毛皮のマリーズのデビュー盤を志磨遼平が全曲解説(前編)
2010年4月12日 17:00 1
序文
我々の通算4枚目、そして記念すべきメジャーデビューアルバムがこの度、遂に完成致しました。
まぁ「遂に」と言いましても、前作「Gloomy」からはちょうど1年ぶりのリリースで、2006年の1stアルバム「戦争をしよう」以降、毎年1枚ずつアルバムを発表、枚数/動員ともに右肩上がりを続けてここまで来れた幸運に日々感謝しております。むしろ首を長くして待ちわびたのは長い不遇の時代を経て、ようやくメジャーレコード会社より給料が我々の作品が発表されることで、まだ20代になったばかり、高円寺の居酒屋でアングラ志向の諸先輩相手に気焔をあげていた私の青春がやっと報われるワケであります。おのずとこのサンプル盤に収録された曲群も、その時代をテエマにしたものが大半を占める結果となりました。
そうです。所謂「メジャー」という、新しいステージに立つにあたってココで改めて自己紹介をさせて頂けるならさしずめ、こうでしょう。「ジャパン・アンダーグラウンドシーン出身、毛皮のマリーズ。ただのサブカル好き御用達ロックバンドもどきには興味ありません。この中にミリオン、武道館、スタジアム、時代の寵児と仕事をともにする覚悟のある人間がいたら、私のところに来なさい。以上。」
…なんなんですか全く。全くもって近頃退屈でしょーがないから私はマンガやアニメばかり見てしまうのですよなにが京アニだよけいおん!じゃねぇよ全く!軽くねぇんだよこっちはよ!えぇ?ロックンロールってそんなに古いんですか?ロックンロールバンドってこんなに人畜無害でしたっけ?ポロシャツ眼鏡野郎はバンドやんなくったいいでしょ他の仕事就けたでしょ?社会不適合者はなにすりゃいいんでしたっけ?死活問題なんだよバンドはよ。邪魔すんじゃねぇよ、人間関係も社会保障も健やかな家庭も楽しい老後も年金も就活も婚活もとうの昔にあきらめてイライライライラしてるガキはどんな夢を持てばいいんでしたっけ?えぇ?私の所にはそんなヤツらから毎日毎日メールや手紙が届きますよ「俺もバンド組む」「私はずっとこれが見たかった」って。だから私はそいつらにいつもこう言うんです「大丈夫だ、全てはきっとうまくいく」と。
皆さんのお力を貸して下さい、新しくなくたっていい、「おもしろい」時代がまた来そうな気がします。ちょうど区切りもいいじゃん、2010年で。なんかもうまた「10(テン)年代」とか言ってるんでしょ?いいですよそれで。そういうの好きなんでしょ?テン年代。背負いますから。あなたの力を貸して下さい。
2010年1月某日 日本代表 毛皮のマリーズ / 志磨遼平
全曲解説(前編)
01. ボニーとクライドは今夜も夢中
土曜日の夜、世界中のライブハウスやクラブでは「なんだかたまらない」昔の僕とそっくりのガキンチョが始発まで帰れないでいます。帰るとこがないワケじゃない、ただなんとなく退屈で帰りたくないのです。アルコールだなんだが入ってアタマはクラクラしてる、一晩中大音量で音楽が鳴ってるのもそれに拍車をかけてる、踊ってもいいけどなんだか気がのらない。そうだ、もしかしたら僕みたいに退屈してる女のコが一人でいるかも、そのコと一夜のアバンチュールが僕を待ってるのかもしれない、なんてやってるウチにもう午前4時、きっとココから出たら外は明るいんだろう、でもここにいるうちは、音楽が流れてるうちは夜なんだ。まだ夜は終わってないんだ… なんて時間帯のシチュエーションで、パーティーの最後にDJがこの曲をかけて欲しい。岡崎京子のマンガに出てくるようなボーイズ&ガールズにこの曲を捧げます。
曲は「ひと昔前のロックバンドが、レコード会社にイヤイヤ書かされた(であろう)シングル曲」ってのをテーマに書いてみました。山口州治さんがそれにピッタリなミックスをして下さいました。タイトルは一通のファンレターから思いついたものです。「あなたは私のクライドです、一緒に銀行強盗しませんか」といったようなコトが綴ってありました。
02. DIG IT
21、2歳の頃、まだ毛皮のマリーズを組んだばかりの頃に書いたナンバーです。当時よく聴いてたフェイセスの影響が色濃く出ています。この曲がたまたま1曲目と同じKeyだったので、2曲目に持ってくるとホラ、流れが完ペキ。というコトで、今回白羽の矢が立ちました。数年前私がうつみようこさんと、元ハイロウズの調先人さん、大島賢治さんと組んでいたバンドではこの曲をレパートリーにしていました。そのセルフカヴァー、というヤツです。
03. COWGIRL
70年代のストーンズ調の、ヒジョーにゴキゲンなR&R。演奏は完全な一発録り、ギターすらオーバーダブなし!
「マサチューセッツの暴れ馬」という文句が最初に浮かんで、「そうだ。カウボーイのラブソングを書こう」と思い立ったのですがマサチューセッツ州にカウボーイはいるのかしらん、と気になって(根が真面目)インターネッツで調べたところ、ちょうどその前日にマサチューセッツのハイウェイでカウボーイがトラックから逃げた2頭の牛をまたたく間に捕らえて戻し、名前も名乗らずその場を去った、というニュースが出ていました。ホントにいるんですね、2009年でも。カウボーイ。まぁだからどうしたっていう。
3曲目にして「5人目の毛皮ズ」奥野真哉さん(
04. 悲しい男
これも21ぐらいの頃のナンバー。ディランやCCRあたりのフォーク/カントリーを狙って作りました。我ながら秀逸なコード進行と歌詞世界で、あの頃からいい曲書いてんのになぁ、という未練がましい心でセルフカヴァーです。今思ったんですけど僕もうレパートリー200曲くらいありますよ。ベテランだなもう。
奥野さんのレズリー・ハモンドが実にディランしてますな。サビの“Weight”ハモ(3声)も素晴らしいでしょう。あとビブラフォン(鉄琴みたいな楽器)とリコーダーも入ってます。完ペキ!
しかしメジャーでこの歌詞マズくないか、とレコ倫に事前にチェックしてもらったところ、OKの審査とともに「いい歌詞だと思います」とむしろホメられたという曰く付きの曲です。レコ倫捨てたモンじゃないです。まぁ仮にもしこれを聴いて差別的表現がどうこう言うヤツがいても、きっとその人より僕の方が黒人文化を愛してきたと思います。
05. BABYDOLL
なにか新しい取り組みを、というコトで「じゃあ一曲、アレンジを人に委ねてみよう」という話がレコーディング前に浮上しまして、制作側との相談の結果、引き合わせて頂いたのが
当初、「アレンジャー」ってなんかポルシェとかに乗ったカーディガンの優男が現れて楽譜にサラサラッ!なんて一方的に手入れられんのかな、まぁそれはそれで勉強になるか、とか思ってましたが、ジャージにヒゲ面、伸び放題の髪をくくった浮浪者のような風体のAxSxEさんは僕の曲になにも手を加えず、「もうちょっとガッツ系で演奏してみ?」とか「ここの展開、他にも何パターンか考えてみよか。宿題!」といった風に我々の素質を引き出すコトだけを考えてくれました。そしていいプレイがあれば満面の笑みで「オゥケーイ!グッときた!」と大声でホメて、最終ミックスの段階で卓の前に座った途端、その風体からは想像もつかないほど理論的にテキパキとプロトゥールスを使いこなし、音を組み立てていってくれたのです。それは「あ、プロってこういうことか」と実感せざるを得ない体験でした。本当に感謝しています。
元々の曲は得意のモータウン調、それにチープトリックや70年代のアイドルロックバンド(ベイシティローラーズとかスウィートなど)的な装飾を加えて、さらにそこからハミ出してる部分は全てAxSxEさんが引き出してくれた要素です。奥野さんのホンキートンク・ピアノも神懸かっています。
歌詞は、大好きなお母さんを亡くした幼い女の子のお話(今回、ストーリー別に主人公がいる歌詞が多いのは前作の反動でしょうか)。「だからずっと/私はママのベイビー・ドール」 ムー…泣けてきますな。
※明日4月13日掲載の後編に続く
リンク
- 毛皮のマリーズ : MARIES OFFICIAL HELL SITE
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音楽ナタリー @natalie_mu
毛皮のマリーズのデビュー盤を志磨遼平が全曲解説(前編) http://natalie.mu/music/news/30408