前回「最近先輩から下北沢がカッコよかった時代があったことを教わった」「現代版のZOO、SLITSを俺たちがやるべきだ」と話していたスガナミ。今回はそのヒントを得るべく、古くから下北沢を知るアーティストであり、5月に約12年ぶりのニューアルバム「WE STRUGGLE FOR ALL OUR PRIDE.」を発表した
取材・
小西康陽がつないだ2人
スガナミ 僕が初めて今里さんとお話しさせていただいたのは2年くらい前でしたね。THREEでやっている「ナインパーティ」で小西康陽さんにDJをしていただいたことがあって、そこに今里さんがいらっしゃって。驚きました。僕、上京してからSFPのライブを何度も観ていて、個人的にファンで、話かけさせてもらったんです。あの日今里さんは小西さんのDJでブチ上がっていて(笑)、それも最高だなって思いました。
今里(STRUGGLE FOR PRIDE、以下SFP) 友達とか近い人間がTHREEでライブをやることがあったからTHREEの名前は知っていたんですけど、それまでは行ったことがなかったんです。あるときどうしても小西さんのDJを聴きたいと思って、それでTHREEに行ったんですよね。そこでスガナミくんと話して、お酒とかごちそうしてもらって……なんていい店なんだ、と。
スガナミ いやいやいや(笑)。
今里 あと、スガナミくんのバンドも知っていたし、音楽前夜社(※スガナミ主宰の音楽集団)も知っていて。
スガナミ ありがとうございます。それから今里さんにDJをお願いすることも多くなって、今里さんも店に立ち寄ってくださっていて。僕からしたら今里さんと、松田“CHABE”岳二(
「結局そっちだったか」そんなんばっかだった
今里 今「俺とチャーベくんが」って言ってくれたけど、客観的に見たらTHREEって、スガナミくんとスタッフの皆さんがいることによってできている雰囲気があると思っています。うまく伝わるかわからないけれど、出演者に対する距離感がいいと言うか、その場で何かをやる人が“自由にできる幅”がある。その“幅”がすごい心地いいんですよね。「ああしてください、こうしてこうやってください」ってガチガチに決める店も少なくないんですけど、THREEはけっこう「じゃあ、どうぞどうぞ」みたいな感じで(笑)。でもそれがあるから違ったものが出てくるし、目に止まったりすることは多いんだと思います。
スガナミ うれしいですね。
今里 「新しい文化を作ります」とかどうのこうの言うやつっていっぱいいるじゃないですか。でも別に、“文化=お金”じゃないじゃないですか。そういうことを言うやつって“文化=お金”だと思っていることが多い気がしていて、つまり金の回る新しいコンテンツが欲しいだけに思えることもある。THREEはそういうものとは完全に違って、「THREEで何かをやりたい」って人に完全に委ねてくれる。いい意味で、やる側からしたらイメージが湧かないんですけど。「THREEってどういう店?」「うーん、わかんない」みたいな(笑)。でもいる人たちは本当にすごく楽しそうで。
スガナミ 自分たちが好きだから、イレギュラーなこと、偶発的なことを一緒に体験したいっていう(笑)。
今里 だからやる人や来る人にとって幅がある。それが心地いいんだろうなって。昔もそういうお店はあったような気がします。と言うか一時的にそういうふうに思った店はあったけど、だいたい「あ、結局そっちだったか」みたいになることが多くて……そんなんばっかだった。だけどTHREEは本当に裏切らないでいてくれるし、すごくいろいろな話ができるから。ありがたいですね。
“趣旨”と“目的”が変わっていない
今里 この前もTHREEに行ったんですが、フレッシュな空気が充満していて。抽象的な言い方ですが、お店の雰囲気とかって停滞しがちと言うか、淀みがちじゃないですか。でもTHREEはいつも新鮮だと思うんです。あとはすごくスタッフの皆さんが仲がいいのも好きなところです。どっかに遊びに行くときもみんなで行く、とかね。それってすごいことだと思うんですよね。この間も俺のところに遊びに来てくれたんだけど、「このあと店に戻って後片付けです」って(笑)。
スガナミ 確かに平日の夜に一旦店を閉めて、スタッフのみんなとクラブに遊びに行くことはあります。そこから持ち帰れるものがすごく大きいし、ただただ楽しいんですよね。みんなで遊びたいだけかもしれないですけど(笑)。
今里 ははは(笑)。でも本当にTHREEのスタッフって、“みんな一緒に作っている”感じがします。
スガナミ 基本“友達”って感覚なんです。僕もスタッフに怒られたりしますし、店長として責任は持ちますが、自分が上司だって感覚もそんなになくて。好きな仲間と働けたり、時を過ごせて「みんなと一緒にいられて楽しいなー」って部分が大きい気がします。
今里 うん、そういうところから愛情が見えるじゃないですか。魚屋さんでもなんでも、全然愛情なくやっている人っている。それは別に悪いことだとは思わないんですけど、スガナミくんはそう言う店とは完全に違う視野を持っていますよね。“趣旨”と“目的”が出会った頃から変わっていない。以前この連載でもスガナミくんが話していましたけど、基本的にお店を維持して、結果を出し続けていかなければならない立場じゃないですか?
スガナミ ギリギリではありますけど(笑)。僕ら、今はトライ&エラーを繰り返しているんです。せっかく場所を与えていただいているので、試せることはたくさん試して、いつかは仲間と下北で店を出したりできたら最高なんですけどね。それが恩返しだと思っています。
今里 目的があるだけで勝ちですよね。なんとなく店をやっているだけだと、もう勝てないですよ。
友達がバカにされたらムカつくってだけ
スガナミ 「WE STRUGGLE FOR ALL OUR PRIDE.」を聴いて、あんなふうにストリートの感覚を保ち続けながら、多くの人にアピールし得ることをやるのは難しいって感じて。それができている人ってほとんどいないと思うんです。今里さんは守らなければならないものがたくさんある中で、大きく出ることもある。ここ2年くらいの短い時間ですけど、今里さんとお話しさせていただいたことを踏まえてあの作品を聴いたら、今里さんのすべてが集約されているように感じてマジで超泣けました。アルバムの全部のストーリーが嘘じゃないんです。僕自身が出会って、感じたことが全部詰まっている。もう、めっちゃカッコいいです。それと今里さんは人に対して謙虚だし女性にも紳士的ですよね。それってすごく基本的で超大事なことで、自分でもそれをできてなんぼだなって最近改めて思ってます。下北のdiskunionに「WE STRUGGLE FOR ALL OUR PRIDE.」のポスターが貼ってあるんですけど、そこに「END RACISM」のロゴが打たれていて。あのポスターはアルバムリリース後もけっこうな期間残っているんですよね。
今里 そうそう。あれはdiskunion下北沢店のご好意による……(笑)。まあ、俺は友達がバカにされたらムカつくってだけ。それだけっすね。
スガナミ それからはあそこを通るたびにチャーベさんと「超勇気をもらえる」って話してます。
今里 なんかポリティカルで大層なことを言っていても、平気で身近な女性とかに侮辱するようなことを言う人っているじゃないですか。そういったことって大きなことにつながっている。俺、物事のトラブルって、敬意と想像力があればある程度なくせると思うんです。お互いが敬い合って、「自分がこうされるのは嫌だ」「こうしたら喜ぶだろう」という想像を膨らませられたら、ある程度のことは大丈夫なんじゃないかな、と。俺は自分自身が人に敬意を払われないのが嫌いだから、人に敬意を払うようにしています。
スガナミ すごくわかります。今里さん、傷付いたりがっかりすることも多いんだろうなって思います。
今里 まあ基本的に楽天家だから。「うーん」ってなっても、家帰ってご飯食べて寝ちゃうと……ふて寝ですよね、「知らねえし!」みたいな(笑)。傷付いたら大体負けだと思っているし。でも例えば大好きなバンドに「すごい好きだったんですよ!」って言うと、「どうもありがとう! またライブ来てね!」ってさっと行っちゃったりされることってあるじゃないですか。すると「なんだったんだろう?」って思いますよね(笑)。
スガナミ 「俺の思いはなんだったんだ?」って(笑)。
今里 この間、アリス・フィービー・ルーっていうアーティストのライブを観に行ったんです。ライブが終わってサイン会があって、お客さんたちが並んでいるんですけど、サインをして「ありがとう」だけで終わらせるんじゃない。ずっとお客さんと話しているんですよ。だから全然サイン会が終わらなくって。ライブが45分で、サイン会が2、3時間、みたいな。当たり前のことなんだけど、いいなと思いましたね。
スガナミ それ、最高の話ですね。
今里 スガナミくんが好きなアーティストもそういう人たちだと思うんです。そしてアリス・フィービー・ルーはもちろん音楽もいい。持論として、いい音楽をやっている人はみんないい人ですね(笑)。
<つづく>
- スガナミユウ
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福島県生まれの38歳。自身のバンドGORO GOLOでボーカリストを務める傍ら、レコードディレクターやイベントの企画などを行い2014年より東京のライブハウス下北沢THREEに在籍している。2016年に店長に就任。8月にGORO GOLOの7inchアナログ「SYMBOL EP」をJET SETからリリースした。
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