビュー5周年のアニバーサリーイヤーに突入し、周年第1弾リリースとして2月17日に6thシングル「追い風」を発表した。
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